SGS235 クドル3国で新たな体制を作れたら……
その夜。オレがミサキに入って日本から持ち帰った動画データで映画を楽しんでいると、ユウから念話が入ってきた。今の時間、ユウはダイルの家でイチャイチャと新婚生活を楽しんでるはずだが……。
『ユウ、何か急ぎの用事?』
『ええ。ダイルが急いでケイと話をしたいと言ってるの。そっちの家に戻って体を返すから、ダイルの家に行ってもらえる?』
ダイルが急いでオレに話したいことって何だろう? とにかくダイルに会って話を聞いてみないと、あれこれ考えても始まらない。
………………
アーロ村は今は夜の時間帯だ。しかしダイルたちはまだ起きていて、お菓子を食べながら楽しそうに話をしていた。
「ケイ、夜中に呼び出してすまない」
「何か急ぎの話があるって?」
「ああ。ユウから聞いたんだが、俺の子を産んでくれるんだって?」
ええっ!? 急ぎの話ってそのことかぁ? もしかすると、今朝の続きをしたいとか言い出すんじゃないだろうな。
「ダイルったら! そんなことを言うからケイが驚いてるじゃないの!」
フィルナに窘められて、ダイルは頭を掻いた。ハンナも眉根を寄せてダイルを睨んでいる。
「ごめん、ごめん。違うんだ。実はレング神に頼みたいことがあってね。それで、ケイからレング神に連絡を入れてほしいんだ。明日、会えるかどうか尋ねてくれないか?」
「その頼みたいことって何なのか聞いてもいい?」
「もちろんだ。実はレング神に……」
ダイルはオレに事情を語ってくれた。フィルナの実家に絡んだ話で、頼まれるレング神からすれば迷惑な話だと思う。
フィルナの実家はダールム共和国でトップクラスの豪商だ。半月ほど前のことだが、ダイルはフィルナの両親に結婚の許しを得ようとその実家を訪ねた。だけど轟沈したらしい。ダイルは悔しい思いをして、自分がダールムの経済を牛耳るような男になることを決心したそうだ。
結婚を許してくれなかったフィルナの両親に対して自分が出世して見返してやろうとしているのかと思ったが、ダイルから話を聞くとそうではなさそうだ。結婚の許しを得るための再挑戦だと言う。
そのへんの詳しい事情やレング神への頼み事の内容は別の機会に語ることもあるかもしれないが、それはダイルの個人的なことなので、ここでは省略して話を先に進めようと思う。
オレが驚いたのは、その再挑戦のためにダイルがラーフランを攻略したいと言い始めたことだ。
「ラーフラン王国を攻略したいって、本気なの?」
ダールム共和国ではなく、その隣のラーフラン王国を攻略したいとダイルは言うのだ。
「ああ、本気だ。レングランはケイが攻略して、レング神たちを味方に引き入れただろ。残りのラーフランとダールムを攻略して俺たちの味方にできれば、このクドル湖を囲む3国は安定する。クドル3国が協力し合える関係になれば、3国とも国力の増強に力を注げるようになるし、バーサット帝国に対する強力な抵抗勢力になるはずだ」
ダイルのその話を聞いてオレは衝撃を受けた。今朝、オレが考えて見つからなかった解決策がダイルの口から出てきたからだ。
今のようにクドル3国がお互いに争ったりバラバラだったりしたら、バーサット帝国が侵攻してきたときに防ぎきれない可能性が高い。でも、ダイルが言うようにクドル3国がまとまれば……。
「ダイルの動機はともかくとして、クドル3国がまとまればバーサット帝国や魔族は簡単には侵攻して来れないよね。そうすればこのアーロ村がバーサットに攻め込まれる心配もずっと小さくなって、この村でみんな一緒に安心して暮らせるようになるよ。それにクドル3国を人族や亜人が安住できる地にすることはソウルゲート・マスターの希望にも沿ってるし……。大賛成だけど、その作戦は? どうやってラーフランを攻略するの?」
オレは早口でダイルに尋ねた。ダイルの素晴らしいアイデアに思わず興奮してしまったからだ。
「えっ!? ええと……。すまん。まだ、何も考えてないんだ。ラーフランを攻略しようと思い付いたのはたった今のことだからな。だけど、何とかする。俺に任せてくれ」
それを聞いて唖然とした。だけどダイルはいつもこんな感じだし、言ったことは必ず実行してやり遂げてくれた。今回も任せて大丈夫だと信じたいが、なにしろ一つの国を攻略するってことだから、今までとはケタ違いの難易度だ。
「ダイルったら、思い付いたらすぐに動き出すから心配なのよ。ちゃんと考えて動かないと失敗するわよ。ラーフランを攻略するなんて無茶なことを言って本当に大丈夫なの?」
「でも、フィルナ。それがダーリンの魅力だと思うわ。あたしはダーリンのそんなところが好きだもの」
