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SGS233 ある意味最大の危機に陥る

 ダイルは眠っているらしい。毛布の外に肩と右腕を出している。こちらを向いて横向きで寝ていた。


 自分も同じ毛布に包まれてダイルの方を向いて横向きで寝ている。その微かな寝息が感じられるほどすぐ近くにダイルの寝顔があった。


 何が起きたのかは明らかだ。ユウは寝過ごしてしまったのだ。今ごろは異空間ソウルの中で寝過ごしたことに気付いて慌てているに違いない。


 何とかしてこの場から逃げ出したい。だけど今はユウと念話もできないし、ワープもできない。10分間のクールタイムがあって魔法が使えないからだ。


 このまま10分間は眠っている振りを続けるしかないな……。


 でも、じっとしているのは苦痛だ。毛布の中で少し腕を動かしてみた。それで初めて気が付いた。自分が裸で寝ていることに。


 もしかするとダイルも裸なのか……。少なくとも上半身は裸らしい。


 たぶん二人で楽しんだ後、そのまま眠ってしまったのだろう。


 いや、違うな。ダイルの体に隠れて見えないけれど、反対側にはフィルナとハンナが眠っているみたいだ。夫婦全員で激しいバトルをしたんだろうなぁ。それで疲れて寝過ごしたってことか……。


