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SGS239 エマの恋

 ―――― フィルナ(前エピソードからの続き) ――――


 エマの話に驚いたのは私だけではなかった。ハンナ姉も驚きの表情を浮かべている。


「初めての人って……。あなたとマメルはもうそんな関係になっていたの?」


 声を抑えながらハンナ姉が問い掛けると、エマは小さく頷いた。


「マメルはレングランの闘技場でずっとあたしのことを守ってくれました……」


 エマはマメルのことを慕うようになった経緯を語ってくれた。


 エマがマメルと知り合ったのはレングランの闘技場だった。エマはブライデン王国の出身で、魔空船に乗って旅をしている途中にレングランの私掠船に襲われて奴隷となった。一方のマメルはゴブリンの国に捕らえられていたが、ケイたちがレングランへ連れ帰った。レングランと敵対しているフォレスランの出身だったので、マメルの身分は奴隷のままだったらしい。こうしてエマもマメルも同じ頃に闘技場の奴隷となった。9か月ほど前のことだそうだ。


 ケイたちがいたころの闘技場は人族とゴブリン族との共生を試すための実験場だったそうだが、ゴブリンの国との和平交渉に失敗した後は、闘技場は奴隷と魔物を戦わせて、観客にそれを見せる場所となっていた。


 エマはマメルや何人かの奴隷たちと組んで魔物と戦うことになり、何度も死にそうになった。だがその都度、マメルや仲間たちに助けられたそうだ。特にマメルは何度も命懸けでエマを助けてくれたし、エマに優しくしてくれた。


 魔物との戦いが終わると、男と女は別々の檻に入れられて話すこともできなかったが、エマは自分を守ってくれたマメルを心から慕うようになっていた。


 闘技場での地獄のような日々は4か月後に終わった。エマとマメルはテイナ姫の一行に加わり、ケイに救われてアーロ村に滞在することになったからだ。自由の身となり、ゲストハウスの一室でエマはマメルと結ばれた。


 マメルと一つになれたときは嬉しくて、エマは一生マメルに付いて行こうと心に決めたそうだ。


 でも、結ばれたのはその一回だけだった。その後、マメルはエマに冷たくなったらしい。思い詰めて理由を尋ねると、どうやらマメルにはフォレスランに想い人がいるらしいと分かった。


「あたしとのことは間違いだったとマメルに謝られました。あたしってきっと、女としての魅力が無いんです……」


 そう呟いて、エマはまた涙を零した。


「そんなことないよぉ。こんなに可愛くて綺麗なんだから。あたしが男だったら絶対に放っておかないのにねぇ」


 ハンナ姉は助けを求めるような顔で私を見た。


「ええ、私もそう思う。それに、そんなに泣くこともないと思うけど。マメルに恋人がいたとしても、それは4年も前のことでしょ。マメルはこの4年間、ゴブリンの国やレングランで奴隷だったのよ。4年もの間、その恋人が行方不明になったマメルのことを待っているかしら?」


「フィルナの言うとおりだわね。だからね、エマ。泣くのは早いわよ。あなた、ちゃんと自分の気持ちをマメルに打ち明けたの?」


「まだです……」


 エマはまた涙を零した。それを見ていて私は腹が立ってきた。


「恋人がいると言ってるくせに、あなたのような可愛い女性に手を出して泣かせるなんて、マメルって酷い男ね」


「そんなことありません。マメルはわるくないんです。あたしが思い詰めて泣いてるだけで、彼にちゃんと話をしてないから……。だから、全部あたしがわるいんです……」


 これは何を言ってもダメだ。ハンナ姉も私もそっと溜息を漏らした。


「それなら、エマ。マメルが帰ってきたら、あたしがマメルに話をして恋の橋渡しをしてあげる。だから安心しなさい。あなたはちゃんと食べて、マメルの帰りを待っていて。マメルが帰ってきたら知らせにくるのよ」


 ハンナ姉は優しい。そして、ちょっとだけお節介なのだ。私はそんなハンナ姉が大好きだ。


 ………………


 夜遅くになって、マメルが戻ってきたとエマが知らせに来た。ハンナ姉と私とエマの三人でマメルの部屋を訪ねると、マメルは何だか元気がなく疲れた感じで椅子に腰を落としていた。


