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SGS246 悪いことは重なる?

 ―――― フィルナ(前エピソードからの続き) ――――


 マメルの姿が見えた。ダードラ要塞の城壁の真下にいる。そこから70モラほど離れた場所には要塞の城門があるが、その付近にはオークたちが溢れていて近付けない。おそらくマメルは浮遊の魔法を使って城壁を飛び越えるつもりだろう。


 だが、オークたちがそれを見過ごすはずがない。何十頭ものオークたちがマメルを目掛けて走り始めている。その中にはオークロードも五頭いた。


 ようやく呪文を唱え終えたらしく、マメルの体が少し浮き上がった。城壁に沿ってゆっくりと昇っていく。だが、今のままでは昇りきらないうちにオークロードたちから遠距離攻撃を受けるか念力魔法で捕まってしまうだろう。


 それを黙って見ているわけにはいかない。私は立ち止って呪文を唱え始めた。誘導爆弾の魔法だ。ここからの距離は300モラくらい。オークたちが気付いてこっちに向かってくるまでに3発か4発は撃てる。


 唱えているのは省略形の呪文だが、その数秒がまどろっこしい。


 大きな火球が自分の指先から飛び出した。火球を誘導する。狙うのは群れの先頭を走るオークたちだ。轟音とともに爆発。火柱と土煙が濛々と上がり、オークたちの体が吹き飛ぶのが見えた。


 戦果を確かめて余裕はない。一発で20モラほどの範囲を殲滅したはずだ。その範囲にいたオークたちは死ぬか戦闘不能になっただろう。


 これでも爆発の威力をかなり低く抑えていた。爆風でマメルも吹き飛んでしまうからだ。それでも爆風の影響を受けたようだ。マメルの体は少し横へ流されている。だが、もうすぐ城壁の屋根にマメルの手が届きそうだ。大丈夫だろう。


 2発目をオークたちの群れに向かって発射。土煙で視界が悪いが、そこは探知魔法で補っている。


 3発目を撃ち、4発目も続けて撃ち込んだ。4発目は爆発の威力を高めて、城門の付近に落とした。その辺りに集まっていたオークたちは全滅したと思う。


『フィルナさん、後ろっ!』


 エマの念話で振り返ると、オークたちがこちらに向かって迫ってくる。メリセランの陣地にいたオークたちだ。その中にはオークロードも十頭近くいた。


 前方の敵に意識を集中するあまり後方への注意が疎かになって、敵の接近に気付くのが遅れてしまった。


 オークたちまで30モラほどしかない。近過ぎて誘導爆弾の魔法は使えない。


 どうしよう。さっきのように可能な限り自分のバリアに魔力を注入して守り抜くしかないのだろうか……。


 でも、状況はさっきとは全然違う。オークたちの敵意がこちらに集中しているからだ。その殺気で自分の肌がちりちりするくらいだ。


 探知魔法で見ると要塞の中にいたオークロードたちもこちらへ向かって来てる。


 こうなったら斬りまくって退路を開くだけだ。要塞の中に入ったマメルのことが気に掛かるが、今はどうしようもない。


『オークたちの中を斬り抜けて脱出するよ。私から離れずに付いて来てっ!』


『はい!』


 エマの返事を聞きながら呪文を唱えた。魔力剣を発動。


『行くわよっ!』


 群れは目の前だ。


 脚に力を籠めて走り出す。


 魔力剣を先頭のオークに振り下ろした。オークの盾とバリアは瞬時に破れて魔力剣がオークの体を貫く。驚きの表情を浮かべたオークが倒れていく。


 後に続いて走ってきたオークたちも続けざまに斬り伏せた。


 その後ろから盾を構えたオークたちが壁のように並んで押し寄せてきた。仲間が戦っている間に態勢を整えたようだ。


 立ち止ってはいけない。迷わずオークの壁に突っ込んだ。


 魔力剣を伸ばしながら横に薙ぐ。並んだ盾をほとんど抵抗無く切断していく。


 盾の後ろにいたオークたちの体にも魔力剣は達していた。オークたちの壁が崩れる。倒れ伏したオークたちが屍の壁となって積み重なっていく。


 オークたちの群れの動きが止まった。屍の壁が邪魔をしているのだ。


 その中に突っ込んではダメだ。こちらも身動きが取れなくなるから。


 とっさに方向を変えて右手方向へ走り出した。今がオークたちの群れから離れるチャンスだ。


 そのとき目の端にエマの姿が映った。エマはオークの壁に突っ込んでいく。私の方向転換に付いて来れなかったのだ。


 しまった! エマが私のバリアから外に飛び出してしまった。


 踏み出した足に力を入れる。方向転換だ。エマを見捨てることはできない。


『エマ、早く立って!』


 エマはオークの屍に足を取られて転んでいる。


 一旦外に出てしまったエマを再び自分のバリアに入れることはできない。そうするためにはバリアをキャンセルして張り直さなければならない。でも、今そんなことをすれば致命的だ。


