SGS024 なりたいものはロードナイト
ロードナイトのことをまだ聞いてない。
「ええと、ロードナイトっていうのは?」
「ああ、そうだったわね。ロードナイトというのはね、もう分かっているかもしれないけど、このロードオーブを装着したオーナーのことを敬意を表してロードナイトって呼ぶのよ」
だからオレだって自分を鍛えて強くなり、妖魔や魔獣を倒せばロードオーブを手に入れることができてロードナイトになることができるかもしれないのだ。強い妖魔や魔獣を倒せば倒すほど、もっと強いロードナイトになれるってことだ。そういうチャンスがあるってことだから、これはすごい!
でも、ロードオーブを手に入れてロードナイトになれたとしても、そのオーブを無くしたり盗られたりしたら、どうするんだろ? 貴重品だから金庫にしまっておく? ロードオーブは装着しないと機能しないみたいだから、そんなことできないしなぁ……。
「ロードナイトになれたとしても、もしそのロードオーブを盗られたらどうするんですか?」
「ロードオーブは他人には使えないんだけどね。でも盗られたり壊されたりするとロードオーブは使えなくなってしまうからね。そうならないように、ロードナイトになった人はロードオーブを体のどこかに埋め込んでいるそうよ。キュア魔法を掛けてしまえば傷は消えるから、体のどこに埋め込んだのかは分からなくなるのよ」
「それなら無くしたり盗られたりする心配はないですね」
「でもね、気休めみたいなものよ。ロードオーブを体のどこに埋め込んで隠していても、敵が魔力の高いロードナイトなら簡単に見つけ出すそうだから」
「そうなんですか。でも、憧れますよね。ロードナイトか、いいなぁ……」
オレが身を乗り出して先輩の話に聞きいっていると、その反応に気を良くしたラウラ先輩はさらに色々と教えてくれた。
「神族のソウルは天の神様の異空間ソウルとリンクして常に無尽蔵の魔力を使えるでしょ。もう一方の妖魔や魔獣のソウルもウィンキアソウルとリンクして常に無尽蔵の魔力を使えるよね。だからそういう点では両者は似た者同士なのよね。
でも全然違うところもあるのよ。それはね、生まれ方が妖魔や魔獣と、神族では全く違うってことなの。妖魔や魔獣はね、ダンジョンの中で普通の魔族や魔物が天啓を受けて、その場で変異するのよ……」
神族は自身のソウル以外にそれぞれが異空間にある補助のソウルを持っているそうだ。この補助のソウルは天の神様が作ったもので、異空間ソウルと呼ばれている。異空間ソウルは亜空間の中に伸びるパイプを通して神族へ魔力の供給を行うらしい。神族はこの異空間ソウルから魔力を尽きることなく引き出すことができるようだ。
神族の子供はそのまま神族の特性を受け継ぐことができる。つまり神族の子供も天の神様の異空間ソウルとリンクして無尽蔵の魔力を使うことができるということだ。
しかし妖魔や魔獣は神族とは違っていて、その子供は親の特性を受け継がない。つまりその子供たちはウィンキアソウルとのリンクは無いということだ。それでは妖魔や魔獣がどうやって生まれるかというと、それがダンジョンの中での天啓なわけだ。
魔族たちは妖魔になることに憧れて、魔物たちはウィンキアソウルが発する強い魔力に惹かれて、ウィンキアのあちこちにあるダンジョンに集まってくるらしい。その中で争い合って強い者が生き残る。そしてダンジョンの最も深いところでウィンキアソウルによって強者の中の強者が選ばれてロード化するのだ。
ロード化すると姿や形も変わるそうだ。妖魔の場合は顔の形相や筋肉の付き方が威嚇的になるくらいで少しだけの変化だが、魔獣の場合はもっとダイナミックに変わるようだ。例えば、角や牙が大きくなったり、堅い鱗で覆われたり、大きさも2倍以上になることがあるらしい。そう言えば、初日に会ったあの爺さんが魔獣に出会ったら命は諦めろとか言ってたな。
「妖魔や魔獣がとんでもなく怖い存在だって分かりましたけど、そんな奴らがダンジョンから出て来て、人族を襲うってことですよね。もし出会ったら、どうしたらいいんですか?」
