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SGS189 この幽霊をどうする?

 ナデアの話ではウィンキア出身の幽霊が魔法を教えているそうだ。オレは俄然興味が湧いてきた。


『その幽霊のこと、もうちょっと詳しく教えて』


『はい。その人はずっと昔にこの世界に転移させられてきたって言ってました。ウィンキアにいた頃はロードナイトだったそうです。こっちの世界で死んだとき、なぜか意識がある浮遊ソウルになってしまって、それで、こちらの世界でも魔法を使えるようになりたいと考えて頑張ったんだそうです。幽霊でも訓練すれば魔力を高めて魔法を使えるようになることが分かって、その人はずっと訓練を続けてきたって言ってました。その人は親切で、仲間の幽霊にも魔法を教えていますし、あたしにも色々と魔法を教えてくれました』


 そんな幽霊がいるのなら会ってみたいな……。一瞬そう考えたが、やっぱり止めにした。幽霊は苦手だ。


 それにしても、何か変だ。ナデアが言ってることをそのまま信じていいのだろうか。ナデアの話には不可解なところがあるのだ。


『幽霊って体を持たないから呪文を唱えたりできないと思うけど……』


『それは……、こちらの世界の幽霊は呪文を唱えずに魔法を使えるからです。ウィンキアから来た人たちも全員がこの世界に来て半年くらい経ってから、呪文を唱えずに魔法を使えるようになりました。

 だから、あたしも詠唱無しで魔法が使えます。と言っても、魔力があまり無いので、小さな火の球や水の球を撃つくらいです。そんな簡単な魔法を何回か使っただけでも、その後は死にそうに苦しくなります』


 それを聞いていたミサキから高速思考で念話が入ってきた。


『ケイやユウが無詠唱で魔法を使えるように、こっちの世界で生まれた者は誰でも無詠唱で魔法を使うことができるのよ。たとえ幽霊でもね』


『でも、ナデアはウィンキア生まれだよ?』


『おそらくナデアのソウルがこちらの世界に順応して、ソウルが安定したのでしょうね。現に無詠唱で魔法を使えるのだから、それしか説明がつかないもの。幽霊になってからはソウルの中に蓄えている僅かな魔力を使って魔法を使っていたのよ』


 なるほど。ナデアとの会話に戻ろう。


『魔物を見たのは友だちの幽霊のところだけ? この村では?』


『お友だちのところで見ただけです。あたしは普段はお友だちのところにいて、時々、この村に様子を見に帰ってくるんですけど、ここでは魔物は見てません』


『ナデアはこの村にずっと留まっていたんじゃないんだね?』


『この村に家族や仲間たちがいる間は、あたしも村に留まっていました。あたしが幽霊になってから20年もしないうちに、この村には誰もいなくなったのです。村を捨ててどこかへ行ったり、病気で死んでしまったりして……。

 あたしは寂しくなって山を下りました。彷徨っているうちに、ほかの幽霊さんに巡り合ってお友だちもできました。お友だちからは魔力を高める方法や人を怖がらせる方法を教わったりしました』


『えっ!? 人を怖がらせるって……。良いことじゃないよね?』


『ええ、分かっているんですけど……。自分たちの居場所にたくさんの人が来ると、自分たちが居辛くなってしまうので、それで怖がらせて出て行ってもらってたのです』


『それで、さっきもわたしたちを怖がらせようとしたってこと?』


『ええ、ごめんなさい……。この村へは同胞が戻ってくるかもしれません。そう考えて、知らない人にはこの村に立ち入ってほしくなかったから……』


 怖がらせて、この村を守っていたということらしい。幽霊たちが生きている人たちを怖がらせているのも同じ理由からだろう。


 魔物がそこに現れることが多いのも同じ理由だろうか? もしかすると……。


『幽霊が出やすい場所に魔物が現れ易いのは、魔力の高い幽霊が魔法を使って魔物を操ってるんじゃないのかな?』


『いいえ。そんなことはしてないと思います。お友だちは念力や風の魔法を使って人を脅かすことはあっても、魔物を操って人を怪我をさせたりすることはありません。あたしのお友だちはそんな悪い幽霊じゃありませんから』


 そのときまた、ミサキが高速思考で話しかけてきた。


『これも推測だけど、魔物は幽霊の魔力を感じて近寄ってきたのかもしれないわね。ウィンキアではどこでも魔力が溢れているけど、こっちの世界ではほとんど魔力が無いから、幽霊が漏らしている魔力が魔物から見たら灯台の灯りみたいに見えるのかもしれないわ』


『ミサキの推測が当たってるかもしれないわね。幽霊がいる場所に魔物が集まるのは、夜になったら蛍光灯に虫が集まるように、幽霊の魔力を感知して魔物たちが集まってくるんだわ』


 ミサキとユウの説明を聞いてオレも納得してしまった。でも……。


『それって、この世界では魔力の高い者のところに魔物が引き寄せられるってことだよね? と言うことは、わたしやミサキのところに来るってこと?』


『大丈夫よ、ケイ。魔力を漏らしてないでしょ? 神族の魔力は普通の人族と同じようにしか見えないから』


 なるほど、そうだった……。


『ところで、ケイ。この幽霊をどうするの? ナデアを捕縛したままではワープできないわよ』


 幽霊と言ってもその実態は浮遊ソウルだ。ミサキが忠告してくれてるように、オレは使徒以外の者を連れてはワープできない。


『どうしようか? 何か考えはある?』


『そのままここで解放したらどうかしら? 悪い幽霊じゃなさそうだし……』


『でも、ミサキ。それではナデアが可哀そうよ。念話で話をしたら素直で優しい女性だって分かったもの。それに、ずっと同胞を待っていたと言ってたでしょ。ウィンキアに連れて帰ってあげましょうよ』


