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SGS236 フィルナたちの新婚旅行は波乱の様相

 クドル3国の共同体を作ろうと決心してから1か月半が経った。


 オレはその間ずっとクドル・インフェルノへ毎日通って訓練を続けていた。変わったことと言えば、何度かレング神やジルダ神の館に招かれたことだ。レング神やジルダ神だけでなくナナニ神とも仲良くなることができた。


 ナナニ神はレング神の第三夫人だったが、第二夫人のミレイ神がジルダ神の暗殺未遂事件に関わって逃亡したので、今はナナニ神が第二夫人となっている。一見すると大人しそうな感じの美人だが、話をすると気さくな人だった。オレのどこを気に入ってくれたのか分からないが、館の方に自由に遊びに来てほしいと言われいる。


 レング神の館に初めて訪れたときは飛行の魔法を使って移動したが、その後はワープで訪れるようになった。館にワープポイントを設定することをレング神たちが快く許してくれたからだ。それはオレのことを完全に信頼してくれている証だった。


 ダイルはこの1か月半の間、ラーフランの攻略に専念していたようだ。ラーフランで親しくなった人たちと一緒にパーティーを組んで、なぜかダイルはクドルの大ダンジョンに潜っていた。オレも一度だけダイルから呼び出されてダンジョンの中で魔獣と戦ったりしたが、それがラーフランの攻略とどんな関係があるのかはさっぱり分からない。


 一昨日、ダイルがダンジョン探索を終えてアーロ村に戻ってきた。そのとき、ダイルから呼ばれてオレは彼の家へ行った。ダンジョンの中で石化されたしまった男を見つけて、その石像を持ち帰ってきたと言うのだ。50年ほど前に石化されたらしく、ソウルは体から抜けてしまっている。


 ダイルがわざわざその石像を持ち帰ったのには理由があった。その男はアーティファクトを持っていたらしい。実際に石化を解いてみると、男のポケットから「異空間倉庫の宝珠」というアーティファクトが出てきた。


 異空間倉庫というのは異空間ソウルの中の倉庫を使えるようになる魔法だ。神族はこんなアーティファクトが無くても異空間倉庫を使えるから、このアーティファクトは天の神様が使徒向けに作ったものだろう。


 ダイルはこれまで亜空間バッグを使っていたが、小さくて苦労していたらしい。それでダイルはすぐにこのアーティファクトと契約した。さっそく亜空間バッグの荷物を異空間倉庫に移し替えて、収容量が何万倍にも広がったと喜んでいた。


 後に残ったのは石化から解かれた男の体だ。熊族で、歳は20代の後半だと思われる。熊族特有のぽっちゃりした体形で、優しそうな顔立ちだった。


 ソウルが抜けた体は放っておくと数日で死んでしまう。それはマズイから再び石化の魔法を掛けて石像に戻した。


 オレはその石像をダイルに頼んで譲ってもらった。万一の場合に備えて、この男の体がソウル移植で使えると考えたのだ。


 ソウルを有する生物は異空間倉庫には保管できない。それは石化した状態でも同じだ。だがこの石像はソウルが抜けているから問題なくオレの異空間倉庫に保管できた。


 このときはそれほど深く考えることも無くオレはこの石像を保管したのだが、それが数か月後にオレたちの運命を左右するほどに重要な役割を果たすことになる。その話はまたいつかすることになるだろう。


 ………………


 ダイルがラーフランの攻略に掛かりっきりになっていた間に、フィルナとハンナには旅に出てもらった。目的は人族の国を巡って、それぞれの国にオレたちの拠点を設けることだ。各国の首都に家を買って、そこにワープポイントを設定するのだ。そうすればワープでいつでもその国へ瞬間移動できるようになるからだ。


 フィルナやハンナたちに旅を楽しんでもらおうと思って、オレはガリードに頼んで魔空船をチャーターした。魔空船は魔樹が発する魔力と船の帆に使われている魔空帆まくうはんの魔力が反発する力を使って魔樹海の上空50モラほどのところに浮かび、前に進む推力を得ている。馬や徒歩で魔樹海の中を進むよりもずっと速いし安全だ。


 フィルナとハンナがその船に乗ってダールム共和国を出発したのは10日ほど前のことだ。それほど急がないから新婚旅行のつもりでのんびりと旅を楽しんでほしいと言っておいた。


