SGS022 天の神様と大地の神様
ラウラ先輩がこれから話してくれることは重要なことらしい。ロード化やロードオーブ、それにロードナイトとか言われても何のことかさっぱり分からないが、オレがこの世界で生きていくために必要な知識のようだ。しっかり聞いておこう。
「何も知らないのなら、まず、昔から伝わる神話から話を始めないといけないわね。ロード化というのはね、今から話す神話と深いつながりがあるのよ。小さな子供でも知ってる神話でね、天の神様と大地の神様のお話なの。
むかし、むかし、1万年くらい昔の話らしいんだけど……」
その神話によると、そのころ、人族は“天の神様”に導かれて別の世界からウィンキアと呼ばれているこの世界に渡ってきたそうだ。
つまり、人族は別の星か異世界から来たってことだ。もしかすると、地球から天の神様によって連れて来られたのかもしれない。
人族を連れてきた天の神様は、この地に平和な世界を築き、安住の地とするためにウィンキアの地に降り立った。この地を平和で幸せに暮らせる世界にするために、まずはこのウィンキアを開拓して治めようとしたらしい。
天の神様がこのウィンキアを選んだ理由は、ウィンキアが元の世界とよく似ていたことと、この大地には大いなるソウルが宿っていて、有り余る魔力が生成されていたからだ。天の神様はその魔力を使ってこの地に繁栄をもたらそうとしたようだ。
人族は天の神様から新たな言葉と魔法の力を与えられた。新たな言葉というのはこのウィンキアの世界に元々住んでいる魔族たちが使っている言葉だった。魔族は種族ごとに違う言語を使っているらしいが、種族間で共通に使われる言葉があり、それがウィンキア語と呼ばれている言葉だった。天の神様はその共通語を人族に与えて、人族が魔族との会話に困らないようにした。人族と魔族が同じ言葉を話すのはそういう理由があったのだ。
魔法も同じだった。魔族が使っているのと同じ魔法が体系化されて、人族もそれを使うようになった。
こうして人族は魔族と同じ言葉や魔法を使うようになったのであるが、それは天の神様の思し召しがあったからだ。この地で人族が魔族と共に安寧に暮らすこと、それが天の神様が望まれていたことだと言われている。
天の神様は、連れてきた人族の中から優秀な者を選んだ。そして、天の神様が異空間に持っている無尽蔵の魔力と強力な魔法の力を与えて、人族たちの指導者とした。神話ではこの選ばれた人族を“神族”と呼んでいて、今はその呼び方が定着している。
ウィンキアの開拓は順調に進み始めたかに見えたが、暫くすると行き詰まってきた。ウェンキアの大地に宿っているソウルは偉大な知性と能力を持っていて、異世界から来た人族たちを排除しようとしたからだ。
神話ではウィンキアに宿っている偉大なソウルを“大地の神様”と呼んでいる。この地に元々暮らしていた魔族たちは大地の神様を崇拝していた。
人族がこの地に入植して暫くすると、人族たちと魔族たちとの間で戦いが始まってしまった。その原因は魔族が残虐に人族を殺したからだとか、人族が強引に魔族の住む場所を侵略したからだとか言われている。本当のところは分かっていないが、人族が大地の神様の怒りを買ったことは確からしい。
大地の神様は、もともとウィンキアに住んでいた魔族や魔物の中から強い者を選んで、自分の無尽蔵の魔力を与えて人族と敵対させた。これがロード化だ。神話の中ではロード化した魔族を“妖魔”と呼び、ロード化した魔物を“魔獣”と呼んでいる。今はこの呼び方がそのまま普通に使われている。
人族の持つ魔力はすごく弱いから、この妖魔や魔獣たちによってあっと言う間に人族は殺され、その数は減っていった。
天の神様は神族に命じて妖魔や魔獣を退治しようとしたが、実は無尽蔵と言われていた天の神様の魔力には限りがあった。そのため神族の数は極めて少なく、神族だけでは戦力が不足していた。そこで天の神様は次なる手を打った。それがソウルオーブの発明だ。この発明のおかげで人族はソウルオーブに魔力を蓄えて、魔法を使うことができるようになった。魔力の弱い人族にソウルオーブという加護を与えることで戦力アップを図ったのだ。
ただしソウルオーブの材料となる原石や樹液が取れるのは魔樹海の奥地であり、当時の人族が居住するのは困難だった。そこで天の神様は人族をベースとして人種改良を行い、採掘に秀でたドワーフ族と森の生活に秀でたエルフ族を作り出した。それぞれの土地に住まわせて、原石の採掘と樹液の採取に従事させた。さらに、危険な魔樹海を通ってソウルオーブの材料を輸送してくる際の護衛として、戦闘力の高いレバンクーメル族(豹族)とドンガクーメル族(熊族)も作り上げた。これが亜人の始まりである。
こうした天の神様の施策によって人族はウィンキアに根付き、徐々に数を増やし始めた。
ところが天の神様は最初の数十年くらいで姿を消してしまったらしい。人族が天の神様の意に反して醜い争いを続けることに嫌気がさしたのだと言われているが、本当かどうかは分からない。天の神様が姿を消したため、天の神様が描いていたウィンキア開拓の企ては潰えるかに思われた。だが初代の神族がまだ健在であったため、天の神様の意志を継いだ初代神族たちの手によって人族は守られ、数を増やしていった。
しかし年月を経るうちに神族も何代にも渡って代替わりをした。1万年を超える年月が経つ中で、いつしか神族の末裔たちは氏族毎に奥地に引き籠って生活するようになった。神族のそれぞれの氏族は人族の国を立ち上げ、裏で人族を支配していった。そして人族の国家間では対立が深まり、人族同士で戦争をするようになってしまった。
一方、大地の神様、つまり、ウィンキアソウルは今も天の神様を崇拝する神族や人族を根絶やしにするために妖魔や魔獣を生み出し続けている。
神話では人族が戦いを好み醜い争いを続けていることに天の神様は嫌気がさして隠れてしまわれたと言っている。そして今もどこかで人族を見守っていて、人族がいつまでも身勝手な争いを繰り返すならば、神罰を下すだろうという予言で締めくくられているらしい。
「ごめんね。話が長くなっちゃったけど……」
「いえ、人族や亜人の起源がよく分かったし、どうして人族と魔族が敵対しているのかも分かりました。でもこのウィンキアの大地に偉大なソウルが宿っていて、妖魔や魔獣を生み出しているっていう話ですけど、それは本当のことなんですか?」
「本当だと思うわ。神話は言い伝えだけど、ウィンキアソウルと妖魔、魔獣の関連については魔法ギルドのほうでも確認しているみたいよ」
どうやら本当のことらしい。それにしても驚いた。オレたちが立っているこのウィンキアの大地に偉大なソウルが宿っているなんて、考えもしなかった。
「地球も一種の生命体のようなものだ」というような話を聞いたことがあるが、このウィンキアの星は実際にソウルが宿っていて、超巨大な生命体のように活動しているのかもしれない。そのソウルが星の中で魔力を生成していて、無限に近い魔力と高度な変換器を持っているということなのだろうか。
あれっ? そう言えば、肝心なことがまだ聞けてないぞ。




