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SGS203 本当の夫婦その2

 ―――― ジルダ神(前エピソードからの続き) ――――


 子供たちの悲鳴や泣き声が聞こえる。突然現れて大声を上げるレング神様に子供たちは驚いたのだろう。


 その子たちをレング神様の従者が魔法を使って床に寝かせ始めた。女性の従者だが、その動きは機敏だ。床の上で眠り始めた子供たちをマリシィがバリア魔法で包んでいく。まるでよく訓練された連携作業を見ているようだ。


 レング神様が私に駆け寄ってきた。


「ジルダ、我と手を繋ぐんだ!」


 窓の方から呪文が聞こえ始めた。見ると、男が窓から身を乗りだして金属の杖を私に向けている。


 目の前でレング神様が必死の形相をして私に手を伸ばしてくる。


 私のバリアでも防げない攻撃なの?


 それを知ってレング神様は私のために駆け付けてくれたの?


 でも、今のままならレング神様も危ないのよ?


 私と一緒に死んでもいいと思っているの?


「我を信じろ!」


 そのひと言で私はレング神様の手を掴んだ。その瞬間、私の周りから色が消えた。


 その直後、子供たちや先生たちも消えてしまった。それだけでなく、マリシィやレング神様が連れてきた女性たちの姿も見えなくなった。部屋から誰もいなくなったのだ。


 えっ!? 何が起こったの?


 今も部屋の中の様子は薄っすらと見えているし、窓の外にいる男の顔も見えている。その男は構えていた重そうな杖を降ろして、ニンマリと満足そうな笑みを浮かべた。そして、窓から見えなくなった。


 あの男は私を狙っていた。私を暗殺しようとしたのだろう。男があんな笑みを浮かべたのは暗殺が成功したと思ったからに違いない。でも、私は生きている。


 そのとき私は自分がまだレング神様の手を握っていることに気付いた。


 顔を上げると穏やかに微笑むレング神様が目の前にいた。その後ろには豹族の男が立っている。


「良かった……。ジルダ、おまえを助けることができた……」


「レング神様……。どうなっているのですか? それに、ここは……?」


 不意に部屋の扉が開いて、女が入ってきた。薄っすらと見えるだけだが、さっきレング神様と一緒にいた女性の一人だと思う。どんどん私の方に近付いてくる。


 ぶつかるっ!


 そう思った瞬間、女性は私の体を通り抜けた。そして窓のところへ行き、そこから外に飛び出していった。


「どういうことなの……?」


「ここは亜空間の中だ。ジルダ、おまえを守るために古代のアーティファクトを使って亜空間の中に入ったのだよ」


「古代のアーティファクト? レング神様はそのようなアーティファクトを持っておられたのですか?」


「いや。我のアーティファクトではなく、こちらにいるダイルさんのアーティファクトだ」


 レング神様が少し横に避けたから、後ろにいる男の全身が見えた。逞しい体と精悍な顔付きをしているが、豹族の男はだいたいこんな感じだ。それに魔力は〈7〉だから普通の豹族にすぎない。本当にこんな男が古代のアーティファクトの持ち主なのだろうか……。


「ダイルだ。よろしく」


 男は私に軽く会釈をした。


 なんだろう、この無礼な態度は……。私が神族だと知らないのだろうか?


 私は豹族の男から視線を外してレング神様に語りかけた。


「説明してください。何がどうなっているのですか?」


 口調が強くなってしまった。自分の悪い癖だと分かっているが、つい相手を威圧してしまう。


「ジルダ。ダイルさんはおまえの命の恩人だ。我はおまえがバーサットに狙われていると知って、ダイルさんたちに守ってくれるようお願いしたのだ。だから……、ダイルさんにはきちっと礼を言ってくれ」


 相変わらずレング神様は私に対して弱腰だ。入り婿としてレング一族に加わったときに私の父が仕組んだ罠にはまって、レング神様は神族封じの首輪をつけることになってしまった。父は一族と私のためにそうなさったのだ。私はそれを望んでなかったのに……。


 それ以来、こんな関係が続いている。千五百年もの間ずっとだ。レング神様が今のように見え透いた芝居を演じているのは、おそらく私に首輪を外させるためだろう。もっと正々堂々と首輪を外すよう言ってくれればいいのに……。


「その豹族の男に礼を言えと仰るの? バーサットの暗殺者から私を守ってくれたから?

