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SGS020 オレはダークオーブもダメ

 自分がゴブリンに種付けをされるなんて、怖すぎて想像することもできない。オレは別のことを質問した。


「もしゴブリンが四頭いたなら、どうするんですか?」


「そのときはたぶん戦わないだろうな。オトリ策で二頭を眠らせたとしても、残りの二頭と戦うことになるだろ。もしその二頭がソウルオーブを装着していたら、こちらが三人でも勝てるかどうか微妙だからな」


「人族って、ほんとうに弱いんですね……」


「魔族もソウルオーブを持っていることがあるからな。結局は筋力と体力、技量やスピード、それと知恵の勝負になるのさ。オトリ策もおれたちのような人族が魔族や魔物に勝つための知恵の一つなんだ」


「え? ゴブリンを相手にするときだけじゃなくて、他の魔族や魔物を相手にするときもオトリ策を使うのですか?」


「そうだ。オトリが敵の注意を引き付けている間にハンターが忍び寄って敵を倒すという作戦は失敗が少ないからな。それとな、オトリになるのはラウラやおまえのような女の従者だ。だからおまえもしっかりと体と技を鍛えておくんだ。捕まって魔族に種付けされたり、魔物に食われたりするのはイヤだろ?」


 副長は楽しそうに話すが、オレはそれどころではない。


「だけど、体や技を鍛えたって、どうせ人族は魔族や魔物には敵わないのだから意味が無いじゃないですか」


「そんなことはない! たしかに魔族や魔物を相手に筋力や体力ではなかなか勝てないが、それでも鍛えておくことが大事だ。オトリとなって敵を引き付けながら逃げ回るには、筋力と体力は欠かせないからな。それとまだあるぞ。瞬時の判断力や動体視力、視界を広げる訓練もしておくんだ」


「そんな地味な訓練だけですか? 剣術や体術の訓練は?」


「剣術や体術のような技量も必要だが、それはおまえが基礎的な身体能力を身に付けた後で、じっくり訓練すればいい」


「じっくり……、ですか?」


「訓練は大事だぞ。それにおまえは運が良い。ラウラがおまえの指導者だからな。ラウラは身体能力も剣技もピカイチだ。おれよりもずっと強いし、レングランの兵士の中にもラウラに勝てる者は少ないだろう」


「ラウラ先輩ってそんなに強いんですか?」


 オレは近くに座って話を聞いていた先輩に顔を向けて尋ねた。


「副長があたしを持ち上げてるだけよ」


 少し恥ずかしそうに先輩は顔を伏せた。


「ラウラ、謙遜しないでいいぞ。とにかく、訓練と実戦で場数を踏むことが大事だからな。ケイ、おまえもラウラを見習って、よく教えてもらえ」


 副長の話を聞きながら考えてしまった。訓練とか実戦の場数とか言われても、それにはすごく時間が掛かってしまう。オレは少しでも早く強くなりたいのだ。


 どうやったら良いんだろ? そう言えば、さっきのゴブリンとの戦いで、オーブをたくさん手に入れたはずだ。あれを使わせてもらえれば、今よりはもっと強くなれるはずだ。


「副長、さっき手に入れたダークオーブって、たくさんあったじゃないですか。あれを使わせてもらいたいんですけど、ダメでしょうか?」


「わるいが、ダメだな。われわれが戦って得たものは全部がサレジ隊長のものになるんだ。もし配分があるとしても、それはサレジ隊長が決めることだ。それにな、ダークオーブなんか装着しても危なくて戦闘では使えないよ」


 副長は今度はじっくりとダークオーブとソウルオーブの違いを説明してくれた。


 ダークオーブもソウルオーブと同じように魔力を蓄積できるが、性能は大幅に劣る。ソウルオーブは魔力〈10〉だがダークオーブはその半分の〈5〉だ。魔力蓄積量はソウルオーブの1/4しかないそうだ。それにダークオーブはソウルオーブと違ってソウルを封じ込めることはできない。値段はソウルオーブが約10万ダールもするのに、ダークオーブはその1/50の2千ダールくらいだ。


 値段にこれだけ開きがあるのはソウルオーブの入手が非常に難しいためだ。ソウルオーブを入手するためには魔樹海を渡って命がけの旅が必要になるそうだ。五十人編成の商隊で出発しても、生きて帰ってくるのは十人に満たないこともあるらしい。


