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SGS193 新居ができた

 ミサキからの念話はダイルの家の調査を終えたという連絡だった。高速思考に切り替えて情報交換をしたが、特に問題は無いみたいだ。


『ケイ、調査が終わったから、そっちに行っていいかしら?』


『うん、タクシーでこっちに来て。お袋にはミサキのことも話していて、今晩はこの家にミサキと一緒に泊まると言ってあるから』


 ミサキが家に着いたのは、お袋が買い物から戻ってすぐだった。


「ミサキです。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくね。いつもこの子がお世話になってるそうで、ありがとうねぇ」


 挨拶しながらにっこり微笑んでいたお袋が、急にまじまじとミサキの顔を覗き込んだ。


「私の顔に何か……?」


「あら、ごめんなさい。いえね、あなたがね、圭杜のヨメによく似てるのよ。ヨメの名前も美咲だったけど、ずっと前に交通事故で死んじゃったの。

 あなたの名前もミサキさんでしょ……。あらっ! もしかして、二人は……、そういう関係なの?」


 お袋に聞かれて、ミサキは困った顔をしてオレの方を見た。さすがのミサキでもお袋が尋ねている意味が分からないのだろう。


「母さん、何を言ってるんだよ! ミサキも召喚された一人で、向こうの世界で友だちになっただけだよ。顔と名前が似てるのは偶然だから。バカな想像はしないでよ!」


「あら、そうなの? 娘が三人になったかと思って喜んじゃったけど……」


 お袋は残念そうな顔をした。


 本当のところは妻の名前に因んでミサキという名前を付けたのだが、そんな説明をしたら話がややこしくなる。


「私も時々お邪魔することになると思いますから、娘だと思ってください」


 ミサキが無難に答えた。


 夕食前にオレとミサキが風呂から出てくると、食卓にはたくさんの料理とビールが並んでいた。豚肉の生姜焼きやエビフライ、ポテトサラダ、筑前煮などオレの好物ばかりだ。


「急いで作ったから美味しいかどうか分からないけどねぇ」


 久々にお袋の作った料理を味わい、ビールを飲みながら楽しいひと時を過ごした。


「ところで、ケイ。いつまでこっちにいられるの?」


「数日中にウィンキアへ戻ろうと思ってる。母さんとも話をしたし、優羽奈の両親にも会ったからね。こっちで後やることは……、どこかに家を借りて、そこに免許証の住所を移すくらいだから……」


 しまった! 口が滑って喋りすぎた……。


「免許証って? ユウナさんのを持ってるの?」


 やっぱり、そこを聞いてきたか……。


 仕方なく自分の免許証を見せた。


「これはあなたの写真よね? でも、名前が小田桐圭花ってなってるわよ? 住所も……。この免許証、いったいどうしたの?」


 仕方ない。説明するしかないな……。


「わたしが優羽奈の名前で公に姿を現したら大騒ぎになるって考えてね。それで、自分たちでそれを用意したんだよ。でも、その免許証に書かれてる内容はちゃんと役所に登録されてることだから……」


 その説明にまた時間が掛かってしまった。


「ともかく、その免許証を使っても大丈夫なのね?」


「うん、まったく問題ないから心配ないよ」


「それなら安心だけど……。驚いたわねぇ。あなたの魔法って、車の免許証まで作ってしまえるんだもの。向こうの世界はすごいのねぇ」


 お袋は魔法のことをちょっと誤解してるが、面倒だから否定しなかった。


「向こうの世界は魔族や魔物がたくさんいてね、すごく危険な世界なんだ。そんな世界で生きていくために、わたしやミサキは強い魔法を使えるようになるまで頑張って修行したんだよ」


「そんな危険な世界で、あなたやミサキさんは大丈夫なの?」


「大丈夫さ。自分と同じくらい強い仲間たちがたくさんいるし、ここよりもずっと安全な場所をわたしが支配してるからね。さっき説明したよね、アーロ村のことを」


 お袋にはウィンキアでの暮らしを説明している中で、オレがアーロ村を支配していることや自分の家を持っていることを話してあった。


『ねぇ、ケイ。この際だから、お母様をウィンキアにお誘いしたら?』


『うん……』


 ユウがそう言ってくれてるし、お袋にウィンキアへ来ないか誘ってみよう。


「それでね、母さん。ちょっと相談があるんだけど……。向こうの世界でわたしと一緒に住んでほしいんだ。そうしたら母さんも寂しくないだろうし、わたしも安心だし……。母さんが今以上に年を取らないで、ずっと生きていけるように魔法も掛けるからさ……。ユウもそうしようって勧めてくれてるんだ。ねぇ、一緒に暮らそ?」


