SGS177 本丸攻略その3
皮の袋から神族封じの首輪を取り出して、オレはレング神の首につけようとした。そのときレング神の首に何か別の物が張り付いていることに気が付いた。それは肌と同じような色をした細い首輪だった。
『神族封じの首輪だにゃ』
コタローの言葉を聞いて、ユウが高速思考でオレに問い掛けてきた。
『ケイ、これってどういうことかしら? レング神は誰かに神族封じの首輪をつけられて、支配されているってことよね?』
『そういうこと……、みたいだけどね。でも、いったい誰が……?』
『おそらくジルダ神に支配されていたのだろうにゃ。ガリードが言ってたことと符合するわん』
そう言われて思い出した。レング神がジルダ神に逆らえない裏事情が何かあるのだろうとガリードが言っていたが、その裏事情がこの首輪だったのだ。
『ねぇ、ケイ。その首輪を使って、予定どおり進めましょ?』
高速思考を解除して、レング神がつけている首輪を外した。そして、もう一度レング神の首につけ直した。レング神はジルダ神の支配下から外れ、これからはオレに支配されることになる。
コタローのアドバイスをもらいながら、首輪を有効状態にして従属機能を開始させた。これでレング神はオレに従属することになった。
『その首輪を有効状態にしたからにゃ、首輪はケイと常にリンクした状態になったはずだわん。だからにゃ、その首輪がどこにあっても無詠唱で首輪に指示を出せるしにゃ、首輪がある場所へワープもできるようになるのだぞう。首輪をつけた者に念話もできるわん』
『つまり、レング神がどこにいても念話で会話ができるし、命令も出せるってこと?』
『そういうことだにゃ。命令に従わなければ遠隔地からでも電撃罰を与えることができるしにゃ、魔力を止めることもできるわん。離れたところにある首輪へ念話で指示が出せるのは初代と同じ特性を持っているケイの特権にゃのだぞう』
それはすごい。じゃあ、まずはレング神の魔力を止めて、暗示を掛けておこう。魔力が無ければ、神族でも暗示は簡単に掛かるはずだ。
オレはレング神に対して、レングラー王と同じような暗示を掛けた。
これでレング神はオレの命令に必ず従うことになる。オレに危害を加えたり騙したりすることもできないし、オレの秘密も守るはずだ。もし違反しようとすれば、直ちに全身がマヒして耐えがたい痛みが繰り返し起こることになる。
サレジから没収した首輪は結果的に使わなかったから異空間倉庫に戻した。ダイルたちにはソファーに座ってもらった。レングラー王のマヒは解いておいた。これからレング神と話し合うが、王様にもその中に加わってほしいからだ。
これで準備は整った。では、レング神を起こして話し合いを始めよう。
マヒと眠りを解除すると、レング神は少しだけぼんやりしていたが、何があったか思い出したのだろう。ソファーから体を起こして座り直した。表情をほとんど変えずにオレを見て、その後、ダイル、ハンナ、ラウラと視線を移していった。そして再びレング神はオレをじっと見つめた。
意外にレング神は冷静に見える。こちらが何か言うのを待っているようだ。
「神族封じの首輪をつけていたのですね? あなたに首輪をつけたのはジルダ神ですか?」
「それについては話したくない。自分の恥だからな……」
さっきまでの威圧的な口調ではなく、何かを諦めたような静かな口調だ。
「あなたが眠っている間にジルダ神がつけた首輪は外しました。そして、今度はわたしがあなたの首にその首輪をつけ直しました。ですから、これからはわたしに従ってもらうことになります」
「バカなことを言うな。神族封じの首輪は誰にも外すことはできぬ。我の首輪を外せるのはジルダだけだ」
やはりジルダ神に支配されていたのだ。だが、今はオレの支配下になった。それをレング神に分からせねばならない。
「わたしは普通の神族とは違っていて、初代の神族と同じ能力を持っています。それで神族封じの首輪を自由に外せるのです。その証拠に、その首輪で今はあなたの魔力を封じています。魔法が使えないでしょ?」
レング神は顔色を変えて呪文を唱え始めた。ワープの呪文だが、もちろん発動しない。今度は別の呪文を唱え出した。オレに対してバリア破壊の呪文を唱えようとしたらしいが、途中で倒れて苦しみ出した。オレを攻撃しようとしたから暗示が効いて全身に激痛が走っているのだ。
こんな激痛に襲われたことは今まで経験したことが無いのだろう。レング神は青白い顔をしてソファーに寝そべっている。放心状態のようだ。
「まだ説明していませんでしたが、あなたには暗示を掛けておきました」
オレは暗示の内容を説明した。
「つまり、我は完全におまえの支配下にあると……、そういうことか?」
レング神の顔色は悪い。疲れた顔をしている。
「はっきり言えば、そのとおりです。これからはわたしに従ってもらいます」
「我はジルダの支配下からおまえの支配下になったということだな……」
自嘲するような言い方だ。
「そんなに落ち込まないでください。わたしの支配下になったと言っても、わたしは無茶な要求をするつもりはありませんから」
「それで? その要求とは何だ? 我に代わってこのレングランを支配したいのか?」
「違います。このレングランは今までどおり、あなたが裏から支配してください。レングランの統治も隣に座っている王様にそのまま続けてもらいたいと思います。ただし、いくつかお願いすることがあります」
「早く言え」
「まずはさっきも言いましたが、レングランの王位継承者を変更する件です。タムル王子ではなくテイナ姫に変更してください。次にわたしとわたしの仲間たちへの敵対行為を止める件です。わたしは闇国にあるアーロ村を支配しているのですが、レングランは謀略を使ってバーサット軍をアーロ村に侵攻させました。それは退けましたが、今もわたしが闇国でレングランへの反乱を企てているという根も葉もない噂を流す者がいて、レングランはわたしを指名手配しています。直ちにアーロ村やわたしたちに対する敵対行為は止めてください。それと、もう一つ重要なお願いがあります」
重要なお願いと聞いて、レング神は顔を強張らせた。
「わたしや仲間たちと友だちになってください。それから、わたしや仲間たちに対する言葉遣いにはもう少し気を使ってください。あなたとは立場は対等だと思ってますから」
横で聞いていたダイルが笑い出した。
「ハハハハッ。何を言い出すのかと思ったら……」
つられてラウラとハンナも笑い出した。
「紹介が遅くなりましたが、隣に座っているのはわたしの仲間たちです。わたしの家族同然の者たちで、あなたや王様には遠慮なく接することになります。今後はわたしの代わりにあなたや王様と会うことがあるかもしれませんから覚えておいてください」
ダイルたちは「よろしく」と言いながら軽く会釈した。だが、レング神はダイルたちをジロリと見ただけだ。顰めた顔は明らかに怒っていることを表している。
「友だちになれだと? 何かの冗談か? 我やレングラー王に対して不意打ちを仕掛けて来て、さらに暗示まで掛けて我らを支配しようとしているのだぞ。そのような仕打ちをしておいて友だちになれと申すのか?」
「レング神のお怒りは尤もなことです。わたしはそれを承知で友だちになってほしいと自分の本心を話したのですから。主神のあなたやレング一族とは敵対したくない。と言うよりも、むしろ仲良くなりたい。それがわたしの素直な気持ちなのです」
「その理由を聞かせてもらおう。このような仕打ちまでしておいて、厚かましく我らと仲良くなりたいというのはナゼなのだ?」
問われて、ごまかすべきか少し迷った。
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




