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SGS198 ジルダ神が狙われてる?

 ガリードはジルダ神の行き先を掴んだらしいが、「こりゃ美味いな」と言いながら3枚目のお煎餅に手を出そうとしている。


「焦らさないで早く教えて。ジルダ神は半月毎にどこへ行ってるんですか?」


 ガリードはオレをイライラさせて楽しんでるようだ。性格が悪い。


「聞いて驚くなよ。レングランの孤児院さ。その孤児院へ定期的に慰問をしているらしい。慰問するときはアティナという偽名を使っているそうだが、間違いなくジルダ神だ。気が強いと言われているジルダ神が、まさか孤児の相手をしてるなど思いもしなかったぞ」


「たしかに……。ジルダ神が孤児院へ慰問をしてるなんて意外ですね」


「ああ、そうだろ? だが、その話を額面どおりに受け取って良いのかは分からん。何か別の目的があってジルダ神は孤児院へ通っているのかもしれんからな。孤児院でもっと内情を探る必要があるだろうな」


「そうですね。引き続き調査をお願いします」


「ああ。それとな、これは良くない知らせだが、その孤児院をバーサット帝国の連中が探っているようだ。何をしてるのか、とっ捕まえて尋問したら分かるだろうが、そんなことをしたら警戒されるし、こっちの正体まで探られるからな」


「狙いはジルダ神でしょうか?」


「おそらく、そうだろうな。実はな、ジルダ神のワープ先が分かったのはあんたに頼まれてバーサットの動きを探っていたからなんだ。レングランの街中でバーサットの工作員らしい女を追っていて、数日前に偶然、孤児院にジルダ神が来ることを掴んだのさ。その工作員の女は毎日のように孤児院へ通い続けている。調べたところでは孤児院に臨時の先生として通っているようだ。狙いはジルダ神だな。おれはそう考えている」


「バーサット帝国がジルダ神を狙って何か仕掛けてくる……、ということですか?」


「ああ。奴らが何を仕掛けてくるのかは分からん。おれの部下が孤児院の外から見張りを続けているが、孤児院の中で何か起こってもおれの部下では防ぐことができない。だから、あんたがジルダ神に接触するなら早い方がいいぞ。次にジルダ神が孤児院に来るのは9日後だ」


「分かりました。その日に接触できるよう準備を始めます。それと……」


 オレは一枚の紙を取り出した。日本に現れた魔物の中から出てきたコイン状の物体の写真だ。ミサキ(コタロー)がネットで検索して印刷してくれた物を持参してきたのだ。その紙にはコイン状の物体の両面が印刷されていた。


「これがどこの紋章か調べてほしいんです」


「片方はバーサット帝国の紋章だが、もう片方は見たことがない紋章だな……。分かった。調べてみる」


 この紋章の意味が分かれば、日本に魔物が現れた理由が分かるかもしれない。


「他にも二つばかりお願いがあります。その一つは捜索です。わたしと同じように異世界から召喚されてきた人がこのウィンキアのどこかで暮らしているはずなんです。たぶん三十人以上いると思います」


「もしかして、それを捜し出せと言うのか?」


「はい、ぜひお願いします。その人たちの顔や姿はこれです」


 オレは準備してきた写真を差し出した。ネットにあった画像データをダウンロードして印刷してきたのだ。お袋からの宿題に手を付けなきゃいけないからな。


「これも難しい依頼だな。捜し出せるかどうか約束はできないぞ。時間が掛かることは覚悟してくれ」


「分かってます。いつも無理なことを言って申し訳ないですが、よろしくお願いします」


「いつになく殊勝だな。費用はちゃんと払ってもらうから余計な気は使わないでいいぞ」


 ガリードは口は悪いが心根は優しいヤツだ。


「もう一つのお願いは、アーロ村の若者をガリード兵団で鍛えてやってほしいのです。今回はとりあえず男の子を一人。その後も何人かお願いすることになると思いますけど」


「アーロ村? あんたが前に言っていた村だな。闇国にあるっていう……」


「ええ、そうです。その子はケビンという名前で、元気な子ですよ」


「それで、そのケビンという子は何歳だ?」


「ええと、かなり前に13歳になったはずです」


「ふーむ、13歳か……。元気な子だと言ってたが、ケビンは見ず知らずの場所に一人で放り込まれることになるぞ。挫けずにやっていけそうか? 根性はあるのか?」


「根性ですか? それは大丈夫だと思いますよ。素直で賢い子ですし。ただ、ちょっと好奇心が旺盛で物怖じしないと言うか、悪戯好きと言うか、悪ガキと言うか……」


 オレの声はだんだん小さくなった。


「13歳で悪ガキか。まぁ、なんとかなるだろう」


「え? なんとかなるって、どういうことですか?」


「さっき話した孤児院へな……。ほら、ジルダ神が通っているという孤児院だ。そこへ誰かを潜り込ませたいと考えていたんだ。内情を探るためにな」


「ええっ!? ケビンに間諜の役目をさせるってことですか?」


「そういうことだ。孤児院へ入れるのは12歳までだが、13歳なら年齢を少し誤魔化せば大丈夫だ。有力な貴族経由でゴリ押しすれば、なんとか孤児院へ押し込めるだろう。一時的に預かって貰うだけだ。孤児院での内情を探るという役目を終えたら、ケビンを孤児院から引き取って、おれたちの兵団で鍛えてやるよ。それでどうだ?」


