SGS018 スケベゴブリンに押し倒される
今回の狩りは肉などの食料や素材の調達が目的だ。ゴブリンなどの魔族と遭遇した場合は、相手の戦力しだいでは戦って殲滅するという話だった。魔族も人族と同じように大半がオーブを持っていて、相手を殲滅できれば、それを手に入れることができるのだ。
しかし、それは逆になる場合もある、ということだ。つまりこちら側が敗れてしまった場合は、殺されてソウルオーブを奪われるということだ。
オレが不安そうな顔をしているのに副長が気付いたようだ。
「おまえたち女は殺されないから、心配するな」
副長はそう言って笑うが、それってつまり……、そういうことだ。殺されてしまったほうが幸せかもしれない。
副長の指示で、丘を出発する際に隊形を変えた。
「スルホ、おまえは100モラ先を行き、偵察しながら進め」
モラというのは距離の単位だ。オレの感覚では1モラと1メートルは同じくらいの長さだと思う。ちなみにモラより小さい単位はセラで、100セラで1モラとなる。つまり1セラは約1センチだ。これからはオレも長さを表すときはモラやセラを使うことにしようと思う。
「ここから先は危険地帯だ。声を出したり音を立てたりするなよ」
副長の表情もいつになく真剣だ。
30分くらい歩いたところで道から外れて獣道に入った。さらに歩くこと30分。スルホから止まれの合図が来た。しばらく待っていると、近づくよう合図が来た。
行ってみると草むらにイノシシが倒れていた。こちらではダンブゥ(暴猪)と呼ばれている動物だ。死んではいないが、すでに虫の息だ。眠りの魔法が届くところまで近付いて魔法を放ち、動かなくなった獲物の急所を刺す。これが一番確実に獲物を仕留める方法らしい。この前、副長に教えてもらった方法と同じだ。
ただし獲物に気づかれるとやっかいだ。呪文は小さな声で呟くように唱えるのだが、その数秒間が一番危ないそうだ。もし、気づかれると、獲物はハンターに襲いかかってきたり、鳴き声を上げて仲間を呼んだりするらしい。
「近くに仲間がいることがあるから、ダンブゥだからと言って油断するな」
副長は周りに危険が無いか確かめてからダンブゥを解体するよう指示を出した。
ラウラ先輩とオレの二人で解体して肉にした。副長がそれに冷凍魔法を掛けて瞬間冷凍する。これで冷凍保存ができるらしい。残骸はスコップで穴を掘って土の中に埋めた。魔法の種類として土を掘る魔法や死体を分解して土に戻す魔法もあるらしいが、今回のパーティーメンバーは誰も使えないらしい。冷凍した肉は革袋に入れてオレが持つ。
その繰り返しで、3時間ほどでダンブゥ二頭とアクシャ(角鹿)一頭を仕留めた。アクシャとは大きな角を持ったシカのような動物だ。さすがに、オレが持つクメルンバッグもいっぱいになってきた。重さも10キロ以上ある。つまり、実際の重さは200キロ以上あるということだ。
………………
偵察は交代して、今、前を歩いているのはレンニだ。道は相変わらず低木の中をうねりながら続いている。
突然、100モラくらい前を歩いていたはずのレンニが慌てて戻ってきた。
「ゴブリンだ。三頭。距離300モラ。道をこっちに進んでくる。偵察隊か、単独かは不明」
「よし、オトリ策でいくぞ。ラウラとケイはこのまま歩いて前進だ。ゴブリンに見つかったらこっちへ逃げて来い。それから荷物はスルホに渡しておけ」
え? オトリってオレとラウラ先輩なの? ふくちょうーっ! それはないでしょう!
もちろん心の中で叫んだだけだ。
「おれたちは低木の中に潜んでいるから、ここまでおびき寄せるんだ! いいか、捕まりそうになったら、大きな声で悲鳴を上げるんだぞ。分かったか?」
「はい、副長。あなたもいいわね? 早くその荷物をスルホに渡して! さぁ、進むわよ」
さすがのラウラ先輩も緊張ぎみだ。
「せんぱーぃ……」
「心配しなくても大丈夫。今までも何度もやって、ほとんど成功してるんだから……」
えーっ? ほとんどって……!?
