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SGS019 女は原野で苦労する

 ゴブリンに押し倒されて、オレはまったく身動きできない。ゴブリンはオレの下半身の上にまたがって、左手でオレの両腕を掴んでいる。オレは両腕を掴まれて頭の上まで伸ばしたかっこうで、上着ははだけている。このままではゴブリンに犯されて子供を身籠ることになってしまう。


 ラウラ先輩は必死に叫んで抵抗している。


「触るなーっ!! あっち行けーっ!! 触るなーっ!! きゃぁーっ!!」


 あっ、そうだった。大声で悲鳴を上げろと言われてた。


「このスケベゴブリン! どこ触ってんだよっ! やめろぉぉーっ!」


 オレも悲鳴を上げながら、なんとかゴブリンから逃れようともがく。でも、力の差は歴然としていて身動きできない。ゴブリンはオレのオッパイから右手を離して、お腹のほうに手を伸ばそうとしている。


「あぁぁぁーっ! そこはダメーっ!!」


「この女、オラのもの!」


 ゴブリンは顔をオレの首筋に近付けてきた。なにをするんだーっ!


 大きな口を開けている。食べられるのかぁー!?


「いやぁぁーっ!! たすけてぇぇーっ!!」


 そのとき体がふわぁっとなって、オレは気を失った。


 ………………


「おい、起きろ! 大丈夫か?」


 目の前に副長の顔がある。たすかったのか……?


「副長……」


 副長に抱き起されながらオレはぽろぽろと涙をこぼした。


「すまない。少し遅くなった。おまえたちがなかなか悲鳴を上げないから、呪文を唱えられなかったんだ」


 あ、そういうことか。呪文の声を聞かれてしまうと、オレたちがオトリだと気付かれる恐れがある。だから大声を上げろと言ってたのか……。


 ラウラ先輩も無事のようだ。オレと同じように立ち上がってブラと上着のヒモを締め直している。そばには二頭のゴブリンが倒れていた。少し離れたところにもう一頭も倒れていた。


「どうなったの?」


 ラウラ先輩がズボンのヒモを結びながら尋ねた。


「おまえたちに伸し掛かっていたゴブリン二頭は魔法で眠らせて、心臓を一突きだ。眠りの魔法を掛けたときに、おまえたちにも掛かってしまったんだ。もう一頭とは戦いになったが、3対1だからな。バリアを張っていたが、倒せたよ」


 そうか。あのとき体がふわぁってなったのは眠りの魔法だったらしい。


「おまえたちが体を張って頑張ってくれたおかげで、ソウルオーブが1個とダークオーブが30個も手に入った」


 副長の話ではダークオーブというのはソウルオーブと同じようなものらしい。ただしソウルオーブより性能はかなり劣るとのことだ。今は時間が無いからダメだけど、後でもっとちゃんと教えてもらおう。


「ともかくこの場所は危険だ。死体を早く始末して、ここから離れよう」


 副長の指示でゴブリン三頭を道から奥に入った低木の土中に埋めて、街のほうへ引き返すことになった。もう十分に成果があったと判断したようだ。


 2時間くらい歩いて監視塔が見えるところまでたどり着いた。あたりは薄暗くなっている。


「今夜はここで野営だ」


 この場所は野球場よりも広い野原で見通しがきく。副長に言われて草むらにテントを張った。遠くの茂みに敵が隠れていたとしても、そこから魔法攻撃を直接受ける恐れはないらしい。


 ただし火は使えない。魔族や魔物を呼び寄せてしまうからだ。せっかく鍋を持ってきたのにどうするのかと思っていたら、ラウラ先輩から指示が出た。鍋の中に刻んだ肉とイモ、やさい、水、塩などを入れるよう言われたのだ。


「ハンター風の煮込み料理魔法よ」


 先輩が呪文を唱えると、先輩の右手に持っていた魔紙が光って消えた。料理のレシピ呪文を書いた呪文書を発動させたようだ。鍋に変化はないけど、これで料理ができたと先輩は言う。蓋を開けると、たしかに煮込んだシチューのようになっている。湯気は出ていない。匂いが出ると獣や魔族に気付かれるから冷ました煮込み料理にしてあるらしい。魔法って便利だ。


