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SGS191 お袋に信じてもらえない

 お袋は少しシワが増えて頭に白いものが目立つようになっている。もう70歳くらいになるはずだが、懐かしいお袋の顔だ。


 脚を怪我してるのか、お袋は玄関ホールで立ったままだ。


「あのぉ……、何かご用があるんでしょ?」


 不審げな顔でオレを見ている。そこで初めて自分が黙ったままお袋の顔をじっと見つめていたことに気が付いた。


「あっ! すみません」


 そう言いながら、オレはお袋に向けて眠りの魔法を放った。


 念力でお袋を空中に浮かせたまま玄関の扉に鍵を掛けた。そして、奥の座敷にお袋を運んで畳の上に寝かせた。


 そこには以前は無かった仏壇があり、オレの写真と親父の写真、そしてお供えの果物が祀られていた。


 そういうことか……。


 鼻の奥がツンとして、不意に涙が込み上げてきた。


『ケイ……。お父様のこと……、なんて言っていいか分からないけど……』


 ユウの念話からも悲しみの気持ちが伝わってきた。


 親父はオレがへこたれていると、いつも助けてくれた。何か特別なことをしてくれたのではない。オレに勇気が出るような助言を与えてくれたのだ。子供のころからそうだった。


 その助言はウィンキアに行ってからもオレに勇気を与え続けた。そのおかげで、こうして帰ってくることができたと言っても過言ではない。


 それなのに何の恩返しもできなかった……。


 オレは仏壇の前の座布団に座って、しばらくの間、泣いていたらしい。


 ユウから抱きしめてくれてるような暖かい温もりの感情が伝わってきた。


『ユウ、ありがとう……』


 オレは涙を拭いて、もう一度お袋の顔を見た。


 親父がいつ亡くなったのかは分からないが、お袋はこの広い家でずっと一人で暮らしてきたのだろう。その寂しさが眠っている顔に漂っているような気がした。


『ケイ、もし良ければ、お母様をケイの使徒にして、アーロ村にお連れしたらどうかしら。そうすればこれから一緒に住めるわよ』


 ユウの気持ちが有難かった。オレも今のお袋を見ていて、そうできたら幸せだなと心から思った。


 まずはお袋を起こして話をしよう。その前に暗示を掛けた。ユウの両親に掛けた暗示と同じで、オレの言うことには素直に従うこととと、オレが戻ってきたことやオレたちの秘密を第三者に漏らせないようにした。


 目覚めたお袋はオレを見て驚いた顔をした。


「あたし……、目まいを起こして倒れちゃったのかしら……。この部屋に運んでくださったのね?」


 体を起こしながらお袋はもう一度オレの方に顔を向けた。


「お手間を取らせちゃったわねぇ。それで……、ご用は何かしら? あっ、その前にお茶を……」


 お袋は立ち上がってキッチンへ行った。


「どうぞ座布団を使って。お茶は美味しいかどうか分からないけど……」


 座卓の上に出してくれたお茶を口に含むと、緑茶の爽やかな香りが広がった。


「おいしい……」


 思わずそんな言葉が出てしまった。迷っていたが、本当のことをお袋にすべて話そうと決めた。


 お袋はオレが口を開くのを待っている。


「あの……、こんなことを言ったら信じてもらえないと思うけど、わたしは母さんの息子の木村圭杜なんだ」


 オレはなんて馬鹿なことを言い出しているのだろう。自分でも呆れている。何も考えないまま実家を訪ねてしまったせいだ。


「え? どういうことかしら……」


 お袋は理解できないらしく、きょとんとしている。


「ホントに木村圭杜なんだ。こんな女性の姿になってしまったけど、本当なんだよ」


 オレの言葉を聞いて、お袋の顔色が変わった。


「あなた……、あたしをからかっているんですか!? あなたが息子の圭杜のはずがないわ! ここから出て行って! 出て行きなさい!!」


 お袋が怒り始めた。


 そりゃ怒るよな……。突然に家を訪ねてきた見知らぬ女が息子だって言ったのだから。このままゴリ押しで話を続けてもお袋を説得する自信は全く無い。


 仕方ないな……。オレは魅了の魔法を発動した。


「母さん、わたしの話をどうか聞いて……。お願いだから……」


「あらっ……? よく見ると、あなた、可愛い顔をしてるわね。人を騙したりするような女性には見えないし……。分かりました……。きっと何か深い事情があるのよね? 聞いてあげるから話してみなさい」


