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SGS170 目に余るような嫌がらせ

 振り向くと中年の女性が立っていた。オレよりも背が低くて、固太りの体に、肩まで垂らしたモジャモジャの髪の毛。


「ド、ドワーフ?」


 しまった。思わず口に出てしまった。


「いらっしゃい。ドワーフ・ダルバンの鍛冶屋へ」


 女性はにっこりと微笑んだ。


「す、すみません。これをください」


 オレは手に持っていた鉄鍋を差し出した。さっきの騒ぎに気を取られていて、自分が何を手にしているのか意識してなかった。


 代金を渡すと、女性が鉄鍋に手提げ用の縄を取り付けてくれた。


 女性はこの店のおかみさんだそうだ。店の裏には鍜治場があって、ご亭主がこの店の商品を作っていると説明してくれた。言われてみれば、商品棚には鉄製の武器や農具などが雑然と置かれていた。


 レングランは人族の国だが、少数ながらエルフやドワーフのような亜人も暮らしている。オレが逃げ込んだのがたまたまドワーフの店だったということだ。


 気が良さそうなおかみさんだ。さっきの騒動について尋ねてみることにした。


「すごい騒ぎでしたね。あれは何だったのですか?」


「あたしも驚いたよ。突然に王都防衛隊の兵士たちがやって来て、イルド親方の家を取り囲んだからね。気の毒にねぇ。イルド親方や弟子たちは兵士に連れて行かれたけど、あれはあの女の嫌がらせに違いないよ」


「あの女の嫌がらせ?」


「そうさ。あんたも門のところで女が喚いていたのを聞いたろ? さっきまで門のところにいたけど、今はどこかへ行っちまったけどね」


 おかみさんがイルドさんの家を指差した。おかみさんが言っている女とはアンニのことのようだ。そちらを見ると、アンニの姿は消えていた。


 オレが顔を顰めたのを見て、おかみさんは言葉を続けた。


「嫌な女だよねぇ。今までも何度もあの女がイルド親方のところに押し掛けて来てね。家の前で喚き散らしていたのさ。あの女はイルドさんが独立する前に所属していたハンター隊の奥さんだそうだけど、イルドさんはよっぽど嫌われていたのかねぇ。あの女に相当恨まれていたみたいだよ」


「イルドさんという人はそんなに人から嫌われたり恨まれたりしていたんですか?」


「いやいや、それは違うよ。イルド親方は弟子の面倒見も良いし、優しいしね。近所でもイルド親方を悪く言う人は誰もいないからね。あの女だけだよ、イルドさんの悪口を言ったり、目に余るような嫌がらせをしていたのはね」


「そんな嫌がらせをするってことは、何か訳があるんでしょうね?」


「そうさ。訳があるのよ。聞きたいかい?」


 おかみさんの口がモゾモゾしている。喋りたくて仕方ないのだろう。オレが頷くと、おかみさんは「ここだけの話だよ」と断って少し早口で話を始めた。


「あたしは弟子の一人から聞いたんだけどね。なんでもイルドさんが独立したときにイルドさんを慕って前のハンター隊から七人か八人ほどの弟子たちが付いてきたらしいのさ。弟子が言ってたけど、前のハンター隊では弟子の扱いが酷くてね。親方やあの女に奴隷や家畜のように扱われていたそうなの。我慢できなくなった弟子たちは、イルドさんの独立に合わせて、一斉にイルドさんが立ち上げたハンター隊に移ったんだとさ。言ってみれば、あの女の自業自得ってやつよね。ところがあの女はイルドさんを恨んで、嫌がらせに来てんのよ。弟子一人につき大金貨10枚を支払えとか、支払えないなら弟子を返せとか言ってるらしいね」


「それなら今度のことも?」


「そうさ。間違いなく嫌がらせだよ。あの女が王都防衛隊に訴えて、兵士たちを連れてきたんだからさ」


「でも、イルドさんたちはどうして捕らえられたんですか?」


「あの女が門の前で野次馬たちに大声で話していたけど、聞かなかったかい? イルド親方と弟子たちが反逆者の味方をしていたんだってさ。あたしゃ、それを聞いて驚いたんだけどね。よくもぬけぬけとあんな大嘘を吐けるもんだとねぇ」


「え!? 反逆者の味方ですか?」


「そうなの。闇国へ流された罪人たちがレングランを恨んでいて、復讐しようとこの王都へ押し寄せてくるんだってさ。イルド親方はその罪人たちと密かに繋がっていて、反乱を起こす手伝いをしているって言うのよ。どうせ女の作り話だよ。あの女はそのウソで王都防衛隊まで引き連れてきたんだからねぇ。あたしゃ呆れたよ。でも野次馬たちは信じた者が多かったみたいだけどねぇ」


