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SGS209 ラウラはお山の女天狗様

ここから20話ほど戦国時代での話が続きます。

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 村人たちはあたしのことを怪しんでいるようだ。歓迎されてないことは確かだが、あたしは少しだけ安心した。あたしの喋った言葉が通じたからだ。


 でも、この場で自分のことをどう説明すればいいんだろうか……。


「やまで、みちに……、山で道に迷ってしまって……。やっと、ここに辿り着いたのです……」


「おい、おんなっ! おらたちを騙そうとしてもムダだぁ。そんな綺麗な小袖を着て、お山で迷っていただとぉ? おらのガキでもそんな下手なウソは吐かねぇぞぉ!」


 なるほど。バリアで守られているし、ずっと空中を移動してきたから、あたしの着衣は汚れていない。


 でも、そんなことはどうでもいい。とにかく今は孤児院の子供たちを捜し出すことが先決だ。ここで村人たちを相手に話をしている時間は無いのだ。


「ちょっと聞きたいんだけど、この村に子供たちが来なかった? 人数は十人くらいで、髪の色はあたしと同じで栗毛色よ。大人の女性が何人か一緒にいるかもしれないんだけど……。それと、その子供たちはよその国の言葉を喋っていたはずよ。どうかしら?」


「何を訳の分かんねぇことを言ってるんだぁ? 皆の衆、この女をとっ捕まえて稲森様のところへ連れてくぞ」


「ちょっと待って! それって誰なの?」


「稲森政秀様だ。地侍のな。この辺りの村で揉め事を治めてくださる有難いお方だぁ。おまえのような盗人の手先も成敗してくださるぞ」


 どうやらその男はこの周辺の村を守っている守備隊の隊長か村を治める役人のようだ。その男に会えば子供たちのことを知っているかもしれない。


「分かった。付いていくから案内して」


「おらたちを馬鹿にしてんのかぁ! 裸に引ん剥いて縄で引っ括ってやる!」


 男の一人があたしを捕らえようと手を伸ばしてきた。だが、その手は横に弾かれて、何度やってもあたしを掴むことはできないでいる。バリアがあるからだ。


 あたしはその間に威圧の呪文を唱え終わっていた。男たちは悲鳴を上げながら腰を抜かしたり、地面を這いずったりしている。


「お、お山の女天狗様……。おた……、おたすけくだせぇ……」


 その女天狗様というのが何かは分からないが、あたしのことをお山の女天狗様だと思っているらしい。男たちがあたしを恐れていることは確かだ。


「案内をするの?」


「稲森様のとこに案内すっから、どうかお許しくだせぇ」


 威圧を解除してやると、男たちは一目散に村の方へ逃げていった。一人だけは念力で捕まえている。案内をさせるためだ。


 その男に案内させて田んぼや林の中の小道を30分ほど歩いていると、前方から男たちが走ってくるのが見えた。十人くらいいて、全員が手に槍や弓のような武器を持っている。服装はバラバラで貧相な身なりだが、武器を持っているから兵士たちのようだ。


