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SGS190 故郷の国と自分の国

 昨夜チェックインしたままのホテルにオレたちは朝の7時過ぎに戻ってきた。チェックアウトの時刻を少し延長してもらったから3時間ほど眠ることができた。


 昼食の後、オレたちは二手に分かれて行動することにした。オレは自分(木村圭杜)の実家へ行き、ミサキ(コタロー)はダイルの家に行って様子を確かめる予定だ。


 でも、ミサキが一人でちゃんと行動できるか心配だ。


『何か困ったら念話でわたしに連絡すること。いいね?』


『心配いらないわよ。パソコンで色々調べたおかげで、この世界や日本のことはケイよりもよく知ってるから。それに、これも持ってるのよ』


 そう言ってミサキは見せてくれたのは免許証だ。本物のように見える。


『もちろん正式な運転免許証よ』


 その免許証の顔写真はミサキのもので、名前は西村美咲となっている。住所には東北地方の街の名前が印字されていた。オレが眠ってる間にミサキ(コタロー)が用意したようだ。


『でもこれって、正式な運転免許証じゃなくて、コタローが異空間ソウルの中で精巧に作った偽造の免許証だよね?』


『免許証を作ったのは私だけど、登録してる情報は本物よ。ちゃんと戸籍や住民記録を政府機関や自治体のコンピュータに登録しておいたから。照合されても矛盾は無いし、整合性も取れているから何の心配も要らないわよ。免許証の素材やICチップなんかも情報を入手して作ったから本物と同じはずよ。さすがにセキュリティが厳しくってネットから侵入するのには時間が掛かったけど』


 コタローのような人知を超越した人工知能から見れば、この世界のコンピュータやネットワークのセキュリティはザルのように穴だらけなのだろう。


『でも、ミサキ。それって完全に法律に違反してるよ』


『ええ。この国の法律に照らせば法律違反だわね。でも、それを言うなら、私たちの存在自体がこの国の法律に違反してるわよ。ケイも私も不法にこの国に入って滞在しているのだから』


 ミサキの話を聞いていて、オレは頭が混乱してきた。こういうときはユウの意見を聞いてみよう。


『ユウからも何とか言ってよ』


『ねぇ、ケイ。ミサキの話を聞きながら考えたんだけど、ケイや私を守ってくれる国はどこなのかしら?』


 えっ? そんなことは考えたこともないけど、ミサキと今話していることに何か関係するのだろうか? オレやユウを守ってくれるのがどこの国かって? それは……、オレたちが生まれて育ってきた国だと思うけど……。


『日本じゃないの?』


『そうね……。今の日本でケイが笹木優羽奈として公に姿を現わして、もし誰かに殺されそうになったら日本の警察はケイを守ってくれるかもしれないわね。

 でも……、ケイが公の場に姿を曝したら大騒ぎになるわよ。今までどこにいたのか。行方不明になった路線バスの乗客たちはどこへ行ったのか。どうやって戻ってきたのか。警察やマスコミがケイにずっと付きまとって調べ続けるわ。そのとき、本当のことを言うの? それともウソを吐くの? どっちにしても、ケイのこれからの人生は無茶苦茶になると思う……』


『それは……、たしかにそうだけど……。そうしたら、今のわたしやユウを守ってくれるのは……』


 オレは少し考えて、頭に浮かんだことを答えた。


『コタローやアドミンがいるソウルゲートと、仲間たちがいるアーロ村ってことになるね』


『ええ、私もそう思う。日本は故郷だけど、今の私たちを守ってくれる国じゃないわ。私たちを守ってくれてるのはソウルゲートであり、コタローやダイルたちなのよ。言い方を変えれば、ケイや私が守るべきものがソウルゲートとアーロ村の仲間たちだと思うの。どっちも国ではないけどね。

 コタローは、日本やレングランの法律に従うことよりも、ソウルゲートやアーロ村、それに私たちを守ることを最優先に考えていると思うわ』


 言われてみれば、たしかにそうだった。オレもレングランやダールムの法律なんて知らないし、法律に従うことよりも自分たちを守ることで必死だった。


『そうだね。わたしはウィンキアでは国の法律じゃなくて自分の良心に従って行動してきたし、これからもそうすると思う』


 オレとユウの会話を聞いていたミサキがにっこりと微笑んだ。


『ユウ、ありがとう。ユウが言ってくれたとおりよ。私が守るべきなのはソウルゲートとケイやユウ、それと仲間たちなの。私が従うべきことはマスターが定めたソウルゲートの原則とケイやユウからの指示だけ。それだけなのよ』


