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SGS180 テイナ姫救出作戦

 オレは高速思考を解除してレング神と王様に話しかけた。テイナ姫を救出する作戦を説明するのだ。

 

「分りました。ジルダ神をこの場に呼び出すのは諦めます」


「王位継承者を変えると言っていた件はどうするのだ?」


「王位継承者は今のままタムル王子ということで進めてください。それと、テイナ姫は王族に復権させて、その後直ちにゴブリンの国への和平交渉の特使として再度送り出してください」


「テイナ姫をゴブリンの国へ?」


 レング神は不審げな顔をした。


「そうです」


「それではテイナ姫を追放するようなものだぞ?」


「いいえ。追放ではなく王族として特使で行くのですから全然違います。それに、テイナ姫はゴブリンの国へ辿り着く前にわたしたちの手で保護します。その後で、ゴブリンの国へ向かう途上でタムル王子の一味によってテイナ姫は暗殺されたというウワサを流します」


「訳が分からぬ。なぜ、そのようなことをするのだ?」


「テイナ姫の安全を確保するためです。タムル王子は正式な王位継承者になって地位が安定すれば、次は自分の地位を脅かす者を暗殺しようとするでしょう。王族として復権したテイナ姫はタムル王子から見れば危険な存在です。テイナ姫は一番に狙われるはずですから。それと……」


 そこでオレは一旦言葉を切って、レング神からレングラー王の方へ視線を移した。二人ともオレが話を続けるのを待っている。


「それと、タムル王子を王位継承者とするのはこの国でクーデターが起きないようにするためです。この国で大きな勢力を持っているタムル王子を王位継承者に就ければ、この国は一時的には安定するでしょう。そうやって時間を稼ごうと考えています」


「時間を稼ぐ?」


「ええ。時間を稼いでいる間に、タムル王子への国民からの評判が地に落ちるように工作します。それに加えて、レングランでクーデターが起こらないように対策を講じたり、ジルダ神への攻略を進めたりするつもりです」


「つまり、タムルには王位継承者の地位に就いたと安心させて、時間を稼ぐということだな? そして、タムルが安心して油断している間にクーデターへの対策やジルダへの対策を講じるということか……。最終的にはタムルに難癖を付けて地位を剥奪して、テイナ姫をレングランに戻して王位継承者にする。そういう算段なのか? 考えたな……。だが、本当にできるのか? その対策というのを教えてくれ。何をするつもりだ?」


「それは……、まだ言えません」


「だが、その対策が何にせよ、どこかの時点で何かが起こっていることに気付かれるぞ。タムルやゴルドも馬鹿ではないからな。ジルダも怪しむだろう」


「そうでしょうね。でも、気が付いたときには手遅れになるようにします。ただし心配なことがあります。それは……」


 オレは王様の方を向いた。


「余に何かあるのか?」


 オレは王様の問い掛けに頷きながら言葉を続けた。


「それは王様のことです。タムル王子が王位継承者に決まったら、王様が暗殺される虞が出て来ますよね?」


 オレがそう言うとレングラー王は青くなった。


「たしかに、あのタムルは何をするか分からぬところがあるからな。王位継承者になったとたん、余を排除して自分が王位に就こうとする虞は十分にありうるな……」


「そのとおりです。ですから王様、くれぐれも用心してください」


 オレの忠告に王様は青い顔のまま頷いた。


「それはそうと、もうすぐ立太子の儀式が予定されておる。タムルを正式な王位継承者として余が宣言することになるが、それはどうするのだ?」


「予定どおり儀式は行ってください。それと、その場で条件を付けたら、王様の暗殺を防げるかもしれませんよ?」


「それは、どのような?」


「例えば……、もし王様が亡くなったとして、その死因に不審なところがあれば、王位継承者が王位に就くのではなく、王位を一旦レング神に返すことにするのです。そして、レング神が改めて新しい王様を決めることにしたらどうでしょうか?」