 その様子を見たエマもマメルに声を掛けられずにしょんぼりしている。


 ハンナ姉はマメルの前にツカツカと近寄って行き、腰に手を当てながらマメルを見下ろした。マメルは何事か分からずにポカンとハンナ姉を見上げている。


「マメル。あんた、エマの処女を奪っておいて、すぐに彼女を捨てようとしてるって聞いたけどホントなの?」


 さすがハンナ姉だ。単刀直入に切り出した。


「ど、どうしてそのことを!? あっ、エマ、喋ったのか?」


 マメルがエマを睨むと、彼女はびくっと肩を震わせて俯いた。


「本当なのね。エマはね、食事が喉を通らないくらいあんたのことが好きなの。あんたに一生付いて行こうとまで考えてるそうよ。それなのに、あんたは昔の恋人の話を持ち出して、エマとのことは間違いだったと言って終わらせようとしてるんだってね。あんたはエマの気持ちを知っていて、そんなことを言ってるんでしょ? あたしはね、そんなゲスな男は許せないの」


 ハンナ姉から出る圧力がぐっと高まった気がした。


「ちょっと、ちょっと待ってくれ。おれはそんな話は聞いてないぞ。エマがおれを慕ってくれているとは感じていたが、一生付いて行こうと考えてるなんて、今初めて聞いたことだ」


 マメルは椅子に座ったまま仰け反るような姿勢になっている。


「そりゃそうよ。今、あたしがあんたに初めて話したことだから。エマはね、あんたから昔の恋人の話を聞かされて、自分の気持ちを何も言えなくなってしまったのよ。だから、あたしがエマの代わりに話してるの。とにかく、あんた。昔の恋人のことを持ち出してエマとの関係を終わらせようとするなんて、最低よっ!」


「それは……、それには、理由があるんだ」


「理由?」


「ああ。おれにはデーリアがいたからなんだ」


「デーリア? 誰なの?」


「おれの婚約者だ。いや、4年前は婚約者だったんだ……。おれは奴隷になっていたこの4年間もずっと彼女のことを思っていた。自由の身になってフォレスランに帰ることができたら、まずデーリアを捜し出して結婚しようと考えていたんだ。でも、自由の身になって、エマがおれを慕ってくれてると分かったら……、つい手を出してしまった。気持ちを抑えられずにエマを抱いてしまったことを後悔したよ……。だから、申し訳ないと思って謝ったんだ。それで、エマに対してそんな身勝手な抱き方を二度とするまいと考えて……」


「あんたがエマに冷たくしたのは、そういう訳があったのね? でも、そのことをエマに言わずに、どうして昔の恋人のことなんかを話したの?」


「それは……、その方がおれのことを諦めやすいと思ったから……」


「ほら、やっぱりそうじゃない! それを身勝手だと言うの! やっぱり、エマとの関係を終わらせたいために昔の恋人の話を持ち出したんでしょ! エマの気持ちなんか全然考えてないじゃないの!」


「すまない……。今のおれはデーリアのことしか考えられなくて……」


 マメルが項垂れると、話を聞いていたエマもしゅんとしてしまった。


 ハンナ姉……。今のままでは恋の橋渡しじゃなくて、橋を壊しているような気がするけど……。


「マメル、ちょっと聞きたいんだけど」


 横から私が声を掛けると、マメルとハンナ姉がこちらを向いた。


「昨日からどこかへ出掛けてたけど、そのデーリアさんを捜しに行ってたんでしょ? 会えたの? 会えたにしては元気が無いみたいね?」


 私の質問にマメルは顔を曇らせた。


「言わなきゃいけないのか?」


 結果は良くなかったようだ。


「そりゃそうよ。あんたはね、エマの体だけじゃなくて心も傷付けたのよ。昔の恋人のことを持ち出してね。だから、あんたには昔の恋人のことをエマにちゃんと説明する責任があるの」


 ハンナ姉の圧力にマメルは顔を強張らせた。


「分かった。話すよ……」


 マメルは重い口調で何があったのかを語り始めた。


 ※ 現在のフィルナの魔力〈789〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈787〉。


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