SGS161 結婚生活に悩む
ユウが帰ってきたのは夕方だった。なんとなく疲れてる感じだ。オレはミサキに入って出迎えた。
「ケイ、こっそり聞いてたでしょ?」
ばれてた。仕方なくオレは頷いた。
「それで、どうするの? ケイも大輝のお嫁さんになってくれるの?」
ユウは問い詰めてくるが、オレはまだ迷っていた。
「分からない……。どうしたらいいのか……」
「迷うこと無いわよ。ケイも大輝と結婚して一緒に幸せになりましょ。ねっ? そうしてくれる?」
ユウはそれで良いだろうけど、オレはそんなに簡単には決められない。
「もう少し考えさせて……。一時交換をキャンセルするね……」
ユウからの返事を待たずに一時交換を停止して元の状態に戻した。
自分の体に戻ってすぐに気が付いたが、なんだか体に違和感がある。いつもと違う感じがする。体の芯が重いと言うか、疲れが残っていて気だるい感じだ。
もしかすると、ユウはあの後もダイルに抱かれて、あんなことやこんなことをずっと続けてたのかな?
ユウはここに戻る前にキュアや活性化の魔法、清浄の魔法などを掛けたのだろうがダイルと激しくやり合った疲れがまだ残ってるみたいだ。
ユウにそれとなく尋ねてみようと思ったが、10分間のクールタイムが始まっていて魔法も使えないし念話もできない。
ユウがダイルと結婚したら、一時交換から戻ったときはいつもこんなふうに自分が倦怠感を感じるってことか……。思わず溜息が出てしまった。
10分間が過ぎてユウと会話ができるようになった。
『結婚のこと、考えてくれた?』
『ユウがダイルと結婚するのは喜んで賛成するし、応援したいけど……。わたしがダイルと結婚するのはムリ……だと思う』
『どうして? ケイはダイルが嫌いなの?』
『え? ええと……、嫌いじゃないけど……』
『ダイルのこと、好きだよね?』
『それは、好きだけど……。そういう意味の好きじゃないんだ。人としてダイルのことを好きだし尊敬してるけど、男と女の関係で好きとかじゃない。ダイルの恋人になりたいとか思ったこともないよ』
『それは、ケイのソウルが元は男性だったから? それを気にしてるの?』
『うーん……。そうかもしれない。と言うか、たぶんそうだと思う』
『ケイはまだ自分が男だって考えてるの?』
『そりゃ、今の自分が女性だってことは分ってるよ。だからと言って、自分がすぐに男性を好きになれるってものでもないと思う……』
『でも、ケイだって、女性として男性を好きになったときもあったでしょ? 私、知ってるよ』
『え? それって、いつのことを言ってるの?』
『ほら……。ゴブリンのボドルと過ごしたときのことよ』
『ああ……。あれは催淫作用のせいだよ』
そう言いながら別のことを思い出していた。頭に浮かんでいたのは昨日の出来事だ。
『それに、昨日もそんな感じだったんじゃないの? リリカの花園でダイルと裸で抱き合っていたって……。あれは恋する女性の姿だったって、ラウラから聞いたわよ』
頭に浮かんでることをユウに言い当てられてドキッとした。
『ユウ、正直に言うとね……。あのとき……、ダイルに抱かれてることは嫌じゃなかったんだ。恥ずかしいけど、抱かれてて幸せだなって感じたりして……』
『なんとなく分かるわ……。ケイも女の子のような気持ちになることがあるのよ』
あのとき、たしかに自分でもそんな気持ちになった気がする。どうしてかな?