 男たちは30モラほど離れたところで立ち止まった。五人の男たちが弓をこちらへ向けて構えた。


「おんなっ! そこで止まれ。動けば射殺すぞっ!」


 先頭の男があたしに向かって大声で叫んだ。男たちの中では一人だけ小奇麗な恰好をしている。30歳くらいの顎髭を生やした男で兵士たちの指揮官のようだ。


 あたしは案内をしてくれた男の手を取って歩き続けた。男が射殺されては気の毒だからバリアで守ってあげるのだ。


「うぬぬぬ……。殺しても構わぬ。射よ! 射殺すのだっ!」


 風切り音を立てながら矢が飛んできたが、数本は外れ、残りの数本はバリアに当たって弾き飛ばされた。案内役の男が悲鳴を上げただけで衝撃は皆無だ。


「面妖なっ! 化け物めっ! 射よ! 次々と矢を放てっ!」


 いくら矢を放っても無駄だ。距離を半分ほど詰めたとき、眠りの呪文を唱えて兵士たちに向けて魔法を放った。


 兵士たちはその場に倒れて眠りこけた。


「お、女天狗様、あのお方が稲森政秀様でごぜぇます」


 案内役の男が震えながら地面で眠っている男を指差した。それは兵士たちを指揮していた男だ。


 ここは林の中の小道で人通りは無い。この場で指揮官を起こして尋問しても邪魔は入らないだろう。ここまで案内してくれた男を帰して、あたしは指揮官の尋問を始めた。


「あなたの名前と役目を答えなさい。言わないと痛い思いをするわよ」


 あたしは呪文を唱えて、近くの大きな樹木に向けて魔力砲を放った。「メリメリ」とすごい音を立ててその樹が倒れた。


 それを見た指揮官は「あわわっ」と声を漏らして呆けたように口を開けた。


「お……お山から女天狗が現れたと聞き申したが、まことでござったか……」


「そんなことはどうでもいいから、あたしの質問に答えなさい!」


「ど、どうか、お怒りをお鎮めくだされ。せ、拙者は稲森政秀と申す者にて、深志城のご城代であらせられる馬場美濃守信春ばばみののかみのぶはる様より仰せつかり、この辺りの村を差配しており申す」


 やはりこの男は役人だった。あたしのことを恐れているみたいだから、尋ねたら知っていることはちゃんと答えてくれそうだ。


「この国の名前は? それと、今は何年なの?」


「さすがの女天狗様でも下り立った場所はお分かりにならぬのじゃな……。ここは信濃国しなののくにで、今は永禄7年でござる」


 信濃国というのはコタローからの知識で日本の中部地方だと分かるけど、エイロク7年とか言われても分からないわ。後でコタローに尋ねるしかないわね。


「手っ取り早く聞くけど、あたしと同じような髪の色をした子供たちを見なかった? 子供は十人くらいいて、この国の言葉は喋れないのよ。子供と一緒に何人か大人の女性もいるかもしれないけど……。答えなさい」


「拙者は見ておらぬ……。じゃが、ここから5里ほど離れた村でのことじゃが、山崎某やまざきなにがしという地侍の屋敷で子供を十人ほど引き連れた女が暴れて騒乱が起きたと聞いており申す。山崎某とその手勢は女に討ち取られてしもうたそうでな。それで、ご城代の馬場美濃守様のご命令で、留守居頭の仁科晴近様が百人ほどの兵を率いて鎮圧に出向かれたとか……」


「それで……、どうなったの?」


「いや……、それが……、女が使う妖術のせいで散々に破れて、仁科様と兵共は這う這うの体で逃げ帰ったそうでござる。それがあったのは一昨日のことと聞いており申す。その後、女と子供は深志城を目指して移動したそうじゃが、今は再度出陣した仁科様の軍勢に深志城の近くで取り囲まれて歩みを止めておるそうな。数百の兵が出陣したとのことでござる」


 おかしい……。時間が合わないのだ。あたしがこの世界に来たのは昨日のことだが、孤児院の子供たちはそれよりも何日か前にこの地に来たということか……。幸いなことにジルダ神様の使徒が子供たちを守っているようだ。あの使徒の名前は何と言ったか……。たしか、ケイは使徒の名前をマリシィだと言っていた。


「そのフカシジョウという城は遠いの?」


「ここからであれば歩いて半日も掛かりませぬ」


「そうなの。じゃあ案内してくれる?」


「拙者が……、でござるか?」


「そうよ、マサヒデ。あなたが案内するの。そこで眠っている兵士たちは帰しなさい」


 眠り解除の魔法で兵士たちを起こすと、兵士たちは慌てふためいていたが、マサヒデが命じると道を引き返していった。マサヒデには魅了の魔法をたっぷりと掛けておいたから、あたしに逆らうことはないだろう。


 マリシィや孤児院の子供たちは軍勢に囲まれているらしい。急がねばならない。


 マサヒデに城の方向を聞いて、浮上走行の魔法を使って走り始めた。道から外れて田畑や荒れ地の上を城を目指して真っすぐに走っていく。マサヒデは念力魔法で持ち上げて運んだ。喚き声を上げているが一切無視だ。


 地上2モラほどの空中を滑るように走っていると、畑仕事をしている村人たちや道を行く者たちが遠くからあたしに気付いてこちらを指差している。こちらの世界には魔法が無いらしいから、浮上走行の魔法を見て驚いているのだろう。


 こんなに目立っていいのだろうか。一瞬そう考えたが気にしないことにした。どうせ何人もの村人や兵士たちにあたしが魔法を使うところを見られているのだ。それに、どれくらいこの世界にいるのか分からないが、魔法無しではあたしはこの世界では生きていけないだろう。人々に恐れられても構わない。必要なら遠慮せずに魔法を使って、この世界で生き抜いてやる。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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