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SGS181 テイナ姫一行を保護する

 夜が明けて、オレはダールムの家に戻って朝食を取り、それからガリードに会いに出掛けた。ジルダ神が半月毎にどこかへ出掛けているらしいとレング神から聞いたので、それがどこなのかガリード兵団に調べてもらうためだ。レングラン全域に網を張って調査してもらおう。


「レングランの街の中と言うだけで、手掛かりが何も無い状態で探せと言うのか? 相手は神族だ。ワープで移動するだろうから尾行することもできん。とんでもなく手間と時間が掛かるぞ」


 ガリードは呆れたような顔をしてぼやいた。たしかに簡単ではないだろうが、ジルダ神と密かに接触するためにはこのヒントを頼りに探っていくしかない。それしか接触の方法を思い付かなかった。


「それと、もう一つお願いしたいことがあるのです。それは、タムル王子の評判を下げるために……」


 テイナ姫が和平交渉の特使としてゴブリンの国へ向かった後で、その道中でタムル王子の一味によって姫様が暗殺されたというウワサを流すよう依頼した。


「そういうことならお手の物だ。おれたちに任せろ。色々工作を仕掛けて、タムル王子の評判を地の底に落としてやるよ」


 ガリードなら安心して任せておける。


 ………………


 その数日後、立太子の儀式が行われて、タムル王子は正式な王位継承者になった。同じ日、テイナ姫が王族として復権したことと、和平交渉の特使としてゴブリンの国へ出向くことが大々的に発表された。


 その一週間ほど後にテイナ姫たちの一行はゴブリンの国、すなわちレブルン王国へ出発し、途中で行方不明となった。レングランの街ではタムル王子の手によって暗殺されたというウワサが一気に広まった。


 もちろんテイナ姫の一行はオレたちの手で無事に保護した。そして、原野の中にある闇国への入口から入ってアーロ村まで一緒にちょっとした旅をしてきた。


 テイナ姫のお供はルセイラとエマ、そしてマメルだ。ルセイラは元々テイナ姫付きの女官だったが、オレが和平交渉を失敗したせいで罪に問われて奴隷の身分に落とされてしまった。エマはレングランの闘技場で仲良くなった奴隷仲間だ。マメルはレブルン王国に捕らわれていたが捕虜交換で奴隷としてレングランに連れて来られた。


 この三人がテイナ姫のお供になったのは、オレがレングラー王に頼んだからだ。三人ともレングランの闘技場で奴隷として生き延びていることが分かっていたから、テイナ姫と一緒に救い出すことにしたのだ。


 テイナ姫の一行はレングランの監視塔までは兵士たちに護衛されていたが、そこから先は原野の中をテイナ姫たちだけで進んでいた。一回目の和平交渉に出向いたときと同じだ。


 オレたちはこっそりと百モラほど離れたところから護衛していた。テイナ姫一行の1ギモラほど後方からはハンター風の男たちが追って来ていることが分かっていた。おそらくタムル王子の手の者で、テイナ姫を暗殺するか拉致するよう命令されているのだろう。


 また、2ギモラほど前方からはゴブリンの部隊が近付いて来ていた。つまり、時間がほとんど無いということだ。


 オレたちは一気にテイナ姫たちに近付いて魔法で眠らせた。そして、眠らせたまま浮上走行の魔法で草藪や低木の上を走りながら四人を運んだ。


 アーロ村までは2日間の旅だった。その間、テイナ姫たち四人はずっと眠っていた。オレとダイル、ラウラ、ハンナの四人で念力魔法を使いながら村まで運んできたのだ。


 村に入り、オレたちの家の前まで来た。家の前にはフィルナとミサキ(コタロー)、それと村長や長老たちが待っていてくれた。


「お帰りなさい。テイナ姫も無事みたいね?」


 フィルナは空中で横になって眠っているテイナ姫をしげしげと見つめた。四人とも眠っているが、服装や漂う気品から誰がテイナ姫かはすぐに分かる。


「ケイ様。お指図のとおり家を建て替えたが、どうじゃろうかのぉ? 立派な家が建ったじゃろ?」


「指図したのはミサキだけど、ダイルやあたしたちも手伝ったのよ。家の中も素敵だから、きっと気に入るわよ」


 ラウラが自慢したくなる気持ちが分かった。オレはずっとダールムやレングランにいたが、ラウラやダイルたちは手が空いたときは村で家の建て替えを手伝っていたからだ。


 オレたちの小屋があった場所には丸太で組まれたログハウス風の平屋が二棟建っていた。ダールムの街の中で見たどの家よりもセンスが良いと思う。周りの雑木林の緑とマッチしていて美しい。


 テイナ姫一行を保護することになったから、その滞在用として家を建て替えることにしたのだ。二棟ある中の一つはゲストハウスでテイナ姫たちに使ってもらう。そのゲストハウスは雑木林を一部切り倒して敷地を広げて建てられていた。6LDKの間取りだから、一人ずつ個室が取れるはずだ。


 もう一つの棟はオレとラウラ、ミサキが住む家だ。ゲストハウスとは渡り廊下を通って行き来できるし、地下の隠れ家にも繋がっている。


 オレの家を挟んでゲストハウスと反対側にはダイルの家が建っている。石造りの家だが、外観は今までと同じだから改築はしていないのだろう。今のままでもログハウス風のオレの家と調和がとれていて落ち着いた印象を与えている。


