SGS249 女性たちを救い出す
マメルがオレに気付いて、後ろを気にしながら駆け寄ってきた。後を追っていたオークロードたちが倒れたことにも気付いたようだ。
「ケイさん、来てくれたんだな。あれは、あんたが?」
マメルは後方で倒れているオークロードたちを指差した。
「うん。ほかの二頭も倒したから、あなたを追ってるオークロードはいなくなったよ」
「たすかったよ。あいつらがしつこくてな。オークロードとの戦いに時間を食っちまったが、こんなことをしている場合じゃないんだ。早く行って助けなきゃ……」
「マメル、あなたが昔の恋人を助けるためにこの要塞に突入したって話はフィルナから聞いたけど、その恋人がどこにいるのか分かってる?」
「ああ、大凡の場所は分かってる。こっちだ」
マメルの後に付いていくと、兵士たちの宿舎の奥に別の建物があった。
「この建物で負傷者たちの治療が行われてるんだ。デーリアもこの中で亭主と一緒にいるはずだ。あ……、デーリアというのはおれの昔の恋人の名前だ」
「この建物の中?」
「ああ、デーリアが待っている。先に行くぞ!」
「えっ!? ちょっと待って……」
マメルはオレが止めるのも聞かずに建物の中に入っていった。
この建物の中には人族もオークもいない。探知魔法に反応が無いのだ。もし、本当にマメルの恋人がいるとすれば、既に死んでることを意味している。マメルは探知魔法を使っていないのか、そのことに気付いていない。
マメルの後を追って建物の中に入った。マメルは場所を知っているらしく、階段を駆け上がって2階の一室に入っていった。
オレがその部屋に入ると、マメルが呆然と立ち尽くしていた。
部屋の中には兵士たちの死体が転がっていた。この部屋で治療を受けていた者たちのようだが、無残にも全員が殴り殺されていた。オーク兵たちの仕業だろう。
「みんな殺されちまった……。せっかく助けたのに……」
マメルの呟く声が聞こえた。何か事情があるのか酷くショックを受けているようだ。だが、ここで死んでいるのは軍服を着ている兵士たちだけで、マメルの恋人らしい女性の姿は無い。
「あなたの恋人は?」
「あ……。個室に移すと言ってたから……」
部屋を飛び出して、マメルは通路沿いの部屋を片っ端から開けて中を調べていった。どの部屋も空っぽだったが、6番目か7番目の部屋で兵士の死体を見つけた。一体だけで、男の兵士だ。
その男は床の上にうつ伏せで倒れていて、背中に背骨や内臓に達するような大きな裂傷があった。両脚の膝から下も失っているが、そこには治療の痕がある。おそらくこの男も負傷兵で、ベッドで寝ていたところをオーク兵に襲われたのだろう。ベッドから転げ落ちて這って逃げようとしたところを棍棒で殴り殺されたようだ。
「デーリアの……、亭主だ……」
マメルは男の顔を確かめて、絞り出すような声で呟いた。
「あなたが捜しているそのデーリアさんもこの部屋にいたの?」
「ああ。デーリアはこの部屋で亭主に付き添っていたはずなんだ……」
おそらくデーリアさんは生きている。オークは若い女性は殺さない。種付けをするからだ。
「デーリアさんは生きてると思うよ。探知魔法で調べて分かったんだけど、この要塞の中に人族が一カ所に集められてる場所があるんだ。五十人くらいいるみたいだから、その中にデーリアさんもいると思う」
「案内してくれるか?」
「うん。付いて来て」
オレたちはその建物へ急いだ。さっきの広場に面した建物だ。探知魔法で見ると、その内部には人族だけでなく大勢のオークたちの反応もある。
「威圧魔法で周囲のオークたちを追い払うから……」
範囲を限定して威圧魔法を発動すると、建物の裏口からオークたちが一斉に逃げ始めた。何頭か残っているが、それは恐ろしさで戦闘不能になっているオークたちだ。周りの建物からもオークたちが逃げ出していく。
残念ながらオークロードのバリアはオレの威圧魔法を防いでしまうが、オークロードたちは近寄って来ない。さっきの爆弾魔法や風刃連射による攻撃を受けて、こちらの怖さを身にしみて分かっているのだろう。
「もう大丈夫。中に入ろう」
オレが先に立って薄暗い通路を進み、その部屋に入った。広い部屋だ。大勢の人族が両手を縄のような物で縛られて床に繋がれていた。やはり全員が女性で、その大半が兵士のようだ。
どの女性も青ざめた顔で震えながら蹲ったり床に倒れたりしている。オレが放った威圧魔法のせいだ。
急いでその女性たちに向けて威圧解除と眠りの魔法を放った。眠りの魔法を掛けたのは女性たちにこの場で騒がれては困るからだ。
部屋の中には威圧を受けた数頭のオーク兵が逃げ損ねて蹲っていたが、マメルが剣で殺していった。
「いたぞ。デーリアだ」
床の上で眠っている女性の縄を解いてマメルが抱き起した。美しい人だ。怪我は無いようだ。
マメルが眠り解除の呪文を唱えると、マメルの腕の中でその女性は目を開けた。
「マメル……。何があったの? それより、ラシルは?」
デーリアさんの瞳が揺れている。問い掛けられたマメルは苦しそうな表情で首を横に振った。
「うそっ……」
デーリアさんはマメルの腕から抜け出して立ち上がると、よろけながら部屋を出ていった。
「マメル、早く後を追って。デーリアさんはご主人のところへ行くつもりだから」
外はまだ危ない。オレの言葉が終わらないうちにマメルは飛び出していった。
オレも後を追いたいが、女性たちをこの場に放っておくこともできない。誰かに護衛を頼むしかない。
急いでこの部屋にワープポイントを設定して、ダイルのところへワープした。
ダイルとハンナは麓にある陣地の制圧を終えていた。陣地にいたオーク兵たちを一掃し、人族の女性たちを救い出してその場で眠らせていた。今はハンナが陣地内に残ってその女性たちを護衛している。ダイルはフィルナと合流していた。
その状況は逐次念話で報告を受けているから知っていた。
「どうした?」
ワープで突然現れたオレにダイルが問い掛けてきた。
「ダイル、すぐに一緒に来て。事情は後で説明するから。それと、フィルナとエマは麓の陣地まで行って、ハンナと合流してほしい。あの陣地にハンナはいるから一緒に陣地の中で待っていて」
オレは麓の陣地を指差した。そして、フィルナが頷くのを確認してからダイルを連れてさっきの部屋へワープした。
「この女性たちは?」
「フォレスラン軍の女性兵たち。オークたちに捕らえられてたけど、取り戻して今は眠らせてる。わるいけど、ダイルにはこの女性たちをこの場で護衛しててほしいんだ。わたしは今すぐにマメルの後を追わなきゃいけないから。詳しい事情は念話で説明するね」
早口でそう告げてオレは部屋を出た。走りながら何があったかを念話でダイルとハンナに説明した。
要塞の中を駆け抜けているがオークたちは近寄って来ない。オレを脅威と見なしているようだ。
デーリアさんのご主人が亡くなっていた部屋に近付くと、中から弱々しい泣き声が聞こえてきた。
※ 現在のケイの魔力〈1201〉。
※ 現在のユウの魔力〈1201〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。




