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SGS245 怒涛の大軍

 ―――― フィルナ(前エピソードからの続き) ――――


 信じられないことに、迫って来ているのはオークの軍勢だった。オークの大軍が防壁のこちら側に入っているのだ。


 目を向けるとその軍勢が見えた。こちらは丘の中腹にいるからよく見える。


 平原の中を延々と続く石の防壁。それと並行しながらオークの軍勢が荒れ狂う大波のような勢いでこちらに向かって走ってくる。全員が黒い防具を装着している。まるで獲物に群がってくる黒アリの大軍のようだ。数千頭はいるだろう。


 オーク兵たちは皆ソウルオーブかダークオーブを装着していてバリアを張っている。探知魔法で見るとオークロードも数十頭いると分かるが、大軍の中に混じり込んでいる。目で見ても区別が付かない。


 ここまではもう300モラほどの距離だ。こんな近くに迫ってくるまでオークの大軍に気付かなかったなんて……。放心状態になっていた自分が腹立たしい。


 メリセラン軍の隊列の先頭までは150モラもないだろう。メリセランの陣地から一斉に矢が放たれた。十頭ほどのオーク兵が倒れたように見えたが、それはすぐに押し寄せる黒い波の下に飲み込まれていった。


「うそっ……」


 声が聞こえて横を見ると、エマも立ち上がって驚いた表情でオークの大軍を見ていた。マメルも呆然と立ち尽くしている。


「逃げろーっ!!」


 後ろの方から叫び声が聞こえた。レアルドの声だ。オークの大軍を指差しながら部下たちに大声で叫んでいる。


 それまでレアルドは部下の魔闘士たちと一緒に丘の中腹にいた。私がいる場所からは要塞方向に50モラくらい離れたところだ。部下たちとメリセラン軍の陣地を攻略する作戦でも相談していたのかもしれない。


 レアルドたちは散らばりながら逃げ始めた。必死にダードラ要塞の城門を目指して走っている。だが、城門までは300モラ以上の距離がある。


 オークの足は速い。今から逃げても追い付かれるだろう。


 それはレアルドたちだけではない。私たちも同じだ。いや、私一人なら逃げられるかもしれない。でも、マメルたちを置いて逃げるわけにはいかない。


 そのとき爆発音が響いて何頭ものオークたちが宙に舞い上がった。メリセラン軍から爆弾の魔法が放たれて、迫ってくるオーク兵たちの中で爆発したのだ。


 だが、爆発したのはその一発だけだった。オーク軍は止まらない。それどころかオークたちの殺気が膨れ上がって足が速まった気がする。


 私も爆弾の魔法を使おうか……。相手がオークであればアイラ神様も許してくださるだろう。私の誘導爆弾ならオークたちの進撃を止められるかもしれない。


 いや、今から爆弾を撃ち込んでもせいぜい3発だ。その3発だけで押し寄せてくるオークたちを止めるのは無理だろう。それどころか余計にオークたちの敵意を駆り立てて、こちらへ襲い掛かってくることになる。


 ここは我慢してこの場で耐えたほうが良さそうだ。


「この場所でオークの軍勢をやり過ごしましょう。大丈夫よ、私のバリアの中にいれば……」


 エマは頷いて、呆然としているマメルの手を取って私のそばに連れてきた。


 その間にもオークの軍勢が迫っている。エマが何か言ったが、オークたちの叫び声と地響きで聞き取れなかった。


 いつの間にかオークの先頭は二手に分かれていて、その一つがメリセラン軍の隊列にぶつかるのが見えた。


 オークたちの盾に弾き飛ばされて兵士たちの体や槍が宙を舞っている。メリセランの兵士たちはソウルオーブでバリアを張っていただろうが、全く役に立たなかったようだ。


 もうもうと立ち昇る土煙の中でメリセラン軍がオークの軍勢に飲み込まれていく。


 視線を戻して正面を見た。二手に分かれたうちのもう一つの群れが真っすぐにこちらに迫ってくる。この群れは自分たちを飲み込んで、そのままの勢いでダードラ要塞の城門に向かっていくつもりだろう。


 自分の足が震えてる……。いや、違う。これはオークたちが押し寄せてくる地響きだ。


 周りの音が一切消えて、自分の気持ちが静まっていくのを感じていた。意外にも自分は冷静だ。


 バリアに自分の魔力の大半を回して、半径3モラの球体型のバリアを形成している。あのオークたちに私のバリアを破ることはできないはずだ。このバリアは地中にも張り巡らされていて、地面にもしっかり固定されている。弾き飛ばされることもない。きっと大丈夫、心配ない……。


 オークたちがどんどん迫って来て、その顔がはっきりと分かる。


 どのオークも身長は2モラを遥かに越えていて、筋肉の塊のようなガッシリとした体格をしている。潰れた鼻と突き出た2本の角。歯をむき出しにして叫び声を上げながら突進してくる。盾を突き出し、棍棒や剣を振り上げながら……。


 ぶつかる……。


 思わず姿勢を低くして衝撃に備えた。


 先頭のオークが空中に舞い上がった。次々とバリアに弾かれてオークたちが宙を舞っていく。地面に落ちたオークたちに後から来たオークたちがつまずいて転ぶ。そのオークの上に別のオークが倒れ込む。