「それはハンナ姉だけじゃなくて私だってそうだけど……。でも、ダイルってときどき無茶をするから心配なのよ」
ハンナとフィルナの会話を聞きながら、オレも心配になってきた。オレも時には無茶をすることがあるが、ダイルはオレよりももっと無鉄砲なところがあるらしい。
「ダイル。言っておくけど、ラーフランを攻略すると言っても、武力で攻撃するのはダメだからね。ラーフ神一族に戦いを挑んだり殺したりするのは絶対に止めてよ」
「心配するな。俺もラーフ神一族を自分たちの味方にしないといけないことは分かってる」
「武力を使わないで攻略して味方にするって、すごく難しいと思うけど……」
「そうだな。少し考えさせてくれ」
「うん、期待してる。このクドル3国をすべて自分たちの味方にできれば、国同士がお互いに協力し合えるような関係にできると思うんだよ。これまでレングランとラーフランが戦争を続けてきたせいで、兵力はじり貧の状態だし、食料なんかの蓄えも少ないままだよね。でも、クドル3国が協力し合って将来的に共同体のような形にすることができれば、兵力も食料も増やすことができるはずだよ」
「ケイったら、こんな話になったら男の子のように目をキラキラさせながら話すから面白いわよね。ねぇ、ダーリン?」
「ああ、そうだな。俺も今のようなケイは嫌いじゃない」
そう言いながらダイルがオレの手に触ろうとした。その手をパシッと叩いた。
「本気で言ってるんだけど……。分かってるよね?」
「もちろんだ。ケイが言ったような共同体にすることができれば、クドル3国はバーサット帝国にも十分対抗できるようになるからな」
「うん。クドル3国で戦力や食料なんかの重要物資を共同管理できるような共同体を作り上げられたら、バーサット帝国からの侵略もきっと防げるだろうね。クドル3国の各国は今までどおりの体制で統治してもらうけど、それとは別に戦力や食料を共同管理する体制を新たに作ればいいんだよ。ダイル、これはすごいアイデアだよ?」
「ああ。クドル3国の共同体が出来上がれば、あいつらも簡単には攻めて来れなくなるはずだ。そのためにも、まずは俺がラーフランをどうにかして攻略する。その次はダールムだ」
ダイルは叩かれた手を痛そうに摩っている。そんなに強く叩いたつもりはないけど。
「ねぇ、ダイル。このクドル3国の共同体の話だけど、ダイルたちやこのアーロ村の仲間たちと一緒に力を合わせたら実現できそうな気がするんだけど、どうかな?」
そう言いながら、こちらからダイルの手を取った。
「ああ、俺もそう思う。それは俺たちにしかできないことだな」
ダイルが手を握り返してきた。フィルナとハンナも手を重ねてきた。その手の温もりを感じながらオレは心に誓っていた。
このクドル3国の共同体の話を思い付きで終わらせちゃ絶対にダメだ。このクドル3国の共同体をいつか必ず実現させよう。
ここには守らなきゃいけない人たちがいて、一緒に戦ってくれる仲間たちがいる。そして、ここには自分たちにしかできないことがある。この地を安住の地にするために力を尽くそう。
オレはそう考えて、決意を新たにした。
「私たちも一緒に協力するわよ。ねぇ、ハンナ姉」
「もちろんよ。でも、ダーリン。あたしたちはこれから何をしたらいいの?」
ダイルは握っていた手を解いて、その手で自分の顎を少し摘まんだ。考えごとをするときの癖だろうか。
「まずはレング神に会って、それから方策を考えてみたいんだ。俺に少し時間をくれないか?」
ダイルの言葉にハンナもフィルナも頷いた。
レング神に連絡を入れるとすぐに会談を行う約束ができた。明日はダイルをレングランの王宮までワープで送っていくが、その後はダイルに任せようと思う。
ラーフランの攻略は簡単ではないはずだ。任せてくれと言ってるから、当面の間はダイルにお願いすることにして、何かあればオレは最優先でバックアップするつもりだ。
ダイルがそれに取り掛かっている間は、オレは自分の魔力を高めることに集中しようと思う。自分自身と仲間たち、そして親しくなったこの村の人たちを守りたいし、ラウラをできるだけ早くこっちへ連れ戻したい。だから、自分は強くなりたい。心からそう思っているからだ。
よし! 頑張って訓練を続けよう。
気持ちを新たにしてオレはクドル・インフェルノで1か月半ほど訓練を続けた。だが、そうしている間にもオレの知らないところで事態は進んでいたのだ。
※ 現在のケイの魔力〈1188〉。
(クドル・インフェルノで魔獣を倒し訓練を続けたため、魔力が増加)
※ 現在のユウの魔力〈1188〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1188〉。




