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SGS172 女官も楽じゃない

 指導女官のアルレがクローゼットで次々と女官服などを選んでいく。


 風紀が乱れるのを嫌うのであれば、女官服をもっとお堅いデザインにして下着も着用させれば良いと思うが、王様の希望で今のような女官服になっているそうだ。王様の気持ちはよく分かる。男だったら美女たちを相手に「ヒャッハー」って無双したいよな。


「これと、これも持って……」


 女官服の着替えや部屋着、タオルなどを渡された後、クローゼットを出た。


 アルレに付いて狭い廊下を進み、何番目かのドアを開けて中に入った。ベッドが二つ並んでいる。女官用の寝室の一つらしい。


「ここがあなたのベッド。こっちはあたしのよ。今夜からこの部屋で一緒に寝ることになるからね。あなたの衣装棚はそれよ」


 アルレが衣装棚を指差している。オレが手に持っていた着替えなどを仕舞うと、アルレがまた口を開いた。


「それと、この後宮での女官の仕事と必ず守らなきゃいけないことを話しておくわね。まず、この後宮の中には……」


 意外にもアルレは親切だった。その話によると、この後宮の中では百数十人の女たちが暮らしているそうだ。その4割くらいが女官で、残りは後宮の中で料理や掃除、洗濯、裁縫などをする下女と後宮を護衛する女兵士たちだ。


 下女がいるということは、オレは苦手な料理や掃除、洗濯などの家事仕事からは免除されるってことだ。ラッキー。


「あたしたちの仕事はカラーナ様のお世話をすることよ。たとえばね、カラーナ様へお出しする料理のお毒見と配膳とか……」


 アルレが色々と説明してくれたが、それを聞いたオレは目まいがしてきた。ラッキーとか思った自分が馬鹿だった。


 王様や夫人たちの世話は下女ではなく女官の仕事なのだ。だから、カラーナの部屋の掃除、着衣の洗濯、着替えの手伝い、風呂場でカラーナの体を洗ってマッサージ、化粧の手伝い、カラーナが王様とベッドインするときの添い寝など、様々な仕事をこなさないといけない。おまけに、いつ用事を言い付けられてもいいように常に二人の女官がそばで待機しておくことが必要だ。これは大変だ。


「あのぅ、わたしがすぐにカラーナ様のお世話をするのはムリだと思います。家事が苦手で、そういう技能が身に付いてないので……」


「そんな無茶なこと、すぐにさせるはずがないでしょ! あなたが失敗したら、あたしも叱られるのだからね。まずは実技を徹底的に訓練するわよ。あたしが厳しく指導するから、しっかり身に付けなさい」


 その後も、仕事の話や後宮の中での細かい規則の説明を受けた。特にオレがげんなりしたのは階位の上下の厳しさだ。上位者からの命令や指示に逆らったら、すぐに折檻されるらしい。廊下で擦れ違うときも、階位の低い者が立ち止って相手が通り過ぎるまで伏し目の姿勢を続けなければならない。


 階位は着衣の絵柄で見分けるそうだ。間違わないように徹底的に教え込まれた。


 説明が終わると、すぐに実技の訓練が始まった。訓練用の部屋があって、そこで配膳や掃除、洗濯などの実技を何度も繰り返した。訓練中に初めて見る顔の女官が入ってきた。アルレもオレも姿勢を正して部屋の隅で伏し目の姿勢でじっと佇んでいた。考えてみればアルレも階位は八位だから下っ端に近い。


「入ってきたのは王妃様付きの女官よ。ああやって後宮の中を巡視してるの。女官や下女が不届きなことをしていないか見て回っているのよ。王様や王妃様付きの女官は同じ階位でも別格だからね。睨まれないように注意するのよ」


 女官が出ていった後で、アルレがそっと耳打ちしてくれた。


 夜の9時過ぎまで訓練を続けて、それから夕食を食べに食堂へ向かった。後宮の中に女官用の広い食堂があって、遅い時間なのにまだ何人かの女官がテーブルに着いて食事をしていた。


