SGS248 後悔しながら救出に向かう
――――――― ケイ ―――――――
丘の上に朝の陽光を浴びてダードラ要塞がそびえている。オレはその要塞の城門に向かって走っているところだ。
丘の斜面はオレたちが撃ち込んだ誘導爆弾の爆発で酷い有様になっている。いたるところに穴が空き、オークの死体が転がっているが、浮上走行を使っているからそれを気にせずに走ることができる。
オレがダイルとハンナに説明した作戦は単純だった。まず、オレとダイルが誘導爆弾を使って丘に屯しているオークたちを一気に葬る。女性たちは一つの陣地に集められているから、それ以外の陣地も爆破する。その後で陣地の中の女性たちを救出する。
救出の段取りも難しくない。まず女性たちが捕らわれている陣地に向けてダイルが威圧魔法を放つ。陣地の中にいる普通のオーク兵たちはそれで戦意を失うか逃げ出すはずだ。オークロードが何頭か陣地の中にいるが、そいつらはダイルとハンナが陣地に斬り込んで排除する。そして中にいる女性たちの安全を確保する。女性たちにも威圧が効いているから、魔法で威圧を解除して全員を眠らせる。そういう手筈だ。
ダイルたちが陣地で女性たちを救出している間にオレは要塞へ向かう。その途中、丘の中腹でフィルナたちを攻撃しているオークロードたちを殲滅する。フィルナたちの安全を確保した後、要塞に突入してマメルたちを救出する。そういうシンプルな作戦だ。
この作戦でオレ自身がマメルの救出に向かおうと考えたのには訳がある。昨夜、マメルが抱えていた事情をハンナから教えてもらった。昔の恋人をマメルが捜し出した経緯や、その女性のためにダードラ要塞に来ることになったという話だが、オレはその事情を聞いてちょっと後悔した。マメルを故郷のフォレスランに帰すのが遅くなってしまったことに責任を感じてしまったのだ。
どういうことかと言うと……、あれはマメルがアーロ村に来た頃の話だ。故郷のフォレスランに早く帰してほしいとマメルがオレのところに再三頼みに来ていた。オレはマメルが頼みにくるたびに時機を待てと言って先延ばしにしていた。
あるときその理由を尋ねると、自分の恋人に会いにいくためだと言う。なんだか身勝手なことを言ってる。そう思ったから、冷たく追い返してしまった。
あのとき、マメルはオレに事情を説明しようとしていたのだ。でもオレはイライラしていて聞く耳を持たなかった。
もっとちゃんと事情を聞いていれば、そしてもっと早く故郷のフォレスランにマメルを帰していれば、マメルと昔の恋人がダードラ要塞に来ることはなかったかもしれないのだ。少なくともオーク軍が押し寄せてきたこんな最悪な時期にこの要塞に来ることはなかっただろう。
だから自分の手でマメルたちを救い出したい。オレはそう考えていた。
マメルたちは要塞の中にいる。だがその前にフィルナを攻撃していたオークロードたちを一気に片付けるつもりだ。
そのオークロードたちが要塞の城門に向かって逃げていく。さっきまでフィルナたちを取り囲んで熱線で攻撃していたが、誘導爆弾の爆発に恐れをなして逃げ出したようだ。
前を走るオークロードたちを一瞬で追い越した。追い越しざまに魔力剣を浴びせて倒していく。オレの探知から反応が消えたから全員殺したはずだ。
『フィルナ、大丈夫? オークロードたちは倒したよ。わたしはこのまま要塞に入ってマメルたちを救い出すから、フィルナたちはその場所で待機してて。ダイルとハンナが陣地の女性たちを助け出したら、その後で合流してもらうから』
『こっちは大丈夫よ。ホントにありがとう。エマと一緒にここで待ってるわ。気を付けてね』
念話をしている間に城門に近付いてきた。扉は開いたままだ。ここにも地面に大きな穴が空いていた。爆弾を警戒してか、城門の外側にオークたちの姿は無い。
