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SGS202 本当の夫婦その1

 ――――――― ジルダ神 ―――――――


 いつものように使徒のマリシィを伴って孤児院にやってきた。


「あれから10年ですね」


 孤児院の廊下を歩きながらマリシィが後ろから声を掛けてきた。


 そうなのだ。私が密かにこの孤児院に来るようになって10年が経つ。そもそもは私の我がままが事の発端だ。自分の子供が欲しい、子供を抱きたいという思いのあまり、使徒のマリシィに泣き付いたことだ。


 マリシィとは私がレング神様と結婚する前からの付き合いで、自分の姉のような存在だ。その優しさに甘えて子供が欲しいと泣き付いたとき、マリシィは困ったような顔をしていたが、私の気持ちを察してくれたのだと思う。翌日になってこの孤児院に連れて来てくれた。


 レング神様との間に自分の子供が生まれたら、どんなに嬉しいだろう。そう願いながら千五百年が過ぎた。これまで何度も自分の排卵日に合わせてレング神様と契りを交わしてきたが、子供には恵まれなかった。私よりも先に第三夫人のナナニが妊娠したと知ったときには嫉妬やら自分への情けなさやらで気が狂ったようになってしまった。狂乱していた私はナナニへお腹の子を堕ろすよう命じたのだが、今になって思えば可哀そうなことをしてしまった。


 マリシィはそのことを知っている。もう二度とあんなことをさせてはダメだと考えたのだろう。ここに連れて来てもらって、子供たちを抱いたり遊んだりしていると不思議と心が落ち着いた。それからは半月毎にマリシィを伴ってこの孤児院へこっそりと通い続けている。


 そのマリシィが不意に私を呼び止めた。


「止まってください。庭に誰かいるようなので確認して来ます」


「私も気付いているけど、一般人だから心配ないわよ」


「いいえ、油断は禁物です。ここでお待ちください」


 マリシィは駆け出していった。


 私は廊下で一人ポツンと待つ羽目になってしまった。ここに来るときはいつもマリシィが私の護衛をしてくれているのだが、ちょっと心配し過ぎなところがある。私が今から行こうとしている児童組の部屋のすぐ外側に小さな庭があって、そこにその人族がいることは探知魔法で分かっていた。だが、その人族の魔力は〈1〉であるし、私は強力なバリアに守られている。万一襲われても私が傷付くことは無いはずだ。


 それよりも心配なのは子供たちや先生だ。私が万一襲われたときに巻き込まれる虞があるからだ。だから、マリシィにはこの孤児院で何か起きたときには私ではなく子供たちを優先して守るように命じていた。


「庭のところにいたのは植木職人でした。孤児院からの依頼で樹を植えているそうです」


「それなら問題ないわね。中に入りましょ」


 児童組の部屋に入ると、いつもの子供たちがいた。私に真っ先に気付いたニーナが駆け寄ってきた。この児童組の中では一番年下の女の子で私を慕ってくれている。


「アティナお姉ちゃん!」


「「「お姉ちゃん」」」


 ここでは私はジルダではなくアティナという名前で呼ばれている。


 子犬のように飛び付いてきたニーナを抱きかかえた。バリアを張ったままだが、ニーナはそれに気付いた様子もなく私のバリアに包まれた。


 この子が赤ちゃんのときから知っていたが、早いもので今年からニーナは幼児組から児童組に変わった。ここを訪ねてきたときはいつも抱っこをしていたが、子供の成長は驚くほど早い。


「ニーナ、重くなったわね。抱っこはこれっきりで、次からは握手よ。これからはね、お姉さんとして小さい子供たちの面倒を見てあげてね」


「やだっ! ニーナはアティナ姉ちゃんにずっと抱っこされたいもん」


 渋るニーナを宥めた後、ほかの子供たちも抱いたり握手をしたりして言葉を交わした。私はこの子たちを乳児や幼児だった頃から知っていた。一人ひとりに親がいて、愛しい我が子を手放す事情があったはずだが、この子たちは何も知らされずにここで育てられていた。


 でも私はその事情を知っていた。事前にマリシィが私のことをこの孤児院のオーナーであるアデレ院長だけへは説明していて、アデレ院長は私に子供一人ひとりの事情を教えてくれたからだ。


 私が10年前に初めてこの孤児院を訪れたとき、ここは設立間もない頃で、子供の数も少なくて、乳児や幼児だけであった。あれから10年。今年、初めて子供たちがこの孤児院を巣立っていく。


「マルコ、神殿学舎に入る準備は終わったの?」


「うん、アティナ姉ちゃん。ルイーナと一緒に神殿学舎に入れるんだからね。夢みたいだよ。なぁ、ルイーナ?」


「うん、そうよね。あたしたちが学校へ行けるのは、全部、アティナ姉ちゃんのおかげだって、アデレ先生が言ってったの。アティナ姉ちゃん、ありがとう」


「ルイーナ! それは先生から内緒だって言われてただろ!」


 マルコに睨まれてルイーナは両手で口を押えている。それを見ながら、私は思わず笑ってしまった。


 神殿学舎は神殿が運営している学校で7歳から14歳までの子供に基礎的な学問や実技を教えている。レングランの子供向けの学校は貴族の子弟が通う貴族学舎かこの神殿学舎だけだった。マルコとルイーナは数日後に神殿学舎の高等部に入学して、寮生活を始めることになっている。


