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SGS196 宿題がまた増えた

 今のままではマズイ。ナデアが菜月に嫌われてしまう。


「ナデア、念話で菜月に話しかけてみて」


 その直後、菜月が目を大きく見開いて、じっとナデアを見つめた。ナデアも菜月の手のひらに乗ったまま菜月を見つめている。念話で何かを語り合っているのだろう。


 しばらくすると、ナデアが後ろ足だけで立ち上がって、右腕を上げた。その腕で鼻を掻き、次に耳を掻いた。おそらく菜月から念話でそうしろと言われたのだ。


「じゃあ、今度は立ったまま踊ってみて」


 思わず声が出たのだろう。菜月はベロをちょろっと出して照れくさそうに笑った。命じられたナデアは菜月の手のひらの上で盆踊りのような感じで脚を交互に出しながら短い腕を振り上げて踊っている。シッポで体を支えているから引っくり返らないのだろうが、ネズミが盆踊りを踊る姿はかなりシュールだ。


「ナデア、もういいよ。ありがとう」


 オレはナデアの踊りを止めさせて、菜月の手からナデアを受け取った。


「このネズミに入っている魂はね、実は人間の女性の魂なのよ。ちゃんと人間としての意識も知性もあるから、人間と同じように扱ってあげてほしいの」


「ええっ!? お姉ちゃん、ホントなの?」


「本当よ。ナデアっていう名前は人間だったときの名前よ。私はね、ナデアをいつか人間に戻してあげたいと思ってる。でも、当分の間は菜月、あなたを守ってくれる守り神よ。だから、ナデアを大切にしてあげて。分かってくれた?」


「ええ、もちろんよ。なんだかお伽話に出てくるお話しみたいで、素敵ねぇ。よく見たら、このネズミってすごく可愛いじゃない。あたしもナデアって呼び捨てにしていいのかな?」


 ナデアは立ったまま「チュー」と鳴いて頷いた。菜月が言うように、姿も顔もホントに可愛いネズミなのだ。


「じゃあ、ナデア。これから、よろしくね。お友だちになってね」


『ナデア。念話を仲介してあげるから、菜月と話していいよ』


『あたし、菜月さんとお友達になれるなんて、最高に嬉しいです。菜月さん、これからよろしくお願いしますね』


 その後、ミサキ(コタロー)を異空間ソウルへ戻し、代わりにコタローに犬の姿でこの部屋へ来てもらった。そして、菜月とナデアにコタローを紹介して、コタローが毎日この部屋にワープしてくることや、ナデアをときどき浮遊ソウルに戻してネズミの体のメンテナンスを行うことなども説明した。


 今夜から菜月はナデアと一緒に眠ることになった。きっと菜月とナデアは良いコンビになるだろう。


 ………………


 次の日の朝。オレはユウの振りをして両親や妹の菜月と一緒に朝食を食べながらウィンキアに戻ることを告げた。


「次はいつこっちへ帰ってくるの?」


 寂しそうな顔をして母親が尋ねてきた。


「それは分からないけど、毎日、コタローがこっちに様子を見にくるからね。何かあったら、すぐにワープで帰ってくるから。ママ、安心して」


 オレもちょっとずつユウのような口調で普通に話ができるようになっている。でも、正直言ってこの口調で話すのは嫌だ。自分が無理をしてユウの振りをしているという違和感とユウの家族を騙しているという罪悪感を感じるからだ。


 ユウの父親からは「毎日おまえも顔を見せろ」とか色々言われたが適当に受け流しておいた。


 それと、ナデアを菜月のペットとして両親に紹介しておいた。ネズミの姿を見たとたん父親も母親も息を呑んで一斉に文句を言い始めた。予想どおり反対されたが、ナデアの素性を正直に話して、菜月を守るためだと言い聞かせた。オレの言うことを素直に受け入れるという暗示が効いているせいか、両親はナデアを家族同然に扱うと約束してくれた。


 ………………


 新居へワープで戻ると、ミサキ(コタロー)がパソコンに向かって作業をしていた。ミサキは昨夜からこっちで泊まっていたのだ。


『完成したわよ』


 ミサキがこっちを向いてにこっと微笑んだ。


『えっ? 何が完成したの?』


『オンラインで自動的に株取引をするプログラムをね、作り込んでたのよ。プログラムがすべての株取引や企業の動向を監視しながら分析して自分で学習するのよ。儲けが出そうなところをプログラムが自分で判断して株を売買するから、後はこのプログラムに任せておけば、どんどんお金が溜まっていくわよ』


