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SGS194 ストーカーを再起不能にする

 新居の片付けを終えた後、オレはユウの家にワープした。お袋には明日の昼前には戻ると言ってある。ワープポイントを新居のリビングに設定したから、いつでもお袋が待つ家に戻って来れる。


 ユウの部屋にはナデアが待っていた。夕方近くになっていたから、部屋の中は薄暗い。と言っても人魂が浮いてるわけじゃなく、ナデアの存在は探知魔法で分かるだけだ。


『ナデア、ただいま』


『おかえりなさい。帰りは夜って聞いてましたけど、早かったですね? あらっ? ミサキさんは?』


『ちょっと用があるんで、もう少ししたらこっちにワープしてくるよ』


 ミサキは買ってきたパソコンの設定を行うと言って、新居に残っているのだ。


『それより、隣の部屋には菜月がいるみたいだね? 昨日、戻って来てから、どんな様子だった?』


『はい。菜月さんはご両親からあの村で何があったかを聞いて、すごく恐縮してました』


『父親に背負われて山を下りてきたって聞いたの? 魔物研の連中に縛られて怖い思いをしたし、気絶したまま家まで戻ったから、ショックを受けたんだろうねぇ……』


『はい、あたしもそう思います。それでショックを受けたのか、疲れていたのかは分りませんが、昨日は昼間もずっと横になっていたようです。でも、今朝は大学というところへ出掛けて行き、さっき帰って来ました』


『分かった。じゃあ、菜月と会ってくるから、ナデアはここで待ってて』


 廊下に出てユウと体を交代し、オレは異空間ソウルに戻った。ユウと妹の菜月が何を話すのか気になって、オレは五感を澄ませた。


 ユウがドアをノックすると、「はい……?」と戸惑ったような声が聞こえた。


 ユウがドアを開けると、菜月がこちらを見て大きく目を見開いた。


「おねぇ……ちゃん……?」


 菜月はベッドに腰掛けて本を読んでいたようだ。その本を床に落としてしまったが、そのまま立ち上がってユウの胸に飛び込んできた。


「ホントにお姉ちゃんなの?」


「菜月、ごめんね。心配をかけて……」


 ユウは妹を抱きしめた。その後、ベッドに二人で腰掛けて、今まで何があったかをユウは菜月に説明した。菜月には昨日の山の中で暗示を掛けておいたから、ユウの話を素直に受け入れているようだ。


「異世界とか魔法とかホントにあるのね? パパやママはその話を知ってるの?」


「ええ。実はね、私は友だちと一緒に一昨日の夜に異世界から戻ってきたの。そのときに今までのことを話したからパパとママは知ってるのよ。その後でパパからあなたが魔物研に入って合宿へ行ってると聞いたんだけどね。嫌な予感がしたから、パパにお願いして一緒に迎えに行ったのよ」


「じゃあ、あたしを助けてくれたのは……?」


 ユウは頷いた。


「ええ。パパと一緒に……。ごめんね。パパたちから聞いたけど、菜月が魔物研に入部したのは、私を捜すためだって……」


 ユウの言葉に菜月は項垂れた。


「それもあるけど……。嫌なヤツから逃げたかったの……」


「えっ? どういうこと?」


「あたしが大学に入ってすぐに、その男の人に映画に出ないかって誘われて……。同じ大学の学生なんだけど、芸能プロダクションでバイトをしてるんだって。それが強引なのよ。君ならすぐに主役になれるって言って、毎日、教室の前であたしを待ってるの。あたしを付け回してるようで気持ち悪くて……。それで、どこかのクラブに入部したら仲間ができて守ってもらえるかなって思ったの……」


 妹の菜月はユウと似ていてホントに可愛い顔をしてるし、スタイルも抜群だ。だから芸能プロダクションにスカウトされるのも分かるが、その男はいかにも怪しい。


 魔物研のことと言い、そのストーカーっぽい男のことと言い、ユウの妹は不運が付き纏っている感じだ。もしかすると菜月って運パラメータが低いのかもしれないな。そんなパラメータは無いけれど。


「それで、まだ付け回されてるの?」


「ええ。魔物研に入ってからも、ずっと……。今日も午後の授業が終わって教室から出たら、そいつが待っていたのよ。だから急いで逃げて帰ってきたの。でも、駅に下りてからも尾行されてる気がして……」