 そう言われてオレは考え込んだ。まさかケビンに間諜をさせるなんて考えたことも無かったからだ。


 孤児院の内情を探るというのは誰かがやらねばならない。ジルダ神はその孤児院へ慰問のため定期的に訪れているらしいが、それだけでなく何か別の目的があって孤児院へ通っているかもしれない。それにバーサットの工作員が臨時の先生として孤児院に入り込んでいるとのことなので、そいつが孤児院内で変な動きをしていないか監視することも必要だ。


 だが、ケビンにそんな間諜のようなことを任せて大丈夫だろうか……。


 いや、やらせる前から否定的に考えるのは良くないことだ。ここはケビンを信じて、任せてみるべきだろう。いきなりケビンにそういう役目を与えるのはちょっと不安ではあるが、ケビンにとっても良い経験になるはずだ。


「分かりました。ケビンにやらせてみましょう」


 オレがそう言うと、ガリードはにっこりしながら頷いた。


「ケビンはいつこっちへ来るんだ?」


「この話し合いを終えたらすぐにアーロ村へワープで戻って、ケビンを連れて引き返して来ます。今夜からガリード兵団へ預けますから、後のことはよろしくお願いします」


「分かった。おれの方でケビンが孤児院へ入れるよう手配しておく。今度の役目のこともおれからケビンへ説明しておく。今夜はケビンを兵団の兵舎に泊めて、明日からは孤児院で暮らせるよう段取りしておくから、後のことは任せてくれ」


 やはりガリードは見た目と違って頼りになる男だ。


 その後、頼んでおいた他のことについてもガリードから報告を聞いた。バーサット帝国を調査する件や盗賊に拉致されたセリナの捜索についてはまだ進展が無いが、タムル王子の評判を下げる件はほぼ成功したそうだ。


「おれたちが陰で色々工作をしたからな。この数か月でタムル王子の評判は地に落ちたぞ。タムルを王様にしたいと考えてるのはゴルディア兵団の関係者くらいで、国民の大半はそれを望んじゃいない。国民はタムルを心の底から嫌うようになったからな」


 そこまで評判が悪くなっているならば、タムル王子を王位継承者から外しても国民の不満が高まることはないだろう。ダイルのおかげで国軍が反乱を起こす心配も無くなったから、後はオレがジルダ神にこっそり接触して攻略するだけだ。



 ――――――― ミレイ神 ―――――――


 ジルダ神様を暗殺する準備を私は始めていた。この企てに思い至ったのは、3か月ほど前にジルダ神様からアーロ村の守護神と戦って殺すことを命じられたからだ。魔力が〈3000〉もあるような化け物に戦いを挑んで私が勝てるはずがない。そんな無謀なことをするくらいなら、いっそジルダ神様を暗殺して、自分が第一夫人となってレングランの真の支配者になってやる。私はそう考えた。


 ところがあのサレジが私の許しも得ずに勝手な振る舞いを始めてしまった。闇国からの反乱軍がレングランの王都へ攻め上ってくるという噂をバラまいて、王都防衛隊にまで働きかけてケイを指名手配させたのだ。どうせケイに対する憎しみを募らせて浅はかな策略を仕掛けてしまったのだろうが、もしそれがレング神様かジルダ神様に知られて、サレジと私の関係が露見したらどんなに危ういことになることか。今考えても腹が立つ。


 サレジをきつく叱ったが、事情を聞いてみると、私にとって悪い話ばかりではなかった。サレジはゴルディア兵団の団長であるゴルドと親しいようで、ゴルドを介してタムル王子とも繋がりを持っていることが分かったのだ。この関係を利用しない手はない。


 さっそく私はタムル王子とゴルドに接触した。そしてこの3か月の間に暗殺の準備と並行して、私はタムル王子やゴルドとの関係を深めてきた。ジルダ神様が死んだ後に、私がゴルディア兵団を使ってレングランを陰から支配するためだ。それは思いのほか順調に進んだ。タムル王子もゴルドも私のことをジルダ神様と同様に敬い、命令に従うようになった。


 しかし、なかなか思ったとおりには行かないものだ。暗殺の企てがバーサット側に漏れてしまったのだ。


 ジルダ神様の暗殺をバーサット帝国の仕業に見せ掛けるために、3か月前から私は使徒たちに命じてレングランでのバーサットの拠点を調べさせていた。だが、それが逆にこちらの動きをバーサット側に知られる要因になってしまったようだ。