「あたしが向こうの世界で圭杜と……、ケイと一緒に暮らすの……?」


 お袋は少しぼんやりしたような顔をした。そして、すぐに我に返ったような表情に戻った。


「やだねぇ……、この年のままずっと生きてくなんて。それは止めとくよ。この家もあるし、お父さんのお墓もこっちにあるからねぇ。それに約束してるのよ、もうすぐお父さんのところへ行くから待っててくださいってね」


「そんなこと……」


 まさか嫌だと言われるなんて思ってなかった。


「あたしは今が幸せだよ。行方不明だったあなたが帰って来てくれたし、優しい言葉を掛けてくれるからねぇ」


「そっかぁ。母さんがそういう気持ちなら仕方ないけど……」


「それより、ケイ。あなた、ほかで家を借りるくらいなら、ここの2階を使ったらいいじゃないの。最近、あたしも考えてたのよ。もし圭杜がこのまま帰って来ないのなら、2階を誰かに貸そうかってねぇ」


 たしかにお袋の言うとおりだ。どうして思い付かなかったのか……。


『ユウ、ミサキ、今の話をどう思う? 何か問題あるかな?』


 高速思考を発動して問い掛けた。


『私はいいと思うわよ。ここの2階をこっちの世界の拠点にすれば、いつだってお母様の様子を見に来れるし』


『実家の2階を拠点にするのは若干のリスクはあるけど、ユウの言ったようなメリットはあるし、家具やネット回線がそのまますぐに使えるのも魅力よね。私も賛成するわ』


『じゃあ、決まりだね』


 その後すぐにミサキが賃貸契約書を作ってお袋と契約を交わした。2階の借主はミサキでオレはその同居人だ。免許証に記載されている生年月日を見るとミサキは25歳で、オレは20歳。ミサキが年上だからな。


 その夜、ミサキは客間で眠り、オレはお袋の隣で眠った。お袋がそうしたいと言って、強引にオレの布団を自分の隣に敷いたからだ。


「やっぱり女の子はいいわねぇ。母親と寝ようなんて言うと、男の子は照れたり嫌がったりするけど、女の子は優しいし素直だからねぇ」


 いや、そうじゃなくて、オレは単にお袋の機嫌を損ねたくなかっただけだが。


 ………………


 朝起きると、ミサキが新しい免許証を渡してきた。住所はこの家になっている。さすがにミサキだ。やることが速い。


『銀行へ行って自分たちの口座を作りましょ。そうすれば、ネットを使って売買ができるようになるから』


『うん。でも、銀行はまだ開いてないし、朝ごはんも食べてないから』


『ええ、そうね。それなら、朝食の前に、2階の家に入って足りない物や買い直す物を調べておきましょ』


 お袋から2階の鍵をもらって中に入った。昨日はじっくり見れなかったけど、家具や電気製品、衣類など、オレが使っていた物がそのまま置かれていた。しかも、掃除や洗濯もしてくれてるみたいだ。


『電気製品やパソコンはかなり古いわね』


『ああ。わたしが新婚時代に使ってた物をそのままこの家に持ってきたから、どれも10年以上前の製品だよ』


『全部買い替えたいけど、いいかしら?』


『うん、任せるよ』


『それと、この家の回線速度も遅すぎるから、速度の速い回線に変えるね?』


『それも任せる』


『私のベッドや家具も買いたいけど?』


『分かったよ。全部まとめて買いに行こう』


 朝食の後、タクシーで銀行や家電量販店、家具量販店などを回り、必要な物は全部注文してきた。その中にはラウラやダイルたちへのお土産などウィンキアに持って帰る物も含まれている。新居に設置するためのパソコンだけは持って帰ってきたが、ほかの電気製品や家具は配送してもらうことにした。家に届くのは明日の午後らしい。


 家に戻って、お袋と一緒に遅い昼ご飯を食べた後、2階の部屋の模様替えと掃除を行った。古い電気製品や衣服はすべて異空間ソウルのゴミ置き場行きになった。


 死んだ妻が使っていた衣服や思い出の品は異空間ソウルの倉庫にちゃんと仕舞っておいた。絶対に捨てられない。


『ケイ、2階の玄関に来てくれる?』


 2階の掃除が終わって、お袋と一緒にお茶を飲んでるとミサキから念話が入った。何やらまだ仕事があるとか言って、ミサキは2階で残っていたけど何をしてるんだろ?


 2階の玄関に行くと、呼ばれたわけが分かった。「西村美咲」と「小田桐圭花」という二つの表札が仲良く並んで掛かっている。ミサキがそれを指差しながらにこやかに微笑んでいた。


『私たちの家ができたね』


 ユウに言われてオレも嬉しくなってきた。自分たちの新居ができたのだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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