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SGS017 狩りに出て四方を見渡す

 オレだけが大きなバッグを背負わされているが、ほかのメンバーとの違いはそれだけではない。目には見えないけれど大きな違いがもう一つある。オレだけがソウルオーブを持っていないということだ。


 だからオレは魔法を使えない。つまり狩りや戦闘の役には立たない。この狩りでのオレの役目は荷物運びや獲物の解体、野営の準備などの雑用だ。しかたがないと思う。まずはここから始めて少しずつ自分の力を付けていくしかない。


 ………………


 街壁に近づくにつれてその高さが分かってきた。その高さは15メートルくらいだろうか。この街壁がぐるりとレングランの王都を囲んでいるらしい。この街はクドル湖という大きな湖の北岸に沿って扇の形に街が築かれているのだそうだ。この街壁の総延長は20キロくらいあるのかもしれない。


 魔法でどれくらいのことができるのか知らないが、とにかくどこからか石を運んで来てこれだけの建造物を築いたのだから凄い。


 街壁の門は兵士たちが守っていて、出入りする者たちに鋭い視線を飛ばしていた。日中は門を開いていて、夜になると閉じるそうだ。その門を通り抜けると、街壁の外には見渡す限りの麦畑が遠くまで広がっていた。その中に集落らしきものも点在している。どの集落も高い壁で囲まれているようだ。それだけ危険なのだろう。


 遥か遠くにうっすらと丘陵が見えた。ラウラ先輩に尋ねると、あの遠くに見える丘陵から原野が始まるのだと教えてくれた。今から向かうのはその原野だ。


 畑の中を細い道がまっすぐ丘陵の方へ伸びている。オレたちはその道を歩き始めた。方角で言えば北へ向かって進んでいるらしい。


 原野までは思いのほか遠かった。すでに1時間以上歩いているが、まだ畑が続いている。街壁の北門から続くこの道は、おもに兵士や農夫、ハンターなどが使う道らしい。通行人はほとんどいない。「バドゥなんかは東門を通るのよ」とラウラ先輩が説明してくれた。


 ちなみにバドゥというのはゾウをひとまわり大きくしたような動物で、重たい荷物を運ぶために使役しているそうだ。正確に言えば動物ではなく人が飼いならした魔物だ。魔力で筋力強化をしているため重たい荷物でも軽々と運べるらしい。


 やがて畑地が無くなり、雑草が生い茂る草地になった。道に沿って石造りの建物が何棟か並んでいる。これは王都防衛隊の宿舎だ。原野から魔族や魔物が侵入してくるのに備えて兵士たちが常駐しているとのことだ。


 建物が立ち並ぶところを通り過ぎると検問所があった。先頭を歩くスルホが兵士に「狩りに行く」と言っただけで通り過ぎることができた。


 ここを過ぎるといよいよ原野だ。境界には例えばバリケードのようなものが設置されているなど、もっと厳重に守られているのかと思っていたが何も無かった。


「畑地と原野の間って草地があるだけなんですか?」


 オレは副長に問い掛けた。


「結界の内側には魔族や魔物は入って来れないからな。レング神様が国守りの結界魔法で守っていてくださるおかげだ。たまに結界魔法が弱まった隙を突いて結界内に入ってくるヤツもいるが、街壁があるから心配ないよ。ほら、そこに石柱が立っているだろ……」


 副長がレングランを守っている結界について説明してくれた。草地の所々に高さ3メートルくらいの石柱が立っている。これは結界石と呼ばれていて、50メートルくらいの間隔で原野との境界に沿って立てられているそうだ。一見、電柱が立っているような感じだ。この結界石そのものは特別な機能は無くて、結界の境界を示す目印にすぎない。神族が発動している結界魔法とはバリアではなくて、神殿から魔族や魔物が嫌う波動のようなものを出しているのだそうだ。そのため結界内には魔族や魔物は侵入して来ないらしい。


 副長の説明によると、この結界魔法は神族が定期的に神殿内の魔力貯蔵庫に魔力を補充しないと機能しないとのことだ。「レングランが魔族や魔物に襲われないのはレング神様のおかげだ」と副長は言う。どうやら副長は心からレング神様に感謝しているらしい。ありがたそうな表情で説明してくれた。ほかのみんなも副長の説明に頷いている。


 へぇ。そうなんだ。神族もちゃんと働いているんだな。


 草地を過ぎると道は少し登りになった。周りには低木が生い茂り、見通しの悪い道が続いている。王都の街壁や畑地は見えなくなった。道幅は1メートルくらいで、人が通れるだけの幅しかない。道は乾いているところが多いが、所々にぬかるみがあって油断すると足を取られてしまう。分岐が幾つもあって、みんなからはぐれたら道に迷ってしまうだろう。


