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SGS163 結婚式の準備

 ダイルとユウの結婚が決まったから今はおめでたいときだ。それなのにハンナは何やら言いにくそうな顔で「実はね……」と言って言葉を続けた。


「ホントのことを言うと……、フィルナもあたしもダイルの正式な夫人ではないのよ。ダイルと結婚するには第一夫人の許しが必要なの。分かる? つまり、ユウがダイルと結婚して第一夫人になった後に、ユウから許しをもらわないと、フィルナもあたしもダーリンの正式な妻になれないの」


 この話には驚いたが、念話で確認すると既にユウはこの件を知っていた。昨日、ハンナたちから聞いたそうだ。


「それでね……」


 ハンナからフィルナに話し手が変わった。


「ダイルとユウが結婚式を挙げるときに、私とハンナ姉も一緒に結婚式をすることにしたのよ。もちろん、ダイルとユウの許しはもらってるわ」


 オレが知らないところで話は着々と進んでいたようだ。ちなみに結婚式は明日の朝にこのダイル邸のリビングルームで行うことに決まった。小さな祭壇を設けて、天の神様に結婚を誓うことで結婚式とするそうだ。媒酌人はアイラ神だ。既にフィルナから連絡していて、喜んで引き受けると連絡があったらしい。


 その後も相談を続けていると、結婚とは直接に関係ないことにまで話が広がった。ダイルとの使徒の契約を続けるかどうかについてだ。結論を言うと、これは今後もずっと継続することになった。と言うか、使徒の契約を解除するとペナルティが生じるのだ。バーサットの戦いにときにはオレは何も知らずに一時的にダイルを使徒にすると安易に言ってしまった。しかし後でコタローから言われたのだが、使徒の契約を解除すると、解除された者は50年間は誰の使徒にもなれないらしい。


 使徒の契約を解除したら神族側もその使徒枠が50年間凍結されてムダになるそうだ。ただし、その使徒枠を後継者に譲る場合は使徒の継承ということができるので、その場合は使徒枠はムダにならないとのことだ。


 ともかくダイルと使徒の契約を続けることにしたのはそういう裏事情もあったし、一番の理由はオレもダイルも契約の続行を望んだからだ。使徒であれば、いつでもダイルと念話ができるし、必要なときにはワープを使ってダイルのところへ一瞬で転移できる。ダイルとユウの結婚生活を安定的に続けるには必要な契約だった。それにダイルが使徒を続けてくれるならオレとしても嬉しいし心強い。


 もう一つ嬉しいことに、ハンナも新たにオレの使徒に加わることになった。ダイルが使徒を続けるのなら自分も使徒になりたいとハンナが強く望んだからだ。ハンナであれば実力も性格も、オレやラウラたちとの相性も申し分ない。喜んで使徒の契約を結んだ。


「私もダイルと一緒にケイの使徒になりたかった……」


 そう言ってフィルナが涙を零したが、こればかりは仕方ない。フィルナはアイラ神と使徒の契約を結んでいて、これを解除したら50年間は誰の使徒にもなれない。つまり50年間はオレの使徒になれないってことで、その間にフィルナは年を取ってしまう。それに、オレの都合を言えば、フィルナにアイラ神の使徒を続けてもらう意味は大きい。アイラ神とはずっと協力し合っていきたい。アイラ神もおそらくそう考えているだろう。


「フィルナ、泣くな……。おまえには俺やケイとアイラ神との間で橋渡し役を続けてもらいたい。それはすごく大事な役割だ。フィルナにしかできないんだ。それに使徒の契約を解除したら、おまえだけが年を取っていくことになる。そんな姿も見たくないんだ。可愛いままでいてほしい。なぁ、フィルナ。このまま、アイラ神の使徒を続けてくれないか?」


 ダイルが優しく問い掛けると、フィルナは微笑んで頷いた。


 それから、ダイルの呼び名について。ダイルは大輝だけど、呼び名は今までどおりダイルと呼ぶことにした。ダイルもこの世界に合わせた呼び名で良いと言ってくれたし、ユウにも念話で相談したけど大輝の名前にはこだわらないそうだ。


 ………………


 ダイルたちと結婚式や結婚生活の相談を終えて、オレたちは小屋に戻ってきた。だが、相談して終わりじゃない。これから急いで準備しなきゃいけない。それで、オレはちょっと焦っている。ダイルとユウの結婚式が明日の朝と決まったのに、その準備の時間がほとんど無いことに気付いたからだ。


 まずはユウの衣装だ。オレはユウにウェディングドレスを着せてあげたい。だけど、明日の朝までにどうやってその衣装を用意すればいいんだろう?


