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SGS213 国盗りを考える

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 マリシィからこれまでの経緯を聞いて、思わずため息を吐いてしまった。


『話は分かったけど……。マリシィ、あなたってけっこう大胆よね。この国を支配しようと考えるなんて……』


『だが、ほかに方法を思い付かなかったのだ。どこか山の中に隠れ住んだとしても、子供たちを育てていくためには食料や様々な道具を調達しなければいけない。そのためにはこの地の住人と接触しなきゃいけないし、そうすればきっと見つかってしまう。それならいっそ国を奪って支配してやろうと思った。考えが足りなかっただろうか……』


『今もその考えは変わらないの?』


『ああ。さっきまでは魔法を使いこなせる者が私一人しかいなくて不安だったが、今は違う。ラウラ、あなたが来てくれたから、きっと上手くいくはずだ』


『でもね、この国を支配しているのは武田信玄という領主で、数百年後の世界でも有名な武将よ。たしか信玄が率いる武田軍は最強と言われていて、数万人の兵士を動員する力を持っているはずなの。それをあなたとあたしだけで相手にするのは難しいと思うんだけど……』


『もし相手がウィンキアの神族が支配する国なら厳しかっただろうな。それは相手の国にも神族やその使徒がいるからだ。だが……』


 マリシィが言わんとすることは何となく理解できた。もし神族が人族の戦争に参戦すれば、あっという間に敵軍を殲滅できるだろう。だが、実際はそうはならない。神族が支配する国同士はお互いに戦っていても、その戦いに神族や使徒たちが参戦することはないのだ。なぜなら、それをすると神族同士が戦い合うことになり、それは神族の戒律に反することになるからだ。


 神族の戒律。それは以前にコタローから教えてもらったことだが、神族とその使徒は他の神族の一族を攻撃してはならないということだ。神族が支配する国同士の戦争に神族とその使徒が参戦することも禁じられている。神族の数はウィンキア全体でほんの二十人ほどらしいから、そんな神族の数を減らさないために定められた神族共通の掟なのだそうだ。神族同士が戦い合えば、勝敗がどうであれ神族の数が激減して、結果的に神族も神族が支配する国も滅んでしまう虞があるのだ。


 いけない。思考が逸れてしまった。マリシィは自信ありげに言葉を続けている。


『だがここはウィンキアじゃなくて異世界なのだろう? 神族はいないようだし、魔法も存在しない世界だ。敵軍が何千、何万で押し寄せてきても、私たちの魔力があれば圧倒できるはずだ』


 マリシィは自信がありそうだったが、あたしは全く自信が無かった。数か月前にリリカの花園でバーサットの兵士たち数十人と戦って殲滅したが、その人数を葬るだけでも10分くらいの時間が掛かったのだ。数千とか数万の兵士たちと戦うなんて、とんでもない話だ。想像しただけで気が遠くなりそうだった。


『マリシィ、楽観的すぎるんじゃないの? あなたとあたしだけで戦うならともかく、子供たちがいるのよ。子供たちを守りながら戦うなんて無理があるし、子供を人質に取られる虞もあるのよ』


 それを聞くと、マリシィは急にしゅんとなった。


『そうだな……。正直言うと、さっきまでは子供たちと先生を守りながら、どうやって戦えば兵士たちを殺さずに勝てるかと悩んでいたのだ。だけど今は違う。ラウラ、あなたが来てくれたからな。私が戦ってこの国を奪ってくる。だからあなたには子供たちと先生を守ってほしい。どうだろうか?』


 マリシィは本気でこの国を支配しようと考えているらしい。それが一番良い方法で、成功すると思っているようだ。でも、あたしが子供たちを守るには大きな障害がある。


『あたしが子供たちを守り切るなんて、それはできないわよ。その理由はね、あたしが朧な状態になる期間とあなたや子供たちが朧な状態になる期間がずれているからよ。あたしは3日後に朧な状態に入るけど、子供たちは普通の状態のままだもの。朧な状態は2日間続くけど、その間、あたしは子供たちを守ることができないのよ』


