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SGS195 ネズミは守り神

 オレがナデアのソウルをネズミの中に移植しようと考えたのはユウの妹を守るためだ。その考えを高速思考でユウに説明した。


 あのストーカー男を解放した後で、なんとなく心配になってきたのだ。永太は二度と菜月を付け回すことはないだろうが、永太に指示を出していた「アニキ」が永太の説明に納得するだろうか。菜月を見初めたのはアニキの方だと永太は話していた。そうだとすれば、菜月の周辺を警察が警戒していると知っても手を出してくるかもしれない。


 菜月を守ってやりたいが、オレやミサキがずっと菜月に張り付いて護衛をすることはできない。それでネズミを使うことを思い付いたというわけだ。


 小さなネズミであれば、いつでも菜月のそばにいられる。以前にコタローから聞いたのだが、ソウルゲートの人工生命体はソウル移植に伴う失敗の危険性も無いし拒絶反応も起きないそうだ。このネズミも人工生命体だし、異空間ソウルの中で常にリフレッシュされて健康な状態を保っている。このネズミにナデアのソウルを移植して、ナデアに菜月を守ってもらったらどうか。オレはそう考えた。


 小さなネズミであってもソウルオーブは実装できる。こっちの世界ではソウルオーブの魔力も半減して〈5〉になってしまう。だが、ナデアの魔力も〈5〉だから、ナデアがソウルオーブを実装すれば最大魔力は〈10〉になる。そうすれば、ネズミが菜月に触れていれば、何かあったときにバリアで菜月を守れるはずだ。


『ケイの考えていることは分かったし、菜月を守りたいっていうケイの気持ちも嬉しいのよ。でも……。ネズミになって菜月を守ってほしいなんて、ナデアの気持ちを考えたら、私はお願いできない……』


『ユウは何も言わなくていいよ。ナデアにはわたしからお願いするから。それに、ずっとネズミに入ったままじゃなくて、菜月ちゃんの危険が無くなればナデアは浮遊ソウルに戻すし、もし人族の体で良さそうなのが見つかったらナデアのソウルをそっちへ移植しても良いし。ナデアに断られたら、もちろん諦める。ということで、どうかな?』


『一時的ということなら、ナデアも引き受けてくれるかもしれないけど……。でも、ネズミになったナデアが菜月に触れているのは無理じゃないかしら……』


 ナデアがネズミに入ったとしても魔力は〈10〉しかない。ナデアが自分のバリアで菜月を守るためには、バリアを張っている間は菜月に触れていなければならないのだが、そんなことが本当にできるのかとユウは心配しているのだ。


『いや、良い方法があるんだ』


『あっ! ケイ、まさか、あの意地悪な女官に仕返しをしたのと同じ方法を使うつもりじゃないでしょうね!』


 ユウが言ってるのは、股の間にネズミをぶら下げる方法のことだ。菜月の股間にネズミをぶら下げるなんて、とんでもない。やったら、面白そうだけど……。


『そんなことをしたら、ナデアだけじゃなくて菜月ちゃんも絶対に承知しないよ。コタローに確認したらね、肌に直接触れてなくてもバリアで守れるらしい。着衣のポケットや肩に掛けたバッグの中にネズミが入っていれば、ネズミがバリアを発動したときに菜月ちゃんも一緒にバリアに包まれるって、コタローはそう言ってたよ』


『それなら大丈夫ね』


 ユウも納得してくれたので、オレは高速思考を解除してナデアに同じことを説明した。


『分りました。菜月さんを守れるかどうかは分りませんが、頑張ります』


 ナデアは素直だ。最近まで人魂や幽霊の姿になって人を驚かしていたとは、とても思えない。


『じゃあ、ナデア。ちょっとここで待っててもらえる? 用意してくるから』


 オレとユウは異空間ソウルへワープした。ソウル移植を上手く行うためには魔力が高い方が良い。だから、ソウルの一時移動を解除して自分の体に戻るのだ。


 10分後、安全な異空間ソウルの中でクールタイムを過ごしてからオレとミサキはユウの部屋に戻ってきた。オレはユウの姿に戻っているし、ミサキはコタローが操っている。ユウは異空間ソウルの中だ。


 すぐにソウルの移植を行って、その後でミサキが知育魔法を使ってナデアに魔法全般と正しい日本語や社会人程度の一般知識や常識などを教え込んだ。


 ソウル移植に伴う拒絶反応も起きていないようだ。別の体にソウルを移植したときに魔力が極端に弱くなる現象が起きて、移植後はほとんどの魔法が使えない状態になる。それが拒絶反応の症状だ。ソウルが新しい体に順応してきたら魔力は回復するが、それには1か月から数か月掛かるそうだ。


 だが、ナデアが入ったネズミはソウルゲートの人工生命体で、拒絶反応が起こらないように調整されていた。だから魔力も弱まっていないし、魔法もすぐに使える状態だ。


 ネズミだから言葉を喋ることはできないが、ナデアに正しい日本語を教えたのは相手に触れていれば念話で話ができるからだ。ただし、念話をするには魔力が最低でも〈10〉必要なので、自分の魔力を使うナデアは長話はできないはずだ。


