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SGS160 告白に耳をすます

 ――――――― ケイ ―――――――


 花園でダイルに抱かれたときの気持ちや、ダイルが大輝だと分かったときの驚きが抜けきらないまま次の日となった。


 朝。ソウルの一時交換をしたユウはダイルの家へ出掛けていった。頭にはネコ耳帽を被っている。


 当初の予定では、今日からオレはラウラと一緒にクドル・インフェルノに入って訓練を始めるつもりだったが延期することにした。ユウとダイルがゆっくり話す時間を取るためだ。


 ダイルが大輝だったということが分かって、ユウは昨日からずっと興奮していた。豹族の体になってしまったことなどユウは全然気にしてないみたいだ。


 ソウルの一時交換をしたときは、いつもならオレはミサキの体に入るが、今日は異空間ソウルの中に留まったままだ。ダイルがユウに何を話すのか気になって仕方ない。聞きたいという気持ちを抑えられなかった。


 今のオレはソウル単体でいるから無色透明だ。自分でも姿が見えない。目も耳も無いのに、異空間ソウルの中が見えるし音も聞こえる。ソウルだけでも五感があるのだ。


 さらに、体と常にリンクしているからユウの五感がそのまま掴める。ユウが今見ているものを見ようと思えば見えるし、聞こうと思えば聞こえる。ユウが触っている感じもそのまま感じ取ることができる。


 異空間ソウルの中でオレはコッソリとユウの五感を全開にした。こんな覗きのような真似をしちゃいけないと理性では分かってはいるが、ユウとダイルが何を話すのか気になって仕方がない。自分のその感情を抑えきれなかった。


 ユウがダイルの家に入ると、リビングでダイルたちが待っていた。


 リビングルームは窓が大きく開いていて明るい。昨日は無かったのに、今日は窓辺とテーブルの上に赤い花が飾られていた。きっとフィルナとハンナの心遣いだろう。


「じゃあ、私たちは散歩でもしてくるわ。ハンナ姉、行きましょ」


「ダーリン、頑張ってね」


 フィルナとハンナが出ていくと、部屋の中が急に静かになった。ダイルは座ったままテーブルの花を見てるようだ。どうしたのだろう?


「大輝、ずっと待ってたの。あなたに会える日を……」


 ユウはリビングの入口に立ったままダイルを見つめている。だが、ユウの言葉を聞いてもダイルは視線を上げない。


「あなたは私を捜し出して、何度もケイと私を救ってくれた……。そのダイルが大輝だったなんて……。どうして、もっと早く言ってくれなかったの?」


 ユウが静かに問い掛けると、ダイルは初めてこちらに顔を向けた。だが、すぐに視線を逸らせた。


「自信が無かったんだ……。こんな豹族の体になっちまって……」


 それで、ダイルはユウを見ようとしないのか……。でも、昨日はあんなに情熱的だったし、オレの目をずっと見つめて話していたのに……。


 そう考えて、オレは気付いてしまった。昨日、サレジに殺されそうになった後、裸で抱き合って熱い口づけを交わしたのは、所謂「吊り橋効果」ってやつだ。以前にどこかで聞いたことがあるが、男女で危険なつり橋を渡ってドキドキしたときに恋愛感情が盛り上がるらしい。


 でも、オレが優羽奈ではなくてケイだと分ってからも、ダイルはずっとオレを見つめてたぞ。もしかして、ダイルはオレに惚れたのか?


