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SGS179 哀しい夫婦

 レング神の話によると、タムル王子が関わっている案件をひっくり返そうとするなら慎重に事を進める必要があるそうだ。そうしないとレングランでクーデターが起こるかもしれないと言う。いったいどういうことだろうか。


 オレがその疑問を口にすると、レング神はレングラー王の方へ顔を向けた。


 レングラー王はその意を汲み取ったらしく、「それは余が説明しよう」と言って言葉を続けた。


「余の至らぬさが原因なのだが、タムルとゴルド将軍はゴルディア兵団だけでなく、いつの間にか国軍にも手を伸ばしておってな。密かに調べさせたところ、国軍を指揮する部隊長の半数以上がタムルに味方しておると分かったのだ」


「やはりそうなのですね。それなら、闇国から反乱軍が王都へ攻め上ってくるという話もタムル王子たちが軍を掌握するために利用していたことは間違いないですね?」


「おそらくな。国軍の部隊長の中にはタムルに味方することを躊躇っておる者が何人もおった。闇国の反乱から国を守るという大義名分を与えれば、その者たちも躊躇わずにタムルに従うであろうからな。タムルはそれで一気に国軍を掌握できることになる」


「なるほど」


「考えてみるがよい。もし今の時点で王位継承者をタムルからテイナに変えようとすれば、どのような事態が起こるか分かるか? タムルの立場で考えてみれば容易に想像がつくはずだ」


 問い掛けられてオレは少し考えた。そして口を開いた。


「わたしがタムル王子であれば、こう言って騒ぐでしょうね。テイナ姫は闇国と繋がっていて、闇国から押し寄せてくる反乱軍を王都に導き入れようとしていると言ってね。テイナ姫は王様まで誑かして、王位継承者を自分からテイナ姫に変えようとしている。今のままではこの国はテイナ姫と闇国からの反乱軍に乗っ取られる。騙されてはいけない。そう扇動して国軍を動かす……。つまり、タムル王子は国軍を動かしてクーデターを起こそうとする。そういうことですか?」


「まぁ、そういうことだ。レング神様が懸念されておるのもそれなのだ。タムルが国軍を動かしてクーデターを起こしたりしないように、今は慎重に事を進めねばならぬ」


「王様が動いて、国軍をタムル王子から引き離すことはできないのですか?」


「それが簡単ではないのだ。特に問題なのが魔闘士部隊だ。タムルはその部隊を完全に味方につけておる。我が国軍の中でも最強なのが魔闘士部隊でな。余も手が出せぬのだ」


 レングラー王は情けなさそうに俯いた。


「それは変ですよ。王様が手を出せないとしても、神族は違うはずです。レング神、あなたが神族の主神として上からガツンとタムル王子を正してください」


 オレの言葉に、今度はレング神が情けなさそうに顔を歪めた。


「そうしたいのだが、我にはその力が足りぬのだ。タムル王子とゴルドの後ろにはジルダが付いている。ジルダの使徒たちは精鋭が揃っていて、魔力が高い者ばかりだ。それに、最近は我の第二夫人のミレイがジルダの館に頻繁に出入りしているようだ。ミレイもジルダに取り込まれていると見ていいだろうな」


 レング神はまるで他人事のように言ってるが、それは違うだろう。


「ジルダ神もミレイ神もあなたの奥さんでしょ。首輪を外したから、あなたはジルダ神の支配から逃れたんですよ。だから、今度はあなたがジルダ神を支配すればいいのでは?」


 オレの言葉を聞いて、レング神は「フフフフッ」と軽く笑った。


「おっと、つい笑ってしまったが許してくれ。そのように簡単にジルダを我の支配下にできれば苦労は無いのだがな。あなたは知らないだろうが、レング一族を実質的に支配しているのは我ではない。ジルダなのだ」


「でもそれは、あなたがジルダ神に神族封じの首輪をつけられていたからでしょ?」


「いや、それだけではない。我は千五百年前にレング一族の婿に入ったのだが、そのときには既にジルダの両親の手によってジルダの支配体制が整えられていたのだ。その頃からジルダの使徒たちは精鋭ばかりだった。それにジルダ自身の魔力も我よりも高かったしな。ジルダの両親が相次いで死んでからは、レング一族の実権はジルダが握ったのだ」


 千五百年……。気が遠くなるような時間だ。よくもまあ、そんなに長い間、レング神は我慢できたものだ。


 それほどにジルダ神とその使徒たちは強いのだろうか?