『すごいな。こんな短時間で、人工知能のようなプログラムを作ってしまうなんて……』


『いえ……、実はね、人工知能のエンジンはソウルオーブを使ってるのよ。ソウルオーブにはそういう機能が備わっているから。それを利用して、パソコンと接続したの。私が作ったのはソウルオーブとパソコンを接続する装置やプログラムよ』


 ミサキに言われてパソコンを見てみると、たしかに外付けの装置が2つ付いていた。


『その装置の中にソウルオーブと大魔石が10個ずつ入っていて、並列処理をしてるのよ。魔力で動いてるから、年に1回くらいは大魔石に魔力を補充しなきゃいけないけどね。それと、そっちの装置は魔力信号と電気信号を相互に変換する装置よ。これがあればパソコンとデータのやり取りができるの』


『すごいね……』


 感心してしまって、オレにはそんな言葉しか出て来なかった。


『プログラムの動作をもう少しテストするわね。オンライン取引の口座が正式に開設できてから本稼働させる予定よ』


 ミサキにはそのまま作業を続けてもらった。オレは1階に下りて、お袋と一緒にお茶を飲みながら雑談をした。リビングの中から雑草が伸びた庭を眺めて、取り留めのない会話をしただけだが、それがなんだかすごく貴重な時間のような気がした。


 何度かお茶のお代りをして、そろそろ2階の新居に戻ろうと思っていたら、お袋がオレの方に顔を向けた。


「ねぇ、ケイ。こっちに戻って来れたのはあなたやミサキさんだけだと言ってたわねぇ。でもねぇ、ほかの行方不明になった人たちもどうにかして連れ戻せないの?」


「ほかの行方不明の人たちを連れ戻すの? わたしが?」


「そうよ、ケイ。あなたなら行方不明になっている人たちを捜し出して、こっちの世界に連れ戻せるんじゃないの? 路線バス失踪者の家族会というのを毎月やっていてね。あたしもときどき参加してるんだけど。残された家族の人たちはみんな心の底から心配してるのよ。ねぇ、なんとかしてあげなさいよ」


 言われてみてハッと気が付いた。行方不明になっている人たち一人ひとりに家族がいて、毎日心配しながら帰りを待ち続けているはずだ。


「うん……、分かった。今までは自分が生き残ることで精一杯だったからね。ほかの人たちのことまで気が回らなかったけど、向こうの世界で捜してみるよ。でも、捜し出せたとしても、こっちの世界に戻すのは難しいと思う。今のところ、その方法が無いんだ……」


 方法が無いと言うのはウソだ。オレの使徒にすればこっちへワープで連れ戻すことはできる。でも、使徒にできる人数は限られている。誰を連れ戻して誰を残すかという難しい選別をしなければならない。正直言って、知らない人間を使徒にはしたくない。今はそんなことを考えたくもないし、お袋にそれを話して重たい気持ちにさせたくもない。


「ケイ、あなたが自分でやるべきと思ったことをやったら良いのよ。あなたが無理をせずに頑張れる範囲でね」


 無理をせずに頑張れる範囲って、どんな範囲なんだ? オレは心の中でそう呟きながらも「分かった」と頷いた。


「さて、そろそろお昼の用意をしようかねぇ」


 お袋は立ち上がって台所で昼食の準備を始めた。


『また宿題が増えちゃったね』


 ユウはお袋との会話を聞いていたらしい。


『うん……。連れ戻せるかどうかは別にして、捜し出すことは始めないとね』


 けっこう重たい宿題だけど、やらなきゃいけないと思う。


 ………………


 ミサキも呼んで、お袋が作ってくれた昼ご飯を食べた後、午後は注文してあった電気製品や家具などの受け取りを行った。その中の半分以上が異空間ソウルとウィンキアへ持って帰る物なので、梱包されたまま異空間倉庫の中に収納した。


 新居の片付けが終わった後、オレたちはお袋に「じゃあ、帰るね」と軽く挨拶をして、ウィンキアへワープした。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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