SGS157 どうして裸で抱き合って?
――――――― ラウラ ―――――――
ユウからの念話で急いでリリカの花園に駆け付けてきた。フィルナやハンナ、それにミサキも一緒だ。
あたしに第一報を寄こしたのはコタローだった。散歩に出ていたユウとケビンがサレジに捕まったと伝えてきたのだ。ダイルも一緒に散歩していたらしいが、サレジに捕まったかどうか分らない。その場所も分らないという話だった。
コタローが言うには、ユウから助けてほしいと緊急連絡が入って、ケイはソウルの一時交換をすぐに解除したらしい。
あたしはそのとき、村から少し離れた場所で魔闘士たちを連れて訓練をしていた。そこにコタローから念話が入ったのだ。
『ユウからの救助要請が来たときにケイはすぐにソウルの一時交換を解除したのだわん。何も考えずに咄嗟に行動するからにゃ。頭の悪いケイらしい行動だわん。10分間くらい魔法が使えなくなるから今ごろは困ってるはずだぞう。念話もできにゃいからにゃあ』
『困ってるって……。サレジに捕まったとしたら、何かイヤらしいことをされてるに決まってるじゃない! ユウに場所を聞けないの?』
『ユウは異空間ソウルに戻ってるけどにゃ、ケイと同じように10分間の制限を受けてるから念話ができない状態だわん。念話ができるようになるまで待つしかないにゃ』
『困ったわ。どうしたらいいのかしら? コタロー、あんたはミサキを操ってフィルナとハンナをすぐに捜して。あたしも今から村に戻るわ。村の入り口で会いましょう。そう伝えて!』
必死に走って10分ちょっとで村の入口に着いた。その間にユウから念話が入って、ケイたちがリリカの花園にいることが分かった。
でも、おかしい。ケイも魔法が使えるようになったはずなのに連絡が来ない。こちらから念話で呼び掛けても返事が無い。きっと、ケイに何かあったのだ。心配で心配で堪らないが、どうしようもない。
村の入口にはミサキが待っていた。操っているのはコタローだ。
『フィルナたちは?』
『場所を伝えたら、1分くらい前にリリカの花園に向かったわ』
『あたしたちも行きましょう!』
それからは走りながら会話を続けた。
『ミサキ、あなたケイのところへワープできるでしょ? ワープして様子を見ることはできないの?』
『ケイとのソウルリンクが切れてるみたいなの。念話もダメだし、ケイのところへワープもできないのよ』
『ソウルリンクが切れてるってことは、まさか……、死んだってこと?』
『分らないわ……』
あたしは「生きてて、生きてて」と祈りながら必死に走り続けた。
リリカの花園がある丘が見えて来て、フィルナとハンナにも追い付いた。丘を越えて花園が見えたとき、ケイの姿を捜して周囲を見回したが誰もいない。探知魔法にも反応が無かった。
「どこに行ったのかしら?」
フィルナもハンナも心配そうな顔をして辺りを見回しながら花園まで下りてきた。
「あっ! これは?」
ミサキが手に持っているのはワンピースだ。受け取ってひと目でケイが着ていたものだと分った。近くにブラやパンツも落ちていた。
「これも……。ダイルが着ていた服よ」
フィルナはシャツとズボンを掲げて見せた。
「これって、ダーリンの……」
ハンナが泣きながら花の間から出てきた。その手には人の腕が握られている。その切り口からはまだ血が滴り落ちていた。
それを見たフィルナは真っ青になった。よろけるようにハンナに歩み寄って抱き付き、ふたりで声を上げて泣き始めた。
ダイルは死んだってこと? それならケイも……。
あたしは立っていられなくなって座り込んだ。泣かないって思うけど、涙がこぼれてくる。
「泣いてても仕方ないから、この周辺を捜しましょ。なにか手掛かりがあるかもしれないでしょ?」
ミサキはそう言って少し離れたところに踏み込んでいった。フィルナやハンナも泣きながら近くのお花畑の中を捜し始めた。