 女将さんは悔しそうに口を歪めた。


「でも、女の話が嘘だと分かったら、イルドさんたちはすぐに釈放されますよね?」


「どうだろうねぇ。難しいかもしれないよ。王都防衛隊としても面子があるだろうから、無理強いをしてでもイルドさんたちに自白を迫るかもしれないねぇ」


「無理強いをして自白を迫るって……」


「はっきり言えば拷問だよ。あー、やだやだ」


 おかみさんはそう言いながら店の奥へ入って行き、オレも店を出た。ウード公爵邸に向かって歩き出そうとして、ふと気になって足を止めた。さっきアンニがイルドさんの家の前で何かしていたのを思い出したからだ。


 門のところへ行ってみると、地面に看板が落ちていた。板材でできたその看板には「ハンターギルド所属 イルド隊」と書かれていて、アチコチに足跡が付いていた。アンニが何をしていたのか分かった。憎しみを込めて何度も何度もこの看板を踏み付けたのだろう。


 イルドさんがアンニにはめられたことは間違いない。イルドさんはアンニに嫌われていた。それはイルドさんがサレジ隊の隊員たちを何人か引き連れてイルド隊を新たに立ち上げようとしていたからだ。アンニはそれに猛反対していたし、イルドさんを憎んでいたようだった。


 だが、アンニがイルドさんを憎んだのはそれだけが理由ではない。思い起こせば、オレとラウラが奴隷として売られて行こうとしたときにイルドさんがオレたちを買い取ると言っていたことにもアンニはすごく反発していた。オレはイルドさんに自分たちを買い取ってくれるよう頼んでいたのだが、それを知ったアンニはイルドさんに怒りと憎しみをぶつけていた。アンニがイルドさんへの憎しみを深めていった要因はオレにもあるのだ。


 この騒動がアンニ一人で仕組んだことなのか、サレジから指示されて動いたことなのかは分からないが、どちらにしてもあの夫婦がオレだけでなくオレの仲間たちや知り合いにまで魔の手を伸ばそうとしていることは確かだ。このまま放っておくことはできない。


 さっきのおかみさんが言っていたように王都防衛隊はイルドさんたちを拷問して自白を迫るかもしれない。ともかく急がなきゃいけない。なんとかしてイルドさんとその弟子たちを助け出さないと……。


 ………………


 ウード公爵邸に着いて執事に用件を伝えると、すぐに邸宅の中に通された。


「ケイナちゃん、初めにお風呂で体を洗ってね」


 公爵夫人に手を引かれて風呂場まで行った。夫人は完全にオレのことを姪だと思い込んでいて、まるで自分の娘にするように世話を焼いてくれた。


 ケイナというのは自分に付けた仮の名前だ。本当の名前を使うのはマズイから偽名を使うことにしたのだ。オレの名前は闇国で反乱を企てている悪女としてレングランで指名手配されているし、こっちの世界でケイという名前は珍しいからだ。ケイナという名前であれば違和感はないらしい。


 風呂で体を洗った後、オレは部屋の中で公爵の姪に相応しい衣装に着替えた。公爵夫人がちゃんと用意してくれていた。とても親切だ。


 イルドさんの件で気持ちが重たくなっていたが、風呂で体を洗って、着替えを済ませると、気持ちも切り替わった。これから女官として後宮へ入るのだからクヨクヨしてはいられない。


 昼食を取った後、公爵と一緒に馬車に乗って王城へ向かった。王城の通用門から馬車のまま中に入り、しばらく進むと、また城壁が見えてきた。この中に王宮があるらしい。


 王宮の玄関口で馬車から下りて、オレは公爵の後に付いて王宮の中に入った。建物の奥に庭が見え、その庭の向こう側にも王宮と同じくらいの高さがある石造りの建物が見えた。窓が一つもない。


「あの建物が前宮と後宮を隔てる隔離館だ。これからおまえが仕えることになる後宮はあの隔離館の向こう側だ。朝のうちに連絡を入れておいたから、後宮から迎えの者が隔離館へ来て待っているはずだ」


 前宮は王様や大臣たちが政治を執行するところで、後宮は王様と夫人たちの住居だ。王様は仕事をする場所と生活する場所をしっかりと区別しているようだ。でも隔離館という名前は……。


「ちょっと大げさな名前ですよね? 隔離館なんて……」


「大げさ? 何が大げさなのだ? 後宮は王様以外は男子禁制だ。だから後宮へはわしも入れぬ。後宮の女官は許しが無ければ後宮の外へは出られぬ。隔離館で完全に隔てられているのだよ」


 えっ!? 男子禁制? と言うことは、王様以外は女ばっかり?


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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