 オレの家の前には広いテラスが新たに作られていて、木製のテーブルと椅子が置かれていた。テーブルは特大サイズで二十人くらいが食事できる大きさだ。


 テラスの周りは芝生になっていて、所どころにアーロ樹が植えられていた。今もその何本かが白い花を付けていて、キンモクセイに似た微かな香りが漂ってくる。よく見ると周りの雑木林にも人の手が入っていて、アーロ樹の数が増えているようだ。


 庭についてはオレは何も指図していないが、まるでアーロ樹の庭園のようになっていた。仲間たちはオレがこの樹を気に入ってることを知っている。それでオレのために村のあちこちからアーロ樹を植え替えてくれたらしい。


 家の建て替えは突然決めたことだったが、ミサキ経由で村長に依頼すると快く引き受けてくれた。オレが間取りやイメージを考えて、ミサキ(コタロー)が設計と現場監督を行った。オレが留守をしていた十日間ほどの間に村長や長老たちが村人たちと一緒に家の建て替えを行ってくれたのだ。


「みんな、ありがとう」


 頭を下げてゆっくりと顔を上げた。にこやかに微笑むみんなの笑顔が眩しかった。


 ………………


 みんなには一旦家の中に入ってもらった。テイナ姫たち四人はテラスに横たわったままで、まだ眠っている。今から起こして事情を説明しよう。


「ここはどこなの?」


 眠り解除の魔法で目覚めさせると、まっさきに反応したのはルセイラだ。テイナ姫たちはまだぼんやりした顔をしている。


「ここは闇国。アーロ村という人族の村だよ。ルセイラ、エマ、それとマメル。久しぶりだね。わたしのことを覚えてる?」


 オレが呼び掛けると、テイナ姫以外の三人は不思議そうな顔をしてじっとオレを見つめた。テイナ姫だけは興味深そうな顔で周囲を見回している。姫様には事前に説明してあったから、ここがどこなのかを知っているのだ。


「ケイ……? ケイなのね?」


 一番に声を出したのはエマだ。


「ケイ、どうしてあなたがここにいるのです? それに、ここが闇国だと言いましたね? どうなっているのですか?」


「いや、ルセイラ。ここは闇国じゃあないぞ。闇国がこんなに明るいはずがないからな。ケイ、おれたちを騙そうとしてるのか?」


 マメルが周りを見回した後、オレを睨みつけた。その様子を見ていたテイナ姫が慌ててマメルを叱りつけた。


「マメル、言葉を慎みなさい! ケイ様に向かって失礼なことを申してはならぬ。ケイ様はわたくしたちを救い出してくれたのです。その事情はわたくしが話しましょう……」


 テイナ姫がオレの代わりに一連の事情を説明してくれた。


「ケイが……、あっ! ごめんなさい。ケイ様が……、神族って本当なの?」


 エマの疑問に答えるために、オレは短距離ワープをしてみせた。20モラほど離れたところに瞬間移動して、唖然とした顔をしているエマたちに手を振ってから元の場所に短距離ワープで戻ってきたのだ。


「ホントに神族様だったの……」


 腰を抜かしたようにエマはテラスの床にお尻をついて跪こうとした。ルセイラとマメルも慌てている。テイナ姫はその様子を見て微笑んでいた。


「そういうことは止めてほしい。今までどおりの話し方や接し方でいいから……」


 オレはこの闇国に来てから、自分が神族と同じような能力を持っていることに気付いたことや、このアーロ村で多くの仲間たちができたことを語った。


 ようやく落ち着きを取り戻したルセイラたちには以前と同じような話し方で接することを無理やり承知させた。それから家の中で待っていたダイルや村長たちに出て来てもらってルセイラたちに紹介した。


「小さな村じゃが、この村には魔闘士が百人ほどおるのじゃ。そして、このアーロ村を支配しておられるのがケイ様じゃ。おまえ様方はケイ様の客じゃからの。何も心配せずにこの村でいつまでもゆっくり過ごしたらええぞい」


 この村に百人もの魔闘士がいると聞いてテイナ姫やルセイラたちは目を丸くして驚いていた。魔闘士の数が以前よりも増えたのは、村長たちが外様衆たちを訓練した賜物だ。


 その後、村長がゲストハウスの中を案内して部屋割も決まった。


 今日の夕食はテイナ姫たちの歓迎会ということで、みんな一緒にテラスで食べることになった。長老たちがテラスの横で石を積み上げて大きな焚き火を起こし、ダンブゥ(暴猪)の丸焼を作ってくれた。美味しそうな匂いが漂ってくる。村の女性たちが持って来てくれた料理がテーブルいっぱいに並び、村の男たちがビールや果実酒の樽を持ちこんで来て、みんなでワイワイと賑やかに食べた。


「夢じゃないのかな? 目が覚めたらレングランの闘技場に戻ってたりしないよね?」


 そう言うエマの頬っぺたをラウラがつねって「キャッキャッ」と笑い合っている。昔の闘技場時代の仲間たちがようやく戻ってきた。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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