 オレには魔法を使うときが来るのかどうか分からないが、魔法の勉強だけはしておこう。まずは副長からもらった魔法便覧を覚えることから始めようと思う。


 美味しい料理だからと言われて、スプーンを使って煮込み料理を食べ始めた。でもどうも食欲がわかない。


「どうした? しっかり食べておかないと体が持たないぞ」


 オレの様子を見て、隣で食べていた副長が声を掛けてきた。


「ゴブリンに襲われたことが頭から離れなくて……。あのとき、ゴブリンに食べられそうになったんです」


「ああ、そのことか。それはおまえの勘違いだ。ゴブリンはおまえを食べようとしたんじゃなくて、自分の女だという印を付けようとしたんだ」


「しるし?」


「そう、印だ。ゴブリンやオークのようにな、人族の女に種付けをしようとする魔族は多い。そのオスは自分の女がほかのオスに奪われないように印を付けるのさ」


「印を付けるのと、食べられそうになったのと、どう関係するんですか?」


 副長はニヤリと笑って、嬉しそうに鼻を擦った。


「ゴブリンやオークのオスには唾液に固有の匂いがあるらしいんだ。メスの首筋に噛み痕を入れて、皮膚の下に唾液を注入するのさ。その匂いは我々のような人族にはまったく分からないが、ゴブリンやオークは匂いに敏感で、その違いが分かるらしい。つまりな、首筋に付けた噛み痕と匂いが印というわけだ」


 そんな印は絶対に付けられたくない!


 鳥肌が立ってきた。きもい。きもすぎる。


「でも、そんな噛み痕や匂いなんてすぐに消えてしまうんじゃないですか?」


「いや。聞いた話では何十日も消えないということだ。だからな、いったんオスの匂いが付いたメスには、別のオスは手を出さないらしい。ゴブリンも真面目なんだな」


 副長は笑った。


 くそっ! 冗談じゃない! 笑える話ではないぞ!


「それとな、ゴブリンやオークの唾液には女を惑わす催淫作用があるそうだ。つまり噛みついたそのオスだけに惚れさせる効果があるっていう話だ。だからな、おまえも噛まれないように注意しろよ。噛まれたらそのゴブリンに惚れてしまうかもしれないからなぁ」


 副長は笑いながら話を続けている。たしかに男からすると面白い話かもしれないが、女になってしまった自分としては恐ろしいだけの話だ。


「そういうわけでな、ゴブリンは人族の女を見つけると、我先に追いかけ始める。女を自分のものにしようと必死になるんだ。オトリ作戦が有効なのはそういう理由もあるんだよ」


「今の話が本当なら、オトリ作戦なんて絶対にイヤです!」


「なんだ? オトリ作戦を怖がっているのか? でもな、おれたちがこの原野でゴブリンに勝つためには、この作戦が一番確実なんだ」


 副長はさっきのオトリ作戦について説明してくれた。魔族との戦いでは常に最悪のケースを考えるそうだ。今回のことを例に挙げれば、ゴブリン三頭が偵察隊である場合が最悪のケースだそうだ。それは偵察隊の後から本隊が来るからだ。


 それを確かめるために、ラウラ先輩が魔法攻撃を仕掛けて時間稼ぎをしたのだ。もし後ろから本隊が来ているのなら、本隊を呼ぶとか何か動きがあるはずだ。しかし何も動きは無かった。ということはこのゴブリンたちは単独のパーティーだ。


 しかし単独だからと言って勝てるとはかぎらない。ゴブリン三頭が全員ソウルオーブを持っている場合を想定して戦う。三頭ともバリアを張るだろう。こちらの戦力は四人。オレは戦力にはならないから外している。四人ともオーブを装着しているからバリアを張れる。一見数だけを見ると我々のほうが有利に見えるが、ゴブリンと人族では筋力の差が大きい。だからまともに戦っていたら勝ち目はほぼ無い。力の強いゴブリンに容易くバリアを破壊されてしまう。そうなったらお終いだ。


 それで先輩とオレがオトリになって、ゴブリン二頭と接触する。体が触れ合うときにゴブリンはバリアを一旦キャンセルする。バリアが一時的に消えているタイミングを狙って眠りの魔法を撃ち込めば、ゴブリンを眠らせるのは簡単だ。残りの一頭はバリアを張っていても、三対一なら勝てる。そういう作戦だったのだ。


 だけどもしその作成が失敗してオレたちが種付けされてしまったら……。そのときはどうするんだろ? 怖くて聞けなかった。


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