『ユウ、それは止めるべきよ。ナデアをウィンキアに連れて帰るためには、ケイが召喚魔法を使ってナデアをウィンキアへ召喚するか、自分の使徒にしてワープで連れていくしかないでしょ。でも、ナデアは幽霊だから召喚もできないし、使徒にすることもできないのよ。それに、仮に体を持ったとしても使徒にできるほど信頼できる人物なのかも分からないしね』


 ミサキがユウに反対する理由は尤もだな。オレもナデアを自分の使徒にするつもりはない。


『でも、ナデアは数百年もの間、こっちで寂しく同胞を待っていたのよ。可哀そうだわ……』


 ユウの気持ちも分かるけど……。


『じゃあ、こうしよう。ナデアはユウの家に連れて帰って、当分の間は家で守り神でもやってもらおう。ナデアが信頼できる者だと分かれば、新しい体に宿ってもらって、召喚魔法を使ってウィンキアに連れ戻すことにする。機会があればこの世界で新しい体を与えることができるだろうからね』


『家に連れて帰るの? そんなことをしたら私の家族が怖がってしまうわ。魔物も近付いてくるかもしれないし……』


『家族には内緒にすればいいと思うけど、魔物のことは……』


 オレが困っているとミサキが助け舟を出してくれた。


『魔物が近付くのはもっと高い魔力を持つ幽霊のところだと思うわ。さっきのナデアの話だと、幽霊の中には念話の魔法が使える者がいるらしいから、少なくとも〈50〉以上の魔力を持ってる幽霊がいるってことだわね。魔物が近付くのはきっとそういう幽霊がいる場所よ。

 それに、ユウの家には私がコタローの姿で毎日顔を出すから、ナデアとも会話して状況を確認するようにする。だから、ユウ、心配はいらないわよ』


『ミサキの話は分かったけど……。でもね、ケイ。守り神をやってもらうって言ったけど、ナデアに何をさせるつもりなの?』


『守り神と言ってみただけで、何も考えてないよ。何をさせるのかは後で考えようよ。それか、ナデアはここで解放しよっか?』


『仕方ないわねぇ……』


 ユウも渋々承知したようだ。


 高速思考を解除して、ナデアにはユウの家まで連れて帰ると話した。オレは自分のことを神族だとナデアに説明したが、召喚魔法でウィンキアに連れ戻すことは話してない。ナデアが信頼できると確信するまでは内緒にしておくつもりだ。


 ナデアはすごく喜んだ。せっかく出会えた同胞に見捨てられるのではないかと不安に思っていたようだ。


『ただし、ナデア。守ってほしいことがある。人魂や幽霊の姿になって人を怖がらせるのはもう止めること。約束できる?』


『はい。でも、自分や大切な人を守るためには幽霊となって怖がらせたり魔法を使ったりするかもしれません……』


『それはナデアが判断したら良いけど、そのときは何があったのかちゃんとコタローに報告してほしい。いいね?』


 ナデアにはコタローという犬がオレの代わりにユウの家へ毎日様子を見にいくと説明済みだ。


 ………………


 オレはユウの父親が運転する車で家に向かっていた。既に夜が明けていて、道は通勤の車で混み始めている。


 あれから妹の菜月を眠らせたまま念力で車まで運んだ。その後、父親と母親に暗示を掛けた。父親が廃屋で気絶している菜月を見つけて車まで背負って運んだと思い込ませたのだ。


 菜月はずっと眠ったままだから、まだ姉のユウに会ったことは知らない。姉のユウとの再会はまた次の機会だが、念のために菜月にも暗示を掛けておいた。ユウの両親に掛けた暗示と同じような内容だ。オレとユウの言うことには素直に従うこととと、姉のユウが戻ってきたことやオレたちの秘密を第三者に漏らせないようにしたのだ。


 幽霊のナデアへも解放する前に同じような暗示を掛けた。ほかの幽霊たちへ秘密を漏らされるのを防ぐためだ。それと、ナデアとの付き合いはこれからも続きそうだから、オレの体にケイとユウの二つの人格があることを打ち明けておいた。当然これは秘密であり、ユウの家族も知らないことだ。


 ナデアは指示どおりにオレたちの後を付いてきた。目には見えないが探知魔法でナデアが一緒に車に乗っていることは分かっている。


『ナデア、わたしとミサキは途中で車を下りるけど、あなたは両親や妹と一緒にわたしの家へ行って、わたしの部屋で待っていて。部屋は妹が使ってる隣の部屋だから分かると思うよ。わたしは明日の夜にワープで戻ってくるからね』


『分かりました。待っています』


 家に近付く前に、オレとミサキは車を下りた。今日はダイルの家とオレの家に行って様子を確かめようと思う。


「パパ、ママ。明日の夜には家に戻ってくるから心配しないで待っててね。菜月にはそのときに話をするから、それまでは私のことは内緒にしておいて」


 ユウの口調を真似て両親に話しかけた。二人は暗示が掛かっているからオレが言うことには素直に従う。心配そうな顔をしていたが、街の中でオレとミサキを下ろして車は走り去った。


 ダイルとオレの家に行く前に少し休息を取ろうと思う。タクシーを拾ってオレたちはホテルへ向かった。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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