SGS021 女って悲しいですね
その夜。副長とラウラ先輩、オレの三人で見張りをして、レンニとスルホはテントで先に寝ることになった。深夜に交代するのだ。まぁ、オレは見張りのオマケみたいなものだが。
副長は少し離れたところで見張りをしている。ラウラ先輩とオレは、副長とはテントを挟んで反対側のところに座った。この時間を使って、気になっていることを先輩に色々と聞いてみることにした。この場所は広い草むらの真ん中だから小さな声で話すくらいであれば大丈夫のようだ。
「さっきのゴブリンとの戦い、怖かったですね。もしオトリ作戦が失敗して、ゴブリンに捕まって種付けされてしまったら、どうしたらいいんですか?」
「ゴブリンしだいね。ほら、あたしたちって従属の首輪をしてるでしょ。もしゴブリンに捕まってしまったら、首輪を見せるのよ。理解のあるゴブリンなら、種付けした後で解放してくれるらしいわ」
「でも、従属の首輪って、その中にソウルオーブが入ってますよね。ゴブリンは首輪を壊してソウルオーブを取り出そうとするんじゃないですか?」
「首輪を壊そうとしたら、その首輪をつけている女性も壊そうとしたゴブリンも電撃で殺されてしまうし、中のソウルオーブも焼けてしまうのよ。そのことはゴブリンたちも知ってるから、従属の首輪を外したり壊したりはしないはずよ」
「それで仕方なくゴブリンは捕らえた女性を解放するんですね」
「解放してくれるゴブリンもいるし、見殺しにするゴブリンもいるってことよ。運よく解放されたら街まで逃げ帰って来ればいいけど、解放されなかったら5日が経って首輪に殺されるしかないわね」
「首輪に殺されるなんて絶対にイヤです。もし種付けされて街へ逃げ帰ってくることができたら、お腹の子供を堕ろす魔法ってあるんですか?」
「あるけどね、複雑で高度な魔法だから値段がすごく高いの。だから、あたしらのような従属の契約をしている者にはね、そんな魔法は使ってくれないよ。たぶん子供が産まれるまで放っておかれて、ゴブリンが産まれたら、その子は殺されるだけよ……。
それにね、魔族の子供を身ごもったと分かったら、その時点で女は身分を一つ落とされるの。穢れてしまったということでしょうね。だから、あたしたちがそうなったら、奴隷に落とされて売られてしまうってことになるわね。そうは言ってもね、ゴブリンの子を身ごもった女を買ってくれるような奇特な人がいるかどうか分からないけどね」
なんだかその話を聞いていると悲しくなってきた。オレはどうしてこんな弱い存在になってしまったのだろう……。
涙が出そうになったが、なんとか堪えることができた。
「なんだか、女って悲しいですね……」
「そうね……」
そうだ! もう一つ気になっていることがある。アレも聞いておこう。
「女性って、色々あって、原野のようなところに出て狩りをするときって不便ですよね?」
「え?」
「たとえば生理とか……。こうやって狩りに出たときに、生理になったらどうすればいいんですか? 魔族や魔物は匂いに敏感だって誰かが言ってたし……」
「あなた、生理なの?」
「え? いや、そういうことじゃなくって、一般論としてですけど……」
「そんなの簡単よ。生理の周期は自分で分かってるでしょ。だから狩りの途中で来そうになったら、魔法で遅らせるのよ。1回の魔法で10日遅らせることができるからね。長い期間の狩りだったら魔法を掛け直せばいいの」
「でも、ええと……。突然、なっちゃったら?」
「そういうときは、キュア魔法で生理の状態を早く回復させるしかないわね。ほかのメンバーには迷惑をかけることになるけど、事情を話してテントの中で休ませてもらうしかないわよ」
先輩はまじまじとオレの顔を見つめた。
「あなた、やっぱり生理なんでしょ? そういうことは恥ずかしがらないで、ちゃんと言わないとダメよ。特に狩りのときは、みんなの命が掛かってるんだからね。ゴブリンとかは女の匂いに敏感に反応するらしいから」
「いえ、ホントに違います。ええと、ほら、わたしって記憶が無いでしょ。だから自分の周期が分からなくて不安になったんです」
「でも生理が始まりそうなときって、なんとなく分かるじゃない。あなた、今、そんな感じがあるの?」
オレにそんなことが分かるはずない。でもそれは言えないし……。
「いえ……。そういう感じはしないんですけど……」
「それなら、始まりそうって感じたら遠慮なく言いなさい。生理を遅らせる魔法ならあたしでも発動できるからね」
オレにその兆候が分かるのだろうか……。
「はい、ありがとうございます。それから、こんなことを尋ねていいか分からないんですけど……」
「どんなこと?」
「副長から聞いたんですけど、サレジ隊長と従属契約した女は、隊長から、ええと……、あれを求められたら従わなきゃいけないって。それから、その後は毎晩、うちの男たちの相手をするって……。本当ですか?」
「本当よ、それは。覚悟しときなさいね」
「わたし、そういうこと、なんて言うか、女として、全然自信がないんですけど……」
「そんなの慣れるわよ。それにあなたには亭主もいたし、子供も産んだんでしょ。それなら、あのときは気持ちがいいってことは知ってるはずよね。どうして自信がないなんて言うの?」
「記憶が全部無くなってしまっていて、そういうことも、どうだったのか忘れてしまって……。だから自信がないというか、怖いというか……」
「あぁ、この前の風呂屋のこともあるから、男に対して怖いって感じるのね。この前の風呂屋のことはサレジ隊長には内緒よ。でもね、あなたが男に対して怖いと思っているのなら、あなたに優しくするように隊長へ言っておいてあげる。あたしは隊長の専属だから隊長に時々呼ばれてご奉仕するんだけど、隊長は上手だしタフだから気持ちよくって気を失いそうになるわよ。怖いなんて言わずに楽しみにしてなさい」
いや、なんか期待していたアドバイスと違うんだけど。男に抱かれるなんて絶対にイヤだ。なんとかして回避したいから、その方法を聞き出さないと……。
「そういうことをするのって、やっぱりイヤなんです。特に隊長って、なんだか普段でも怖いっていう感じがしますよね?」
「うーん。ちょっと違うわね。怖いと言うよりも、すっごく強いから、逆らえないって感じよね」
「強いって、女とアレをするときですか?」
「ふふっ……。そっちも強いけど、魔族や魔物と戦うときもすっごく強いのよ。訓練のときなんか、うちの男どもときたらビビリまくりよ。なにしろ隊長はロードナイトだからね」
「ロードナイト? ロードナイトって、なんですか?」
「それも忘れてるのね。ええとね、あなた、ロード化って知ってる?」
「いえ、初めて聞きます」
「じゃあ、ロード化やロードオーブのことも説明しないといけないわね。ロードナイトになることがハンターや兵士にとっての目標みたいなものよ。これから話すことはね、あなたがハンターとして強くなっていくためにすごく大事な話になるはずよ。だからよく聞いて、ちゃんと理解しなさいね」
すごく大事な話だと言われて、オレは背筋を正した。