「なるほど……、その条件を付ければ、タムルは余に手出しできなくなるな」


「でも、王様。用心はしてくださいね。暗殺の方法は色々あるみたいですから。それと……」


 オレは顔をレング神の方に向けた。


「レング神。あなたの首輪のことですが、わたしが首輪をつけ直したことは内緒にしてください。今までどおりその首輪はジルダ神がつけたものとして振る舞ってください。今はジルダ神に疑いを持たれないことが大切ですから」


「だが、もし首輪が働かないことにジルダが気付いたらどうするのだ?」


「そのときは、首輪が壊れたらしいと言えばいいのでは?」


「それで納得するかどうか分からないが、首輪が働かないことを知ったら、ジルダは我に対する警戒度合いを今よりもずっと高めるだろうな」


「そんなに頻繁に首輪を使ってジルダ神から何か要求されているのですか?」


「いいや……。千年以上前にそういうこともあった気がするが、今は首輪を使って我に何かを求めてくることは無いな」


「それなら大丈夫。ジルダ神は首輪が働かなくなっていることに気付きませんよ」


「だがな、ケイさん。王位継承者を変更する件を進めれば、我とジルダは対立することになってしまう。そのとき、ジルダは首輪を使ってくるかもしれぬ。レングランのクーデターよりも、我が一族の分裂が先かもしれぬな……」


「ジルダ神への対策も時間を稼いでいる間にどうにかします。約束はできませんが……」


 オレの言葉を聞いてレング神は少し辛そうに顔を歪めた。ジルダ神との抗争が不安なのかもしれないな。


「ケイさん、あなたにお願いがあるのだが……」


 レング神からオレへの願い?


「何でしょう?」


「ジルダのことだ。ジルダを殺したり傷付けたりしないでほしいのだ」


「えっ!? でも、あなたは……」


 オレの言葉を遮って、レング神は頷きながら話しを続けた。


「あなたが言いたいことは分かる。たしかに我はこの千数百年もの間、ジルダに支配され逆らうこともしなかった。それは我につけられた首輪のせいでもあるが、それだけが理由ではない……」


 レング神はそこで言葉を切った。少し考えて、躊躇いながら話を続けた。


「我に首輪をつけたのはたしかにジルダだが、それを仕組んだのはジルダの両親なのだ。遠い昔のことだが、我は今も覚えている。あのとき、我に首輪をつけることをジルダは泣いて嫌がったのだ。それをジルダの父親が強引に事を進めてしまった。

 首輪をつけた後、我とジルダはお互いに警戒し合うような関係になった。だが、ジルダは我を警戒しながらも、ずっと我に尽くしてくれているのだ。ジルダはおそらく我と普通の夫婦になりたかったのだと思う……」


 あれっ? なんだか話が……。


 レング神の目は真剣だ。よく分からないが、ジルダ神のことについてオレを説得しようとしてるみたいだ。


「あなたはジルダに対して良い印象を持っておらぬだろうな。だが、ジルダはあなたが思うような悪い女ではないのだ。

 たしかにジルダは一族とこの国が繁栄することを一番大事にしている。それゆえに強権を振るって憎まれることも多い。だが、我から見れば、普段は優しく可愛い女なのだ。我はジルダを……、ジルダを愛している……」


「「ええっ!?」」


「そうなのっ?」


「ホントですかっ!?」


 オレだけでなく、ダイルたちも驚きの声を上げた。


 まさか数千年も生きてこの国を陰で支配してきたレング神からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。レングラー王でさえ驚いたような顔をしている。