城門を通って要塞の中に入ったが、内側にもオーク兵の姿は無かった。探知で見ると数えきれないほどのオークたちが建物の中にいることが分かっている。おそらくオーク兵たちはオレを恐れて身を潜めているのだろう。
そのままオークたちが静かにしていれば、オレはまっすぐにマメルのところへ行ける。だが、敵はそれを許してくれないようだ。
要塞の中の広場まで来たとき熱線の集中攻撃を浴びることになった。数十本の熱線がオレに向かって一斉に撃ち込まれてくる。
しかし、それは予測していたことだ。二十頭以上のオークロードが広場で待ち伏せしていることは初めから分かっていた。
オレのバリアはユウが魔力をフルに使って張ってくれている。眩い光を発しているが、バリアは透明のままだ。完全にバリアの回復力が勝っている。
では、お返しをしよう。
オレは風刃連射のスキルを発動した。指先から20発以上の風刃を撃ち出した。掛かった時間は僅か数秒だ。
この風刃連射はアロイスから受け継いだスキルをコタローが改良してくれたものだ。
普通の風刃は低レベルの魔法だが、オレが使う高レベルの風刃は殺傷力が高い上に誘導できる。空中を飛んで敵を追尾する魔力剣だと思えばよい。その風刃魔法をアロイスは探知魔法と連携させて一度に多数の敵を殺傷できるようにした。それが風刃連射のスキルだ。コタローはそのスキルをさらに進化させた。高速思考やソウルゲートの制御プログラムと連携させて使い勝手と命中精度を格段に高めてくれたのだ。
オレが高速思考で目標を指示すれば、その後の追尾はオレの探知情報をリアルタイムに得ながらソウルゲート側の制御プログラムが自動的に行ってくれる。遠距離にいる多数の敵を攻撃するときには最適のスキルと言って良いだろう。
コタローが改良してくれたのは「風刃連射」だけではない。同じ手法を使って、「バリア破壊連射」や「眠り連射」などの低レベル魔法から「爆弾連射」などの高レベル魔法までの遠距離攻撃魔法を連射スキルとして整備してくれたのだ。
クドル・インフェルノに籠もって訓練を続けていたこの1か月間、オレは意識的にこのスキルを多用してきた。実戦でこのスキルを使いこなせるようにするためだ。その訓練は無駄ではなかった。
オレが撃ち放った風刃が次々とオークロードたちに命中していく。一撃でバリアは風船のように破れ、頭や心臓などの急所に達した。声を上げる間もなくオークロードたちは倒れていった。
生き残ったオークロードたちが逃げ始めた。何頭か撃ち漏らしがあったようだ。
そいつらは放っておいて、オレはマメルがいる場所へ急いだ。
探知魔法で見てみると、建ち並んだ建物の周囲でマメルは追いつ追われつの戦いをしていた。マメルが戦っている相手は四頭のオークロードだが、さっきから数は減ってない。マメルは苦戦しているのだろう。
その場所に行ってみると、3階建ての石造りの建物が6棟並んでいた。兵士たちの宿舎のようだ。
マメルが建物の陰から走り出てきた。その後を二頭のオークロードが追っている。残りの二頭はここからは姿が見えないが、別方向から先回りをしてマメルを挟み撃ちにするつもりのようだ。
その四頭に向けて「風刃連射」を発動した。建物の反対側にいる見えない相手でも探知魔法で正確に位置を掴んでいる。数十モラの距離まで近付いているから外すことはまず無い。
マメルを追っていたオークロード二頭は一瞬で倒れた。残りの二頭も探知から反応が消えた。
※ 現在のケイの魔力〈1201〉。
(ダードラ要塞戦でオークロードたちを倒したため魔力が増加)
※ 現在のユウの魔力〈1201〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1201〉。




