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SGS247 フィルナの涙

 ―――― フィルナ(前エピソードからの続き) ――――


 オークロードの一頭に狙いを付けて熱線を撃ち込む。熱線が当たっていると分かると、そのオークロードは慌てて横に跳んだ。こちらが撃ち込んだ熱線が逸れてしまった。あと少しでバリアを破ることができたのに……。


 こちらは蹲っているエマを魔力盾と自分のバリアで挟み込むようにして、ゆっくりとエマの周りを回りながら熱線を撃ち続けている。


 私が撃っている熱線はオークロードたちに命中するが、すぐに外れてしまう。相手が逃げ回るし、こちらも動いているからだ。


 オークロードたちも逃げながら撃ち込んでくる。初めは私に当たる熱線は少なかったが、今では明らかにバリアの回復力が追い付いていない。何本もの熱線が交錯しながら私のバリアを削っていく。今のままでは危ない。攻撃してくるオークロードの数が増えてきているのだ。十五頭くらいいるようだ。


 自分のバリアの色が次第に灰色に近くなってきた。魔力盾も崩壊寸前だ。


 どうしよう……。


 もうダメかもしれない……。


 ダイル……、ごめんなさい……。


 でも、このまま死ぬなんてイヤっ! だれか、誰かたすけて……。


 そのとき不意に爆発音が響いた。麓の方だ。


 そちらを見ると土煙が立ち昇っていた。オークたちが集まっていた場所だ。


 また爆発音だ。今度は大きな火柱が上がり、オークたちが吹き飛ぶのが見えた。


 誰かが爆弾の魔法でオークたちを攻撃している。


 数秒おきに爆弾が炸裂してオークたちの数を減らしていく。


 いつの間にか私への熱線攻撃が弱まっていた。こちらを攻撃していたオークロードたちは口々に何か叫び声を上げながら麓の方へ走り出した。オーク兵たちもそれに続いて駆けていく。


 残ってこちらを攻撃しているオークロードは五頭ほどだ。


 自分のバリアと魔力盾が急速に回復して透明に戻り始めた。熱線がまだ何本か当たって光を発しているが、バリアの回復力が勝っている。


 灰色だったエマのバリアも色が薄くなってきた。もう大丈夫だ。


 爆弾魔法による攻撃は止んで、麓に立ち昇っていた土煙が薄くなってきた。


 いったい誰がオークたちを攻撃していたのだろう?


 麓の方を見たがオークたちの群れが右往左往しているだけだ。


 いや……、王都の方から誰かが駆けてくる。一人だけだ。ここから500モラくらい離れているから小さな点にしか見えない。この丘に向かって草原の上を滑るように移動している。浮上走行の魔法を使っているようだ。


 遠視の魔法を発動すると、その人物の顔まではっきり見えるようになった。


 なんと……、ハンナ姉だ。


 でも、どうしてハンナ姉がダードラ要塞に現れたのだろう? ハンナ姉は王都でデーリアの赤ちゃんの子守りをしているはずなのに……。


 急いで念話を発動した。視界が通っているから距離は遠いがハンナ姉と話ができるはずだ。


『ハンナ姉、聞こえる?』


 私の念話を受けて、ハンナ姉は走りながらこちらを見た。


『フィルナね? 大丈夫なの? オークロードたちに囲まれて攻撃されてたけど』


『私は大丈夫。危うく死ぬところだったけどね。ハンナ姉がオークたちを攻撃してくれたから命拾いしたのよ。ありがとう。でも、どうしてここに?』


『昨夜、ケイと話をしたときにね、叱られたの。罠がある場所にフィルナを一人で行かせちゃダメだってね。それで、朝までずっと走って、さっきここに着いたのよ。そうしたら要塞にオークの大軍が押し寄せてるでしょ。驚いちゃった。遠視の魔法で見たら、あなたがオークロードたちに攻撃されてたから、急いで誘導爆弾の魔法で援護射撃をしたのよ。とにかく間に合って良かったわ』


