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SGS174 ちょっとした仕返し

 翌朝。眠り解除の魔法でアルレを起こした。マッサージの途中で裸のまま気持ち良さそうに眠ってしまったと説明すると、アルレは恥ずかしそうにした。暗示が掛かっているからアルレはオレの言うことを素直に受け入れている。


 今日も朝からずっと実技の訓練が続いていた。


 基本的な訓練は今日で終わりで、明日、カラーナに挨拶をしてからアルレとのペアで実務を始めるらしい。だから、今日中になんとかして王様の部屋まで辿り着きたい。


 訓練部屋でアルレに指導されながらお化粧の実習をしていると、部屋に女官が入ってきた。王妃様付きの六位の女官で、巡視のために部屋に入ってきたのだ。


 オレはこれを待っていた。王様の寝室に辿り着くためにオレはある方法を考え付いていて、そのためには王妃様付きの女官が必要なのだ。


 すぐさまアルレとその女官に眠りの魔法を掛けた。そして、その女官に暗示を掛けた。暗示でこの女官にはオレのことを王妃様だと思い込ませた。


「今からあなたに王様の寝室へ届けてほしいものがあるのだけど、できる?」


 届けてほしいものとはネズミだ。


「王妃様、申し訳ございません。わたくしは王様の寝室へは入れません。自由に出入りできるのは五位の女官様とその上位の方々だけです。それに何かを持って廊下の扉を通るには検問で許しを得なければなりません」


 なるほど。この女官ではムリみたいだ。五位の女官と言えば、あのキツネ目の美人が五位だったな。オレの頭を皿で殴った女だ。あの女官を呼んで来させよう。


「五位の女官の中で、キツネ目の美人がいますね? その女官をここに呼んで来なさい」


「キツネ目の美人……。はい。ちょうど別の場所を巡視しておられます」


「それならここに連れて来なさい。巡視中に新米の女官が大変な不届きをしたから、五位の女官様の手で折檻してほしいと言えば来るでしょ? 何事かと聞かれたら、新米の女官が指導女官に暴力を振るって気絶させたと言いなさい」


 その六位の女官はすぐに訓練部屋から出ていった。指導女官のアルレはテーブルの上で横になって眠っている。


 しばらく待っていると探知魔法で人族が五人近付いていることが分かった。人数が多いな……。


 扉を開けて入ってきたのは六位の女官だった。続いて肩を怒らせたキツネ目の美人が入ってきた。オレを皿で殴った五位の女官だ。その後から入ってきたのは女兵士が三人だ。


 キツネ目美人はテーブルの上で横たわっているアルレを見て、恐ろしい目付きでオレを睨みつけた。


「指導女官に手を上げるとはっ! おまえを死罪にしてやるっ!」


 ツカツカとオレのところに歩み寄って来て右手を振り上げた。


「ギャッ!!」


 キツネ目美人は悲鳴を上げて2モラほどぶっ飛んだ。オレを叩こうとしてバリアに弾き飛ばされたのだ。床の上に倒れて気絶している。


 驚いて駆け寄ろうとした女兵士三人と六位の女官はすぐに魔法で眠らせた。


 では、仕事の続きに取りかかろう。


 キツネ目美人に暗示魔法を掛けた。暗示でキツネ目美人もオレのことを王妃様だと思い込んでいる。


「今からあなたには王様の寝室へ使いに行ってもらいます。今夜、王様と内密にご相談したいことがあるのです。王様のご都合を伺って、ここに戻って来なさい。ご都合が良ければ、王様の寝室へ夜の9時に伺いますが、内密の話なので人払いをお願いしますと、そのようにお話し申し上げるのです。できますね?」


「はい、王妃様。すぐに王様に伺ってまいります」


 よし! 王様と相談したいというのも作戦の一環だ。これで、このキツネ目美人は王様の寝室へ王妃様の使者として堂々と入って行けるはずだ。でも、この女官を王様の寝室に入らせるだけじゃダメだ。肝心のネズミを運ばせないと……。


「それと、王様の寝室へ行くときに、あなたにもう一つ頼みたいことがあります。王様は実は可愛いネズミがとてもお好きなのです。ペットとして飼いたいと申されていましたが、王たる者がネズミなどを飼うのは恥ずかしいと遠慮されていました。でも先ほど、王様が望まれていた可愛いネズミが手に入ったのです。それで、あなたにそのネズミを運んでほしいのです。もしほかの者にネズミを見つけられたら王様が恥ずかしい思いをされることになります。ですから、こっそりと王様の寝室までネズミを運ぶのです。いいですね?」


「お言葉ですが、王妃様。この部屋から王様の寝室まで行くには検問を通らねばなりません。こっそりとネズミを運ぶのは難しいと存じます」


 たしかにそうだろうな。制服のワンピースは体にピタッとフィットしていて、ネズミを入れるようなポケットは無い。


 胸の中はどうだろう? いや、ダメだ。胸にネズミを隠したりしたら、体形が崩れて外から分かってしまう。


 いや、待てよ……。一カ所だけ、隠せる場所がある。


 オレは高速思考を発動してユウとコタローに相談した。オレのアイデアにユウは面白がり、コタローは嫌がったが渋々承諾した。高速思考を解除すると、ネズミが足元にワープしてきた。


