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SGS171 後宮に入る

 後宮は王様以外は男子禁制らしい。イヤな予感しかしない。オレは作戦を中止して帰りたくなった。しかしここまで来て「やめます」とは言えない。


 隔離館の中にある会議室のような部屋に入っていくと、ウード公爵の言葉どおり女性が椅子に座って待っていた。綺麗な女性だ。年齢は20代の後半くらいか。


 その女性は立ち上がって公爵に挨拶した。


「公爵様、お初にお目に掛かります。ルミラと申します。カラーナ様付きの六位女官でございます」


 事前に公爵から聞いていたので分かっていたが、レングランの女官は十位から始まって最高の一位までの階位があるそうだ。王様のお手付となり何度も男女の関係を持った女官は四位、女官長が三位、王様の子供を産めば二位、第一夫人である王妃様に認められて側室になれば一位になる。


 一位の階位を持つのは第二夫人から第四夫人まで三人いるらしい。カラーナ様というのは第四夫人のことで、王様の側室の一人だと聞いていた。どうやらオレはそのカラーナ付きの女官として配属されるらしい。


 オレを迎えに来たルミラは六位と言ってたから、女官の中では割と高い階位のようだ。


「これはルミラ殿、わざわざのお迎え感謝いたす。そなたのことはカラーナ様から聞いておったぞ。女性の鑑だとな。そこで、そなたを見込んでカラーナ様にお願いしたのだ。ここにおる娘をそなたに付けて育てていただきたいとな。

 わしの姪だが、よその国で育ったせいか女性としての素養が全く身に付いておらん。ぜひよろしくお願いする」


 公爵はオレを自分の姪だと言って紹介し、持っていたバッグから皮の袋を取り出してルミラに渡した。袋は二つある。ズシリと重そうなそれには大金貨が詰まっているようだ。カラーナとルミラへの手土産らしい。


「ケイナと申します。よろしくお願いします」


 オレが頭を下げて挨拶をすると、ルミラはオレに軽く頷いただけで公爵に向かって話しかけた。


「それでは公爵様、この娘をお預かりします。ご存じのとおり、行儀見習いは誰もが十位で入り、年季は3年でございます。いったん後宮に入ると、王妃様のお許しが無い限り、途中で年季が明けることはございません」


「ああ、承知しておる。ケイナよ、ルミナ殿の教えによく従うのだぞ」


 公爵はオレにそう言うと部屋から出ていった。


 オレは十位らしい。一番下っ端だ。まぁ、どうでもいい。王様の寝室に忍び込んでしまえば女官の真似事は終わりだからな。


「では、ケイナ。付いて来なさい」


 後宮へ通じる扉を抜け、廊下を通って大きな扉の前に出た。ルミナが呼び鈴を鳴らすと扉に付いた覗き窓が開いて、誰かがジロリとこちらを見た。その扉が横に少しだけスライドしたが、開いたのは辛うじて人が通れるくらいの幅しかない。


 ルミナに続いてオレもそこを通って中に入った。ここも廊下で奥まで続いているようだ。それよりも気になるのは、目の前に立っている筋骨隆々の背の高い女たちだ。兵士のようだ。三人いて、その中の二人は剣を抜いている。


 剣を抜いていない女はロードナイトだった。魔力は〈120〉だ。この女が隊長のようだ。


「おい、おまえ。今着ているものを全部脱いで裸になれ」


 えっ!? 裸になれとか、そんなことを突然に言われても困ってしまう。オレが躊躇っていると、ルミナが口を開いた。


「ケイナ、言われたとおりにしなさい。おまえが女であることを確認するためです。逆らうと斬られてしまいますよ」


 仕方がない。オレは着ていたワンピと下着を脱いだ。バリアは初めから張ってない。万一、不意打ちを食らったらそれで終わりだが、城の中でバリアを張っていることが発覚したら作戦が失敗してしまう。


