SGS199 どうやって守る?
――――――― ケイ ―――――――
バーサット帝国がジルダ神を狙っているらしい。それは予想もしない話だった。ガリードと話をした後、オレはすぐにアーロ村へ戻った。
ケビンを地上へ連れて行かなきゃいけないが、その前に仲間たちへガリードから聞いた話を伝えて対策を相談した。するとラウラが良い助言を出してくれた。
「バーサットが何をしようとしているのか分からないけど、とにかくそれをレング神様に伝えておくべきよ。そうしたらレング神様からジルダ神様へ警告してくれるはずよ。孤児院でバーサットが何かを企んでるから用心するようにってね」
言われてみたら当たり前のことだ。
「うん、そうだね。そうしよう」
ケビンのことよりもジルダ神が狙われている件を優先すべきだ。
オレは直ちにレング神へ念話で連絡を入れて、ワープした。場所はレングラー王の寝室だ。ここなら内密に会うことができる。
レング神はオレの話を静かに聞いていたが、寂しそうな顔で口を開いた。
「我がジルダにそれを話しても信じてくれぬだろうな。それどころか、逆に疑われるかもしれぬ。なぜ孤児院へ出掛けていることを知っているのか、とな」
「でも、今のままでは危険ですよ」
「うむ……。だが、孤児院で何かが起こるとしても、我には何もできぬ。せめて、その場でジルダを守ってやりたいが……」
「分かりました。わたしもジルダ神とその場で接触したいと考えています。もしその場で何か起きたならば、ジルダ神を守るのはレング神、あなたの方でお願いします。バーサットの工作員をその場で捕らえるのは私に任せてください」
「だが、どうやって我がジルダを守るのだ? 我が使徒たちを動員して孤児院の守りを固めたりすれば、ジルダは我の謀反を疑うだろう。下手をすると、ジルダは我の使徒たちに攻撃を仕掛けてくるかもしれぬ。そのような危うい事態は絶対に避けねばならん。つまり……、我にはジルダを守るすべが無いのだよ」
「たぶん……、大丈夫です。ジルダ神を守ることもわたしに任せてもらえませんか?」
そう言いながらオレは一つの防衛策を頭の中に描いていた。
………………
レング神との話を終えて、またすぐにワープでアーロ村へ戻った。今日は朝から目が回るような忙しさだったが、まだ面倒な仕事が残っている。今からケビンを地上のダールムまで連れて行かなきゃいけない。
ケビンへは数年間はアーロ村へ帰って来れないと言ってあった。だから、泣きながら別れを惜しむかと思っていたが、出立のときはケビンも村長や姉のミーナたちも朗らかな顔だった。
ダールムへはラウラとダイルが同行してくれた。村人たちに見送られながらアーロ村を出発し、しばらく歩いて村が見えなくなってからケビンを魔法で眠らせた。その後は念力の魔法を使って三人で交代しながらダールムまで運んだ。
ガリード兵団の本拠地に着いたのは夜遅くになってしまったが、ガリードは寝ずに待っていてくれた。
すぐにケビンを起こしてダールムに着いたことを教えると、ケビンは部屋の中を見回してから文句を言い始めた。
「ケイ姉、無理やりおれっちを眠らせたナっ! アーロ村から地上までの旅を楽しむつもりだったのにヨぉ!」
ケビンにはダールムまで眠らせたままで運ぶことを告げて無かった。ケビンにしてみたら、不意打ちのように眠らされて、目が覚めたらダールムに着いていたのだから怒るのも当然だろう。オレが謝ろうとしたら、先にラウラが声を上げた。
「ケビン、ケイへの礼儀は!? そんな無礼な態度を取るなら、アーロ村へすぐに連れ戻すからねっ!」
「そ、そんなァ……」
「いや、わたしが悪かった。ちゃんと説明しないで、いきなりケビンに眠りの魔法を掛けてしまったからね。ごめんよ。でもね、眠らせたのは理由があるんだ。アーロ村からの道中は魔物や魔獣が多くて危険でね。ケビンがそれに驚いて予想外の行動を取るかもしれない。眠ってもらった方が安全に運べると考えたんだ」
オレが謝ると、ケビンはまた少し不貞腐れた顔をした。
「おれっちは荷物と同じってことかぁ?」
それに答えようとしたら、ダイルがオレを制して先に口を開いた。
「まぁ、そういうことだな。今のおまえは俺たちにとってお荷物だ。役立たずってことだな」
