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SGS231 イライラが募る

 ミレイ神やサレジは逃げたままで見つからないし、タムル王子への処罰は甘いし、国外へ退却したゴルドとゴルディア兵団は放置されているし……。もっと手厳しい処置をするべきなのに……。


 ああ、考えただけでイライラする。


 なんだか無性に腹が立ってきた。イライラするが、この気持ちをぶつける相手がいない。ユウに念話で話しても言い負かされるだけだ。こんなときラウラがいてくれたらスキンシップで慰めてもらえるのに……。


「腹が立つなぁ、もう……」


 気持ちを声に出したら少しはスッキリするかと思ったが、その声に自分が女であることを思い出してしまった。今さら女性になってしまったことを考えてみても仕方がないが、そのやるせなさに余計にイライラが募ってくる。


「えいっ!」


 自分に気合を入れるつもりでソファーから立ち上がった。オッパイが揺れるのを感じるが無視。


「ふーっ」と溜息を吐きながらお茶でも飲もうと歩き出した。そのとき、玄関の方からオレを呼ぶ声が聞こえてきた。誰かが訪ねてきたようだ。


 出てみるとマメルだった。フォレスランで防具職人をしていたが、何かの事情でゴブリンに捕らえられてレブルン王国で捕虜生活をしていた男だ。ゴブリンとの捕虜交換でテイナ姫の奴隷となりレングランに連れて来られた。その縁でマメルをテイナ姫の一行に加えて、今はゲストハウスに滞在していた。もちろん従属の首輪はオレが外したからマメルは自由の身になっている。


「ケイさん、前からお願いしている件のことだが……」


 ああ、またあの話か。オレはそう思いながらマメルをリビングに招き入れた。


「何度も頼みに来てるんだが、いつになったらフォレスランへ帰してくれるんだ? おれは早く故郷に帰りたい。帰らなきゃいけないんだ」


 マメルはこのアーロ村に来たときから故郷のフォレスランに帰してほしいとオレに言って来ていた。何度も頼みに来たが、そのたびに「都合が良いときが来たら帰すから、もうちょっと待って」と言って先延ばしにしていたのだ。


 その間、マメルはアーロ村で無為に過ごしていたわけではない。マメルはこの村で滞在している間にロードナイトになっていた。ナムード村長たちの計らいで魔獣狩りに同行して、ラストアタックを取らせてもらったと聞いている。それはテイナ姫やルセイラ、それにエマも同じで、全員がロードナイトになっていた。マメルは魔力が〈130〉のロードナイトだ。


「マメル、あなたもテイナ姫と一緒にレングランまで行ったらいいよ。近いうちに村の魔闘士たちがテイナ姫をレングランまで送っていく予定になってるからね。そこから先は……」


「何を言ってる。レングランとフォレスランは敵対してるんだぞ。レングランへ行ってしまったらフォレスランへ戻るのに時間が掛かってしまう。おれはもっと早く帰りたいんだ」


 マメルは30歳くらいで、わりとハンサムだ。別に男の顔などどうでもいいが、真剣な表情で何度も頼まれると、何か深い事情でもあるのかと探りたくなる。


「この村から地上へ出るのには命の危険が伴うことは分かってるよね? あなたを地上まで案内する村の魔闘士たちも命懸けで送っていくことになるんだよ。その危険を冒してまでも急ぐ理由が何かあるの? 理由があるのなら教えてほしいんだけど」


「理由か……。実は……、おれの帰りを待ってる女がいるんだ。おれの恋人だ。早く帰って会いたい。それだけだ」


 なんだか身勝手な理由だ。恋人に早く会いたい気持は分かるが、他人の命を危険に曝すほどの理由ではない。


「それだけ? 何かもっと深い事情があるんだよね?」


 ちょっとイラっと来たが、我慢して尋ねてみた。


「まぁな。だが、あんたには関係ないことだし、言いたくない」


 オレはその言い方にカチンと来た。頼んでおいて、それは無いだろう。


「それが頼み事をする態度なの!?」


「そんなに目くじらを立てて怒らなくていいじゃないか。おれの言葉遣いが気に触ったのなら謝るよ」


 マメルはそう言いながら、馬鹿にしたような顔でオレを見ている。


 こいつ、オレを怒らせに来たのか? さっきからずっとイライラしていたせいか完全に頭にきた。


「ここから出て行って! あんたとは話もしたくないから!」


 マメルはオレの剣幕に一瞬驚いたような顔になった。


「分かった……。分ったよ。言うから……。ちゃんと説明するから、怒らないでくれ」


「もういいよ! 聞きたくないから!」


 その後もマメルはボソボソ声で何か謝っていたみたいだが、こっちは聞く耳を持たずで、マメルを家から追い出した。


 でも、そのすぐ後でオレは後悔していた。さっきのことは自分らしくない。マメルに八つ当たりしたことに気付いたからだ。


 実は、このときマメルの話をちゃんと聞かずに追い出してしまったことを1か月以上経ってからオレは悔やむことになる。大きな出来事になってしまうのだが、その話は別の機会にしよう。


