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SGS217 姫武将になる

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 さっきまで信玄はあたしとの取引きは断ると言っていた。女天狗の力を借りて妖術で上杉に勝っても世間の物笑いになる。それが嫌だから取引きしないと……。だけど、信玄はあたしの鍛えた体を見て、姫武将になれば取引きを進めてよいと言い始めたのだ。


「あたしが姫武将になるって? いったいどういうことなの?」


「武田家の姫武将になるのだ。そうじゃな……。こういうことにいたそう。そなたをわしの隠し子ということにするのだ。これまでわしはそなたを馬場美濃守に密かに預けて育てさせておった。そなたは女じゃが武勇を好み、山の中で体を鍛えながら育ったのだ。そこでじゃ、そなたをこのたび元服させて姫武将とすることにわしは決めた。そうじゃ、それがよい」


 信玄が言ってることは何だかさっぱり分からない。だが、信玄はひとりで納得しているようだ。


「もっとちゃんと説明しなさいよ! その姫武将って何なの?」


「ひと言で言えばな、おなごの武将だ。戦場に出て男と同じように戦うのじゃ」


「姫武将ということにすれば、あたしが魔法を使って戦っても、あなたが世間の物笑いになることはないのね?」


「馬鹿を申すな。魔法とは妖術のことじゃな? わしの娘が妖術など使うはずが無かろう。火の球を撃ったり空を飛んだりすれば、そなたが人ではなく天狗じゃと誰もが気付いてしまうわい」


「それなら……、魔法を使っていることが分からなければいいんでしょ?」


「さようなことができるのか?」


「火の球や空を飛ぶような魔法をね、使わないようにするだけよ。そんなことをしたら誰が見ても普通じゃないと思うから」


 大半の攻撃魔法が使えなくなってしまうが仕方ないだろう。


「うむ……。妖術を用いておると分からねばそれでよかろう」


「それで、取引きの件はどうするの? あたしがあなたの隠し子で姫武将の振りをすれば安住できる領地を与えてくれるの?」


「そなたが姫武将として誰もが得心する大きな武功を立てねばならぬ。さすればそなたに領地を与えても誰も不平を申すまい。その話は馬場美濃守も交えて話を進めようぞ。それと、そなたの元服の儀についてもな」


 信玄は俯きがちに何かを考えている。見るからに悪だくみをしている顔だった。こんな男の味方をして良いのだろうか……。


「とにかく取引きの件は約束よ。約束を破ったらあなたの命はないと思いなさい」


「怖いことを申すな。約束は守る」


 今はこの信玄を信じるしかないだろう。


「それとね、ノブハルとは今日の夕刻に会う約束をしてるのよ。場所は……」


 あたしはノブハルから聞いていた寺の名前を告げた。


「馬場美濃守とその寺で会うのなら、わしもその時刻にそこへ向かおう。三人で夕餉でも取りながら話をしようではないか」


「ええ、そうしましょう」


 そう言いながら、あたしは別のことを考えていた。


 信玄の隠し子の振りをして、しかも姫武将のように振る舞うなんて、あたしにできるだろうか……。いや、それよりももっと心配なことがある。もし、武田の姫武将として振る舞うとなれば、これからは信玄やその配下の者たちと一緒にいる時間が増えるだろう。その場合は、あたしが朧な状態になることや、ケイが迎えに来たときにはウィンキアへ戻ることが問題になる。信玄には話しておくべきだが、どうしよう……。


「では、わしは城へ戻るといたそう」


「えっ!? ちょっと待って」


 朧な状態になることやウィンキアに戻ることは、信玄との信頼関係がもっと深まってから話そう。とっさにそう決めた。


 信玄を帰す前に確認しておかねばならないことがある。


「教えてほしいことがあるのよ」


 あの護衛のことを聞き出さねばならない。ソウルオーブをどうやって手に入れたのかを尋ねるのだ。


「そこで眠っているあなたの護衛のことよ。この護衛のことで、あなたが知ってることを教えてもらえる?」


 あたしは椅子から立ち上がって、眠っている護衛の横に立った。護衛は黒い覆面で顔を隠していた。それを剥ぎ取ると……、なんと! 女だ。


「忍びの者だな。わしを警護しておったのだろうが、そなたが相手では役に立たなかったようだ。じゃが、たかが忍びの者だ。なぜ、そなたが知りたがるのだ?」


 忍びの者というのは忍者のことだろう。コタローから与えられた知識から、この時代に忍者がいることはあたしも知っていた。だが、この護衛が忍者であったとしても、ウィンキアのソウルオーブを装着してバリアの魔法を使っているのは不可解だ。