『ナデア。気分はどうかな?』


 子ネズミになったナデアはオレの手のひらに乗っている。


『はい。なんだかすごく新鮮な感じがします。幽霊でも五感はありましたけど、今の方が、何て言うか、感覚が鋭い感じがします』


 それは、このネズミが偵察用の人工生命体として作られているから、五感も鋭くなっているのかもしれないな。


 オレは異空間倉庫から小さな首輪を取り出した。


『これを首につけるからね』


 そう言いながら、ナデアを机の上に移して首輪をつけた。首輪は、ネズミになったナデア用としてコタローが作ったもので、ソウルオーブが2個埋め込まれている。1個は装着用で、もう1個は魔力補充用だ。


『ソウルオーブを装着して、バリアを発動してみて』


 ソウルオーブの装着もバリアの発動も呪文を唱えなければならないが、ナデアは無詠唱で魔法が使えるから問題ないはずだ。


『はい、発動しました』


『じゃあ、バリアがちゃんと働くか実験するね』


 オレは机の上にあった古い雑誌を丸めながら言葉を続けた。


『今からナデアを叩くけど、バリアが防いでくれるはずだから。万一を考えて寸止めするから怖がらないで』


 返事を待たずにナデア目掛けて振り下ろした。「パシッ!」という音がして雑誌が弾かれた。


『ナデア、大丈夫?』


『はい……。ビックリしましたけど、体は何ともありません』


『バリアはちゃんと機能してるね。ナデアがネズミ単体でバリアを張ってるだけなら、満タンのソウルオーブが1個あれば10年くらいは魔力の補充無しで連続して使えるからね』


 それはコタローから聞いた話だ。何しろ子ネズミのサイズだから、ほとんど魔力を使わないらしい。


『でも、ナデア単体じゃなくて菜月も一緒にバリアの中に入れるときは注意して。ソウルオーブの魔力だけじゃなくて、ナデア自身の魔力を使うことになるからね。バリアを張り続けると、あっという間にナデアの魔力が枯渇しちゃうよ。念話も使えるようになるけど、魔力が〈10〉必要だから、菜月と長いお喋りはしないように。ソウル内の魔力を使いきってしまったら、あなたのソウルが消滅してしまうことになるんだ』


 それは完全な死を意味する。浮遊ソウルにもなれないってことだから。


『はい、分りました。十分に注意します』


『それと、もう一つ言っておくことがあるんだ。時々、ネズミの体からナデアのソウルを外して、ネズミの体をメンテナンスするからね。覚えておいて。そのときは、今までのような意識を持った浮遊ソウルに戻るだけだから心配ないよ』


 このネズミは人工生命体で永遠に生きることができるが、それはソウルゲートの中で定期的にメンテナンスされるからだ。それと、あまり長くナデアのソウルをネズミの体に入れたままにしておくと、その体に完全に定着してしまう。そうすると、万一ネズミが死んでしまったらナデアは普通の浮遊ソウルになってしまうらしい。


 ナデアが一通りの注意事項を理解したのを確認して、オレは妹の菜月を呼びにいった。


 菜月にミサキを紹介してお互いに挨拶を済ませた後、オレは自分のバッグからナデアを取り出した。両手で包んで、まだ菜月には見えないようにしている。


「ねぇ、菜月。これを貸してあげる。あなたの守り神よ」


 ユウの口調で語りかけた。


「えっ? なんなの?」


 オレは包んでいた両手を開いた。何が出てくるのかと覗き込んでいた菜月が「キャッ!」と悲鳴を上げて仰け反った。


「何かと思ったら、ネズミじゃない! お姉ちゃんたら、酷いっ!」


 菜月はちょっと涙目になって睨んでいる。


「これはね、普通のネズミじゃないのよ。今、見せてあげるから」


 オレはナデアを自分のバッグに入れて、それを菜月に持たせた。


「じゃあ、ナデア。バリアを張って菜月を包んで」


 そう言いながら、机の脇に置いてあったテニスラケットを振り上げた。


「どうしたのっ!? お姉ちゃん、止めてっ!」


 目を大きく見開いて驚く菜月に向かって、オレはラケットを思いっ切り振り下ろした。


「キャッ!!」


 悲鳴を上げて、菜月は体を竦ませた。


「パシッ!」という音とともに、ラケットは大きく弾かれて、バリアが光りを発した。


「ナデア、ありがとう。もういいよ」


「お姉ちゃん、これは、どういうことなの?」


 菜月に子ネズミのナデアがバリアなどの簡単な魔法を使えることを説明し、外に出たらナデアをバッグかポケットに入れて肌身離さず持ち歩くよう菜月を説得した。その理由も話したが、菜月はまだ疑わしそうな目でバッグの中のネズミを見ている。


「菜月、あなたの手のひらに、この子ネズミを乗せてみて。清潔だし、噛んだりしないから。ほら、怖がらないで」


 オレはそう言いながら、バッグの中からそっとナデアを取り出して、菜月の手に移した。


「でも……。あたし、ネズミは嫌いなんだけど……」


 菜月の手がちょっと震えてる。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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