「うん、怖いよね。人族を見たら妖魔や魔獣は襲ってくるからね。そうならないように、ロードナイトたちがダンジョンに潜って妖魔や魔獣を退治してるのよ。ハンターギルドから頼まれて妖魔や魔獣を退治するという表向きの理由もあるけど、自分の魔力よりも強い妖魔や魔獣を退治して、そのソウルと契約することで自分自身がもっと強いロードナイトになりたいってことが本音だよね」
「でも、ロードナイトが強いと言っても、戦う相手の妖魔や魔獣はもっと強いかもしれないですよ。妖魔や魔獣のソウルをオーブに封じ込めたら魔力が半分になると言ってたし、いくらなんでも危なすぎるんじゃないですか?」
「そうよね。だからロードナイトたちは何人かでパーティーを組んでダンジョンに潜るのよ。戦う相手はロード化した直後の妖魔や魔獣でしょ。まだ戦いに慣れていないし基本的に一頭だから、パーティーで挑めばロードナイトが殺されたりすることは少ないらしいわ」
「ふーん、なるほど。でもパーティーで一頭の妖魔か魔獣と戦うってことは、得られるソウルは1個だから、誰がそれをもらうかで揉めるでしょうね?」
「ラストアタックを取った人がソウルと契約できる権利を得るから、たしかに揉めることもあるかもしれないけど、順番を決めておくとかするんじゃないのかな? あたしはそんなパーティーに参加したことが無いから分からないけど。
でもね、パーティーの中には新人も参加させてもらえるから、ロードナイトになれるチャンスはあるのよ。あなたが誤解しないように付け加えておくけど、新人と言ってもロードナイトの一歩手前の実力や経験は必要だからね」
よし! オレも実力をつけてロードナイトになるんだ! ロードナイトになれば魔力を尽きることなく使い続けることができるからな。
「わたしも頑張ってロードナイトを目指します。ロードナイトになれば魔法も使い放題で、圧倒的に強くなれるんですよね?」
「ロードナイトを目指すのはもちろんハンターとしては当然のことだけど、ロードナイトになったからと言って圧倒的に強くなれると考えるのはちょっと危険だわね」
「どうしてですか?」
「圧倒的に強いかどうかというのは色々な要素があるからよ。まず重要なのは魔力の強さね。戦う相手と比べてどちらが魔力が強いのかということよ。普通は魔力が強い方が断然有利になるからね。それに味方と敵の数や総力がどうなのかってことも重要よね。戦いのスキルや経験も重要だし、体力も重要よ。魔力を尽きることなく使うことができても、戦いの途中で体力が尽きたら負けてしまうものね。だから体を鍛えることはとても大切なのよ」
「分かりました。体力や戦いのスキルを高めてロードナイトを目指します」
「そうね。その意気で頑張りなさい」
先輩が優しく励ましてくれた。
ロードナイトを目指すとすれば、いつかは妖魔か魔獣と戦うことになるということだ。魔獣は凶暴そうだから戦うのは遠慮したい。まずは妖魔と戦えるようになろう。
相手は妖魔か……。あれっ? 妖魔って言えば、この世界に来て初日に出会った警ら隊の隊長さんが似たような言葉を使っていたぞ。たしか妖魔人というのがいて、人の体を乗っ取って魔族の味方になる悪いボディジャッカーのことだと言ってたよな。なんだか、ややこしいな。
「あのぉ……、ちょっと前に他の人から妖魔人の話を聞いたんですけど、似た言葉なのに意味が全然違うんですね……」
「え? どういうことを聞いたの?」
「その人が言うには、妖魔人は魔族の味方をする悪いボディジャッカーだって言ってました」
「あぁ、妖魔人も妖魔の一種よ。つまりロード化した人族で魔族の味方をする者は妖魔だって言うことよ」
「えぇ!? 人族もロード化するんですか?」
「するわよ。ただし人族や亜人のロード化は特殊なの。魔族みたいにダンジョンに潜って天啓で変異するんじゃないのよ。意識を持った浮遊ソウルが人族に転生したりボディジャックすることでロード化するの。そういう浮遊ソウルは既にウィンキアソウルとリンクしているから、ロード化した人族ということになるのよね。その中で魔族に味方してしまう者は妖魔人って呼ばれてるの。人族に味方する者はヒューマンロードって呼ばれているわね」
なるほど。難しい……。
「あのぅ、今の話を聞いただけでは理解できたか自信がないんですけど」
「大丈夫よ。ハンターを続けていれば、嫌でも分かるようになるから」
そんなものか。なるようにしかならないってことだな……。