先輩が先頭に立ってオレと二人で歩き始める。足がガクガクする。
50モラほど進んだ。前方に何か見えた。あれがゴブリン? 身長は2モラくらい。少し太っていて、筋肉質。頭というか顔が大きくて、鼻が少し上を向いている。耳が尖っていて、頭に毛は無い。上半身は裸で革でできた短い腰巻を着けていて、右手に斧を持っている。肌は黄土色でプヨプヨしている感じだ。なんとなく顔も姿も愛嬌がある。三頭とも同じような感じだ。
とか言って、そんなことをじっくり観察している余裕なんて無かった。今の観察メモは後で思い出したことだ。
向こうも気付いたみたいだ。
「きゃぁぁぁーっ!」
先輩が悲鳴を上げて逃げ始めた。
「人族のおんなっ!」
「まてーっ! 止まれーっ!」
ゴブリンたちも走り出した。オレも先輩の後を追って走り始める。
副長たちが潜んでいるところまで走ると、先輩は振り返った。何やら呪文を唱えた、と思った瞬間、火球が20モラ先のゴブリンに向かって放たれた。
立ち止って身構えている先頭のゴブリンに火球が命中したかに見えた。ゴブリンは衝撃で少しよろめいたがダメージは入っていないようだ。たぶんバリアに守られているのだろう。
ゴブリンたちは20モラくらい離れて立ち止ったままだ。次に来る魔法攻撃を警戒しているらしい。数分の間、こちらの様子を窺っていたが、もう魔法攻撃は来ないと判断したのか、ゴブリンたちは少しずつ近寄ってきた。
先輩は狩猟刀を抜いて身構えた。
「ケイ、あなたも戦うのよ!」
そんなぁー!! ムリだって!
でも一応、オレも狩猟刀を抜いて身構えた。役に立ちそうにないが、何もしないよりはマシだろう。
「女たち、殺さない。抵抗、ムダ! その短刀、アブナイ!」
「オラたち、親切ゴブリン。人族の女、大切にする。心配ナイ」
ゴブリンたちは持っていた斧を下ろした。戦意が無いことを示そうとしているらしい。もう目の前まで近づいて来ている。
どうなるんだろ?
オレは頭が硬直してしまって、何も考えられない状態だ。手も足もすくんでしまって、思うように動かない。
「やぁぁぁーっ!!」
突然、先輩が狩猟刀を振りかざして、目の前のゴブリンに斬りかかった。見た目は鈍重そうに見えるが、ゴブリンの反応は速かった。まず先輩の打ち込みは見えない何かで弾かれた。バリアに弾かれたのか?
ゴブリンはすぐに先輩の腕を掴んで、狩猟刀を取り上げてしまった。そのまま先輩を押し倒した。
オレも見ていたのはそこまでだった。すばやく走り寄ってきた別のゴブリンに狩猟刀を叩き落とされた。右腕を掴まれてしまった。
やばい! 副長、早く助けてくれ!
心の中で叫んだが、どこからも助けは来ない。
体を引っ張られて、ムギュっと抱きしめられてしまった。
「この女、匂い、好き。いい匂い。オラの女、なるだよ」
このスケベゴブリン! オレは左手でゴブリンの体を殴っているつもりだが、抱きしめられているので、まったく力が入らない。
そのまま地面に押し倒されてしまう。ゴブリンはオレの上着に手を掛けて、ヒモをほどき始めた。
うわぁ! 上着の前を開かれたら、やばい! 必死に抵抗したが、それも空しく、上着のヒモはほどかれてしまった。ゴブリンがオレのオッパイをブラの上からムギュっと掴んだ。
あぁっ! もう、ダメだ……。