たしかにミサキの言うとおりだ。泣いてないで、あたしも捜そう。立ち上がってお花畑に分け入った。
そのとき、後ろから叫び声が上がった。フィルナとハンナの声だ。
「ダイル! ケイも! ええっ……!?」
「ダーリン、大丈夫なの? 腕を……!?」
あたしも振り返って唖然となった。
「どうして裸で抱き合ってるのよっ!?」
――――――― ケイ ―――――――
ラウラたちが服を見つけて、心配そうな顔をして辺りを捜し始めた。それまではラウラが座り込んでいる位置が自分たちの体と重なっていたから、ダイルは亜空間シェルターを解除できなかったらしい。
ラウラが花の間に入っていったのを見て、ダイルは亜空間シェルターを解除した。周りのお花畑が一斉に黄色の色を取り戻し、甘い花の香りが漂ってきた。
フィルナとハンナがこちらを見つけて何か言ってる。ミサキも花の間から顔を出し、ラウラも振り向いた。そのとき、声が聞こえ始めた。
「どうして裸で抱き合ってるのよっ!?」
えっ!? ラウラの声で初めて自分たちの姿に思いがおよんだ。言われるまでは、自分たちが裸で抱き合っていることに意識が回ってなかったのだ。
花の中でダイルは素っ裸のまま脚を伸ばして座っている。自分はその下半身にお尻を乗せてダイルの胸に顔を埋めていた。
「キャッ!」
自分が悲鳴を上げてたことに気付いた。恥ずかしさのあまり慌てて立ち上がろうとしてバランスを崩した。そのままストンとお尻から腰を落としてしまった。
「ムギュッ!」
気付いたらダイルのお腹の上に座っていた。カエルを潰したような声を上げたのはダイルだ。
「ご、ごめんなさい……」
「ケイ、何をやってるのよ!? 顔が真っ赤だよ?」
ラウラが手を取って立ち上がらせくれた。
「ダイル、自分がダイキだって告白したのね?」
「それで裸で抱き合ってたの? そんな酷い怪我をしてるのに? ダーリンったら、ときどき野獣のように情熱的になっちゃうから……」
フィルナやハンナはダイルが告白することを知っていたようだ。ラウラとミサキは何のことか分からなくて不思議そうな顔をしている。
「とにかく服を着たらどう? あたしには刺激が強過ぎるわ」
ラウラがダイルの裸から目を逸らせながらワンピやブラを手渡してきた。
「それで? ちゃんと話しなさい。何があったの?」
「え? ええとね……」
ブラを着けながらラウラとミサキに一連の出来事を話し始めた。ちょっと恥ずかしいからダイルが座っているところから少し離れて着替えをしている。
横目で見ると、ダイルもフィルナとハンナに説明をしているようだ。傷のせいで立ち上がれないからダイルは座ったまま服を着せてもらっていた。仲が良いな、あの夫婦は……。なんだか、ちょっと羨ましかった。
………………
「首輪なんてケイはつけてないよ?」
ラウラに言われて自分の首を触ってみた。この首輪がラウラには見えないのだろうか? 手で触ると、自分の首にくっ付くような感じで細い首輪が固定されているのが分かる。
「触ってみて」
ラウラの手を取って首輪に触らせた。
「ほんとだわ! ケイの肌と同じ色で首に張り付いてるから分からなかったけど……。この首輪のせいだったのね!? サレジにこの首輪をつけられたせいで、ケイは魔法も使えないし念話もできなかったということなの?」
ラウラに聞かれて、オレは頷いた。
「でも、ケイ。もしこれが従属の首輪と同じような首輪だとしたら大変よ! ケイが首輪に殺されちゃうよぉ……。ミサキぃ、どうにかならないの?」
ラウラは首輪に触りながら不安そうな顔でミサキの方を見た。
言われて初めて気が付いた。サレジを捜し出して首輪のリセットをさせなければ、自分は何日か経つと首輪に殺されてしまう。ど……、どうしよう……。
※ 現在のケイの魔力〈846〉。
※ 現在のユウの魔力〈846〉。
※ 現在のコタローの魔力〈846〉。
※ 現在のラウラの魔力〈650〉。