 ここは話を戻して……。


 今日の午後は何もせずにゆっくりと休もうと思っていた。でも、そんな気分ではない。何もしなかったら気持ちが滅入ってしまいそうだ。


 それなら何をして過ごそうか……。オレは考え始めた。


 日本の戦国時代から一刻も早くラウラを連れ戻したい。そのためには少しでも早く自分の魔力を〈1500〉まで高めなくちゃいけない。


 オレはその訓練ために、ラウラが転移した次の日から毎日クドル・インフェルノへ行って魔獣狩りを続けていた。


 朝早くから出掛けて魔獣を何頭か殺し、夜遅くにワープで家に戻ってくるのだ。成果はその日によって違った。午前中だけで三頭を仕留めることもあれば、夜遅くまで掛かっても一頭しか狩れない日もあった。


 毎日訓練を続けたが、思うように魔力が高まって行かない。魔力が〈1000〉を越えてから魔力の増分が小さくなってしまったからだ。それもイライラの大きな原因になっていると思う。


 狩りが終わった後は毎日くたくたになって眠るだけだ。体をユウに譲る余裕もない。ユウやダイルには申し訳ないが、それが最近の状況だ。


 だが今日は狩りへは行かず、休みを取ろうと思っていた。午前中はレングランへ行ってたし、疲れが溜まってるせいか数日前から何となく体もだるかったからだ。何かの病気かと思って検診の魔法で調べてみたが何の異常も無かった。これはラウラがいなくなってしまってスキンシップができなくなったせいだと思う。この疲れは精神的なものだろう。


 そう考えて、今日の午後は体を休めてのんびり過ごそうと思っていたのだ。


 でも、さっきのマメルとの一件もあって、今のままではどうも気分がすっきりしない。やっぱり魔獣狩りに出ようと思い直して出掛けることにした。


 ………………


 クドル・インフェルノに入ってすぐにジャドネイガロード(魔獣蛇)に遭遇した。これを倒したが、いつもより時間が掛かってしまった。筋力強化や敏捷強化の魔法は掛けているが、いつもより何となく体が重いのだ。


 今日は無理をせずに家に戻って体を休めようか……。


 そう考えていると、突然にコタローから念話が入ってきた。


『ケイ、ヒュドレバンロード(魔獣豹)が迫って来てるわん。ぼーっとしてる場合じゃないぞう』


 えっ!? どうして気付かなかったんだろ。いつもなら自分の探知魔法でもっと早く察知しているはずなのに……。


 魔獣豹の攻撃パターンは想像がつく。数十モラ離れたところまで近付いて来て、そこから多数の風刃を放ってくるのだ。そのすべてが誘導弾だから逃げてもムダだ。オレはいつものように対空防御のスキルを発動して空中の誘導弾をすべて撃ち落とした。


 うん、大丈夫だ。いつもと変わらない。さっきはちょっとぼんやりしてたから魔獣豹に気付くのが遅れただけだ。


 そう思ってると魔獣豹がまた風刃の誘導弾を放ってきた。今度も10発くらいはありそうだ。


 そのとき不意に自分の下腹が痛くなってきた。お腹の中に石の塊が入ってきたような重い鈍痛……。立っていられないほどだ。


『ケイ、しっかりするんだわん!』


 コタローが高速思考で呼び掛けてきた。


『急にお腹が痛くなって……』


 高速思考モードでも体に感じる痛みは同じだ。痛さのあまり頭が回らなくて、自分の症状も上手く説明できない。


『ケイ、これって生理よっ!』


 ユウはオレと五感を共有している。だから、今オレが感じている痛みも分かったはずだ。でも……。


『せ、せいり……?』


『ケイ、今はともかく魔獣豹からの攻撃をかわすことが先決だぞう!』


 そうだった。魔獣豹からの誘導弾を撃ち落とさないと……。


 高速思考を解除して対空防御のスキルを発動。だが半数ほどを打ち漏らしてしまった。魔法の発動が遅れたせいだ。


 誘導弾が次々とオレのバリアに命中。眩い光を発した。


『風刃が5発命中したけどにゃ、これくらいではケイのバリアは破壊されないわん』


『でも、今の状態で無理して戦うのは止めたほうがいいわ。退散するべきよ』


 高速思考でコタローとユウから言われたが、腹の痛みが続いていて、どうするか考えることもできない状態だ。


 ユウが言うように退散しよう。オレはワープを発動した。


 ※ 現在のケイの魔力〈1034〉。

   (クドル・インフェルノで魔獣を倒したため、魔力が増加)

 ※ 現在のユウの魔力〈1034〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1034〉。


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