「役立たず……」
「そうだ。役立たずだ。悔しかったら、修行を重ねてもっと実力を付けろ。まずは、このガリード兵団で兵士としての基礎をしっかり修得するんだ。基礎を身に付けることができたら、アーロ村へ連れて帰ってやる。その後はアーロ村で魔闘士になるための訓練だ」
ダイルの言葉を聞いて、ケビンはしょんぼりしている。役立たずと言われたことがショックだったようだ。
でもオレが言いたかったことをダイルが代わりに言ってくれたのだ。オレは感謝の気持ちを込めてダイルに『ありがとう』と念話を送って、それからケビンに声をかけた。
「ケビン、元気を出しなさい。明日からは修行が始まるし、心掛け次第であなたが役に立つことはたくさんあるから」
オレの言葉にケビンは力なく頷いた。そんなケビンを見ながらオレは努めて明るい声を出した。
「遅くなったけど、ガリード兵団の団長を紹介するね」
紹介を終えた後、「後は任せろ」と言うガリードの言葉に甘えて、オレたちはワープでアーロ村へ戻った。
………………
ケビンはその翌日から孤児院へ入り、間諜としての役目をちゃんと果たしてくれていた。ガリードがしっかりとケビンへ動機づけをしてくれたのだろう。悪ガキでも機会を与えれば少しずつだが成長するらしい。
ケビンが探り出した情報をどうやってガリードへ報告しているのかはオレは知らない。だが毎日のように報告が上がって来ているとガリードは話していた。オレも気になっていたから何度かガリードと会って、ケビンからの情報を確認した。おかげでその内情が分かってきた。
この孤児院は児童組と幼児組、それと乳児組に分かれている。ケビンが子供たちや先生から聞いた話では、アティナ(ジルダ神の偽名)が孤児院を訪れたときはいつも同じルートで各組を回るそうだ。まず児童組を訪れて、そこで子供たちとたっぷり遊んでから幼児組と乳児組に足を運ぶらしい。
ジルダ神が孤児院へ慰問に通うのは何か別の目的があるのではないかとオレたちは疑っていた。それでガリードはケビンにその点を特に念入りに探らせたらしい。だが孤児院の誰に尋ねても、ジルダ神は子供たちと遊ぶこと以外に特別なことは何もしていないとのことだった。どうやら本当にジルダ神は慰問のためだけに訪れているようだ。
それと、事前の調査で孤児院にはバーサット帝国の工作員が臨時の先生として潜り込んでいることが分かっていた。ケビンにはその先生の動きも監視させていたが、今のところ変な動きはしていないようだ。
オレも一度その工作員の顔を見てみようと孤児院へ慰問に行ってみることにした。もちろんケビンの様子が気に掛かっていたこともある。
オレが行ったときは孤児たちへのお土産を持って、慈善訪問に来た優しいお姉さんを装った。児童組には7歳から12歳くらいまでの子供たちが十人ほどいて、女の先生二人と一緒に本を読んだり遊んだりしていた。
もちろんケビンもいたが、オレを見ても知らないふりをしていた。ケビンにはガリードから事前に連絡を入れて、そういう指示をしていたからだ。オレが児童組の部屋に入っていったとき、ケビンは同い年くらいの子供たちと“すごろく”のようなゲームをして遊んでいた。仲良くやっているようだ。
児童組の先生は50歳くらいの優しそうなおばさんと25歳くらいのほっそりした女性だった。若い方の女性は「見習い先生」と呼ばれていて2か月前からこの孤児院に通っているそうだ。この見習い先生がバーサットの工作員に違いない。
オレが訪問したときも見習い先生に不審な動きは無くて、子供たちと楽しそうに遊んでいるだけだった。
オレは孤児院へ訪問した日の深夜に、こっそりとまた孤児院に侵入した。昼間に来たときにワープポイントを設定しておいたから、ワープで転移してきただけだ。細かく部屋の間取りや家具の配置を調べ、ジルダ神の暗殺や拉致などを想定して対策を検討したのだった。
そしてジルダ神が孤児院へやってくる当日になった。
※ 現在のケイの魔力〈1026〉。
※ 現在のユウの魔力〈1026〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。
※ 現在のラウラの魔力〈812〉。




