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SGS228 マラン一族のことを問う

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 家臣たちへ領地の統治方針を説明した後、別室でノブハルと相談して、新たに創設する部署と各部署の責任者を決めていった。部署の創設にあまり悩まなかったのは、統治方針とそれに必要な部署について事前にケイやコタローと相談していたからだ。


 この地では政務を担当する部署を奉行所、責任者を奉行と呼ぶそうだ。それで、統治方針に沿って産業奉行、農業奉行、治水奉行、道路奉行、教育奉行など様々な奉行を設けて任命した。


 ただし、領国守備隊はその名前のとおりとし、家老であるノブハルが隊長を兼務することとなった。


 それと、あたしの希望でマサヒデを親衛隊の隊長とした。その役目はあたしやマリシィたちの警護だ。本当のところはあたしやマリシィに警護は不要だから、マリシィたちが住んでいる姫山城の警護や城の管理が主な仕事になる。


 姫山城というのはノブハルたちが砦に付けた名前だ。


「羅麗姫様が住まわれる場所を砦と呼ぶのは無粋でござる。姫様に相応しい名前を付けるべきじゃ」


 と言うことで姫山城となったわけだ。


 奉行の数は思ったよりも増えた。単に統治方針に沿って奉行を決めるだけでなく、領地内の住民や土地の調査と登録、税の徴収や予算の算出と配分など様々な仕事があって、その奉行も任命しなければならないからだ。とりあえずすべての奉行を仮決めした。そして、その奉行に集まってもらって、夕方まで話し合った。


「姫様、統治のことは……、まぁ分かり申した。じゃが、それで進めるには無理がござる。人も金も足りませぬ。立派な方針ではござりますが、先立つモノが無うては事は進みませぬぞ」


 奉行の一人がそう言うと、ほかの者たちも頷いた。


「優秀な人を集めるのは時間が掛かるけど、お金の方は何とかするわ。今この城にあるお金でどれくらいの期間持ち堪えられるの?」


「さて……、姫様の言われたことを始めるとしたら二か月か三か月でござろうか……」


 別の男がそう答えた。


「それだけの期間があれば十分よ。あたしはこれから姫山城に帰って、それからお金の調達のために領外へ出るから。後のことはお願いね、ノブハル」


「承知つかまつった。で、お戻りはいつ頃で?」


「そうね……。たぶん一か月くらいで帰って来れると思うわ」


 資金調達についてもケイたちと相談して目途は立っていた。でも、実際にお金を手にするためには、あたしがまた頑張らなきゃいけない。


 ………………


「カエデ、ちょっと話がしたいの。部屋に入って来て」


 奉行たちとの話し合いが終わった後、隣の部屋で控えていたカエデに声を掛けた。マラン一族のことを聞き出しておきたい。領外へ出て旅をするなら、資金調達をするだけでなくマラン一族の頭領にも会いたいからだ。


「何かご用でございますか?」


「マラン一族のことを教えてほしいの。一族の中にウィンキアという世界から来た人がいるはずなんだけど……」


 あたしの問い掛けに、カエデは顔を伏せた。


「お許しください。一族の掟があり、申し上げることはできませぬ」


「それなら……、あたしがマラン一族の頭領に会いに行って直接尋ねることにするわ。どこに行けば頭領に会えるの?」


 カエデは心底困ったような顔になった。


「本当に申せぬのです。一族の住む村や頭領のことを話すのは禁じられておりますので……」


「そうなの……。困らせちゃってごめんね。じゃあ、カエデ自身のことなら聞いていい?」


「私のこと……、でございますか?」


「ええ。カエデはどうして忍びの者になったの?」


 普段のカエデは隙を見せず厳しい表情を見せるときが多いが、本来は優しい女性なのだろう。何かを思い出すような穏やかな表情になって、自分のことを語り始めた。


「私は孤児でした。家族が皆死んでしまって、餓死寸前だった私を頭領が救ってくれたのでございます……」


 生まれた村では何年も飢饉が続き、そこに疫病が流行ってカエデの親や兄弟は皆死んでしまったそうだ。カエデだけが生き残ったが、幼い子供一人では生きていけない。食べる物を求めて村の中を彷徨ったが、どの家も中へは入れてくれなかった。村人たちも家族が生きていくのが精一杯で孤児に食べ物を恵む余裕など無かったのだろう。