「だがな、ソウルオーブを手に入れる旅には男の夢のようなものがあるんだ」


 副長はソウルオーブを入手するための旅について熱く語ってくれた。どうやら憧れているようだ。


 ソウルオーブを入手するためには、まず、魔樹海や原野を旅してドワーフ族の国であるドワフン王国まで行く。そこではオーブ石と呼ばれているソウルオーブの原石が入手できる。オーブ石はドワフン王国でしか産出しないそうだ。


 次にそのオーブ石をエルフの国であるエルフン王国に運んでエルフン樹液で加工する。エルフン樹液というのはエルフン樹から採れる樹液で、この樹はエルフン王国でしか育たない。この樹液で加工されて、できあがるのがオーブ玉だ。そのオーブ玉を人族の国に持ち帰って神殿に売り渡す。


 まだこの段階ではソウルオーブの完成品ではない。ソウルオーブを完成品にするのは、実は神族の仕事なのだ。神族は神殿からそのオーブ玉を受け取り、それに神族専用の特別な魔法を使ってソウルオーブとしての機能を植え付ける。これでようやくソウルオーブが完成することになる。ソウルオーブを作り上げるためにはそういうヤヤコシイ工程が必要なのだ。


 ドワフン王国やエルフン王国の名前は初めて聞いたけど、それぞれドワーフ族とエルフ族が治める唯一の国だ。どちらの国も危険な魔樹海を渡って遥か数千ギモラ(キロメートル)の彼方にあるそうだ。旅の途中で魔物や魔族、海賊などに襲われてオーブ石やオーブ玉を奪われたり、殺されたりする者が多いらしい。しかもオーブ石やオーブ玉の取引きは両国とも一人200個に制限されていて、命がけの大冒険の割に少ししか持ち帰れない。だからソウルオーブは貴重なのだ。


「もし200個のオーブ玉を持ち帰ることができて、それを神殿に売り渡せたら、どうれくらいの儲けが出るんですか?」


「うまくいけば一人800万ダールくらいの利益が出るそうだ。だからな、ハンターや傭兵たちは腕を磨いてドワフン王国を目指すのさ。命が掛かっていても、何カ月どころか何年掛かっても、それだけの価値はあるからな」


 10万ダールで夫婦二人が1年間楽に生活できるというから、800万ダールということは80年分の生活費を一気に稼げることになる。オレも強くなれたらオーブ玉を手に入れる旅に出てみようか……。


 ソウルオーブは人族や亜人であれば、どこの国でも10万ダールくらいで購入できる。しかし人族と敵対している魔族は取引きする手段が無いため、ソウルオーブを手に入れるためには人族や亜人を襲うしかないのだ。


「それでな、魔族たちはソウルオーブの代わりにダークオーブを発明したんだ。言ってみれば、ダークオーブはソウルオーブの偽物のようなものだな」


「ええっ!? ダークオーブって魔族が作り出したんですか?」


「ああ、そうだ。戦いでは使えないけどな、生活の役には立っているんだぞ」


 そう言って副長はダークオーブことを詳しく説明してくれた。


 人族や亜人のソウルオーブに対抗するために魔族たちはダークオーブを作り出した。魔族たちにとってダークオーブは自国で生産できるので、入手は比較的簡単なのだろう。それにしても、今回のようにゴブリン三頭で30個ものダークオーブを持っているのは珍しいそうだ。


 人族や亜人はダークオーブを作ることはできないため、ハンターたちが魔族を倒してダークオーブを入手する。入手したダークオーブはハンターギルドで売買できるとのことだ。ソウルオーブよりずっと割安だから、ダークオーブを買っていく人は多いらしい。戦闘で直接使うのではなくて、ソウルオーブへの魔力の補充や怪我の治療、加熱や冷凍などの生活魔法で使うという話だ。


 ダークオーブが直接の戦闘で使えない理由は魔力が弱いためだ。それを装着して戦っても、相手の魔族もダークオーブかソウルオーブを装着しているから、うまくいって相討ちということだ。だからそんなものは副長が言うように戦闘では使えないわけだ。


 オレはソウルオーブだけでなくてダークオーブもダメだと言われてしまった。オレはどうしたらいいんだろう? どうやったら強くなれるのだろう?


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