SGS162 プロポーズされる
夜。訓練から戻ってきたラウラにもユウと話し合ったことを説明した。ラウラには何でも話しているし、自分の考えに賛同してほしかったからだ。
「ユウだけじゃなくて、ケイもダイルから結婚を申し込まれるの? それなら絶対に受けるべきよ。あたしだったら喜んで受けるわ。第四夫人でいいから……」
ラウラの賛同を期待したのが間違いだと分かった。
ちなみにミサキ(コタロー)はユウとの念話を聞いているから説明の必要は無い。ただし、理解しているかどうかは分からないが。
………………
翌日の早朝。ダイルが訪ねてきた。用件は分かっていたから、ラウラには遠慮してもらった。同席したそうだったが、ラウラが何を言い出すのか分からず、それが怖かったからだ。ラウラは渋々訓練へ出掛けていった。
今は小屋の中でダイルと二人っきりだ。ミサキは異空間ソウルに戻してる。今頃はユウとコタローでオレたちの会話に耳をすましているはずだ。
ダイルとオレはテーブルを挟んで座った。ダイルの家のリビングと違って小屋の中は薄暗いし花の飾りも無い。断るにしても、生まれて初めてプロポーズされるのだから、もっと場所を選べば良かっただろうか。
なんとなく気まずい雰囲気だ。ダイルが喋りにくそうにしているので、こちらから話を切り出した。
「昨日、あなたがユウに結婚の申し込みをするのを聞いていたから……。わたしもダイルとユウの結婚には賛成だし、喜んで協力したいと思ってる」
「聞いてたのか?」
「うん。何を話すのか気になって、聞いてしまった。ごめんなさい……」
「それなら、俺がおまえにプロポーズすることも?」
薄暗い中でダイルがじっと見つめてくる。自分の頬が熱くなるのを感じながら小さく頷いた。
「それなら話は早い。俺と結婚してほしい」
なんだか単刀直入だな。ユウに対するプロポーズとずいぶん違う……。
「それはユウとわたしが体を共有してるから? だから、わたしに結婚を申し込むの?」
「そうじゃないよ。勘違いしないでほしいが、ケイと優羽奈が一つの体だからという理由でおまえにプロポーズしているんじゃない。いや、違うな……。正直言って、その理由もあるが、それだけじゃないんだ。
昨日、リリカの花園でおまえを抱いていたとき、心の底からおまえを欲しいと思った。おまえが優羽奈じゃなくてケイだと分かった後に、そう思ったんだ。ケイ、おまえを俺のものにしたいって……」
「なぜ……? 理由を聞いていい?」
問い掛けると、ダイルは顔を伏せた。
「自分の気持ちをうまく言葉にできないかもしれないが……。顔も姿も優羽奈と同じだが、普段のおまえは優羽奈とは全然違う。正直、おまえを女だと意識したことはほとんど無かった。だけど、あのとき、抱いていたのがケイ、おまえだと分かったときに、俺はおまえに対して猛烈に女を感じたんだ。自分がずっと守ってやるべき俺の女だと感じた。おまえを俺の手で幸せにしたいんだ……」
顔を伏せたまま静かに語りかけるダイル。その言葉を聞いてぞくぞくとした。これも女の感情なのかな……。
「ありがとう。でも……、結婚はお断りします」
きっぱりと言った。
ダイルは顔を上げて、じっと見つめてきた。
「俺が……、嫌いか?」
「ええと、そうじゃなくて……。ダイルのことは好きだし尊敬してるよ。でも、それは男と女の関係じゃなくて、人として好きっていうことで……」
「それなら、なぜ断るのか教えてくれるか?」
うーん……。ホントの理由は言えない。自分のソウルが元は男だったから男性との結婚なんて考えられないとか、そんなことが言えるはずがない。
「今の自分にはやるべきことがたくさんあるから……」
そんなふうに説明を始めた。行方不明になっているソウルゲート・マスターやセリナの捜索、バーサットやレングランのような敵対勢力への備えなど、昨日、ユウに説明したことと同じようなことを語った。
「わたしもダイルとユウの結婚については喜んでるし、ユウの結婚生活には精一杯協力しようと思ってる。でも、今話したように、やらなきゃいけないこともたくさんあるから、ユウとの結婚生活には時間的な制約が出てくることも分かってほしい」
「分かった。俺も今までどおり、いや、それ以上にケイたちを守るし、最大限の協力をするよ。ケイたちが抱えている重荷を俺にも一緒に背負わせてくれ。だから……」
「えっ?」
「だから、今すぐ結婚してくれとはもう言わない。だけど、重い荷物が少し減ってきて、おまえの心が少し軽くなってきたら、俺との結婚を真剣に考えてくれないか。俺はおまえのそばで優羽奈と一緒にそれを待ってるよ」
「うん……。今は何も約束できないけど……。ありがとう……」
………………
オレたちはその後、ユウの結婚について具体的な相談をするためにダイルの家へ場所を変えた。ダイルが言うには、フィルナとハンナがプロポーズの結果を知りたいと首を長くして待っているらしい。念話で連絡して、ラウラとミサキにもダイルの家に来てもらった。
オレがダイルのプロポーズを断ったと知ると、フィルナもハンナも残念がった。
「でも、ユウはダイルのところにお嫁さんに来るのでしょ? それなら、ケイも私たちと一緒に生活するってことよね?」
質問してきたフィルナもその隣で座っているハンナも興味津々で目をキラキラと光らせている。
「ユウのときはダイルの家族だからフィルナやハンナと一緒に生活するけど、わたしのときは隣にある自分の家でラウラやミサキと一緒に生活しようと思ってる」
「えーっ! そうなの? ケイも一緒に生活すればダーリンとの結婚も早まると思ってたのに……」
ハンナは何か良からぬことを企んでいたらしい。
ともかく、こんな感じで話し合いは進んでいった。そして色々なことが決まった。ここでは決まったことを書き連ねておこう。
まず、オレがやるべきことと結婚生活の両立について。これはユウとダイルには事前に話をして了解してもらった件だ。この場でみんなにあらためて説明した。オレが行方不明になっている天の神様を捜索すると知ってフィルナやハンナは驚いていた。セリナの捜索や、バーサットやレングランなど敵対勢力への備えについても喜んで協力してくれるそうだ。
次に、ユウがダイルと結婚することを公表するかどうかについて。これは公表しないことになった。公表すると必然的に表向きはオレとダイルとの結婚という話になって、ややこしいからだ。ただし、ユウの存在を知っている村長や長老たちなど親しい者へは知らせておくことにした。
それと、ユウがダイルの第一夫人になることについて。これはダイルから説明があった。ダイルが何年か前にフィルナやハンナと結婚したときに優羽奈の存在をきちっと話していて、優羽奈を第一夫人とする前提でフィルナやハンナと結婚したらしい。オレは知らなかったのだが、妻が何人もいるときは第一夫人の指示に第二夫人以下の妻は従うというのが普通なのだ。この世界では第一夫人の権限が圧倒的に強いようだ。
この第一夫人の件ではまだ続きがあった。ハンナが言いにくそうに話を切り出したのだ。
「実はね……。ダーリン、それにフィルナも。あの件のことをケイたちにも話しておいていいよね?」
ハンナがダイルとフィルナに向かって何やら意味ありげな問い掛けをすると、二人は頷いた。それを確認して、ハンナはオレたちの方に顔を向けた。
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




