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SGS167 あの馬鹿王子が王様になる?

 タムル王子がレングランの王位継承者になったら、幽閉されているテイナ姫はどうなるのだろうか。


 さらに闇国から攻め上ってくる反乱軍に備えて、レングラン軍が動き始めているらしい。それが立太子の件と関係しているとガリードは言うが、いったいどういうことだろうか。


 オレが考え込んでいると、ラウラも同じように不安を感じたらしい。


「タムル王子って言うと、あたしたちを闇国へ流した張本人よ。王位継承者になるってことは、もうすぐあの馬鹿王子が王様になるわけでしょ? そうなったらレングランは完全にあたしたちの敵になるかもしれないわ……」


 ラウラの表情は暗い。たぶんオレも似たような表情をしているのだろう。


 ガリードが視線をラウラからオレへ移し、またラウラの方へ向けて困ったような笑みを浮かべた。


「そう心配するな。まだタムルが王様になると決まったわけじゃない。最終的に王様を決めるのはレング神だからな」


 何か奥歯に物が挟まったような言い方だ。


「それはどういう意味よ? 何かあるのなら、はっきり言ったらどうなの?」


 苛立ったラウラがガリードを睨みつけた。


「そんなにカッカするな。シワが増えるぞ」


 ガリードはラウラをからかって面白がっているようだ。ラウラはガリードを睨みつけているが、怒っている顔が意外に可愛い。ガリードはそんなラウラの顔を見ながら言葉を続けた。


「神族が支配している国では誰を次の王にするかを決めるのは国王じゃない。王を決めるのは神族だということは知ってるな? 正しくは神族の主神が王を決めるのだ。つまり、レングランで王を決めるのはレング神だ。

 だが、タムル王子を王位継承者として推しているのは第一夫人のジルダ神らしい。レング神は今のところそれを黙認してるようだ。ジルダ神に逆らえない理由があるのさ。それはな……」


 そう言って、ガリードはレングランを支配している神族のレング一族について説明を始めた。


 昔、このレング一族はジルダ神の父親と母親が支配していた。千五百年以上前のことだ。ジルダ神はレング一族の一人娘で、そこへ入り婿として一族に入ってきたのが今のレング神だ。それまではエルド神という名前で、ジルダ神と結婚してエルド・レングという名前になった。結婚して何百年か後に義理の父親と母親が相次いで亡くなり、エルド神はレング一族の主神となった。今のレング神は義理の父親の名前を継いだというわけだ。


「つまりな、実質的にレング一族やレングラン王国を陰で支配しているのはジルダ神ということだ。だが、レング神は面白くないだろうな」


「そりゃそうよ。千五百年以上もそんな状態が続いているのでしょう? レング神が入り婿だとしても、そんなに長い間、ジルダ神の尻に敷かれたまま我慢できるものかしら?」


「レング神がジルダ神に逆らえない裏事情が何かあるのだろうが、おれにも分らん。千五百年もの長い間、そんな状態でレング神がジルダ神と夫婦の関係を続けていることが不思議だよ」


「そうよねぇ……。でも、ジルダ神に逆らえないのにレング神には第二夫人や第三夫人がいるでしょ。ジルダ神がよく許したわね?」


 たしかにラウラの疑問も頷ける。もしジルダ神が亭主を尻に敷いているとすれば、亭主が側室を持つことなんて許さないだろう。


「一族の強さを保つためだろうよ。神族の数を揃えないと国を安定して支配できないからな」


 いつの間にか話が横道に逸れてる。レング一族やジルダ神のことよりも、オレが聞きたいのは……。


「さっき、タムルが王様になると決まったわけじゃないって言いましたよね? それはつまり、タムルが王位継承者と決まっていても、レング神が後で引っくり返すかもしれないってことですか?」


「その可能性はあるな。過去の歴史の中でも、そういうことはあったらしい」


「でも、ジルダ神の意向に逆らってまでレング神が一度決まった王位継承者を引っくり返したりするでしょうか?」


「どうだろうな……。本当にレング神がジルダ神に逆らえないとしたら、引っくり返すことは難しいだろうな」


「と言うことは、タムルが王位継承者に決まってしまえば、そのまま王様になる可能性が高いってことですね?」


「普通はそうなるわな。だが、タムル王子は自分が王位継承者になるだけでは危ういと感じているようだ。ジルダ神の引きだけでは弱いと思っているんだろうな。それで軍を味方に付けようとしてるんだ」


「軍を?」


「ああ。軍を味方に付けることができれば、王位継承者の地位は盤石になるからな。それで例の件が出てくる訳だ。分かるか?」


「例の件?」


 オレはそう聞き返して、はたと思い当たった。


「反乱軍に備えてレングラン軍が動き始めているという件ですか?」


「そうだ。闇国から反乱軍が王都へ攻め上ってくるという話を利用して、タムル王子は軍を掌握しようとしているらしい。軍の重要な地位に自分の息がかかった人材を配置しよう策動しているようだ」


「サレジのヤツ!」


 ラウラが大きな声を上げた。


「あいつがケイの反乱をでっち上げた訳だけど、サレジは裏でタムル王子と繋がっていたということなのね?」


「はっきりとは分からんが、その可能性が高いな。タムル王子はサレジの話を利用して軍を掌握しようとしているし、サレジはタムル王子の力を利用してレングラン全体をケイの敵にしようとしているってことだな」