 原野というのは雑草が生えた平坦な荒地が延々と広がっているイメージがあったが、かなり違っていた。平坦ではなく起伏があった。丘と窪地、沼と川、雑草や低木が生い茂った野原、雑木の森。それらが入り混じって、少し歩いただけで風景が変わり、匂いも変わった。


 3時間くらい歩いたところで小高い丘の上に着いた。ここで硬いパンと干し肉だけの簡単な昼食を取った。


 この丘は視界を遮る低木もなく四方を見渡すことができた。南に畑地と街壁に囲まれたレングランの王都があり、その向こうにクドル湖がキラキラと輝いている。今日は晴れているから遠くまで見ることができた。


 なんてきれいなんだろう……。


 この景色を眺めながら副長とラウラ先輩が色々と説明してくれた。


 クドル湖は南北40キロ、東西20キロくらいの楕円形をしている。湖の周囲は20キロくらいの幅で平野が広がっていて、人族が国を作って暮らしている。


 湖の北岸にあるのはオレたちが暮らしているレングラン王国だ。南岸にはラーフラン王国、東岸にダールム共和国がある。どの国も首都とその周辺の農村で国家を形成しているらしい。いわば都市国家のようなものだろう。湖の西岸は紛争地帯で、今はその南西岸をラーフラン王国が占領している。北西岸は戦場になっていて、荒れ果てたまま放置されているらしい。


 クドル湖の南岸にあるラーフラン王国はラーフ神一族が支配する人族の国だ。レング神一族が支配するレングラン王国とは仲が悪く、クドル湖の西岸をどちらが取るかで昔からずっと戦争状態が続いている。この30年間くらいはラーフランが優勢でクドル湖西岸を支配をしていたが、それを認めないレングランは頻繁に攻撃を仕掛けていた。しかしラーフランは5年ほど前に西岸地区の真ん中にナビム要塞と呼ばれている大規模な城塞を築いて、クドル湖の南西岸を完全に占領してしまったそうだ。


 それでもレングランは諦めずにラーフランに戦いを仕掛けているらしい。戦場になっているのはナビム要塞の北側だ。そこはクドル湖の北西岸で戦場地区と呼ばれている。昔は広大な小麦畑が広がっていたとのことだが、今ではすっかり荒れ地になってしまったそうだ。


 クドル湖の東岸にあるダールム共和国は大商人の頭領たちが統治している商業国家で、商人と職人たちの国だ。どの国に対しても中立らしい。人族が多いが、エルフ族やドワーフ族もいて人種は雑多だ。ちょっと不思議な気がするのだが、この国はレングランとラーフランの両方の神族から庇護を受けているとのことだ。それとこの国の通貨ダールが各国の共通通貨になっているとラウラ先輩が教えてくれた。どうやらダールムは特別な国のようだ。


 さっきから気になっていたのだが、オレたちが今いる丘の北方に、ここより少し高い丘があり、そこには石造りの塔と建造物があった。先輩に尋ねると、これはレングランの監視塔と砦で、数百人の兵士が駐屯しているとのことだ。


 レングランでは王様の方針で数年前から原野の中に幾つかの村を作っていて、原野の開墾を進めているという話だった。その開墾には大勢の流民や奴隷が投入されているらしい。頻繁にゴブリンたちとの争いが発生していて、この監視塔と砦に駐屯している兵士たちはそういう異変に備えているのだそうだ。


 監視塔から北側はゴブリンたちの領土だ。ゴブリンたちは国を作っていて、レブルン王国というそうだ。広大な原野とレブル川沿いに広がる平野を支配しているとのことだ。レングラン王国の何倍もの国力を持っている国だと副長が説明してくれた。


 レングラン王国はこのゴブリンの国とも戦っているそうだ。何倍も国力が違うような国と敵対して大丈夫なのだろうか?


 レングランが開墾している原野は実はレブルン王国の支配地域らしい。つまりレングラン側がゴブリンの領地にちょっかいを出しているということだ。それで戦いが続いているらしいが、ゴブリンたちの攻撃力は凄まじく、王都の近くまで攻め込まれることもあるそうだ。


 オレは副長や先輩の話を聞きながら、南にラーフラン王国、北にレブルン王国という敵を持って、言わば両面の敵と戦っているレングランという国が不思議で不気味に感じた。このレングランという国は、もしかすると危ない国なのかもしれない。


 北の方を見渡すと、広大な原野が波打ちながら広がっていた。雑木や低木で一面が緑に覆われていて緩やかに起伏している。その中の所どころに草原も見える。原野の中には数キロ四方の平坦な草原もあるらしい。なるほど、レングランの王様が原野に進出したくなる気持ちも分かる気がする。


 さて、休憩も終わって出発だ。いよいよ危険地帯に入るらしい。


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