 飢えて死に掛かっていたカエデを助けたのが、旅の途中で村を通り掛かった頭領だった。頭領はカエデを自分の村に連れて帰って忍びの者として育ててくれたそうだ。


 カエデは自分を助けて育ててくれた頭領に心から感謝していると語った。でも、あたしは納得できなかった。


「カエデが気を悪くするかもしれないけど、その頭領は旅をしながら孤児を捜して回っていたんじゃないの? 孤児を育てて忍びの者にするためにね」


 あたしの言葉を聞いて、カエデは悲しそうな顔になった。


「それは……、そのとおりでございます。頭領は私のような孤児を集めて育てておりましたから」


 こういう話はウィンキアでも聞いたことがある。盗賊どもが孤児を集めて仲間に加えているという話だ。危ない仕事は孤児たちにさせているのだ。


「カエデ。あなたは育ててもらった恩義があるからその頭領に逆らえないと思うけど、その頭領からは離れた方が良いわよ。その頭領はあなたのような孤児を忍びの者に育て上げて、危ない仕事をさせてるのよ。使い捨てにされるだけよ」


 あたしの言葉にカエデは顔を曇らせた。


「お言葉を返すようですが、頭領はそのようなお方ではございません。孤児を集めて育てておりますが、忍びの者になるのはその一部だけでございます。ほかの者は村の中で穏やかに暮らしております」


「ほかの人のことを言ってるんじゃないの。あたしはあなたのことを心配してるのよ。カエデが使い捨てにされるんじゃないかと思って……」


「私が使い捨てに……ですか? そのようなご心配は無用でございます。私も何年か経って次の者への引き継ぎが終われば、村に戻って暮らすよう頭領から仰せつかっておりますので。それに、私の兄や姉たちも忍び働きが終わった後は村に戻って心安らかに過ごしておりますし……」


「えっ!? 兄や姉って?」


「それは、私と同じように孤児で村に来て頭領に育ててもらった者たちです。村の者は皆、私の家族と同じなのです。姉妹や兄弟のように育てられましたから。妹や弟たちも大勢いて、その子たちは年上の姉や兄たちが世話をいたします」


「じゃあ、カエデが村に戻ったら大勢の兄弟がいて、頭領のもとで皆で家族のように仲良く暮らしているのね?」


「ええ。仲良く穏やかに暮らしています。これもすべて頭領が我らを家族のように育ててくださったおかげなのです。頭領は我らの父親です。厳しいときもありますが、本当に優しいお方でございますので。あっ……」


 カエデは自分が言い過ぎたことに気が付いたみたいだ。村や頭領のことを話してはいけないと言ってたから。


 カエデはその頭領に感謝しているだけでなく、尊敬の念を抱いているようだ。暗示のようなものを掛けられているのか、それともカエデが言うように頭領は本当に立派な人間なのかもしれないが。


 考えてみたら、カエデはソウルオーブを2個も持っていた。あたしが倒した上杉輝虎を守っていた忍びの者もソウルオーブを持っていた。もし使い捨てにするような忍びの者であれば、ソウルオーブを与えたりはしないだろう。これはどういうことだろうか……。


「これを見なさい」


 亜空間バッグからソウルオーブを手のひら一杯に取り出した。あたしの手のひらで山盛りになったソウルオーブをカエデは驚いた顔で見つめている。


「これはね、ソウルオーブという宝玉よ。これを装着すれば魔法を使えるようになるし、魔力を溜めることもできるの。あなたも何個か持っていて、ソウルオーブを使ってるよね?」


 カエデはソウルオーブを見つめたまま返事をしない。


「この宝玉はね、あたしが生まれた世界で作られた貴重な物なのよ。だから普通の者がこの宝玉を手に入れるのは難しいの。それを何個もあなたに与えたってことは、その人はカエデのことをすごく大切に思っているのね……」


 あたしの言葉にカエデの瞳が潤んできたのが分かった。


 カエデからの返事はないが、その涙から彼女の純真な気持ちが伝わってきた。カエデは暗示などを掛けられているのではない。心からその相手を慕っているのだ。そしてその相手とはマランの頭領に違いない。


 頭領はおそらく忍びの者全員にソウルオーブや魔石を渡しているのだろう。家族のように暮らしているとすれば、頭領は自分が育てた孤児たちを心から大切に思っているということだ。


 あっ! あたしは自分がとんでもないことを仕出かしたことに気付いた。


 マラン一族の忍びを殺してしまったことを思い出したのだ。上杉輝虎と戦ったときのことだ。あのときソウルオーブを持った忍びの者をあたしは倒した。あれは中年の男だったから……、つまり、カエデの兄を殺してしまったということだ。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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