 バリアの周囲に沿ってオークたちがまるで土塁のように積み重なっていく。


 そのオークたちを踏み越えて後から後からオークたちが襲い掛かってくるが、バリアに弾かれて新たな土塁となっていった。


 私のバリアは無傷だ。オークたちが連続して激突してきたときはバリアが淡く光って揺れも少し感じたが、その程度で終わった。


 オークたちの攻撃が続いたのは1分か長くても数分だったと思う。私のバリアに攻撃を仕掛けても無駄だと諦めたのか、それともダードラ要塞を攻め落とすことを優先したのか……。


 ともかく、オークの大軍は通り過ぎた。


 攻撃が止んで周囲を見回そうとしたが、倒れて積み重なったオークたちが壁になって周りの様子が分からない。壁になっているオークたちは大半が死んでいるようだ。仲間に踏み殺されたと言っていいだろう。


『フィルナさん、もう大丈夫かしら……? 少し静かになったけど……』


 エマが念話で話しかけてきた。エマもマメルも私の後ろでしゃがみ込んでいる。


『おれの探知範囲からオークどもは消えたが……。退却したかな……』


 相変わらずだ。マメルの考えは甘い。


『そんなわけないでしょ! オーク兵たちはダードラ要塞の城門付近に集まってるわ』


 探知魔法で探ると、すでに要塞の中に何頭ものオークロードたちが入り込んでいることが分かった。


『要塞の城門が開いたままになってるみたい。信じたくないけど、そこから中にオーク軍が雪崩れ込んでる……』


『そんな馬鹿なっ! レアルドたちは何をやってるんだ!』


 マメルが立ち上がりながら怒鳴り声を上げた。デーリアのことを心配しているのだろう。


 探知魔法で捜してみたがレアルドも部下の魔闘士たちも見当たらない。


『魔闘士たちはみんな殺されてしまったのかも……。探知魔法に反応が無いから……』


『魔闘士たちが全員殺されたって? そんな馬鹿な……』


 そう呟いてマメルは座り込んでしまった。


 メリセラン軍の陣地にも魔闘士は探知できなかった。魔闘士どころか人族の反応もどんどん消えていく。メリセランの陣地には十頭ほどのオークロードたちと数えきれないほどのオークたちの反応があった。おそらく殺戮の最中だ。メリセラン軍は全滅だろう。


 ダードラ要塞の中は……。同じように人族の反応が消えていく。だけど……。


『ちょっと待って。まだ生き残ってる魔闘士がいるみたい』


 探知魔法で見ると、ダードラ要塞の中に一人だけ魔闘士が残っていた。魔力は〈207〉。レアルドだ。オークロードたちに追われて要塞の中を逃げ回っているようだ。


 オークロードは魔力が〈100〉だから一対一で戦うのであればレアルドは余裕で勝てるだろう。だが、それが十頭近くもいて、レアルドを追っているのだ。


『レアルドが生きてる。要塞の中でオークロードたちに追われてるから、いつ殺されるか分からない状態だけどね』


 そうだわ……、良いことを思い付いた。


『あの男がオークたちを引き付けている間に、デーリアたちを救い出せるかもしれないけど……』


『本当か!? それなら、おれが行って助け出してくる』


『マメルが行くなら、あたしも……』


『ダメよ。あんたたちが行ってもあっという間に殺されてしまうわ。レアルド以外の魔闘士たちが全員殺されたようにね』


『心配するな。レアルドが生き残ってるなら、おれだって大丈夫だ。あんたのおかげで魔力が〈220〉になったからな。だけど、エマ。おまえはダメだ。ここで待ってろ』


 そう言うと、止める間もなくマメルは飛び出していった。オークたちの屍の壁を越えて姿が見えなくなった。


『なんて馬鹿なの!』


 魔力が少し高くなったくらいで数十頭もいるオークロードたちに勝てるはずがないのだ。それに、戦いは魔力が高くなっただけでできるものではない。身に付けた技能や戦闘の経験が物を言う。私自身が今回の失敗でそれを痛いほど感じていた。


『マメルは……、マメルは大丈夫でしょうか?』


 エマは少し震えている。顔色も悪い。オークたちへの恐怖だけでなく、よほどマメルのことが心配なのだろう。


『大丈夫かどうか分からないけど……。とにかく、助けに行ってみる』


『それなら、あたしも一緒に……』


『ダメ! エマ、あなたが付いて来ても足手まといにしかならないわ。あなたは自分の命を守ることだけを考えて隠れてなさい』


『でも……、ここで隠れてるほうが怖いです……』


 たしかにそうかもしれない。この場所はすぐにオークたちが戻ってくるおそれがある。


 エマだけを一足先にフォレスランの王都へ逃がすことも考えたが、それもできそうにない。王都へ向かうには丘の麓を通らねばならないが、そこにはメリセラン軍の陣地があって、今はオークたちで溢れているからだ。


『仕方ないわね。じゃあ、連れていくけど、私のそばを絶対に離れないこと。いいわね?』


『分かりました』


 私とエマはオークたちの屍を乗り越えて要塞に向かって走り始めた。


 ※ 現在のフィルナの魔力〈789〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈787〉。


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