 ここの子供たちは13歳になったら孤児院を巣立っていくが、私はこの先もずっと見守っていくつもりだ。みんな自分の子供のように愛おしいから。


「アティナさん、ごめんなさいね。内緒だって言われていたのに。でも、子供たちには誰のおかげで学校へ行けるのか、ちゃんと教えておくことも大切なことだと思うのよ。感謝の気持ちを忘れないようにさせるためにね」


「ありがとうございます、アデレ先生」


 私が誰だか知っていても、アデレ院長は普通に話しかけてくれる。財産を投げ打ってこの孤児院を設立して、すべてを孤児たちの育成に捧げている人だった。


 これで児童組の子供たち全員と挨拶を終えた。そう思ったとき、挨拶をしていない子供が一人残っていることに気が付いた。初めて見る子供で、年はマルコと同じ12歳か13歳くらいだろう。不安そうな顔をして佇んでいる。


「アデレ先生、あの子は?」


「あの子は1週間ほど前から少しの間だけ預かっている子供で、名前はケビンよ。原野にある小さな村が魔獣に襲われて全滅したという話でね。そのたった一人の生き残りらしいの。村へ巡回に行った部隊に救出されたそうで、その部隊の隊長さんにちょっとだけ預かってほしいと頼まれたんですよ。あまりに気の毒なのでここで預かることにしたの。隊長さんの話では、知り合いの私掠兵団がケビンを雑用係として雇い入れることで話が付いているらしくて、あと数日したら迎えに来てくれることになっているんですよ。辺境の村の子供なので方言が酷いのだけど、とっても賢くて元気のいい子なのよ」


 その話を聞いて涙が零れそうになった。村でたった一人の生き残りということは、家族も友だちもみんな死んでしまったということだ。原野の中で独りぼっちで取り残されて、どれほど怖くて悲しかったことだろう。


 男の子のところへ歩み寄って思わず抱きしめてしまった。


 そのとき使徒のマリシィから念話が入ってきた。


『ジルダ神様、念のためにその子のことを詳しく調べた方が良いかと』


『そうね……。任せるから、後で調べておいて』


 せっかく気持ち良くこの子を抱きしめていたのに。でも、私を守るために何でも疑ってみるのがマリシィの役目だから仕方ないだろう。


 私はケビンの不安を少しでも取り除こうと、その手を取った。


「ケビン。アデレ先生からあなたの話を聞いたわ。大変だったわね。でももう大丈夫よ。ケビンが寂しくなったり、悲しくなったりしないように私が応援してあげるから。きっと良いお友達がたくさんできるわよ」


「おれっちのことを応援してくれるって、本当かい? でもヨ、姉ちゃんはどこの誰なんだァ? それに応援てヨ、いったい何してくれるんだぁ?」


「私はね、アティナという名前で、ええと……、ちょっとだけお金持ちなのよ。それで、この孤児院の先生や子供たち全員を応援しているの。みんなの暮らしが困らないように、子供たちが学校へ行けるようにね。だからね、ケビンが望むなら学校へ行くこともできるわよ」


「姉ちゃんがウワサのアティナ姉ちゃんだったンだネ? アティナ姉ちゃんが美人で優しくて良い人だってこと、ウワサで聞いてるけどナ。おれっちも姉ちゃんに応援してもらって学校へ行っていいのかぁ?」


「ええ、もちろんよ」


 ケビンと会話をしていると、横から誰かが声を掛けてきた。私に声を掛けてきたのは数か月前からこの孤児院に勤めているクラーラという名の女性だった。今はここで見習いの先生をしているが、近いうちに正式な先生になると聞いている。


「アティナさん、お話し中申し訳ございませんが、少しよろしいですか。庭を見ていただこうと思いまして。マルコとルイーナの巣立ちと神殿学舎への入学を記念して、植木屋さんにミモラ樹の苗木を2本植えてもらったのです。でも、ケビンも学校へ行くとすれば、もう1本植えた方が良いでしょうか? 狭い庭ですが、よろしければその窓から見えますから御覧になってください」


 庭は窓のすぐ下にあったはずだ。なるほど、あの植木屋は庭で記念樹を植えていたのね……。


「そうねぇ、ケビンもここから神殿学舎に入学するのなら……」


 私がそう言いながら窓の方へ何歩か歩いたとき、それは起こった。


「ジルダ! 窓に近付くなっ!」


 突然、後ろから叫び声が上がった。とっさに振り返ると驚きのあまり頭の中が真っ白になってしまった。


「レング神……さま……?」


 どうしてレング神様がここにいるのだろう? その後ろにも豹族の男と人族の女たちがいる。レング神様がワープで連れてきた使徒たちだろうか? でも、初めて見る者ばかりで、こんな使徒たちはいなかったはずだ。それに、レング神様はこの場所を知らないはずだし、ここに直接ワープできるはずもない。それなら、いったいどうやって……。わけが分からない……。


「窓の外から敵がおまえを狙っているぞ! 我はこの者たちと一緒にそなたを助けに来たのだ」


 窓の外から敵が狙ってるですって!? それでレング神様は私を助けに……?


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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