 オレは急いで探知魔法を発動して周囲を探った。いつもとは立場が逆だが、今はオレがユウを異空間ソウルからサポートするのだ。


「でも、もう大丈夫よ。私がそのストーカーから守ってあげるから」


 ユウの言葉を聞いても菜月は不安そうな顔をしている。


 オレは高速思考を発動した。


『ユウ、探知で探ったら、たしかに家の近くの道路でずっと動かないヤツがいるよ。たぶん、そいつだろうね』


『ケイ、どうしたらいいの……?』


 妹には守ってあげるとか言ったくせに、ユウは不安そうだ。


『任せて。なんとかするから……。ミサキ、聞いてたでしょ? 体を交代してくれる?』


『えっ!? こっちはまだ作業中なんだけど』


 ミサキ(コタロー)は新居でパソコンを使って何かの作業をしていたらしく、渋っていたが、オレは強引にミサキの体に入った。


 そして、すぐに新居から外に出て、タクシーでユウの家の近くまで行った。


 家のそばまで歩いていくと、自販機の陰に男が立っていて、ユウの家の方を見ていた。25歳前後のひょろっとした男で、髪の毛がモジャモジャでむさくるしい感じだ。


 オレは普通の通行人のように歩いて、モジャモジャ男に近付いた。


「あのぅ、ちょっとお願いがあるんですけど……」


 そう言いながら、オレは男に向けて魅了の魔法を発動した。今はミサキに入ってるから〈103〉しか魔力が無いが、その出力をフルに使ったら魅了の魔法は十分に効くはずだ。


「ヤヴァイ! すっげぇ美人! で、おれに何か用があんの?」


「ええ。恥ずかしいんですけど……。わたし、ラブホに行ってみたくて……。わたし一人では入りにくいんで、もしよかったら、一緒に付き合ってほしいんです……。ねぇ、一緒に行ってくれます?」


 男の腕を取って甘えるように言うと、逆にオレの腕を掴まれた。


「おお、行こうぜ! おれに任せろって」


 こんな無茶苦茶な話は普通なら絶対に怪しむはずだが、たっぷりと魅了の魔法が効いているから、男は全然疑わない。


 男に手を取られたまま広い道路まで一緒に歩いてタクシーを捕まえた。男が時々利用すると言うラブホテルまで行って、中に入った。オレもラブホを使ったのは結婚前までだったし、女としてラブホへ行くのはもちろん初めてだからな。ちょっと緊張してしまう。


 部屋に入ると、照明も内装もすべてが淡いピンクに包まれていて、部屋の真ん中にキングサイズのベッドがどかんと鎮座していた。


「よーし! おまえはお姫様だ。抱っこしてやるぜ」


「きゃっ!」


 いきなりお姫様抱っこをされて悲鳴を上げてしまった。この男、意外に力があるらしい。


 そのままベッドまで運ばれて、ベッドの上に寝かされた。と思ったら、男がオレの上に覆い被さってきた。オレの首筋に男の顔が迫ってくる。思わず、顔を逸らせた。と同時に眠りの魔法を発動した。


 重い……。男がオレの上で眠っているからだ。


 危うく男にキスされるところだった。


 男を念力で持ち上げて横に降ろした。さて、今からこいつを尋問だ。ラブホに誘い込んだのは男に暗示を掛けて、女性に対して二度と悪いことをしないようにするためだ。


 魔力が低くなってしまったので、昔のように暗示魔法は何度も失敗を繰り返した。30分後にようやく暗示が掛かると、男はオレの尋問に素直に答え出した。


 男の名前は高井永太、24歳。菜月と同じ大学だが、休学中らしい。だが、大学へは時々顔を出している。なぜなら女性をハントするためとのことだ。


 永太が「アニキ」と呼んでいる男がいて、その男から永太は命令を受けて動いていた。永太がハントしてきた女性は、そのアニキがAVに出演させたりソープ嬢として働かせたりしているらしい。


 永太がバイトをしているのは本当だったが、それは永太がアニキに雇われていただけで、芸能プロダクションというのが本当に実在するかどうかは永太自身も知らなかった。


 実は、妹の菜月を見初めたのはそのアニキの方で、永太は指示を受けて菜月に接近したようだ。しかし、永太自身が菜月に惚れこんでしまって、ストーカーのように付け回したと永太は語った。


