SGS164 ユウの結婚
ユウは鏡に映った自身のウェディング姿を眺めながら涙を零した。
『ケイ、それにコタロー、ありがとう……』
『コタロー、フィルナとハンナのドレスも作って。とりあえず、同じデザインで。デザインやドレスの丈は後で調整するから』
オレが頼むとすぐにユウが着てるの同じドレスが2着現れた。
その後、そのドレスと鏡を持って小屋にワープすると、同時にワープしてきたユウのウェディング姿を見てラウラが驚きの声を上げた。
「なんて綺麗なの! 素敵よ、ケイ……」
「今はユウが体に入ってる。ユウが着てるのがウェディングドレスだよ」
「あたしも着てみたいなぁ」
「いいよ。着てみる?」
オレは手に持ってるドレスをラウラに渡した。フィルナとハンナ用に作った衣装だけど、何着でも簡単に作れるから問題ない。この際だからラウラにも作ってあげよう。着る機会があるかどうかは分からないけど……。
『コタロー。ドレスの丈の微調整は任せるから、わたしを操縦してくれる?』
面倒なことはコタローに任せた。
体形に合わせて修正が終わると、ラウラはうっとりと鏡に見入っていた。
「ラウラ、きれいだよ」
後ろから声を掛けると、ラウラが振り向いた。瞳が潤んでいる。
ラウラのウェディング姿に見とれていたが、オレはふと寂しくなった。ラウラもいつかこれを着てお嫁に行ってしまう日が来るのかな……。
「ねぇ、ケイ。あなたもドレスを着てみない?」
後ろからユウに声を掛けられた。
「えっ!? わたしが?」
「ええ。今はミサキの体だけど、ミサキだってすごく綺麗だから、ウェディングドレスがきっと似合うわよ。ねぇ、着て見せてよ」
オレがウェディングドレスを着るなんて、考えたことも無かった。とまどっていると、ラウラも同調してきた。
「あたしも見てみたい。ねぇ、ケイ。着なさいよ」
「そうよ。それに、綺麗なドレスを着た方が早く女の子らしくなれるわよ」
この前の会話を思い出したのか、ユウが余計なことを言い始めた。
「えっ!? ケイって女の子らしくなりたいって思ってたの?」
ラウラが勘違いして尋ねてくる。
「ほらっ! ユウがデタラメを言うから……。ラウラ、違うからね。わたしは今のままだし、ウェディングドレスを着たりしないから……」
「ケイったら、やせ我慢しないの!」
「我慢してるの?」
ユウはオレをからかってるし、ラウラはボケをかましてる。
ひとしきり、そんな会話をしながらラウラがドレスを脱ぐのを手伝った。
「ラウラ、このドレスはラウラにあげるから自分の亜空間バッグに仕舞っておいて」
ドレスを手渡すと、ラウラは「ありがとう」と言って、本当に嬉しそうに微笑んだ。
オレもいつか、こんなふうにドレスを着たりプレゼントされたりして喜ぶ女性になるのだろうか……。ふとそんなことを思って、「いや、違う、違う」と慌てて心の中で打ち消した。
「ケイ。フィルナとハンナを呼んで来てくれる? ドレスの試着をしてもらわないとね」
ユウに言われて気が付いた。そうだった。
足りなくなったドレスをコタローに作ってもらって、それから、フィルナたちを呼びに行った。
ダイルの家に入ると、フィルナたちは明日の結婚式のためにリビングルームの片付けをしていた。
「ミサキ、手伝いに来てくれたの?」
部屋に入っていくとフィルナがオレに問い掛けてきた。ここではオレはミサキとして振る舞わなきゃいけない。ミサキ口調で話さなきゃいけないのが苦痛だ。
「ごめんなさい。違うの。フィルナとハンナにちょっと用があって……。ここのお手伝いは後でするから、今すぐに小屋の方に来てほしいの。いいかしら?」
なんだか自分の口調が不自然な気がするが、フィルナたちは気付いてない。ダイルだけを残して、オレはフィルナとハンナを連れて小屋に戻った。
