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SGS200 孤児院での攻防その1

 朝の10時頃。そろそろジルダ神が現れるはずだ。オレたちは昨夜から孤児院に潜入している。オレと一緒に行動しているのはダイルとラウラ、そしてレング神だ。もし何かが起こるとすれば室内での攻防になるだろう。だから今回の作戦は必要最小限の人数に絞った。


 オレを含めて四人でダイルの亜空間シェルターに入って、ジルダ神が現れるのを待っていた。場所は児童組の子供たちが遊んでいた広い部屋だ。


 この部屋を待機場所としたのは、あの見習い先生が児童組の担当だと分かったからだ。何かが起こるとすれば、バーサットの工作員が潜入しているこの部屋だろう。


 亜空間シェルターにはレング神も一緒に入っていた。亜空間シェルターはダイルとオレたちにとって絶対に秘密にしておきたい重要なアーティファクトだ。それを仲間でもないレング神に教えただけでなく、この中に一緒に入ることを許してしまった。本当にそれで良かったのだろうか……。


 今回の作戦を立てたときに判断に迷ったオレはみんなに相談した。一週間ほど前のことだ。


『レング神はジルダ神を守る手段が無いと言っていた。それで、ダイルとみんなに相談したいんだけど……』


『何を躊躇っているんだ? 遠慮しないで言ってみろ』


『ええと……、孤児院の中でジルダ神が現れるのをレング神と一緒に隠れて待たなきゃいけないんだ。それで、ダイルに協力をお願いしたい。亜空間シェルターの中で待機させてほしいんだ。レング神も一緒にね』


『亜空間シェルターにレング神を入れるってことか?』


『レング神だけじゃなくて、何か起きたときにはジルダ神も亜空間シェルターの中に避難させることになると思う』


 ダイルの問い掛けにオレは自分が考えている作戦を説明した。


 その作戦に真っ先に反対したのはミサキ(コタロー)だ。


『ケイ、それはダメよ。亜空間シェルターはダイルの切り札の一つよ。私たち以外には秘密にしておかないと戦術的な価値が失われるわ』


『ミサキが言うことは尤もだと思う。レング神に亜空間シェルターのことを教えて良いのか正直言ってわたしも不安だけど……。でも、レング神がジルダ神を愛していると言ってたことや、孤児院でジルダ神を守ってやりたいと言ってたことは本心だと思うんだ。わたしはそんな気持ちを持っているレング神を信じてみようと思う』


『仮にレング神のその気持ちが本当だとしても、ジルダ神の方はそんな甘い人じゃないと思うわ。ジルダ神に亜空間シェルターを教えるのは反対よ』


『うん、そうかもしれない。でも、ジルダ神だって半月毎に孤児院へ慰問に行ってるような人だよね。そういう優しい気持ちがあると思うんだ』


 結局、反対したのはミサキ(コタロー)だけで、ほかの女性たちはオレの考えに賛成してくれた。


『ダイルは?』


『ケイが思ったとおりに行動すれば良いと思う。ただし、俺はその判断が間違ってると思ったら引き止めるが……』


『それで……、今回は?』


『喜んで協力するさ』


 ミサキ(コタロー)が反対したのは感情に左右されずに冷静にリスクを判断したからだと思う。でもオレは人工知能ではなく人間だ。感情で動くときだってあるんだ。


 その後すぐにレング神を呼び出して亜空間シェルターのことを打ち明けた。


「その方法でジルダを守れるなら有難い話だ。ぜひにも、お願いしたいが……。そのアーティファクトのことを我に教えて良かったのか?」


「ええ。あなたのことを信じることにしたから……。もちろん、亜空間シェルターのことは秘密です。誰にも漏らさないようにしてください」


「分かっている。我もあなたの信頼に応えるようにしよう」


 亜空間シェルターを使ってジルダ神をどうやって守るかなど、レング神と当日の作戦を細かく打ち合わせた。


「つまり、ジルダを守れるかどうかは、ジルダが我の手を自らの意志で握ってくれるかどうかに掛かっているということか……」


 レング神が不安げな顔で呟いた。


 オレがレング神に説明した当日の動きはこうだ。


 ダイルはいつでも亜空間シェルターを発動できるようにレング神の左手を握っている。その状態でレング神はジルダ神に右手を差し出す。その右手をジルダ神が握った瞬間にダイルが亜空間シェルターを発動する作戦だ。そうすればダイルと一緒にレング神とジルダ神は亜空間シェルターの中に待避できるからだ。


 しかし、それにはジルダ神が進んでレング神の手を握ってくれなければならない。レング神がジルダ神の手を握りに行ったのではバリアに弾かれてしまうからだ。魔力が〈500〉以上のバリアでは術者が相手に触る意志があればバリアを張ったままそれができるのだ。つまり、ジルダ神がレング神の手を自らの意志で握ろうとしなければならないってことだ。


「それは、ジルダ神があなたを信じるかどうかに掛かっている……。そういうことですね?」


 オレは自分で問い掛けておいて、その後すぐに後悔した。聞かないでもいいことを尋ねてしまったと思ったからだ。


 レング神は辛そうな顔で頷くだけだった。


 ………………


 そして、今。オレたちは亜空間シェルターの中でジルダ神が現れるのを待っているのだ。


 部屋の中では子供たちが思い思いに遊んでいて、その中にはケビンの姿も見える。先生たちもそれぞれが何人かの子供の相手をしている。若い方の見習い先生も楽しそうに子供と一緒にボールの投げ合いっこをしていた。