『分かったけど、その運転免許証が必要なのはどうして?』


『それはケイと私、つまりミサキを守るためよ。本人確認を求められる機会は多いわよ。もしかすると警官から職務質問をされたり、犯罪に巻き込まれて取り調べを受けたりするかもしれないでしょ。もし何の防御もせずに警察で身元を調べられたら、あなたが笹木優羽奈だってことが知られるわよ。そうすると大騒ぎになるはずよ。そんなリスクは避けなきゃいけないと考えたの』


『たしかに、そのとおりだけど……』


『だからね、あなたを守るために笹木優羽奈の顔画像や指紋、DNAなんかの生体認証データも政府機関のコンピュータに侵入して全部書き換えたから、心配いらないわよ。もし、誰かがあなたの生体情報と笹木優羽奈の生体情報を照合しようとしても不一致になるはずよ』


 ミサキ(コタロー)はそこまで考えてくれてるのか……。


 オレが少し考え込んでいると、ミサキは顔を曇らせた。


『ケイ、気に入らないの? あなたが政府機関に登録されてる笹木優羽奈の生体認証データを元に戻せと言うならそうするし、運転免許証を使うなと言うのならその指示に従うけど……』


 ミサキはオレが反対してると勘違いしたみたいだ。


 オレの負けだ。それを素直に認めよう。


『いや……。ミサキやユウが言ってることが尤もだと思うよ。優羽奈の生体認証デーダを元に戻す必要はないし、ミサキの免許証も使っていいよ』


『ありがとう。それじゃあ、ケイ。あなたにもこれを渡しておくわね』


 ミサキがオレに手渡してきたのは別の免許証だった。オレの顔写真があって、その横の名前は小田桐圭花。住所は東海地方の街だった。


『その運転免許証もケイのデータ登録も完璧よ』


『あ……、ありがとう……』


『ついでに言っておくとね、免許証の人物は私が作り出したものよ。ケイも私も家族が死に絶えた家系を探しだして戸籍データに付け加えただけだから。どっちの住所も空き家になってるはずよ。でも、早く私たちの拠点をこの東京近辺に確保して、そこに住所を移さないといけないわね。それと、必要な知識をケイとユウに植え付けるから……』


 ミサキがオレに向けて知育魔法を発動した。オレとミサキの偽装した経歴などの情報が頭に流れ込んできた。


 完敗だった。そんなことまで考えていたとは……。


 オレはミサキ(コタロー)に守られてることを今さらながら実感した。


 ………………


 ミサキと別れて、オレはタクシーで自分の家の前まで来た。


 親父が定年後に貯金と退職金で建てた家だ。もう10年くらい前になる。オレが結婚した後に、賃貸住宅に住むくらいなら二世帯住宅を建てて一緒に住もうと親父が言い出して建てた家だ。


 あの頃、オレは新婚ほやほやで親父たちからの申し出に正直乗り気ではなかった。だが、妻が意外にも二世帯住宅に住むことに賛成してくれて、その話がどんどん進んで家が完成したのだ。


 二世帯住宅ということで玄関は別々でそれぞれにキッチンや風呂が付いている。2階建てで1階には親父たちが住み、2階にオレたち新婚夫婦が住んで、親子で仲良く暮らしていく予定だった。ところがオレたち夫婦が一緒に住んだのは数か月だけだった。妻が交通事故で死んでしまったからだ。結局その後はこの2階にはオレが一人で住んでいたのだ。


 オレは今、その家を見上げている。久しぶりに見る家だが、オレがウィンキアへ召喚された6年前とほとんど変わっていないように見える。変わったところと言えば、庭の雑草が少し目立つところくらいか。


 探知魔法で調べると、家の中にいるのは一人だけだと分かった。おそらく親父かお袋のどちらかだろう。


 会ったときに本当のことを話そうか、それとも別人を装って様子を見るだけにしようか……。オレは迷っていた。


 とにかく家に入って、会ってから決めよう。


「ごめんください」


 玄関の扉を開けて呼び掛けた。


「はーい」


 奥から声がして、脚を引きずりながら初老の女性が出てきた。少し年を取ったが、間違いなくオレのお袋だ。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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