『自分が分からなくなってくるよ。なぜそんなふうになるのか……』
『普段のケイはたしかに男っぽいわよ。元は男性のソウルだったから仕方ないと思う……。でもね、時々、女の子らしいところも出てくるのよ。今度のように尊敬してるような男性に抱かれたりすると、女性としての感情が沸き起こってくるんだと思う。
元が男性のソウルだとしても女性の体にずっと入ってると、きっとソウルがその体から影響を受けるのよ』
『ユウの言うとおりだわん』
突然、コタローが割り込んできた。
『ソウルは必ず体の影響を受けるのだわん。特に脳からの影響は大きいぞう。一般論として言うとだにゃ、ソウルが体に宿るとソウルはその体の性に合わせて変化するのだわん。男性の体に宿ったソウルは男らしく変化するしにゃ、女性の体に宿ったソウルは女らしく変化するのだぞう』
『でも、ケイは違うみたいよ。私の体に宿っているくせに、女性であることに抵抗感を持っているみたい』
ユウにそう言われると反論したくなる。
『赤ん坊から次第に大人に育っていくのなら、わたしのソウルだって女らしく変化したかもしれないけれど、突然にユウの体に宿ってしまったのだからね。自分のソウルが一気に女らしく変わるなんてのは絶対にあり得ない話だよ』
『それもそうね』
『ケイが女性であることに抵抗感を持っている理由はもう一つ考えられるわん。それはだにゃ、ケイのソウルは木村圭杜という男性に生まれる前にもにゃ、何十回か何百回か転生を繰り返してきたはずだわん。その繰り返しではにゃ、男性に生まれた回数がかなり多かったのではないかと推測されるのだわん。転生した回数の大半が男性だったにゃら、その影響を受けていると考えられるにゃ』
『コタロー、言ってる意味が分からないんだけど?』
『ケイは相変わらず頭が悪いにゃ。ソウルが何十回か何百回か転生を繰り返すとにゃ、大半の場合は男性で生まれた回数と女性で生まれた回数はだいたい五分五分になるはずだわん。それは分かるにゃ?』
『まぁ、そうだろうね……』
『ところがにゃ、中には七分三分だったり、極端な場合は九分一分だったりするソウルもあるのだわん。もっと分かり易く言うとだにゃ、仮にケイのソウルがこれまで転生を百回繰り返してきたとしてだにゃ、その九十回が男性で十回が女性だったと仮定するにゃ……』
『あ、分かったわ!』
ユウの念話が一段と大きく頭の中に響いた。
『今まで繰り返してきた転生で大半が男性として生きていたとして、そのソウルが突然に女性に宿ったなら、そりゃ違和感を持つはずよね?』
『転生したらそれまでの記憶は失われるけどにゃ、大半の転生を男性として生きてきたという残滓はソウルの中にこびり付いているだろうからにゃ』
『ケイが転生率90%で男に生まれていたとしら、コタローの言うことに納得よ。ケイ、それであなたは女性であることに抵抗感を持っているのね?』
『いやいや、そんなこと分かるはずがないよ。自分のソウルが転生率90%で男に生まれていたかどうかなんて、いったい誰が分かるんだよ』
『それはそうだろうにゃ。オイラは推測と仮定を話しただけだからにゃ。ケイが転生率90%で男性だったかどうかはどうでもいい話だぞう。大事なのはにゃ、ケイのソウルがこれからも体の影響を受け続けるということだわん。ケイが女性であることに抵抗感を持っているとしても、そのことは知っておくべきだぞう』
『それは……、わたしのソウルが体の影響を受けて、少しずつ女っぽくなっていくってこと?』
『女っぽくなっていくかどうかは分からないわん。体がケイのソウルに与える影響とそれに対するケイの抵抗とのせめぎ合いによるからにゃあ』
『ケイ。まだ、あなたは自分が女性だと気付いてから1年も経ってないのだから、きっと、ケイのソウルが女性らしく染まるのにはもっと時間が掛かるのよ』
『そうなのかな……』
コタローやユウが言ったことが当たっているのかどうか分からないが、自分のソウルが体の影響で女っぽく変わってしまうのは嫌だ。自分は今のままの自分でありたいと思う。だから抵抗を続けたいと思うけど……。
『ともかく、すぐにケイが大輝と結婚するのは難しいみたいね。ケイには私と一緒に大輝のお嫁さんになってほしかったけど……。今すぐは無理でも、いつかはそうなってほしいの……』
『何も約束できないよ』
『うん、分かってる。今は、私が大輝と結婚するのをケイが賛成してくれるだけで十分に嬉しいから』
『もちろんユウがダイルと結婚するのは賛成だけど……。言っておかなきゃいけないことがあるんだ』
『えっ!? 何なの?』
『忘れちゃダメだけど、自分たちにはやらなきいけないことがあるよね』
『それは……、魔力を高めるために訓練をして地球にワープできるようになるっていうこと?』
『うん。それと……』
『行方不明になってるセリナの捜索もあるし、ソウルゲートのマスターを捜し出すことも大切なことよね……』
『それだけじゃないよ。バーサットやレングランのような敵対勢力に備えなきゃいけないし、わたしの命を狙っている者もいるらしいから……。このアーロ村を拠点として自分たちに力を付けなきゃいけないと思ってる。
それと、できればミレイ神に会って自分に掛けられている暗示を解かせたいし、自分の元の体がどうなっているのかも確かめたいしね』
『それを全部終わらせるまで大輝との結婚を待てと言ってるの?』
なんとなくユウの念話に殺気が感じられる。
『いや、そうじゃないよ。結婚はできるだけ早くしたら良いと思うよ。でも、やらなきゃいけないことが色々あるから、ユウの結婚生活に時間的な制約が出てくることは分かってほしいんだ』
『それは分かってるつもりよ。大輝にも我慢してもらうわ』
新婚生活の時間が限られると聞いて、ユウが残念に思ってることは念話からも伝わってきた。
『その代り、ダイルと一緒のときは思いっ切り新婚生活を楽しんでくれればいいよ。こっそり覗いたりしないから……』
心にもないことを言ってしまった。抱き合いながらの激しい運動は控えろって言ってやりたかったのに……。でも、たまには覗かせてもらってもいいよな?
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