 いや、違うな。ダイルは語りかけている相手が優羽奈じゃなくてオレだったから、目をずっと見つめて話しかけてこれたのかもしれない。


 ダイルが愛している相手は優羽奈だ。だから、豹族になって自信を無くしているダイルは優羽奈へちゃんと話しかけられないのだろう。逆にオレに対してはダイルは何とも思っていないのだ。だから、目を見つめながら平然と話しかけてくるのだと思う。


 ダイルはユウとオレを明らかに区別してるってことだ。それは分かったけど。うーん……、この気持ちはなんだろう……。


 そんなことを考えていると、いつの間にかユウはダイルの横に移動していた。


 ユウがダイルの肩に手を掛けると、驚いて顔を上げるダイル。


 その唇にユウはそっと口づけをした。軽く唇を開いてダイルを受け入れた。


 昨日の情熱的なダイルが戻ってきたようだ。ダイルは口づけをしたままユウを椅子に座らせた。攻守が逆転し、ユウは体から力を抜いた。ダイルに身を任せようとしている。


 五感をユウと共有してるから、自分も何も考えられない状態になってきた。やばい……。このままでは自分まで変になってしまいそうだ……。


 あっ! 念話だ。きっとふたりは念話で話をしている。


 オレは心の耳をすませた。ユウの念話であればこっそり聞くことができるのだ。


『……、私もよ。ずっとあなたを待っていたの。大輝、あなたがどんな姿になっていたっていいの。愛してるわ、今までも。これからも、ずっと……』


 熱い口づけが続いて、ユウは体がとろけそうになっている。


 そのとき、ダイルが体を離して立ち上がった。ユウの腕を取って、一緒に窓辺まで歩いていく。窓からは近くの林が見えていて、一輪挿しの赤い花がそよ風に揺れていた。


 ユウはダイルに抱き寄せられた。腰が密着する。顔を見上げると、ダイルが耳元に唇を寄せて来て囁いた。


「俺と結婚してほしい」


「えっ?」


「俺と結婚してくれ。これからずっとおまえを守り続けると約束する。俺の妻になってほしい」


「……」


 ユウが何か答えようとしたが、言葉にならなかった。でも、オレにははっきり分かった。体の中が熱くなって来て、涙が溢れようとしている。


「ありがとう……。私もあなたのお嫁さんになりたい……」


 今度は自分の声がはっきりと聞こえた。涙が頬を伝っていくのが分かる。


「でも……」


 そう呟いて、ユウは言葉を詰まらせた。その後の言葉が出て来ない。


「フィルナとハンナのことか? おまえの許しを得ずに二人と結婚したことは済まないと思ってるよ……」


「違うの……。私のことよ。この体はもう私だけの体じゃないから……」


 こんなときでもユウはオレのことを考えてくれてる。ダイルもそれに気付いたようだ。


「ケイにもプロポーズするよ。でも……、アイラ神から聞いたけど、ケイは俺の恋人の真似はできないと言ってるらしい。俺も無理を言ってケイに恋人の真似なんかさせたくない。だけど、おまえとは何があっても結婚したいんだ」


 体を抱きしめてるダイルの腕に力が入った。胸から顔を離してダイルを見上げる。


「ケイは大輝のプロポーズを断るかもしれないわ。そのとき、私はどうしたらいいの?」


「おまえが優羽奈でいるときだけでいいから、そのときだけ俺の妻になってほしい。ケイにプロポーズして、もし断られても、おまえとの結婚を許してくれるようお願いするよ。ケイが許してくれたら、俺の妻になってくれるか?」


「ええ。ケイが許してくれるなら、私は大輝のお嫁さんになりたい……」


 抱かれてダイルの顔を見上げながら頷いた。ダイルが唇を重ねてきた。体から力が抜けていく……。


 ダイルに体を抱き上げられたところでオレは五感のスイッチを切った。


 どうしよう……。


 ダイルはオレにも結婚を申し込むようなことを言っていた。


 ユウがダイルと結婚して幸せになるのは嬉しいし、背中を押してあげたい。でも、オレまでダイルと一緒に生活(性活?)を始めるなんて考えられない。


 プロポーズされたら断るつもりだ。でも、ユウだけがダイルと結婚したとして、ユウとオレの間でうまく生活の切替ができるだろうか? 体を共有してるオレはどうしたらいいんだ?


 ※ 現在のケイの魔力〈846〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈846〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈846〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈650〉。


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