『そうだった……。それなら、戦うのはラウラ、あなたしかいない。あなたが戦ってこの国を奪い取ってほしい。私は子供たちを守るから。たのむ。力を貸してくれないか』


『無理よ。あたし一人で数万の兵士たちと戦って勝つなんて、そんなことはできっこないもの』


『ラウラ、あなたは勘違いをしている。あなたに数万の兵士たちと戦ってほしいとは言ってない。あなたが狙って戦うのはこの国の領主だけでいいんだ。この国の領主を攻略して跪かせるんだ、あなたの足元にね』


 その言葉にあたしは頭をガンと叩かれたような気がした。そのとおりだ。何も数万の兵士を相手に戦う必要なんてないのだ。領主の武田信玄さえ攻略すれば、この国を手に入れることができるかもしれない。


 だが、相手は歴史にも名を残している有名な戦国大名だ。簡単ではないだろう。


『マリシィ、あなたの言うとおりね。でも、領主の武田信玄だけを攻略しても、この国をすべて奪い取るのは難しいかもしれないわ。だけど、あたしたちが安住できる領地を信玄に差し出させることはできるかもしれない……。あたし、自信は無いけど、やってみる』


『おお、ありがとう。これで、この地でもジルダ神様のご命令どおり子供たちを守っていける』


 マリシィが目に涙を溜めながらあたしの手をしっかりと握りしめた。マリシィは二度とジルダ神様と会えないと分かっていても忠誠を尽くすつもりのようだ。


 握り合っている手を見ながら、これからどうしようかとあたしは考えていた。


 武田信玄を攻略すると言っても、信玄がどこにいるのかも分かってない。まずは信玄についての情報を入手するべきだ。それと目の前の敵をどうにかしなきゃいけない。いつまでもこの隠れ家に子供たちを閉じ込めておくことはできないからだ。だから、まず攻略するべきは……。


『マリシィ。あたしは最初に深志城の城代を攻略するつもりよ。城代の馬場信春なら信玄のことをよく知っているはずだからね。それに、マリシィたちを攻撃させようとしたのも城代だと分かっているから』


『それならこれを使うか? 従属の首輪だ』


 マリシィが亜空間バッグから首輪を取り出した。


『いいえ。従属の首輪でこの時代の武将を操るのは難しいわ。首輪で操られるくらいなら自殺を選ぶわよ。それにこの国を支配するつもりなら、城代だけを首輪で従属させても意味が無いわ』


『なるほど。そうだな』


 それから細かい段取りをマリシィと話し合って、あたしは隠れ家を出た。


 夜明けまでにはまだ2時間ほどあった。深志城の位置を確かめようと山頂近くまで上がると、そこにはボロボロになった建物があった。ずっと前に火事で焼け落ちて、そのまま放置されたようだ。こんな山の上だから、ここには小さな砦か山城があったのかもしれない。


 眠っているマサヒデを焼け残っていた板敷きの床に降ろした。深志城の城代を攻略する前に、マサヒデ起こして城代がどういう男か聞いておこうと思ったのだ。


「深志城のご城代でござるか? ご城代の馬場美濃守様は叩き上げの武将だと聞いており申す。お年は五十くらいかのぉ。ここしばらくは信玄公と共に北信濃へ出陣されておったが、数日前に戻られたそうな。今もお城におられるはずじゃな」


「城の警備は厳しいの?」


「お城の主だった武将が北信濃へご出陣されておる。それゆえ武将も雑兵共も少ないはずじゃな。北信濃から戻っておられるご城代様と供の者、それと留守居の侍が何人か残っておるだけでござろう」


 これだけ聞いておけばいいだろう。マサヒデを再び眠らせて毛布で包んだ。もうしばらくの間、この廃墟の中で眠っておいてもらおう。


 城を見るために、浮遊の魔法で少し高い位置に上がった。月が出ていて遠くまで見渡せた。


 1ギモラほど先にそれらしい場所がある。あれが深志城だろう。暗いのではっきりしないが、横に長く伸びた土塀のようなものと、その内側にはいくつもの建物の屋根が見えた。少し高い建物があるが天守ではない。物見櫓のようだ。コタローの話では深志城は後に松本城と呼ばれるそうだが、どこにも天守は見当たらない。まだこの時代には天守は築かれていないのだろう。


 それはともかく、今やるべきことは城代の馬場信治の攻略だ。夜が明けるまでに何とかしたい。浮上走行の魔法を発動して、城に向かって走り始めた。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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