「ジルダ神とその使徒たちの魔力を具体的に教えてもらえませんか?」


「すまないが我も正確には分らぬ。ジルダの使徒は十四人いるから、ジルダの魔力は〈1400〉を越えていることは間違いない。使徒たちもおそらく〈1000〉前後の魔力を有しておるだろうな」


 神族が使徒を持てる最大数は魔力で決まる。レング神が言ってることが本当だとしたら、ジルダ神やその使徒たちとガチで戦うと勝つのはまず無理だろう。


「あなたとあなたの使徒たちの魔力はどれくらいあるのですか?」


「我か……?」


 レング神は少し躊躇ったが、諦めたように口を開いた。


「我の魔力は〈1320〉だ。使徒は十三人で、その魔力は〈700〉から〈900〉くらいだ」


「第二夫人のミレイ神はジルダ神側だと言ってましたけど、第三夫人は?」


「ナナニか? ナナニはジルダとは付かず離れずの関係だと思うが」


 戦力を確認するためにミレイ神とナナニ神のことも尋ねた。二人とも使徒の数は十二人らしい。だから、ミレイ神もナナニ神も魔力は〈1200〉を越えているということだ。使徒たちの魔力は分からないと言われた。


 その戦力を聞いていたユウが高速思考に切り替えて話しかけてきた。


『ねぇ、ケイ。作戦通り進めましょ?』


 実はコタローやユウと一緒に練り上げた作戦はレング神だけでなくジルダ神を含めた一族を一気に攻略しようという内容だった。レング神に首輪をつけて暗示を掛けることができれば、芋づる式に夫人たちを攻略できるはずだ。レング神を捕らえたのと同じ方法を使うのだ。


 レング神に念話でジルダ神を呼び出してもらって、ジルダ神をここへ誘き寄せる。首輪はレング神につけたのを使い回しする。レング神の首輪を外すことになるが、暗示が掛かっているからレング神がオレに敵対してくる虞は無い。


 この作戦でレング一族全員を攻略できれば、レングランは完全にオレの味方になるはずだ。それに、ミレイ神を従わせることができれば、オレに掛けられた暗示を解かせることもできるのだ。


『そうだね、ユウ。まともにジルダ神たちと戦っても勝てないだろうからね』


『ええ。それに、ジルダ神を攻略できれば、タムル王子やゴルド将軍の攻略も簡単になると思うわ』


 高速思考を解除して、レング神に作戦を説明して問い掛けた。だが、レング神の表情は冴えない。


「ムリだな。呼び出しても、ジルダがこの場へ来るはずがない」


「それは、どうして?」


「我のことを警戒しているのだ。普段と違う場所で会おうと呼び出せば、そこに罠があると考えるだろう。我とジルダとはそういう関係なのだよ」


 なんて哀しい夫婦だろうか。


「そんな関係を千年以上続けてきたのですか?」


「そうだ……」


 寂しそうな表情だ。レング神が哀れに思えてきた。


「じゃあ、どうやってジルダ神と会っていたのです?」


「我がジルダ神の館を訪ねていくのだ。それも我が一人だけでな……」


 レング神の話では、普段からレング神とそれぞれの夫人は別居しているそうだ。それはレング神に限った話ではなく、どの神族もそういう生活をしているらしい。


 神族というのは一族毎に王都から離れた山の奥深くに拠点を作っていて、その拠点で暮らしてる。どの神族の拠点も半径が数ギモラくらいの広さがあって、拠点の内側は結界で守られている。その拠点の中に主神や夫人たちはそれぞれが自分の館を建てて住んでいるそうだ。主神と夫人たちは普段は干渉し合わないで暮らしているらしい。


 レング神とジルダ神の館は2ギモラほども離れていて、何か用があって会う場合はレング神がジルダ神の館へワープすることになっている。館の中はジルダ神の使徒が常に十人くらいいて、守りは堅い。戦いを仕掛けても失敗することは目に見えているそうだ。


「つまり、ジルダ神を誘い出すのもムリだし、攻め込むのはもっとムリということ?」


「そういうことだ」


 オレの問い掛けにレング神は頷いた。


「それは第二夫人や第三夫人も同じですか?」


「ミレイとナナニも警戒して、ここには来ないだろうな」


 どうしよう……。オレは高速思考を発動して、ユウとコタローに相談した。


『ケイ、作戦をこのまま続けてレング一族を一気に攻略するというのはムリがあるわね』


『それどころか、王位継承者をテイナ姫に変更することもムリだにゃ。レング神の言うとおりクーデターが起こる可能性が高いわん』


『最終的にはテイナ姫を王位継承者に就けるとしても、その前にタムル王子とジルダ神への対策が必要だよね』


『そうなのだわん。まずはテイナ姫の安全を確保してからだにゃ』


 色々と相談して、これからどう動くかが何とか決まった。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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