 ダイルが一緒に行かないのに新婚旅行も何もあったものではないが、そこは抜かりはない。オレがタイミングを見計らってダイルを連れてハンナのところへワープするからだ。もちろん旅行先では体をユウに譲ることにしている。だから、ダイルたちには旅の要所要所で新婚旅行を楽しんでもらえるはずだ。


 実はこの新婚旅行はオレの考えではない。ラウラが念話でアドバイスをしてくれたのだ。戦国時代に転移して彼女が一番苦労しているはずなのに、ラウラはオレやユウたちのことを気遣ってくれた。


『あたしのことでケイに無理をさせたくないのよ。ケイが無理をして訓練ばかり続けていたら疲れが溜まるし、ユウやダイルたちだって寂しい思いをするでしょ。お願いだから、少し休んでユウたちに時間を取ってあげて……。

 前から考えていたんだけど、ユウとダイルたちに新婚旅行をプレゼントしたらどうかしら。ほら、ケイたちが住んでた日本では結婚したら新婚旅行に行くカップルが多いって聞いたから』


 ウィンキアでは新婚旅行などの風習は無いが、ラウラは新婚旅行がどういうものかを知っていた。ミサキ(コタロー)から知育魔法で社会人程度の一般知識や常識を植え付けてもらっていたからだ。


 そんなラウラの気持ちを大事にしたいし、オレ自身も結婚したばかりのユウの体を昼間はずっと訓練で独占していることを申し訳なく思っていた。だから、この1か月半の間、クドル・インフェルノで訓練を続けながらも夜だけはいつもユウに体を渡すように心掛けた。


 フィルナとハンナたちの旅はこうして始まった。最初に訪れた国はフォレスラン王国だったが、楽しいはずの新婚旅行は初っ端から暗雲が立ち込めていた。



 ――――――― フィルナ ―――――――


 ダールム郊外にある発着場を出発した魔空船は北西に針路を取った。魔樹海の上を4日ほど飛ぶと、目の前に見渡す限りの広大な平野が広がった。カイブ平野だ。その広さはクドル湖を取り囲んでいるクドル平野の何倍もあるらしい。


 私たちが目指しているフォレスラン王国はこのカイブ平野の中にあるのだ。


 魔空船は魔樹海の上空50モラほどのところを飛んでいる。もうすぐ魔樹海とカイブ平野の境界に差し掛かるところだ。その甲板から北方を眺めると、遥か地平線までずっと平野が続いていた。


 このカイブ平野の大半は未開の土地らしい。ここでも戦争が続いていて、開墾が進まないからだ。


 そのカイブ平野を右手に見ながらしばらく飛ぶと、遥か前方に大きな街が見えてきた。フォレスラン王国の王都だ。その向こう側にはフォレス湖がキラキラと輝いて見えている。


 フォレスラン王国はカイブ平野の南西部に位置している。フォレス神一族に支配されている人族の国だ。フォレスランの北側と東側はカイブ平野に面していて、南側は魔樹海に、西側はフォレス湖に面している。フォレス湖は大きな湖で、クドル湖の数倍はあるだろう。


 カイブ平野の北東部には人族の国のメリセラン王国があり、メリセ神一族によって支配されている。北西部には魔族の国のカイブン王国があり、オークが支配して統治している国だ。この3国はカイブ平野の支配権をめぐって常に戦争状態が続いているらしい。


 私はハンナ姉と一緒に船の甲板に上がって、フォレスランの王都や煌めくフォレス湖の風景を眺めていた。


 船が王都に近付くと、その様子がはっきりと見えてきた。


 目を引いたのは王都の街並みではなく、街壁近くの魔樹海上空だ。そこに数十隻の魔空船が浮かんでいて、火球が飛び交っていた。


「ハンナ姉、あれは……、戦ってるの?」


「とんでもないときに来てしまったようだわ……。あの旗はメリセランの魔空船団よ。フォレスランの王都に攻め込もうとしてるみたいね。フォレスラン側の魔空船が迎撃に出てるけど、完全に押されてるわね」


 たしかに一目でフォレスラン側の魔空船団が劣勢だと分かった。そもそも船の数が倍ほども違うのだ。メリセラン軍の船は20隻くらいだが、フォレスラン軍は10隻ほどだ。それに、フォレスラン軍の数隻は被弾して魔空帆に大きな穴が空いているせいで少し傾いているように見えた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1188〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1188〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1188〉。

 ※ 現在のフィルナの魔力〈789〉。

 ※ 現在のハンナの魔力〈787〉。


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