「彼女がバーサットの工作員だなんてホントかしら?」


 ラウラが呟いたとき、入口を見ていたレング神が声を上げた。


「来た……。ジルダだ。それと……、後から入ってきたのはジルダの使徒だ」


 部屋の扉を開けて二人の女性が入ってきた。先に入ってきたのは25歳くらいの美しい女性だ。ショートヘアで子供たちに優しい笑顔を向けている。この人があのジルダ神なのか。オレが思い描いていたのとはかなりイメージが違うが……。


 ジルダ神の後ろから入ってきた女性は30歳くらいで、美人だが鋭い目つきをしている。ジルダ神を護衛している使徒なのだろう。女性は扉のところに立ったまま周りを警戒しているようだ。


 子供たちが気付いてジルダ神に走り寄った。みんな嬉しそうに口々に何かを言ってるが、こちらは亜空間シェルターの中にいるから聞こえない。


 ケビンは子供たちの一番後ろで少し困ったような顔をして突っ立っている。初めてジルダ神と顔合わせをするから、どう振舞っていいのか分からないのだろう。


 ジルダ神は微笑みながら駆け寄ってくる子供たちを一人ひとり抱いたり手を握ったりして、何か語りかけている。


 最後にジルダ神は困り顔のケビンに気付いたらしく、おばさん先生に顔を向けた。先生に事情を尋ねてその説明に納得したようで、ケビンのところへ歩み寄って軽く抱きしめた。腰を屈めてケビンの手を握りながら何か話をしている。その横顔は優しく微笑んでいた。


「ジルダ神様はもっとキツイ感じだと思っていたけど、意外に優しいのね。初めて会うケビンにも優しくしてくれているし、子供たちにもすごく慕われてるみたい。あっ、あたしったらレング神様の前で余計なことを。ごめんなさい」


 ラウラは舌をちょこっと出してレング神に謝った。


「いいんだ。あれがジルダの本当の姿だ。我も久しぶりにジルダの優しい笑顔を見ることができたよ」


 そのとき、あの見習い先生がジルダ神に近付いて何かを言いながら窓を指差した。ジルダ神はそれに何か答えながら窓に向かって歩き始めた。


 マズイ! オレは急いで高速思考を発動した。何が起きようとしているのか考えるのだ。


 窓は外側に開いていた。その外には小さな庭を挟んですぐに高い塀がある。だから遠くから狙撃されることはないはずだ。


 バーサットは何をするつもりだろう?


 遠距離からの攻撃ではない。とすれば、近距離……。窓の下だ。誰かが潜んでいる可能性が高い。窓の下からジルダ神を暗殺するつもりかもしれない。


 誰かが潜んでいたとしてもオレたちは亜空間シェルターにいるから探知魔法は効かない。


 オレは高速思考をキャンセルして叫んだ。


「ダイル、亜空間シェルターをすぐに解除っ! 窓からの攻撃に備えてっ!」


 この事態を想定して事前にそれぞれの役割を決めていた。


 ダイルが亜空間シェルターを解除すると、直ちに全員が行動に移った。


「ジルダ! 窓に近付くなっ!」


 レング神が大きな声で呼び掛けると、ジルダ神はこちらを向いて目を見開いた。


「レング神……さま……?」


 そう呟いたままジルダ神は固まっている。何が起こっているのか理解できないのだろう。


「窓の外から敵がおまえを狙っているぞ! 我はこの者たちと一緒にそなたを助けに来たのだ」


 レング神の叫び声や部屋の中に突然現れたオレたちに驚いて、子供たちと先生が泣き声や悲鳴を上げ始めた。


 そのとき、窓の外から男が上半身を現わして、杖のような物をジルダ神の方に向けた。そして何かの呪文を唱え始めた。


「ジルダ、我と手を繋ぐんだ! 我を信じろ!」


 レング神がジルダ神に走り寄って手を伸ばした。


 オレはそのとき、子供たちと先生を守るために魔法を操作している最中だった。眠りと念力の魔法を使って、子供たちと先生が怪我をしないように床に寝かせていたのだ。


 扉のところに立っていたジルダ神の使徒は何かの呪文を唱えていた。バリアか!? オレが床に寝かせた子供たちに対してバリアを張っているようだ。なぜ、ジルダ神ではなく子供たちを守るのか不思議だったが、今はそれを詮索している時間は無い。


 オレが子供たちと先生を寝かせ終わると同時にラウラが作戦どおり子供たち全員と先生をバリアで包んだ。魔力が〈500〉を越えているから、ラウラは守る相手の体に触れなくてもバリアを張ることができる。


 先にジルダ神の使徒が子供たちをバリアで包んでいるが、ラウラがその上からさらにバリアを二重に包んだ形になった。


 そして、オレも子供たちと先生に対してバリアを張った。三重のバリアだ。どんな攻撃を受けても防ぎきれるだろう。


 男が呪文を唱え終わったのもほぼ同時だった。男が持った杖のような物からジルダ神に向かって紫色の淡い光線が放たれた。


 危ないっ!


 ジルダ神が消えた。いや、光線が放たれる直前にジルダ神の姿が消えたように見えた。作戦どおりだとすれば、ダイルがレング神とジルダ神を連れて亜空間シェルターの中に待避したはずだ。


 だが、それを確認する時間は無かった。男が放った光線はジルダ神の後方にいたラウラに当たったように見えた。次の瞬間、ラウラを包むバリアが紫色の光で覆われた。その光は床で横たわっている子供たちと先生も飲み込み、ジルダ神の使徒も巻き込み、オレまで紫の光で覆われてしまった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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