 レング神様、もしその話が本当ならお礼を言います。でも、茶番じゃないのかしら? あなたが私を油断させるための……」


「我がおまえを油断させるために仕組んだ茶番劇だと言うのか……」


 レング神様は悲しそうな顔をしている。


「レング神さん。聞いてはいたが、あんたの奥さんは相当疑り深い人らしいな。まぁ、千年以上もそんな夫婦関係を続けていたら、疑り深くもなるってものかな?」


 なんて失礼なことを言う男だろう!


「豹族の分際でお黙りなさいっ!」


 私が怒鳴りつけても、豹族の男は素知らぬ顔をしている。顔色を青くしたのはレング神様のほうだ。


 そのとき、窓からさっきの女性が戻ってきた。その隣には空中に男が横になって浮かんでいる。女性が念力を使って眠っている男を運んできたようだ。女性は男を床に横たえると、また部屋から出ていった。


「何をしているのかしら……?」


「この孤児院が安全かどうか確認しているのだろう。床で寝ている男はあなたを殺そうとした犯人だ。捕らえたようだな。合図があるまでこのまま待機だ」


 豹族の男の物言いはぶっきらぼうだ。私が睨みつけると、男はぷいと目を逸らせた。


 しばらくすると女性が部屋に戻って来て、右手で何かを合図するような素振りを見せた。


「終わったようだ……」


 豹族の男が呟くと、周りの色が戻って普通の状態になった。どうやら、亜空間から出たようだ。


「ダイル、ご苦労さま。ジルダ神を無事に救えたみたいだね。それは良かったんだけど、こっちは大きな失敗をしてしまった……」


「どうしたんだ?」


「うん……。ラウラや子供たちが時空の狭間に落ちて地球の過去に行ってしまったみたいなんだ。ケビンも一緒にね。それと……、これはたいした失敗じゃないけど、暗殺に使われたアーティファクトは確保できなかった。暗殺の実行犯はこのとおり捕まえたけどね……」


 えっ!? 子供たちが時空の狭間に落ちたって?


「あなた、もっとちゃんと説明しなさい! どういうことなの?」


 私が声を掛けると、女は視線をこちらに向けた。


「はじめまして。わたしの名前はケイ。ええと……、今回の件についてはどこまで聞いてるのかな? ジルダ神への説明は済んでますか?」


 女はレング神様へ顔を向けて問い掛けた。


 なんと無礼な! 私を呼び捨てにした上に、レング神様に対してまるで自分の部下のように声を掛けている。許せない!


「ケイ、気を付けた方がいいぞ。ジルダ神は今回の件をレング神が仕組んだ茶番だと疑ってる。レング神が説明を始めたらジルダ神が茶番じゃないかと言い出して、話が進んでないんだ。それに、豹族が好きじゃないみたいだし……」


「じゃあ、わたしから説明します。話を聞いてもらえますか? できれば、おとなしく話を聞いてほしいんですけど」


「なんと無礼な物言いをするのだ! たかが人族のくせに我ら神族を愚弄する気か!?」


 生意気な小娘! 思い知らせてやる!


 眠りの呪文を唱え始めた直後、自分が攻撃を受けていることに気付いた。バリア破壊の魔法だ。この魔法は使われた魔力が〈500〉より小さければ「ガンガン」とうるさい攻撃音を立てるが、それ以上の魔力ならば無音になる。バリアの眩い輝きと攻撃音が無いことから最強レベルのバリア破壊魔法で攻撃を受けていると分かった。


 これほどの攻撃ができるのはレング神様か!? やはり、この場は茶番で私を捕らえるための罠だったのか!