 レング神は少年のように顔を少し赤らめながら頷いた。


 そのとき、ソファーの一番端に座っているハンナが口を開いた。


「レング神様。その思いをジルダ神様に言葉で伝えたことがありますか?」


「いや、無い……」


「もう一つ教えてください。ジルダ神様の思いもレング神様と同じなのでしょうか? つまり、ジルダ神様もレング神様を愛していると……?」


「分からぬ……。おそらく同じだと思うが……」


 なんだかレング神よりもハンナの方が悲しそうな顔をしている。


「その状態を千五百年も続けて来られたのですか……」


 本当に愛し合っているのだとしたら哀しい夫婦だな。優しいハンナはその長い年月に思いを馳せて哀しい気持ちになっているのだろう。


 しかし、ジルダ神を傷付けずに攻略することなんてできるのだろうか……。


「レング神。あなたのご依頼は分かりました。ジルダ神を殺したりするつもりはありません。でも、傷付けずにというのはお約束はできません。できるだけ穏便に対応するとしか言えません」


「それでけっこうだ。穏便に対応してもらえるなら我も進んで協力しよう」


 レング神はオレの手を握ってきた。本気らしい。オレもその手を握り返した。


 オレはレング神に対して変な先入観を持っていたようだ。会う前からもっと高慢な神族だと思い込んでいたのだ。まだ油断はできないが、相互に協力し合えるような良好な関係になれるかもしれない。こちらとしては誠意を以て率直に話をしていくべきだろう。


「レング神。穏便にジルダ神へ対応するために、わたしはジルダ神に密かに近付いて、あなたにお会いしたのと同じ方法で接触しようと思っています」


「それはつまり、不意を突いて首輪を使うと言うことか?」


 不安そうな顔でレング神が問い掛けてきた。


「はっきり言えばそういうことです。ジルダ神の館は警護が厳しいようなので、別の場所がいいのですが……。ジルダ神にこっそりと会えそうな場所はありませんか? あなたがご存知なら教えてほしいのです」


「ジルダは用心深いから気ままに館から出るようなことは無いな。決まって外出するのはレングランの神殿だが……。毎週決まった日にワープで出掛けているが、神殿も警護は厳しから密かに接触するのは難しいだろう。

 それと、もう一カ所……。行き先は知らぬのだが、ジルダが半月毎に出掛けている場所があるようだ。どこかレングランの街の中らしいが……」


 その後は細かいことを相談して今回の会談は終わりとなった。ジルダ神の行き先を調べてほしいとレング神に頼んでおいたが、困ったような顔をしていた。あまり期待できないかもしれないな。


 それと、イルドさんたちの身の安全を直ちに確保するようにレングラー王に頼んでおいた。オレの指名手配を取り消したり、捕縛されているイルドさんたちを釈放したりすることは今の時点では難しいことは分っている。だが、無実のイルドさんたちが拷問されたり、魔物の餌になったりするのは絶対に防がなきゃいけない。レングラー王が「それくらいなら王として対処しておく」と言っていたから任せて大丈夫だろう。


 今後もレング神たちとは時々会うことになると思う。そのときは念話でレング神に連絡を取って、レングラー王の寝室で会談することにした。


 ………………


 オレが女官の真似事をするのもこれで終わりだ。ダイルたちをワープでアーロ村まで送った。


 オレにはまだ後始末が残っていた。今回の件でオレと関わった公爵や女官、女兵士たちのところを回って、オレについての記憶を消した。


 既に夜明け近くになっていたが、オレはテイナ姫に再び会いに行った。眠っていたテイナ姫を起こして一連の作戦を説明した。テイナ姫は王族としての身分を取り戻せると知って喜んでいたが、ゴブリンの国へ和平交渉の特使として再度送り出されると聞き、顔を強張らせた。


『でも、心配はいりません。ゴブリンの国へ向かう途中でテイナ姫はわたしたちが保護しますから……』


 最終的にはタムル王子を王位継承者の地位から引きずり下ろして、代わりにテイナ姫をその地位に就けることを説明すると、テイナ姫はようやく安心したようだ。


 さて、これからテイナ姫の救出と次の攻略に向けて、やらなきゃいけないことが色々ある。面倒だが、今は昇龍のごとく駆け上がっていくときだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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