 小屋に戻ってすぐにユウに話しかけた。


『結婚式の衣装のことだけど、ユウにウェディングドレスを着せてあげたいって思うんだ……』


 そのとき、オレは昔のことを思い出していた。死んでしまった妻のことだ。オレたちが結婚式を挙げたときに彼女は純白のウェディングドレスを着ていた。すごく嬉しそうで、あのときの輝くような笑顔は今も忘れていない。


『ケイの気持ちは嬉しいけど、今からウェディングドレスを準備するなんてムリよ。ケイがこの前にダールムで買ってきたワンピースがあったでしょ。私はあの中から選んで結婚式で着ようと思ってるの……』


 ユウは遠慮してるが、オレはどうにかできると考えていた。


『ケイ、そのウェディングドレスって、なんなの?』


『ええとね、ラウラ。わたしやユウが生まれた世界でね、結婚する女性が式のときに着る衣装で……』


 そこまで話して、ウェディングドレスのことを言葉で説明する難しさに気付いてしまった。と同時に、あるアイデアが浮かんできた。


『ラウラ、ちょっと思い付いたことがあるから待っててくれる?』


 ラウラが頷くのを見ながら、隣のミサキに話しかけた。


『ミサキ、ちょっと教えてほしいんだけど』


 呼び掛けると、ミサキは小首を傾けてオレの言葉を待った。コタローが入って操縦しているとは思えないくらい可愛い仕草だ。


『わたしのソウルから記憶解読をしてウェディングドレスを紙に描ける?』


『ケイが異空間ソウルへ来てくれたら、できるかもしれないわね。記憶解読の魔法は魔力が〈1000〉以上必要だから』


 オレはすぐに異空間ソウルの中にワープした。ミサキも同時に異空間ソウルに戻って来て、床に横になった。代わりにコタローが現れた。


『こっちの方がオイラの性に合ってるにゃ』


 オレを見上げながらコタローはシッポを振っている。


『いいから、早く記憶解読をやって』


 コタローはオレのソウルの中にある記憶を調べ始めた。そのとき、オレが思い浮かべていたのは、結婚式のときの妻のウェディング姿だ。


『できたわん』


 何枚かの紙が床の上に現れた。それには絵が描かれている。解像度が少し粗い。古いカメラで撮ったカラー写真みたいだ。でも、はっきりとそれは妻のミサキだと分かった。ウェディングドレスを着たミサキの全身とにこやかな顔がはっきりと描かれている。正面と斜めからの姿、後ろ姿などのデザインも分かる。


『まぁ、素敵ねぇ』


 絵を見たユウが感嘆の声を上げた。


『この絵の女性はケイの奥さま? ミサキによく似てる……』


『うん……』


 オレも驚いていた。こんなにも鮮明に妻の姿を見たのは何年ぶりだろう……。なんだか込み上げてくるものがあるが、オレはそれをぐっと抑えた。


『ねぇ、コタロー。この絵があれば、これと同じような衣装を作れる?』


『この衣装の素材が分かればにゃ』


『素材? なんだろ? ユウ、分かる?』


『たぶん、シルク……、ええと絹糸だと思うけど……。でも、この異空間ソウルの中には絹糸なんて無いだろうから……』


『うん。絹糸は無いだろうけど、代わりに蜘蛛糸ならいくらでもあるよね。コタロー、蜘蛛糸で同じような衣装を作れる?』


『蜘蛛糸の組成を少し変えれば衣類の素材として使うことはできるわん。任せろにゃん』


 少し待っていると目の前にウェディングドレスが現れた。


『クラフト魔法で簡単に作れるわん。デザインがはっきりしてるからにゃ』


『わたしはソウル一時移動の魔法でミサキに入るから、ユウはこっちの体に入って、これを着てみて』


 オレがミサキの体に入ると、代わってユウがオレの体に入った。コタローに全身の姿を映せる鏡を出してもらったから、ユウも自分のウェディング姿を見ることができる。何度かユウは試着を繰り返しながら、コタローに魔法でドレスの丈を微調整してもらった。


『きれいだ……』


 オレはユウのウェディング姿をうっとりと眺めた。


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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