 アニキがどこの誰なのかを尋ねたが、永太はアニキの名前も電話番号も知らなかった。そのアニキが「店」と呼んでいるカフェバーがあって、いつも永太はそこでアニキと会ったり、女性を引き渡したりしているようだ。


 永太はそのアニキがどこかの暴力団の組員だと考えていた。だから、深入りし過ぎない方が安全だと考えて、敢えて名前も電話番号も聞いていないそうだ。


 そのアニキはどこの誰かは分からないが、店の名前とその場所は永太から聞き出した。


 さて、どうしようか? そのアニキという男に対しても同じように女性に対して再起不能にしておいた方が菜月のためには安全だが、どこかの組員だとすれば厄介だ。拳銃や機関銃を持つ人間を百人や二百人相手にしても、オレがユウの体に戻って魔法を使えば簡単に勝てるだろう。だが、そんなことをしたら大騒ぎになって自分たちが危うくなってしまう。


 ここはやはり自重すべきだ。軽はずみに動くのは止めておこう。再起不能にするのはこの永太だけにして、そのアニキからの魔の手が伸びて来ないようにしておくのだ。オレはそう決めた。


 永太に再び暗示を掛けて、あるシナリオを信じ込ませた。それは、こうだ。


 永太が菜月を調べたら、その姉が6年前の路線バス乗客失踪事件の乗客の一人であり、頻繁に警察官が菜月の家を訪ねたり、国の特別捜査官が家族に接触したりしていることが分かった。


 今日、永太が菜月を尾行して家の前まで行ったら、突然、男たちに囲まれて警察署に連行されてしまった。そこで厳しい取り調べを受けて、二度と菜月に手を出さないよう脅された。永太はその取り調べでショックのあまり男としての機能を失ってしまった。


 本当はオレと一緒にラブホテルの一室にいるが、それをすべて忘れさせて、代わりに警察へ連行されたと思い込ませたのだ。


 永太は、警察が菜月の周辺を警戒していると完全に信じ切った。


 アニキに何があったのか問われたら、泣きながらそのシナリオを話すように暗示を掛けた。さらに、永太の男性機能を役立たずにして、女性に対しては完全に自信を喪失させておいた。これでこの男に騙されたり泣かされたりする女性はいなくなるだろう。


 永太の手を取って一緒にラブホテルを出ると、オレは永太の耳元で囁いた。


「二度と菜月に近付くな。これで釈放だ」


 永太は逃げるようにして走り去った。暗示で警察官の言葉だと思い込んでいるからだ。


 オレはタクシーを拾って新居に戻った。街の通りでは安易にワープできないから面倒だ。人通りが無くても、監視カメラで撮られているかもしれないからだ。


 ………………


 新居に戻ると、すぐにユウの家へワープした。ユウの部屋にはナデアがいたが、オレ(ミサキ)が突然姿を現しても驚かなかった。事前にミサキが遅れてワープしてくると言っておいたからだ。


 オレがこの部屋に戻ってきたのは夜の9時を過ぎていた。オレが戻ったと知って、ユウが部屋に入ってきた。ユウは両親と妹の四人で夕飯を食べて、久しぶりの一家団欒を楽しんできたところだ。


 オレが菜月を付け回していた男を懲らしめたことをユウはもちろん知っている。その話はユウから妹の菜月にも伝わっていた。ユウの友人であり、異世界から一緒に帰ってきたミサキという女性に頼んでストーカーを撃退したことになっている。実際にそのとおりなのだが。


 オレがユウの部屋に急いで戻ってきたのは相談したいことがあったからだ。ナデアにも関係することだ。


『ナデア、頼みがあるのよ』


 オレはミサキの口真似をして話しかけた。ナデアはオレたちがソウルの一時移動で体を入れ換わっていることを知らないし、今はまだそんな秘密を打ち明けるつもりもない。


『ミサキさん、なんでも仰ってください』


『あなたのソウルをこのネズミに移植したいと思ってるの』


 オレは手を広げて、異空間倉庫から取り出したネズミを見せた。ソウルが入っていない状態だから、ネズミは眠っている。


『えっ!? ケイ、それはどういうことなの?』


 高速思考を発動してユウが問い掛けてきた。オレが今からナデアに説明しようとしてるのは、まだユウにも相談してなかったことだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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