 間違いなく魅了の魔法が効いている。


「まず、自分が本当に母さんの息子だってことを証明したいから、何でも尋ねてみて」


「本当に聞いていいの? そんなことをしたら、すぐに化けの皮が剥がれちゃうわよ?」


 初めは全く信じてなかったからか、お袋は苦笑いを浮かべながら問答を始めた。しかし何度も繰り返しているうちに、お袋の顔が真剣な表情になってきた。


「あなた、そんな些細なことまでどこで調べてきたの?」


 まだ信じてなくて、逆にオレを疑っているようだ。


「それなら、母さんも知らないことを打ち明けるよ。まだ、2階のわたしの部屋はそのままになってる?」


「えっ? あなたの部屋じゃないけど、圭杜の部屋ならそのままにしてるわよ。圭杜がいつ帰って来てもいいようにね」


「それなら2階の家へ一緒に来てもらえる? 見せたい物があるから」


「何なの……?」


 お袋も気になるのか、オレと一緒に外階段から2階へ上がった。相変わらず脚を引きずっていて、階段を上がるときはかなり痛そうだ。


 鍵で家の玄関を開けて、お袋に続いてオレも中に入った。オレの部屋は2階の一番奥にある。


 その部屋のドアを開けると、10畳の洋間に大きなダブルベッドとシックな鏡台が置かれていた。新婚時代に使っていたベッドと鏡台だ。


 ベッドを見ていると、オレの隣で眠っている妻の姿が一瞬頭を過ぎった。だが今は思い出に浸っている場合じゃない。


 オレは部屋に入ると、妻が使っていた鏡台のところへ行った。その小引き出しの一番奥に仕舞ってある小箱。その中にそれはあった。古い万年筆だ。


 蒔絵で装飾された21金の万年筆で、オレが子供の頃、親父が自慢しているそれが欲しくて背広のポケットからこっそり盗んだのだ。親父は万年筆をどこかで失くしてしまったと大騒ぎをして、駅から家までの道を探したりしていた。


 オレが大人になってから、それが当時でも何十万円もする高級な万年筆だと分かった。だが、今さら返せない。妻だけには打ち明けたが、隠しておいた方が良いよと言われて、鏡台の小引き出しにずっと仕舞っていた。


「ほら、これを覚えてる?」


「これって……!?」


 お袋が絶句した。


「そうだよ。父さんが大切にしていた万年筆。わたしが子供の頃、背広のポケットからこっそり持ち出して、持ってたんだ」


「お父さんがこれを失くしたのは30年も昔のことよ。どうして、あなたみたいな若い人が、そんなことを知ってるの?」


「うん。あれは、わたしが小学校2年か3年のときだったからね……。今からちゃんと話すから、聞いてくれる?」


「聞くのは構わないけど……」


 お袋はまだ信じられないような顔をしている。


「あっ! その前に教えてほしいんだけど、その脚はどうしたの? わたしがここにいたころは、もっとちゃんと歩いていたのに……」


「あぁ、これ? 膝に水が溜まってねぇ……。歩くときや座ったときに痛いのよ。お父さんが亡くなる前からだから、もう3年くらいになるわねぇ」


「それなら、わたしが治すから……」


「あなたが?」


 オレは頷きながらお袋の全身にヒール魔法を掛けた。加齢による体の支障は普通のキュア魔法では治らないが、神族のヒール魔法ならかなり改善できるのだ。


 お袋は驚いたような顔をした。


「何をしたの? 膝の痛みが無くなったし、なんだか体が軽くなったわ」


「魔法で治療したんだ。わたしは魔法が使えるから……」


「まほう……? あなた、いったい何なの……?」


 お袋はオレのことをまるで化け物を見るような目で睨んでいる。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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