 今のままでは私のバリアが破壊されてしまう。拠点に一旦戻って、使徒たちを連れて来よう。


 ワープの呪文を唱えた。だが、ワープが発動しない。どうしたのだろう? もう一度……。


 何度やってもダメだった。ナゼだか分からないがワープができない。


 どうしよう……。こんなことは初めてだ。


 そのとき、眩い光の合間からレング神様の顔がちらっと見えた。悲しそうな目でじっと私を見つめている。


 どうしてそんな悲しそうな目で私を見つめるの……?


 その目に気を取られている間に自分のバリアの色が変わってきたことに気付いた。バリア回復の呪文を唱えないと……。


 呪文を唱えている途中で「パリン」という音がした。


 あぁっ! バリアが……。


 自分が暗い闇の中に落ち込んでいくことが分かった。


 ………………


「気が付きました?」


 目を開けると女が私を覗き込んでいた。あの生意気な小娘だ。隣には心配そうな顔をしたレング神様がいて、その後ろには豹族の男がいる。


 ここは今までいた児童組の部屋の中だ。どうやら、私は気を失って床の上に倒れていたらしい。床から上半身を起こしたが、なんだか頭の芯が重い感じがする。


「負けたのね? 私はあなたに……」


 レング神様に敗れたのであれば、それでも構わない。そう思ってレング神様に向かって話しかけた。いつかはこうなるという予感のようなものがあった。


 レング神様は少し安心したような顔になって、私に手を差し出してきた。


「掴まりなさい。立てるか?」


 その手を掴むと、強い力でグイと引かれて私は立ち上がった。部屋の隅にソファーが置かれていて、レング神様が私を支えながらそこまで連れて行ってくれた。ソファーに並んで腰かけると、レング神様が私の方を向いた。


「誤解しているのかもしれないが、おまえのバリアを破壊したのは我ではない。ここにいるケイさんとダイルさんだ」


 どういうことだろう? このふたりはロードナイトではなく一般人だが……。


「ジルダ、おまえが不審な顔をするのも無理はないが、実はケイさんは神族と同じような能力を持っているのだ。それと、ダイルさんはケイさんの使徒だ」


 その女が神族だと言うの? そんな馬鹿な!


「レング神様、なぜ、そのような偽りを申されるのです? 私がすべての神族を知っていることはご存じでしょう? その女性は神族ではありません」


「神族とは言ってない。神族と同じような能力を持っていると言ったのだ。いや、それ以上だな。ケイさんやダイルさんは詠唱無しに魔法を使えるのだから」


「本当ですか?」


 こんな小娘が私よりも優れた能力を持っているなんて信じられない。でも、私が敗れたことは事実だ。


 レング神様がこんな茶番劇を仕組んだ狙いは首輪を外したいためだと思っていたが、もしかすると……。


「レング神様、あなたはこの女性を第四夫人になさるお考えですか?」


「いや、違う。それは全くの誤解だ」


 悲しそうな顔だ。やはり、レング神様は首輪を外したいだけなのだろうか……。


 目を凝らして見なければ分からないが、レング神様は肌に同化したような色の細い首輪をつけている。レング神様と夫婦になるときに私がつけてあげた神族封じの首輪だ。


「その首輪のせいで、私たちはお互いに警戒し合うような情けない夫婦関係を続けてきました……。レング神様がこのような茶番を演じておられるのもすべてがこの首輪のせいですね……」


 私は首輪を外す呪文を唱えた。これで、千五百年もの間、私たち夫婦を苦しめてきた首輪が外れるはずだ。


 レング神様の首輪に手を掛けて引っ張ったが外れない。呪文を間違えたのだろうか……。


 もう一度……。だめだ。もう一度……。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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