 数頭のオークが仲間の屍を踏み越えてエマに迫ろうとしている。


 とっさにバリアを自分の体ギリギリにまで縮小。オークたちとエマの間に飛び込んだ。


 目の前のオークたちが次々と棍棒を振り下ろす。


 思わず目を閉じた。だけど、大丈夫。軽い衝撃があっただけだ。完全にバリアが私を守ってくれてる。


 目の前にいたオークたちを魔力剣で一掃。ちらっと振り向いてエマを見た。うずくまっている。立ち上がろうとして、上手く立てないようだ。


『どうしたの?』


『右足を挫いたみたいで……』


 なんてことっ! 悪いことってホントに重なるのだろうか?


 その間にオークたちは私から距離を取り始めた。魔力剣の攻撃範囲から遠ざかろうとしているらしい。


 いや、それだけじゃない。オークたちの後ろにいたオークロードが何頭も出て来て、私たちを取り囲み始めたのだ。


 遠距離攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。そうはさせない!


『フィルナさん、あたしを置いて逃げてください。このままでは……』


『そんなこと、できるわけないじゃない!』


 エマに念話を返しながらオークロードの一頭に向かって駆け寄った。


 魔力剣を振り下ろす。オークロードのバリアが眩い光を発して砕けた。何かの呪文を唱えていたオークロードを一刀両断にした。続けてもう一頭を倒したところで軽い衝撃を感じた。


 攻撃を受けてる!? 熱線魔法だ。バリアが防いでくれてるが、当たった個所が淡い色を発している。


 少なくとも三頭のオークロードが熱線魔法を撃ち込んで来ていた。こちらのバリアの回復力が勝っているから今はまだ大丈夫だ。でも、オークロードたちが集まって来ている。集中攻撃してくるつもりだろう。反撃しなきゃ危うい。


 魔力剣を振り上げて走り出そうとしてすぐに立ち止まった。エマのバリアが灰色に変わり始めていることに気付いたからだ。エマにも熱線が当たり始めてる。


 放っておいたらバリアが砕ける。そのときエマの命はない。


 自分が思うより速く体が動いていた。


 エマの盾になるのだ。自分のバリアで熱線を防ぐ。それしかない。


 熱線を遮るようにしてエマとの間に体を割り込ませた。


 熱線が自分に集中してきたのが分かる。バリアが光を発しているが、まだ大丈夫だ。


 振り向いて背中側にいるエマを見ると、蹲ったまま目を閉じていた。バリアは灰色のままだ。背後から撃ってくる熱線がエマのバリアに当たっているのだ。エマは自分の運命を悟って覚悟を決めているようだ。


 死なせない! でも、背後をどうやって守れば……。


 そうだ! あれを使おう。


 呪文を唱えて左手から魔力盾を発動。自分の背後に5モラ四方の魔力盾を展開した。エマは魔力盾の内側だ。


 間に合った。エマのバリアは今にも砕けそうだったが、少しずつ透明に戻り始めた。透明の魔力盾は背後からの熱線を受け止めて眩い光を発している。


 これで背後からの攻撃はどうにか防げそうだ。


 だが、今度は自分のバリアが眩い光を発し始めた。魔力を魔力盾に回した分、バリアの回復力が低下して余裕が無くなったからだ。今は、オークロードたちの攻撃力と自分のバリアの回復力が拮抗しているが、このままでは危険だ。


 見回すと、こちらを攻撃しているオークロードは十頭くらいに増えていた。要塞から出てきたオークロードも加わっているようだ。まだ増えるかもしれない。


 オークロードたちは10モラ以上離れたところからこちらを取り囲んで熱線を撃ち込んで来ている。ここから魔力剣で反撃するのは無理だ。


 やはり遠距離魔法で攻撃するしかない。使うのはこちらも熱線魔法だ。熱線を誘導することはできないが、一度呪文を唱えたら熱線を撃ち続けることができる。


 魔力剣をキャンセルして熱線の呪文を唱えた。省略形の呪文だが、その数秒の間にオークロードの数がまた増えたようだ。


 自分のバリアに色が付き始めた。オークロードたちの攻撃力が勝り出したのだ。


 自分のバリアが破れるまでにはまだ時間はある。落ち着いて一頭ずつ倒していけば何とかなるはずだ。


 ※ 現在のフィルナの魔力〈789〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈787〉。


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