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SGS186 幽霊スポットへ向かう

 妹の菜月はどこかへ行っているようだ。ユウがその居場所を尋ねると、母親は困り顔で話し始めた。


「それがねぇ……。あの子、今年から大学生になって、大学へは家から通ってるんだけどね。この5月から大学で魔物研究会というクラブに入部したのよ。世間ではバスの乗客が行方不明になったのと魔物が現れ始めたのが関連しているっていう話が出てるでしょ。それで、優羽奈、あなたを捜すために少しでも役に立つならって言って、その魔物研に入ってね。あたしは反対したんだけど……」


 母親は心配そうな顔で父親の方に顔を向けた。


「いや、おれも反対したんだ。危ないからな。でも、菜月のやつに押し切られてしまってな……。つい、許してしまった」


「それで、菜月はどこに行ってるの?」


「今日から合宿に出掛けてる。なんでも、どこかの山の中に廃村があって、そこが幽霊スポットになっているらしい。魔物研の先輩たちと一緒にそこへ行くと言ってたな。あっ、そうだ! 一応、行き先のメモをもらっておいたんだ。ええと、待ってくれよ……」

 

 父親がメモを探している間にユウが話しかけてきた。


『なんだか嫌な予感がするの。ケイ、妹を捜しに行こうと思うんだけど……』


『いいけど、ユウが行ったら危ないかもしれない。わたしが行くよ』


 父親がメモを持って戻ってきた。車で行けば、この家から3時間くらいだ。しかし、その廃村は山の中にあって車では行けない。山道の終点に車を置いて、そこから普通に歩いたら2時間は掛かるだろう。だが、オレが走ればずっと早く着けるはずだ。


「ねぇ、パパ。菜月を迎えに行こうと思うんだけど、その廃村の近くまで車で送ってほしいの。お願い」


 暗示が効いているからユウの願いには父親も母親も素直に従ってくれた。車で送ってくれることになったが、心配だから母親も一緒に行くと言う。


 ………………


 車には3時間ほど乗っていた。その間に、オレとユウはソウルの一時交換を解除して、ユウは異空間ソウルに戻った。クールタイムが10分間続いたが、オレは眠っている振りをしていたから問題は無い。


 道は山の中に入り、狭い車道をくねくねと1時間近く走って、車は道の終点に着いた。車道には数台の車が路上駐車されていた。おそらく魔物研の連中が乗ってきた車だろう。


 ここから先はオレが一人で行くことにしている。ミサキ(コタロー)はユウの両親と一緒に車の中で待機だ。もし何か起こっても、ミサキがいればバリアで守れるし、オレもワープで瞬間移動して来れる。


 幽霊スポットにオレ一人で向かうのは何となく怖いが、ユウとコタローがサポートしてくれるので心強い。


 ユウの父親と母親は心配そうな顔をしていたが、車の中でミサキと一緒に待機することを渋々了解した。


 山道に入ると、ほとんど人が通らないのか道が分かりにくくなった。森の中に続く獣道のような微かな踏み跡を辿って、浮上走行の魔法で走って進んだ。暗視魔法を使っているから視界は問題ないが、周りの森は真っ暗で気味が悪い。


 正直言うと、オレは昔から肝試しや怖い話が苦手だった。最強レベルのバリアを張ってるし、探知魔法も発動して周囲を探っているから安全なはずなのだが、怖いものは怖いのだ。


 20分くらい走ったとき、オレの探知に人族の反応が現れた。十人くらいだ。魔物研のメンバーだろう。500メートルくらい先だな。


 そのまま進むと、突如、森が開けて草藪が生い茂った場所に出た。100メートルくらい先の草藪の中に何軒かの廃屋が見えた。ここが目的の場所だろう。


『廃村に着いた。廃屋の中に魔物研のメンバーがいるみたいだから、近付いてみるね』


『こっちはユウの両親が心配してるから宥めるのに苦労してるの。でも、両親には状況を逐次説明してるから大丈夫よ』


『ミサキ、ごめんね。私の代わりに手間を取らせちゃって』


 ユウもミサキ(コタロー)もオレと五感を共有しているから、今何が起こっているのかはリアルタイムで掴んでいるのだ。


 廃屋に近付いていくと、どこからか女が咽び泣くような声が聞こえてきた。ぞわぞわっと鳥肌が立つ。


 今は深夜の2時頃だ。一番嫌いな時間帯だ。やっぱり出たのか……。


 嫌だけど、声のする方へゆっくりと近付く。


 廃屋の石壁は苔でびっしり覆われていた。放置されてから長い間が経っていることを物語っている。


 廃屋の一つから灯りが漏れていて、声はその中から聞こえていた。艶めかしい声だ。何をやってるんだ? いや……、これは考えるまでもない。あれをしているときの声だ。


 窓から覗くと裸になった男女が何組もいて、床に広げた寝袋の上で相手を組み敷いたり伸し掛かったりしている。


『これはレスリングの練習じゃないよね?』


『ケイ、バカなこと言ってないで、お願いだからこの人たちを止めて。妹を見つけてよ』


『止めるって……。みんな気持ち良さそうだけど、邪魔していいのかな?』


『ねぇ、早く!』


 オレは仕方なく、抱き合っている全員に向けて眠りの魔法を放った。


『ミサキ。私の両親へは中継してないよね? 魔物研のメンバーが裸で抱き合ってるなんて、絶対に言っちゃダメだからね!』


『ユウ、大丈夫よ。適当にごまかしてるから』


 さすがミサキ(コタロー)だ。


 廃屋の中に入って、眠っている男女の顔を確かめていった。男が五人で女も五人だ。


『魔物研の合宿なんて言って、誰も来ない場所に出掛けて来て、いつもこんな楽しそうなことをやってるのかな?』


『ちょっと、ケイ。不謹慎よ!』

 

 顔を一人ひとり確かめながら念話で呟いたら、ユウに怒られてしまった。


『いないねぇ……』


 全員の顔を確かめたが、ユウの妹は見つからない。


『長いこと会ってないから、顔が変わってしまったんじゃないのかな?』


『そんなはずないわよ!』


 そのとき、遠くで悲鳴が聞こえたような気がした。


「ぎゃー、でたぁぁぁーっ!」


「せんぱいっ! たすけてぇーっ! たすけてくださいぃーっ!」


 今度ははっきりと聞こえた。男と女の声だ。探知魔法で調べると、50メートルほど離れたところに人族が二人いることが分かった。あの十人を探知したときに、この二人の存在を見過ごしていたようだ。


 すぐに廃屋を飛び出して、その方向へ走り始めた。廃村の一番奥まったところに10段ほどの石段が見えていた。その石段の上にも廃屋があって、その中に男と女がいるらしい。


 少し走って、オレは立ち止った。


 あれは……、なんだっ!?


 ゆらゆらと青白い火の玉が一つ。長い尾を引きながら宙を飛んでいる。石段の横にある樹の陰からそいつは現れて、こっちの方に漂ってくる。


『魔物が放った火球かな?』


『違うわよ。まるで人魂のように見えるけど……』


 オレも何となくそう思っていたが、それを言葉にしたくなかった。あれが、人魂……。また鳥肌がぞわぞわと立ってきた。


 ※ 現在のケイの魔力〈1026〉。

   (日本では〈513〉。日本でソウル交換しミサキに入ると〈103〉)

 ※ 現在のユウの魔力〈1026〉。

   (日本でソウル交換してケイの体に入ると〈103〉)

 ※ 現在のコタローの魔力〈1026〉。

   (日本でミサキの体を制御しているときは〈513〉)

 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。


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