『おかげで助かったけど……、赤ちゃんは? まさか連れてきたりしてないわよね?』


『そんな馬鹿なことはしないわよ。あたしの代わりにミサキが赤ちゃんの面倒を見てくれてるから……』


 不意にハンナ姉が走るのを止めて立ち止った。念話も途切れた。


 オークロードたちがハンナ姉を狙って熱線魔法を撃ち始めている。立ち止まったら狙われ易くなるが、ハンナ姉は何をしてるのだろう……。


 その数秒後にハンナ姉のそばに人影が現れた。二人いる。ダイルとケイだ。ワープで来てくれたのだ。ハンナ姉が立ち止ったのはケイのワープを待ち受けるためだったようだ。


『遅くなったな』


 懐かしいダイルの念話が聞こえてきた。


 怖くて竦んでいた私の心に優しくて暖かい感情が流れ込んでくる。


『ダイル……』


 言葉が続かなくなった。嬉しくて涙が溢れて来そうになる。


 攻撃を受けている最中に泣くのはまずい。ぐっと堪えた。


『フィルナ、オークロードから攻撃を受けているのか? なぜ、そこから逃げないんだ?』


『取り囲まれて熱線で攻撃されてるの。逃げたいけど、エマが足を挫いて私の足元に蹲ってるわ。ここから動けないのよ。エマが私のバリアから飛び出してしまって、今は魔力盾と私のバリアで熱線を防いでいるんだけど……』


『分かった。今すぐ助ける。まず誘導爆弾で麓のオークたちを排除する』


『ダイル、ちょっと待って!』


 ダイルを遮ったのはケイだ。


『探知魔法で探ったら、麓の陣地になっている場所にオークたちに混じって人族が大勢いるみたいだけど……。人族がオークの味方をしてるってこと?』


『いいえ。それはメリセラン軍の生き残りよ。おそらく女性の兵士だけが殺されずに捕らえられているんだと思うわ』


 考えただけで寒気がしてくるが、オークたちが女性の兵士たちだけを生かしているのは種付けをするためだ。


『メリセラン軍?』


『ええ。昨夜、要塞にメリセラン軍が攻め寄せて来て、フォレスラン軍との間で戦いになっていたの。そこへ突然にオーク軍が押し寄せて来て、メリセラン軍はあっという間に全滅状態になったわ。フォレスラン軍の要塞もオークたちに乗っ取られてしまったのよ』


『分かった。詳しいことは後で聞くけど、その女性たちはこちらの敵ではないってことだよね?』


『ええ。できれば女性たちを助けてあげてほしいけど……。それと、さっきマメルが一人で要塞の中に突入していったの。昔の恋人が要塞の中に残っていて、その女性を助けるためにね。要塞の中にはオークロードが何十頭もいるから、今のままじゃ、マメルは殺されてしまうわ』


『無茶なことを……。マメルの位置は探知魔法で掴めてる?』


『ええ。マメルはこの戦いの中でロードナイトの継承を行って魔力が〈220〉になったの。その魔力を持ってるのは要塞の中で一人だけよ。探知で見たらオークロードたちがマメルの周りにいるから、戦ってると思うわ』


『こっちもマメルの位置を確認できたよ。なんだか危ない感じだから、マメルを助けるのも急がなきゃいけないね。じゃあ、こうしよう……』


 ケイの作戦が開始された。


 こうして念話で話をしている間も、オークロードたちから熱線で攻撃を受けていた。私も反撃していて、ようやく一頭を熱線で倒すことができた。


 そのときまた爆弾の炸裂音が響いて地面が揺れた。1発や2発ではない。今度は立て続けに爆発が起こった。爆発は10秒くらいで終わったが、おそらく数十発の爆弾が撃ち込まれたと思う。


 こんなことができるのはダイルとケイだけだ。


 オークたちの群れが屯していた場所に爆弾を撃ち込んだようだ。丘の麓だけでなく丘のあちこちから火柱と土煙が立ち昇った。


 私たちのところにも土煙は流れて来て、周りの様子が何も見えなくなった。私たちを攻撃していたオークロードたちの姿も土煙に呑まれて見えなくなった。そのせいか私への熱線攻撃も止んでいた。


 そんな状態が1分以上は続いたと思う。


 次第に土煙が薄れてくると辺りの様子が見えてきた。丘の麓から中腹にかけての芝地は無残な姿になっていた。いたるところに直径20モラくらいの大きな穴が空いていて、オークたちの群れは消えていた。


 麓の陣地は一つだけは無事なようだが、それ以外の陣地は粉々に破壊されていた。それと、私たちがいる場所も何事もなかったように取り残されている。


 私を攻撃していたオークロードたちも爆弾の爆発からは免れたようだ。周りの変わりように唖然としていたが、次は自分たちが殺されると気付いたのだろう。要塞の城門を目指して逃げ始めた。


 そのオークロードたちに背後から急速に迫る影があった。あれはケイだ。まるで逃げる獲物を追って疾駆する女豹のようだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1192〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1192〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1192〉。


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