 これは後で分かったことだが、サレジはゴルディア兵団の団長であるゴルドと親しくしていたようで、その縁でタムル王子と繋がっていたらしい。


 それはともかく、タムル王子は着々と王位継承者としての足場を固めようとしている。今のままではタムル王子がほぼ確実に王位を継ぐことになるだろう。


「ちょっと教えてほしいのですけど、王位継承者がタムル王子に決まったとしても、すぐに王様になるってことじゃないですよね? それとも、今のレングラー王が重い病気にでも罹っていて、譲位を急がなきゃいけないのですか?」


「いや。調べてみたが、レングラー王は元気なようだ。ただ、王様が神族に嫌われてしまって、それが原因で譲位させられるっていうウワサが2か月くらい前から王都に流れていてな。それを聞いた王様は不快に思っているようで、最近は表にあまり出て来なくなったらしい」


 ガリードの話にラウラがちょっと不満げな顔をして口を開いた。


「たかがウワサでしょ? あたしだったらウワサが本当かどうか直接レング神に尋ねてみるけど。そうしたらすぐに分かるのにね。それとも、レングラー王はレング神と仲が悪いのかしら?」


「いや、そんなことはないはずだ。これはレングラー王に仕える女官に賄賂を渡して聞き出した話だが、王様はレング神を呼び出すための魔具を持っているらしい。実際に2週間ほど前にもレング神が王様の寝室にワープして来て、二人が機嫌よく話しているのをその女官は見たそうだ」


「と言うことは、ウワサはデタラメってことね?」


「そうだな。ただ、レングラー王が最近、後宮に閉じ籠ることが多くなっているのは本当のことらしい。ウワサを流した者たちへの無言の抗議のつもりなのか、ヤル気を無くしのか分からんがなぁ」


「後宮って何ですか?」


 尋ねると、ガリードは呆れたような顔でオレを見た。もしかして、後宮っていうのは世間の常識だったのかな?


「知らないのか? 王様が普段の生活をしているところだ」


 ガリードの話では、神族が支配している王国ではたいてい後宮があるそうだ。レングランでは王城の中に王宮がある。王宮は前宮と後宮に分かれていて、前宮は王様や大臣が政治を行うところで、後宮は王様の住居だ。後宮に入れるのは王様と夫人や女官だけらしい。子供たちも少し大きくなったら後宮の外にある別館に移されるそうだ。


「これはおれの推測だが、譲位のウワサを流しているのはタムル王子の一派だろうな。タムル王子は昔からタチが悪い男たちと付き合っているからなぁ」


「タチが悪い男たち?」


「ああ。その筆頭がゴルドという男で、ゴルディアという私掠兵団のボスだ。タムルがレングランの王様になれば、利権を一気に拡大できるからな。だから、早くタムルを王様にしたいのだろうよ」


 ゴルドと聞いて、あいつの顔を思い浮かべた。はっきり言って二度と見たくない顔だ。


 オレは一番気になっていることを尋ねてみた。


「もし、タムル王子が正式な王位継承者になったら、城内で幽閉されているテイナ姫はどうなるのでしょう?」


「テイナ姫か? タムルが王位継承者になったら粛清されるかもしれぬな。もしタムルが王様になれば、ほぼ間違いなく粛清されるだろう。密かに殺されるか……、ゴブリンの国へ政略結婚に出されるか……」


 オレはそれを聞きながらテイナ姫を救い出す作戦を頭に描き始めた。テイナ姫が幽閉されているのはオレの責任だ。このまま粛清されるのを黙って見過ごすことなんてオレにはできない。


 ガリードから今回得られた情報は、オレをバドゥで殺そうとした犯人がニドであり、どうやらミレイ神がオレを殺そうとしていること、サレジがタムル王子の力を利用してレングラン全体をオレと敵対させようとしていること、タムル王子が王位継承者となることがほぼ確実であり、今のままではテイナ姫の命が危ないってことだ。


 立太子の儀式は1週間後に迫っている。早急に何か手を打たないと、事態はどんどん悪化するだろう。


 ちなみに、ガリードに頼んでおいたバーサット帝国の調査の件や盗賊に拉致されたセリナの捜索についてはまだ進展が無いそうだ。もう少し時間が必要らしい。


 ………………


 オレたちはガリード兵団の本拠地を出て家に戻ってきた。リビングの椅子に座ってマリーザが入れてくれたお茶を飲んでいるところだ。


「ダールムに来たけど、気分転換にはならなかったわね……」


 そう言ってラウラは溜息を吐いたが、同じようにオレも気が滅入っている。でも、落ち込んではいられない。テイナ姫が幽閉されたのはオレが原因だ。何とかして救い出したい。


 どうにかしてテイナ姫と話をする方法は無いだろうか……。


『コタロー。テイナ姫に会いたいんだけど、何か良い知恵は無いかな?』


『簡単だにゃ。レングランの王城に忍び込んで、テイナ姫が幽閉されている場所を調べて会いに行けばいいだけだわん』


『いや、それが簡単にできないから相談してるんだけど……』


『偵察用の人工生命体があるからにゃ。それを使えば簡単だわん。オイラが操縦して偵察するわん。偵察でテイナ姫の幽閉場所が分かったらにゃ、オイラがそこにワープポイントを設定してくるぞう。ケイはそこへワープするだけだわん。これ、難しいかにゃ?』


『いや……、簡単だね』


 なんだか、コタローに馬鹿にされてる気がする。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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