ユウのウェディング姿を見たフィルナとハンナは感嘆の声を上げた。
「フィルナとハンナにもユウと同じように綺麗なウェディングドレスを着せてあげるからね」
オレはそう言いながらドレスを差し出した。
ドレスの丈やデザインの修正が終わると、フィルナもハンナもそれぞれ鏡を見ながら自分のウェディング姿に見とれていた。
「ねぇ、ミサキ。この被り物にネコ耳を付けていいかしら?」
ハンナはベールにネコ耳を付けたいと言う。せっかくのウェディングドレスが台無しになるんじゃないかと思ったが、それは余計な心配だった。いつものネコ耳帽の耳をそのままベールに付けてみると、意外なことにネコ耳ベールが可愛い。
ハンナだけじゃなく、フィルナとユウのベールにも付けた。これでウェディングドレスは完成だ。
その後、結婚式のときに飾る花をラウラと一緒に摘みに行ったり、ダイルの家でリビングの中に祭壇を作ったりして、結婚式の準備が終わったのは夜になっていた。
………………
翌日の朝。ソウル一時交換を発動してオレはミサキに入り、ユウに体を譲った。今日は結婚式だ。ユウはお風呂で念入りに体を洗い、清浄の魔法を掛けて、お化粧もした。オレやラウラも同じようにしたが、化粧は苦手だ。オレは今でも自分で化粧をしたことがない。ラウラがやってくれたが、オレはすっぴんの方が好きだな。
ダイルの家に行き、使ってない部屋でユウたちがウェディングドレスに着替えるのを手伝った。ユウの体は自分の体でもあるから、ユウの裸を見ても興奮したりはしない。いや……、恥ずかしい話だが、初めの頃は自分の裸にも興奮してた。でも今は、慣れてしまったというのが本当のところだ。
だけど相手がフィルナとハンナとなれば冷静ではいられない。なので、二人を着替えさせる手伝いはラウラにお願いした。裸になって着替えをしている二人からオレは懸命に目を逸らせながら、ひたすらユウの着替えを手伝った。
「うん、きれいだ」
オレはユウの正面だけでなく、側面や背後に回って念入りに確認した。ウエストがきゅっと締まっていて、ベールから透けて見える肩から胸のラインが眩しいくらいに美しい。
着替えが終わると、ユウはオレの方を向いた。
「ありがとう……。私だけが幸せになって……、いいの?」
ユウの瞳が潤んでいた。
「ユウが幸せなら、わたしも幸せということだから……。だからね、安心して、精一杯幸せになって……」
なんだかオレも鼻の奥がツンとして、涙がこぼれそうになった。
………………
着替えが終わって、ラウラとオレは先にリビングルームへ移動した。部屋に入ると既に花嫁とオレたち以外の全員の顔が揃っていた。招いていないはずなのにケビンが村長の隣に立っていて、テヘッと笑ってオレたちに手を振った。
悪ガキだが憎めない子供だ。ラウラやオレとおかしな縁があるのかもしれない。ラウラはキッと睨んだみたいだが、オレは手を振り返しておいた。
祭壇の前には白いドレスを着たアイラ神が立っていて、花婿のダイルもぴちっとした革服の上下を着こんでいる。いつもよりカッコよく見えた。
オレとラウラは村長たちの後ろに立って、花嫁たちが部屋に入ってくるのを待った。
数分後に段取りどおりユウたちが入ってくると、結婚式が始まった。アイラ神が結婚式の宣言をして、ダイルと花嫁たちが結婚の誓いを述べた。そして、花婿と花嫁たちのキス。アイラ神が結婚の成立を宣言して、式は終わった。
ほんの10分か15分くらいだろう。あっという間にユウはダイルのお嫁さんになってしまった。
オレはそれをぼーっとしながら、ただ眺めていた。なんだろう……、この気持ちは……。
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