 キツネ目美人はオレが言葉を掛けるのを姿勢を正して待っている。


「それでは、あなたの股の間にネズミをぶら下げなさい。そこなら見つかることもないでしょう。このネズミは賢くて、自分でシッポを使ってぶら下がることができるのです」


 それを聞いて、キツネ目美人は顔を青くした。オレは根に持つタイプではないが、昨夜、この女官に皿で頭を殴られたことは忘れていない。ネズミを王様の寝室に潜入させることは今回の作戦の要だが、このキツネ目美人へのちょっとした仕返しでもあるのだ。


「わたくしが……、そのようなハシタナイことを……」


 キツネ目美人は瞳を揺らしながら躊躇っている。


「これは王様がお喜びになることです。王様のためなのです。それとも、あなたは王様やわたしに逆らうと言うのですか!?」


「いえ、けっしてそのようなことは……。仰せのままに……」


 女官は頭を下げた。完全にオレのことを王妃様だと思い込んでいるから従順だ。


 オレは足元にいたネズミを摘み上げて、手のひらに乗せた。


「ヒッ!」


 キツネ目美人はそれを見て息を飲んだ。


「可愛いでしょ?」


「は、はい……、王妃様」


 小さなネズミでオレは可愛いと思うが……。


「では、ネズミをぶら下げるから、ワンピの裾を捲りなさい」


 キツネ目の女官はさすがに恥ずかしそうだが、少しずつ裾を捲っていった。


「そこで止めなさい」


 それ以上捲ると股間が見えてしまう。別にオレはこの女の股間を見たいわけじゃないからな。


「そんなに脚を固く閉じてたらネズミをぶら下げられないでしょ! もう少し脚を開いて……」


 手のひらに乗ったネズミを女官の股の間に近付けた。ネズミが長いシッポを高く上げて何かを掴んだようだ。


「あっ……」


 女官もそれを感じたのだろう。小さな声を上げた。


『コタロー、大丈夫? 女官が歩いたときに落っこちたりしない?』


『シッポを絡めてしっかりと掴んだから問題ないわん』


 オレはゆっくりと手からネズミを離した。


「ああっ……」


 ネズミの重さを感じたのだろう。キツネ目美人がまた小さく喘ぎ声を上げた。


 オレは女官のワンピの裾をゆっくりと戻していった。


 うん、大丈夫みたいだ。外から見ただけでは分からない。まさか股の間にネズミがぶら下がっているとは誰も思わないだろう。


「ちょっと歩いてみなさい」


 キツネ目美人が部屋の中を歩き始めた。ちょっとガニ股で、歩き方に違和感がある。


「ガニ股で歩かないように! もっと上品に歩きなさい!」


「も、申し訳ございません……」


 何度も歩く練習をして、だいぶ良くなってきた。注意して見ると股を開いて歩いているのが分かるが、これは仕方ないだろう。時々、ワンピの股間辺りがモッコリと膨らんだりしてるのは、ネズミがぶらぶらして当たっているせいだな。


『コタロー、ネズミは大丈夫? 股に挟まれたりしてない?』


『なんとか頑張ってるけどにゃ……』


 まぁ、大丈夫そうだ。


「では、行きなさい。王様の寝室に入ったら、ネズミは勝手に床に下りるから、あなたが気にする必要はありません。王様にネズミのことは言わなくても、ご存じですからね。ネズミのことを口にしたら王様が恥ずかしい思いをされるから、けっして言わないように。いいですね?」


「はい、王妃様。では行ってまいります」


 キツネ目美人は扉を開けて訓練部屋から出ていった。


 オレは残った女兵士と六位女官に暗示を掛けた。ここで見聞きしたことを忘れさせて、それぞれの部署に帰らせた。もし何か聞かれたら何事も無かったと報告するはずだ。


 10分ほど経って、コタローから連絡が入った。


『成功だわん。王様の寝室に入って、ワープポイントを設定したぞう。五位の女官はケイから言われたとおりに王様へ伝言してたわん。王様は承知したと言ってたから、計画どおりだにゃ。女官はすぐにそっちへ戻るはずだぞう。それと、ネズミは無事に異空間ソウルへワープしたからにゃ』


『分かった。ありがとうね、コタロー』


 やった! 今夜9時。王様は人払いをして寝室で王妃様を待っているはずだ。いよいよ決戦だ。本丸を攻略するのだ。


 キツネ目の女官が訓練部屋に戻って来て、王様からの返事をオレに報告した。


「ご苦労でした」


 この女官にも暗示を掛け直して、少しだけ尋問した。それから、この部屋でのことや王様に使いに行ったことはすべて忘れさせて、普段の仕事に戻らせた。ただし、股間にネズミをぶら下げて王様に届けたことだけは夢の中の記憶として残してあげた。きっと一生忘れないだろうな。


 その後、オレは指導女官のアルレを起こして訓練を続けた。


 ………………


 夜9時。アルレは1時間前からベッドで眠っている。夜7時までに訓練をすべて終えて、8時には眠りに就くよう暗示を掛けたからだ。


 オレは王様のお手付き女官が着るワンピに着替えた。キツネ目美人に持って来てもらったのだ。そして王様の寝室へワープした。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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