 可愛い奥さんを三人も持って、幸せな男だな。


 でも他人事じゃないよな。自分の体だってユウが入っているときには毎晩のようにこの男に抱かれてるんだものなぁ。


 こんな機会じゃないとダイルの寝顔を見ることなんてないと思う。前から思ってたけど、ダイルって言動は男らしいけど顔は意外に可愛い感じだ。


 いつか本当にこの男の赤ちゃんを自分が産むことになるのだろうか……。


 ユウに言われた「女性としての覚悟があるのか」という言葉が頭を過ぎった。


 覚悟なんて言われると戸惑ってしまうけど、ちょっとくらい痛いのを我慢してもいいかな……。


 目の前の寝顔を見ていて、何となくそんなことを考えている自分に気が付いた。


 なんだろ? 心の底からほっこりするような暖かな気持ち湧き出てくる。


 これも女性の感情だろうか……。


 思い出したけど、ずっと前にユウに言われたことがあったな。ソウルが体の影響で少しずつ女っぽく変わっているのかもしれないって……。


 いや、そんなことはないと思うけど……。


 でも、こうやってダイルのすぐ隣で寝てるのは嫌じゃないな……。……。……。


  ………………


『ケイ、ケイ、聞こえないの?』


 ユウからの念話で目が覚めた。いつの間にか眠ってしまったみたいだ。


『聞こえてるけど、身動きできないんだ。ダイルの隣で同じ毛布で寝てるし、裸だし……。どうしたらいい?』


 自分が眠ってしまったことは言わずに誤魔化した。


『ご、ごめんなさい。寝過ごしちゃって……』


『そうだと思った。このままワープで家に戻ろうか?』


『でも、それだとダイルたちに変に思われちゃうわ。服を置いたまま裸でワープしたって分かるから、ケイに戻って慌てて帰ったと思われるよ。それでもいいの?』


『いや、それは恥ずかしいよ。それなら……』


『ええ。今だけ私の振りをして、普段どおりに帰るしかないわね』


『えっと、普段どおりって?』


『あぅっ! い、言わないといけないの?』


『そりゃ、言ってくれないと普段どおりにできないよね?』


『ダイルに帰るわねって言って……、それから……、キスするの……』


『どこに?』


『そ、それは……、口に……』


『ど、どんなふうに?』


 聞いてるこっちまで恥ずかしくなってきた。


『軽くよ。軽くに決まってるでしょ!』


『それで?』


『あとは、フィルナたちを起こさないように、そっとベッドから下りて服を着るだけよ』


『服はどこに?』


『ベッドから下りたところに棚があるの。その上に畳んで置いてあるから、すぐに分かるはずよ』


『分かった。じゃあ、やってみるから……』


『あっ! 服を着る前に清浄の魔法を掛けてね。体がベタベタしてると思うから……』


『ベタベタしてるって? どうして?』


『いじわるねっ! そんなこと聞かないで!』


 つい調子に乗って聞いてしまった。


 ダイルはまだ眠っている。言われたとおりにできるだろうか……。


 そっと首を起こしてダイルに顔を近付けた。自分の心臓がドキドキしてるのが分かる。


「帰るわね」


 耳元で囁くと、眠っていたダイルが目を開けた。


「あぁ……。もう、そんな時間か?」


「え、ええ」


 こっちからダイルに軽いキスをするはずだけど、なんだかタイミングを外したみたいだ。


 その代り背中に手を回されて、抱き寄せられた。ダイルの唇が自分の唇に触れたと思ったら、あっという間に舌が入ってきた。話が違う。ユウが寝過ごしたせいで、ある意味最大の危機に陥っている。


 ヤバイ。そんなに舌で掻き回されると変になってしまう。体が溶けていきそうだ。


 いつの間にかダイルが上になって組み敷かれていた。両腕は自分の頭の上でダイルの左手に掴まれて動かすことができない。


 ダイルの右手が自分の敏感なところに下りて行こうとしている。自分の体がどんどん溶けていって、自分の意志とは関係なく受け入れようとしている。


 このままいくと、自分が自分でなくなってしまう。


 もうどうなってもいい。ダイルに抱かれたい。このまま受け入れて、ダイルの赤ちゃんを産むんだ……。


 気持ちの半分はそっちに傾いていた。でも、やっぱりダメだ。こんなの、自分が望んでることじゃない!


 必死で頭を振った。舌を絡めたまま必死でもがいた。


「どうした? 嫌なのか?」


 唇を離したダイルが耳元で囁いた。


「時間が……、時間が無いの。時間切れになったら、ケイが、ケイが戻ってくるのよ」


「そりゃまずい。こんなところで戻られたら俺は完全に嫌われちまう。さぁ、起きろ」


 背中とお尻にダイルが腕を回してきて、自分の体がグイと引き起こされた。


 ダイルも上半身を起こして、自分はダイルのお腹にまたがった恰好になった。


 時間が無いと言ってるのに、何をするつもりだろ? まさか……。


 ダイルに抱き寄せられて、胸が密着する。顎を軽く掴まれて顔を上げると、ダイルの舌が自分の中に入ってきた。


 あぁ……、また、溶けていく……。体がダイルを受け入れようとしてる……。


「ダイル、そこまでにしときなさい。ホントにケイが戻ってくるわよ」


 フィルナの声で自分に引き戻された。


「ダーリンたら、アブナイときのほうが燃えちゃうんだから……」


 すぐそばにフィルナとハンナがいた。二人も裸だ。


「ユウ、後は私とハンナ姉でダーリンの相手をしておくから。あなたは早く家に戻った方が良いわよ」


「仕方がないなぁ……」


 ダイルはそう呟きながら背中に回した腕を解いてくれた。


 四つん這いになってダイルのお腹から下りると、ハンナが急いでダイルにまたがった。


「またハンナ姉に先を越されちゃった……」


 後ろでフィルナがそうぼやくのを聞きながら、ベッドから下りて自分の服を着始めた。


『危なかったね。どうなるかと思っちゃった……』


『うん……。フィルナが声を掛けてくれなきゃ危なかった……』


『でも、あのまま最後まで放っておいてくれた方が良かったのかも……。そうすればダイルとケイの結婚が早まるでしょ』


『もしかして、ユウ。それを狙って仕組んだんじゃないよね?』


『まさか……。そんなことするわけがないでしょ!』


 ベッドからは喘ぎ声が聞こえ始めたが、それを無視して部屋を出た。


 ※ 現在のケイの魔力〈1038〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1038〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1038〉。


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