SGS023 すごく大事な話のようだ
一番聞きたいのは、オレがハンターとして強くなっていくためにどうすりゃいいのかってことだ。ラウラ先輩に言わせると、すごく大事な話のようだ。ラウラ先輩がさっき言っていたキーワードは……。
「ええと、肝心のロード化やロードオーブ、ロードナイトのことが話に出てないんですけど……」
「そうね。まだ話してなかったわね。その前に、もう少しロード化のことを説明してからロードナイトについても話してあげるね」
さっきの説明では、ロード化とは魔族や魔物の中から強い者が選ばれてウィンキアソウルの無尽蔵の魔力を使えるようになること、それがロード化だとラウラ先輩は教えてくれた。それだけでは漠然とした話なので、ロード化についてもう少し説明を加えてくれると先輩は言う。意外と親切だ。
ロード化した魔族や魔物、つまりそれが妖魔や魔獣だが、その魔力は魔族や魔物だったころの20倍くらいになるらしい。なぜロード化したら魔力がそんなに高くなるのか。それは妖魔や魔獣のソウルがウィンキアソウルと常にリンクした状態になり、ウィンキアソウルが持っている無尽蔵の魔力の源泉から魔力を常時引き出すことができるからだ。これをソウルリンクと呼んでいる。
このソウルリンクというのはウィンキアソウルと妖魔や魔獣のソウルが目には見えないパイプで繋がった状態になり、魔力の源泉からパイプを通して魔力が供給される働きだそうだ。魔法ギルドの研究によると、そのパイプは亜空間と呼ばれる別空間を通っているらしい。だから目に見えないし、触ることもできない。
「ソウルリンクというのはウィンキアソウルと妖魔や魔獣の体が繋がっているのではなくて、妖魔や魔獣のソウルと繋がっているんですか?」
「そうよ。妖魔や魔獣のソウルと繋がっているってことが重要なのよ。そのソウルをソウルオーブに封じ込めてロードオーブにすることができるのだからね。今は理解できないと思うけど、後でちゃんと説明してあげる。話を続けるわよ」
ソウルリンクのパイプの太さは妖魔や魔獣の種類によって異なるとのことだ。つまりソウルリンクの太さでウィンキアソウルから供給される魔力の強さが決まるらしい。
魔族や魔物がロード化して妖魔や魔獣になったなら、どれくらい強くなるのだろうか?
「例えば、ゴブリンがロード化すると、どれくらい強くなるんですか?」
「ゴブリンであれば普通種の魔力は〈3〉よ。それがロード化したら魔力は20倍になるから〈60〉ということになるわね。ウィンキアソウルから魔力が限りなく供給されるから、ゴブリンロードは魔力〈60〉の強さで魔力が尽きることなく戦い続けることができるってことよ。あたしたちのような普通の人族の魔力は〈1〉しかないし、魔力はすぐに尽きちゃうから、そんなヤツに出くわしたら逃げるしかないわ」
ロード化した魔族や魔物がすごい魔力を持っているエリートだということが、オレにもなんとなく分かった。
「じゃあ、ロードオーブの話をするわね。ロードオーブというのはね、そのロード化した魔族や魔物のソウルをソウルオーブに封じ込めたもの、それがロードオーブよ。もっと言うとね……」
何度も聞いてオレも分かっているが、魔族がロード化すると妖魔になり、同じく魔物は魔獣となる。この妖魔や魔獣と戦ってとどめを刺した者は、その死体からソウルを取り出してソウルオーブに封じ込めることができるのだ。そういう機能がソウルオーブに備わっているらしい。そのときに封じ込められた妖魔や魔獣のソウルは消滅することなくウィンキアソウルにリンクしたままであり、そこから無尽蔵に魔力を汲み出せるという話だ。これがロードオーブだ。
このロードオーブには大きなメリットがある。それはロードオーブのオーナー(所有者)になればウィンキアソウルから供給される魔力を常時使えるようになるということだ。人族であっても妖魔や魔獣と同じように尽きることなく魔力を使い続けることができるのだからすごい。ロード化という敵の戦略を逆手に取るという戦略、それがロードオーブなのだ。さすがは天の神様!
ただし魔力は元の妖魔や魔獣の半分になるそうだ。それはソウルオーブに妖魔または魔獣のソウルを封じ込めるときに、ウィンキアソウルとのソウルリンクが弱くなることが原因らしい。それがソウルリンクの摂理だそうだ。
なお妖魔や魔獣のソウルをオーブに封じ込めてロードオーブとするためには、契約が必要となる。契約と言っても契約書を書くわけではなくて、ソウルをオーブに封じ込めるときにロードオーブのオーナーとなる者が契約呪文を唱えるということだ。
ロードオーブのオーナーがもっと良いソウルを手に入れるまでの間、封じ込められるソウルはオーナーにウィンキアソウルから得られる魔力を供給し続ける。
その代わりにオーナーがもっと良いソウルを手に入れてソウルの交換を希望したときは、それまでオーブに封じ込められていたソウルは記憶や意識、ウィンキアソウルとのリンクを保持したまま解放されるという契約だ。
解放されたソウルは記憶と意識そして高い魔力を維持したままで浮遊ソウルとなり、自分の意志で転生やボディジャックができるわけだ。
もしロードオーブのオーナー同士が戦って、一方のオーナーが敗れて死んでしまった場合、敗者のロードオーブに封じ込められていたソウルは勝者のソウルオーブに封じ込まれるか、または解放される。オーブに封じ込めるか解放するかは勝者の意志しだいだ。オーブに封じ込めた場合は、その勝者が新たなオーナーとなり、敗者の魔力をそのまま引き継ぐことになる。つまりロードオーブのオーナーは、自分より魔力が強いロードオーブを持った敵を倒した場合は、その魔力を引き継ぐことができるということだ。
戦闘に敗れてオーブに封じ込まれていたソウルが解放されてしまった場合は、そのソウルは記憶も意識もウィンキアソウルとのリンクも無くなって普通の浮遊ソウルとなってしまう。
ラウラ先輩はオレに理解させようと丁寧に説明してくれた。
なるほど……ちょっと難しいが、なんとなく分かってきた。
「それとね、もうちょっと説明しておかなきゃいけないことがあるのよ」
先輩はさらに説明を加えてくれた。
ロードオーブはソウルと契約をしたオーナーしか使うことができないのだ。オーナーになれるのは、その妖魔や魔獣と戦って倒した者か、パーティーで倒した場合はラストアタックを取った者、つまり、とどめを刺した者だけだそうだ。だからロードオーブのオーナーになるためには、それ相応の戦闘力が必要ということになるらしい。誰もが簡単にロードオーブのオーナーにはなれないし、そのオーブを盗んだりしても、他の者には使えないということだ。
「ついでに言うとね、普通、契約した後はロードオーブ内のソウルはずっと眠った状態になるのよ。眠ったままでもウィンキアソウルにリンクは繋がった状態だから、オーナーに魔力は供給されるの。でもまれにね、眠らないソウルもあって、守護精霊となってオーナーを助けるんだって。あたしは見たことないけどね」
へぇー。守護精霊なんていうのもいるんだな。
このときはオレ自身がすでに守護精霊のような存在に守られているなんて、夢にも思っていなかったんだ。それが分かるのはもう少し後の話になる。