 オレたちは食堂の隅っこのテーブルに着いた。邪魔にならない場所でアルレをカラーナに見立てて毒見や配膳の訓練をするためだ。この訓練が終わるまでオレは夕食を取れない。


 オレがアルレの後ろに立って給仕をしていると、少し離れたところで食事をしていた女官から声が掛かった。


「あなた、見掛けない顔ねぇ。新入りかしらぁ?」


「はい……」


 オレがどう返事をして良いのか困っていると、横からアルレが助け舟を出してくれた。


「お許しください。この娘は先ほど後宮に入ったばかりで、まだ礼儀作法を身に付けておりません」


「あなたに聞いてないわぁ。お黙りなさいな」


 その女官をちらっと見ると、着衣から王妃様付きの女官だと分かった。五位だから一般女官の中では最高位だ。王様か王妃様に付いている女官だけが五位まで上り詰めることができるそうだ。さっきアルレから教えてもらったばかりだから間違いない。切れ長の目がちょっと吊り上っているキツネ目の美人だった。


「あなた、こっちに来て、わたくしの給仕をしなさいな」


「はい……」


 返事をしたものの、アルレの許しが必要なのかちょっと迷った。


 すると、いきなり皿が飛んできた。オレが反射的に避けると、そのキツネ目美人は怒りの形相で立ち上がった。こっちへツカツカと歩み寄ってきたが、目の前を通り過ぎた。何をするのか見ていると、女官は床に転がっている皿を拾った。


「わたくしとしたことが……」


 皿を投げたことを反省しているのか? そう思っていると、女官はその皿を振り上げた。


 「ガツン!」という音が聞こえた。頭を皿で殴られた衝撃が全身に走った。痛みで目から星が出るよう感じがして目が回った。気付くとオレは床に倒れていた。


「鈍な娘だわねぇ」


 キツネ目美人はそう呟くと自分の席に戻っていった。


 くそっ! 反撃してやろうかと思ったが、この場所ではマズイ。ほかにも女官が数人いて、こっちを見ているからだ。


 オレは床に倒れたままだ。こっそりとヒール魔法を掛けた。外から見える傷は治療するとマズイので、頭の中だけ治療した。目まいは治まったが、痛みは続いている。それよりも驚いたのは、さっきの女官が悠然と食事を続けていることだ。


「ケイナ、痛いかもしれないけど、立ちなさい。上位の女官様からお叱りを受けたのだから……」


 小さな声でそう言いながらアルレはオレの腕を掴んで引き上げた。そして、オレの横に立って、伏し目の姿勢を取った。これは叱られた後に反省する姿勢でもあるようだ。


 仕方ないな……。オレも同じ姿勢で反省している風を装った。


 それはさっきのキツネ目の女官が食事を終えて出ていくまで続いた。1時間くらい経っていた。わざとゆっくり食事をしたみたいだ。ほかの女官たちはとっくに食事を終えて食堂からいなくなっている。


「傷を見せなさい」


 女官が出ていった後、アルレはオレの髪の毛を掻き分けて傷口を確かめた。


「瘤ができてるし、出血した痕もあるわね。もう血は止まっているけど……。後で救護所へ連れて行ってあげるから、先に夕食を済ませましょ」


 オレとアルレは急いで夕食を済ませて、それから救護所へ向かった。救護所は隔離館への出入り口のそばにあった。


 そこは女兵士たちが管理しているらしい。中に入ってアルレが事情を話すと、女兵士が魔医を呼びに行ってくれた。出てきたのはなんと、昼間にオレを取り調べた女隊長だった。魔医も兼ねているようだ。


「なに? 皿で殴られただと? 新手の折檻だな。アハハハ」


 面白そうに笑ってから、女隊長はオレにキュア魔法を掛けてくれた。


 女隊長の話では、この後宮では暴力による折檻よりも狭い部屋へ閉じ込める折檻の方が多いらしい。折檻部屋と呼ばれている土蔵で、中は真っ暗だそうだ。その部屋で死んだ女官や下女たちの怨霊が漂っていて、それはそれは恐ろしい場所だと女隊長は低い声で語った。


「何度も折檻されないようにしろよ」


 女隊長から言われるまでも無く、オレも二度と折檻を受けるつもりはない。本丸の攻略をとっとと済ませて、この後宮から出ていくのだ。そのためには王様の寝室を早く見つけないと……。


 よし! 今夜、女官たちが寝静まってから探索しよう。


 しかし、今日の訓練はまだ終わってなかった。部屋に戻るとすぐにアルレから新たな指示を受けたのだ。女官も楽じゃない。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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