 いったいどこから私の企てが漏れてしまったのだろうか……。


 2か月ほど前、使徒の一人が私宛の手紙を持ってきた。その手紙は私のレングランの拠点に投げ込まれていたらしい。


 封を切ると、その中には私の企てが記されていた。ジルダ神様をバーサットの仕業に見せ掛けて暗殺しようとしていることだ。それをジルダ神様に知られたくなければ一人で会いに来いという内容だった。


 その手紙を読んだとき、私は頭の中が真っ白になった。不安で今にも気が狂いそうになったが、相手の指示に従うよりほかない。


 私は指定された時刻に指定された場所へ出向いた。それはレングランの街中にある普通の民家だった。


 その家に入ると、一人の男が待っていた。魔力が〈254〉の魔闘士だ。年齢は40歳くらい。闘技場の戦士のように鍛え上げた体格をしている。男の名前はロイド。バーサット帝国の者だと名乗っていた。名前は偽名かもしれないが、男がバーサット帝国の工作員であることは間違いない。


 ロイドはある取引きを持ち掛けてきた。秘密裏に私がバーサットへ協力すれば、代わりにバーサットがジルダ神様を暗殺すると言うのだ。私が暗殺を依頼したことは極秘にすると言う。


 暗殺の代償は、レングランを魔族と共生する国に作り変えていくことに私が協力するということだ。その企てが上手く進んで、レングランが魔族と共生する国になった後も、私がレング神様の第一夫人となってレングランを陰から支配してよいとロイドは言う。


 この取引きを断れば、私には破滅しかない。この取引きを受けるしか私の選択肢は無かった。


 だが、それほど悲観することはないのかもしれない。人族と魔族との共生は以前にレングラー王が同じような政策を試みたことがある。これは無謀な話ではない。むしろ、レングランを大躍進させる機会かもしれないのだ。


 私は決めた。ジルダ神様の暗殺をバーサットに任せようと。ジルダ神様に代わって私がレングランの真の支配者になり、この国を大躍進させるのだ。


 だが、ロイドは一介の工作員にすぎない。その口約束だけを信じて事を進めるのは無謀すぎる。私はロイドにバーサット帝国の皇帝が署名した約定書を求めた。そんなものは何の役にも立たないことは分かっているのだが……。


 そして2週間ほど前に私の手元にその約定書が届いた。


 ロイドがその約定書を持ってきたとき、暗殺方法が決まったことを教えてくれた。異空間転移装置という古代のアーティファクトを使うらしい。これを使えば誰にも気付かれず、静かなる暗殺を行えると言うのだ。ジルダ神様だけを狙い、惨い殺戮の場面も見せず、音も立てず、死体も残さずに狙った相手をこの世から消し去ることができるらしい。


 しかも、このアーティファクトを使えば、相手がバリアを張っていても、そのバリアごと消し去ることができるそうだ。


 これを使えば、誰もジルダ神様が暗殺されたとは思わないだろう。


 正確に言えば殺すのではない。このアーティファクトを使ってジルダ神様を異空間へ追放するのだ。その異空間がどのような世界なのかは知らないが、追放された者はウィンキアへ帰ってくることはできないらしい。だから消滅するのと同じだ。ジルダ神様はこの世界から消えてしまうということだ。


 私はジルダ神様が密かに訪れている孤児院で暗殺を行うつもりであったが、どうやらロイドも孤児院での暗殺を企てているらしい。ロイドにその準備状況を尋ねると、2か月前からロイドの部下が孤児院に毎日通い続けていて、子供たちや先生と仲良くなっていると説明してくれた。当日には、ロイドの部下が二人で暗殺を決行するそうだ。


 困ったことに私にも協力してほしいとロイドが言ってきた。暗殺を行った部下が逃走する際の手助けを要請されたのだ。こうなった以上、断ることはできないだろう。


 ロイドは絶対に失敗しないと言った。そのためにロイドは、部下を連れて孤児院の下見を行い、孤児院の内部や脱出経路を入念に確認したそうだ。数日前にジルダ神様が孤児院へワープしてきたときにも、ロイドの部下が偶然を装って居合わせて、何も知らない振りをして子供たちと一緒に遊んだとのことだ。


 狙うのはジルダ神様と護衛の使徒だけだ。子供たちや先生に害は及ばないと言う。


 この暗殺方法を使えば、ジルダ神様と護衛の使徒は行方不明ということになるだろう。ワープに失敗して異空間の狭間に落ち込んでしまったとレング神様や周りの者たちは考えるに違いない。騒ぎも起きず、私に疑いの目が向けられることもないはずだ。


 私がバーサットに味方してジルダ神様の暗殺に係ろうとしていることを知っているのは副官のニドだけだ。ほかの使徒たちには秘密にしている。私がやったことだと露見しない限り、ニド以外の使徒たちには黙っているつもりだ。


 もう後戻りはできない。決行の日は9日後だ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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