「この護衛も魔法を使っていたのよ。知っていた?」


「ほぉっ、この者も妖術を使うのか……。雇ったおりに腕が立つとは聞いておったが……」


「でも、それだけで寝所の警護はさせないはずよ。あなたはこの女を信じたから指名して寝所の警護をさせたのでしょ?」


「わしが一々警護を任せる者を指名したりはせぬ。人選は警護番の頭目に任せておるでな。じゃが、どこの忍びかは知っておるぞ。この忍びの者は魔乱の一族じゃ。値は飛び抜けて高いが、雇い主には忠誠を尽くすと聞いておる。それと、魔乱の忍びは不思議な術を使うこともな。この者も術を使うようじゃな」


「マランの一族?」


「さよう。一族の頭領は信志郎という名だ。わしも一度は会いたいと思っておるのだが、会えた者はおらぬらしい」


「マラン一族の頭領はシンシロウという名前なのね」


 その名前を頭に刻み込んだ。ソウルオーブを持っているということは、マラン一族の者がウィンキアと関係しているということだ。もしかすると、あの幽霊のナデアのようにウィンキアから地球へ強制的に転移させられたのかもしれない。


「わしが知っておるのはそれだけだ」


 信玄がマラン一族について知っていることは少ないようだ。もっとマラン一族について知る必要がある。


「マラン一族の者が雇い主に忠誠を尽くすというのは本当のことのようね。この女はあたしがあなたの寝室に忍び込んだことを察知して、眠っているあなたを身を挺して護ろうとしたのよ。ほかの護衛は全員が眠ってしまったのにね」


「雇われ者の忍びだが、あっぱれな忠義よな。さすがは魔乱の一族じゃ」


「そうね。それじゃあ、今からこの女を尋問するわ。マラン一族のことを尋ねてみたいから。あなたには少しの間、眠ってらうわよ」


「いや、尋問は止めたほうがよい。忍びの者は口を割ったりはせぬ。無理に聞き出そうとすれば死を選ぶはずじゃ。みすみす死なせるのは惜しいゆえな」


 忍びについて信玄が言ってることは本当のことだろう。あたしが考え込んでいると、信玄が言葉を続けた。


「どうじゃ、この者をわしにこのまま返してはくれぬか。忍びで信を置ける者は少ない。妖術を使える忍びなら尚更じゃ。死なせてしまうよりは生かして使いたい」


 信玄の言うことは尤もだ。だが、尋問はしないまでも、体や持ち物は調べておきたい。


 眠りの魔法を信玄に掛けてから、あたしは忍者を調べ始めた。検診魔法で診たが体に異常は無い。ソウルオーブを2個持っていた。そのうちの1個は予備というよりも魔力の補充用だろう。魔力は満タンの状態だった。


 それにしても不思議だ。このソウルオーブへはどうやって魔力を補充するのだろう。ウィンキアであれば街や村に魔力泉があるし、神殿の中には魔力貯蔵所がある。そこへ行けば魔力を補充できるが、この地球という異世界では魔力泉や魔力貯蔵所など無いはずだ。


 ソウルオーブ以外には短剣を2本持っていただけで、あとは目を引く持ち物は無かった。


 ソウルオーブと短剣を戻し、女の覆面も元に戻そうとして、ふと手を止めた。女の顔を見て美しいと思ったからだ。30歳くらいだろうか。


 尋問はしないが、普通に話をしてみたい。だが、この場所でこの状況では普通に話しかけても警戒されるだけだろう。


 諦めて、信玄とこの忍者を人里まで送っていくことにした。再び二人を毛布で包んで、浮遊魔法で空中に浮かび上がった。


 北からの風は少し弱まっている。幸い雨は降っていない。風の魔法を使って向い風に逆らいながらゆっくりと北の方へ進んでいった。


 すぐに麓の田畑が見えてきた。このまま空に浮かんでいると、また村人に見つかって不審がられる。


 林の中に下りた。下草は少ないし、樹々の間から田畑が見えている。信玄たちにはここから歩いて城へ帰ってもらおう。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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