 隊長はオレのオッパイをグニグニと揉み、股間に余計なものが付いてないことを手で触って確かめた。


「間違いなく女だ」


 そう呟いた後、隊長は呪文を唱えて検診の魔法を発動した。オレの全身を手をかざしながら調べていく。


「病気も無いし、妊娠もしていない。ソウルオーブや武器も隠してない」


 続いて隊長は別の呪文を唱え始めた。オレはその呪文が何かすぐに分かり、覚悟を決めて奥歯を噛みしめた。


「ぎゃっ!!」


 全身に痛みが走って気を失いそうになった。電撃魔法だ。今まで何度も撃ち込まれて、そのたびに心臓を掴まれるような痛みを味わってきた。これに慣れることは絶対にない。


 その場に倒れそうになっていたオレを隊長が掴んで支えてくれていた。


「妖魔人でもないね。問題なさそうだ」


 隊長がキュア魔法を掛けてくれたが、まだ体がふらふらする。


「だが、電撃魔法を受けたら誰もが泣き喚くが、おまえは泣かないのだな?」


 しまった! 慣れてしまって涙も出ないが、ホントのことなど言えない。


「お、叔父にそういう検査があるらしいと聞いてましたから……」


 オレはとっさに口から出任せを言った。


「そうか。よし! 通っていいぞ」


 オレは心底後悔していた。コタローやユウに唆されてここまで来たけれど、思っていたよりも色々な意味で危ない気がする。


 脱いでいた下着とワンピを着て、ルミナの後に付いて歩き始めた。廊下の突き当たりに扉があり、ここにも女兵士が二人立っていた。


 ルミナが頷くと、黙って扉を開けてくれた。そこを通り抜けると雰囲気ががらりと変わった。さっきまでの会議室や廊下は石壁がむき出しで暗い感じだったが、今いる板張りの廊下は広くて明るい。それも床から天井まで真っ赤に塗られていて、大きな窓からはガラス越しに陽射しが入って来ている。


 おお、ガラスだ。ガラスは高価なので金持ちの貴族か商人の館くらいにしかないと聞いている。お城の窓にガラスが使われているのは当然のことだろうな。


 そんなことを考えながらルミナに従って歩いた。広い廊下から何本目かの枝分かれした廊下に入って、少し進んだ。この建物は何棟もの平屋が廊下で繋がっているようだ。


 ドアを開けて部屋に入ると、三人の女がテーブルを囲んで座っていた。ルミナを見て、全員が立ち上がった。


 ルミナも含めて全員が同じような模様のワンピースを着ている。これが女官の制服らしい。ワンピースというよりもチャイナドレスっぽい。丈は膝上だ。黒地に赤っぽい花柄模様が入り混じった絵柄で、体のラインがはっきりと分かる。だが、よく見ると色合いも絵柄も微妙に違っていた。特にルミナのワンピは金糸の刺繍で花柄が織り込まれていて美しい。


「ルミナ様、お帰りなさいませ。その娘が?」


「そうよ。この娘がウード公爵様の姪で、名前はケイナ。十位の行儀見習いで3年の年季よ。あなたたち、しっかりと指導してあげてくださいね」


「「「畏まりました」」」


 女たちが一斉に頭を下げた。ルミナは満足そうに何度も頷き、オレに顔を向けた。


「ここにいる三人はカラーナ様付きの女官よ……」


 ルミナは三人をオレに紹介してくれた。九位が一人、八位が二人だ。三人とも20代で美人だった。後宮は自ずと容姿端麗な女性が集まるようだ。


 三人の階位が分かって気付いたが、ここの女官の制服は階位によって絵柄などが違っているらしい。


「アルレ、あなたがこの娘の指導女官になりなさい。ウード公爵様の姪だからと言って遠慮は無用よ。あなたに任せるから責任を持って厳しく指導しなさい」


「はい、お任せください」


 アルレというのは八位の女官で、25歳くらい。この女がオレの指導女官か……。そう思って見たせいかもしれないが、キツイ目でオレを睨んでいる気がする。


「ほかにもカラーナ様付きの女官が二人いるけど、今はカラーナ様のおそばにいるから後で紹介するわ」


 オレが簡単に挨拶をすると、「後は頼んだわね」と言ってルミナは部屋から出ていった。


「ケイナ、あたしの後に付いて来て」


 指導女官のアルレが別のドアを開けて、オレも一緒にその部屋に入った。クローゼットのような場所だ。衣装棚が並んでいて、アルレはその中から何かを取り出した。


「十位用の女官服よ。すぐに着替えなさい。小柄なあなたでもピッタリ合うと思うわ。それと、下着は着けないこと」


「えっ!? ブラも……、ですか?」


「ええ。着たら分かるわよ」


 十位用の女官服でも、街で買ったどの服よりも触り心地が良い。着てみると、体にピタッとフィットした。だけど、歩くとオッパイが少し揺れる感じがあって、敏感なところが擦れる気がする。


「そのうち慣れるわ。でも、気を付けるのよ。王様の前で胸やお尻を揺らさないようにね。上位の女官様たちに見つかったら折檻されることになるから」


 アルレの話では、若い女官の中には王様の気を引こうとしてわざと胸を揺らしたりお尻を振ったりする者がいるらしい。王様のお手付きになって何度か情を交わせば、それだけで階位が上がるし、上手くすれば側室になれるかもしれない。それは、後宮に入った女官たちの誰もが憧れることのようだ。オレは違うけど……。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


 今後の投稿は不定期になります。

 当面は毎週数話くらいのペースで投稿します。


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